ユエの危惧
「ふむ。ここまで上手くいくとは、流石はノブが立てた作戦か」
わたしは北側で作戦の経緯を見てそう思った。
こうも上手くいくと凄いとしか言えんな。
「おお、城壁になんか良く分かんない兵器が取り着いたよ~、ユエ」
わたしの背中をバシバシ叩くのは、もう一人の幼馴染であるマイだ。
最初、こいつに会った時は友達になれそうだと思った。
同時に将来は恋敵になるだろうと。
その予感は見事に的中した。途中から椎名が現れるまでは、わたしとマイは良い意味でライバルだった。
今は偶に協力して不倶戴天の敵たる椎名と対抗したり、マイを囮にして他の奴らを出し抜いたりした。
「凄いね。猪田君」
そう言うのは、不倶戴天の敵である椎名だ。
こいつはどうも好きになれない。初対面の時から、こいつは敵としか思えなかった。
故に表面上は仲良くしているフリをする。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずとも敵は親しくしろと言うからな。
向こうもわたしの事を敵だと思っているのか、時折敵意を込めた目でわたしを見てくる。
「そう言えば、セナッチは何処に居るの?」
「あいつなら、あそこに居るぞ」
わたしは今、城壁に取りついた兵器を指差す。
丁度、その取りついた兵器が橋を城壁の下ろした。そして、その橋を渡る兵士達。
その兵士達の先頭にひときわ目立つ鎧を着た女が居た。
手には鉄鞭と小さい盾を持ち、城壁の兵へと襲い掛かる。
「あの目立つ鎧。もしかして」
「そうだ。あれがセナだ」
「「・・・・・・・・・・なんで、あんな所にいるの?」」
うむ。二人がそう思うのも無理はない。
わたしもそれを聞いた時は、正直耳を疑った。
何故、あいつがあんな所に居るのかと言うと、あいつが志願したからだ。
本人曰く、修業で得た力を試したとか言っていたな。
「うわぁ、ここから人が吹っ飛んでいるのが見えるわ~、すごっ」
「何をしたら、あんな力が出るのかしら」
わたし達はセナの活躍を見ていると、やがて城門が開いた。
その開いた城門にこちらの兵士達が殺到した。
「わたしは行くが、二人はどうする?」
「ああ、あたしは本陣で待ってる」
「わたしもそうするは」
「そうか。じゃあ、行ってくる」
わたしは方天画戟を構えながら、城門へと向かった。
城門を越えて、城内に入ると至る所に血が飛び散り、人間、亜人族、魔人族の死体が地面を埋める様に倒れている。血の匂いが充満する戦場をわたしは警戒した。
見た所、既に城壁の占領は終わり城の中の戦闘に移った様だ。
「あれ? ユエッチ、どうしてここに居るの?」
顔や身体の何処かを血に染まりながら、周囲を警戒するセナ。
「城内はどうなっているか気になってな。セナはここで何をしている?」
「あたしは、討ち漏らしがいないかの確認。城内にはもう兵士達が入っているし、それに天城君も入って行くのを見たから大丈夫でしょう」
「天城か・・・・・・」
わたしは天城の名前を聞いて、眉間に皺を寄せた。
(最近、あいつの目が濁りだしてきた)
こちらの世界に来た当初はまともであった。
だが、鬼人族との戦争に参加してから性格が変わった。
敵の策に嵌りクラスメート達を死なせてから、少し大人しくなると思ったのだが、実際は違った。
決定的に変化したのは、とある戦争に参加してからだ。
あれはノブが領地を貰い一年ぐらい過ぎた時だ。
鬼人族が魔人族と手を結び、人間族領に攻め込んで来たのだ。
手を結んだと言っても小規模で、両種族合わせても一万ぐらいだ。
その軍を迎え撃つ為にこちらも軍を派遣した。
敵の規模に合わせて、こちらも1万程度の軍を出した。
戦いは終始小競り合いで終わりそうであったが、痺れを切らした天城がクラスメート達を何人か連れて敵陣に切り込んだ。
だが、敵はそれを予想していたのか突っ込んできた天城達を上手く受け止めて、逆に包囲した。
包囲された天城達を助ける為、軍は兵を出して助け出そうとした。
西園寺とわたしと椎名も包囲する軍を攻撃して天城達を助けた。そのお蔭で、天城達はどこかしら傷を負いながらも全員救出に成功した。
だが、その裏で救出に行った兵士達の大半は倒れた。
今回も天城の独断でまたクラスメート達を危険に晒したと西園寺が説教した。
その説教中、珍しい事に椎名も加わった。
最も椎名は一言しか言わなかった。
まるで虫を見るかのような目で『皆を殺して一人だけ英雄と言われたいの?』と冷たい声で言って、もう話したくないのか、その場を離れた。
あまりに哀れで、その場に居たクラスメート達は皆可哀そうな目で天城を見た。
その後も、戦に出る機会はあったのだが、まったくと言っていいほど活躍しなかった。
逆にノブは内政で抜群の活躍をした。西園寺も戦場に出て見事な活躍をした。
天城があまりに無能なので、王国の各軍団長達は陰で天城の事をアントレオと呼んでいた。
アントレオとは獅子の顔をして蟻の姿をした魔物だ。
赤ん坊位の大きさしかなく、顔が獅子なので見た目は怖いのだが、実際に戦うとあまりに弱いので赤ん坊以外は誰でも倒そうと思えば誰でも倒せる魔物だ。
ようは見た目だけの存在と暗に言っているのだ。
天城もそれを知っているのか、頑張っているようだが無駄に終わっている。
今も城内に入り、味方に迷惑を掛けているだろうと思うわたし。
「城の中に入るが、セナはどうする?」
「あたしはそこら辺を回っているよ」
「そうか。ではな」
わたしは城の中に入った。
わたしが城中に入ると、既に戦闘はほぼ終わっているようなものだった。
時折剣戟の音がするが直ぐに止む。
わたしはそのまま歩き、謁見の間へと向かった。
道々には魔人族の兵が倒れている。
その死体が道しるべのようになり、すんなりと謁見の間に着いた。
扉が開いているので、中の様子は直ぐに分かった。
額に大きな角を持った魔人族の将が血塗られたハルバードを持って、天城と対峙していた。
「ふううううむ。我を相手にここまで戦えるとは、見事!」
あれがこの城の城主であるモゴノブか。かなり出来るようだな。
対峙する天城は、剣を構えて油断なく相手をしている。
二人の得物がぶつかり剣戟音を響かせる。ぶつかる度に火花が飛び散り甲高い金属音を鳴らす。
一合、十合と交わし続けて行く。
永遠に続くと思われた剣戟だが、決着は早くに着いた。
モゴノブの柄が切られた。天城の剣戟を防ぐ事が出来なかったようだ。
天城は好機と見て、剣を振りかぶり力の限り振り下ろした。
その斬撃はモゴノブの左肩から右の脇腹まで切り裂いた。
「ぐふっ、み、みごと・・・・・・がふっ」
モゴノブは倒れた。
天城は倒れたモゴノブの首筋に剣を突き立て、首を切り落とした。
「・・・・・・敵将、討ち取った!」
天城が首を持って声をあげる。少し遅れてその場に居た兵士達が歓声をあげた。
戦いは終わり、落城したこの城を侵攻の拠点にしようと綺麗にされている中、わたし達はノブと話をしていた。
「流石、ノッ君。一日で落城する何て凄いね!」
「いやぁ、皆が頑張ったお蔭だよ」
ノブと話をしていると、視界の端に天城が写った。
横目で天城を見ると、ノブの事をまるで親の仇のような目で見ていた。
そして直ぐに見るのを止めて、その場を去る。
(あいつ、何かよからぬ事を考えなければいいが)
わたしには何故かそう思えた。
次は本編です