第86話 決戦前夜
平原に着き全軍が集結してから三日間は瞬く間に過ぎて行った。
三日間の夜。
夜が明ければ、首都に向けて進軍だ。
(今日が最後の夜か)
そんな風に思っている人が沢山居るのだろう。皆焚き火の周りに集まり酒を飲んで歌を歌うドンチャン騒ぎだ。
クラスメートの何人かもその騒ぎに混じり楽しく騒いでいる。
僕は騒ぎに混ざらず、明日に備えて早く眠る事にした。
自分のテントに向かおうとしたら、丁度前方から誰かが来た。
月が雲に隠れているので、松明の灯りを頼りに見るとそこに居たのはマイちゃんだった。
「どうかしたの? マイちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
珍しい事に、話しかけても何の反応を示さない。
いつもはどんなに機嫌が悪い時でも返事はしてくれた。
なのに、返事をしない。
(明日の決戦に緊張しているのかな?)
そう思っていると、マイちゃんが口を開いた。
「あ、あのさ・・・・・・・」
「うん」
「その・・・・・・・ねぇ」
「・・・・・・?」
「う、う~・・・・・・・・・」
何か言い淀むマイちゃんなんて初めて見るな。
そんなに緊張しているの?」
「ノ、ノっくん‼」
「はい⁉」
声の大きさに驚き、思わず身体を固くしてしまった。
「そのね。この戦いが終わったらさ、・・・・・・話があるんだけど聞いてくれるかな?」
「話?」
「うん。話、聞いてくれるよね?」
小首を傾げて僕を見る。
「・・・・・・いいよ」
「っっっっっっしゃあああああああああっ‼ 勝った‼」
「はい?」
「うんうん、何でもない。じゃあ、あたしはもう寝るね。オヤスミ~」
マイちゃんはそう言って、自分のテントに行ってしまった。
僕はその背を見送り、少し歩くと今度はユエが現れた。
「おお、ノブ、丁度良い所に来たな」
「ユエ、どうかしたの?」
「何少し話がしたくてな」
「そう」
「ノブ、お前はこの戦いが終わったらどうする?」
「どうって、それは元の世界に帰れる方法を探すさ、それが見つからなかったら」
「たら?」
「領地を貰っているから、そこで領主をするだけかな」
「ふっ、お前らしいな」
「ユエはどうするの?」
「わたしか、わたしは旅をするか」
「旅?」
「うむ。諸国見分して見識を深めるつもりだ」
「ユエらしいね」
「うむ。そのうち、お前の領地に帰ってその見識を使おう」
「ありがとう。ユエ」
「そして、後は少しづつ外堀を埋めていけば、いずれは(ブツブツ)」
うん? 何か今聞き捨てならない事をいわなかった?
「さて、明日は早い。おやすみ。ノブ」
そう問いただす前に、ユエは自分のテントに行ってしまった。