第81話 タカトーラル城の戦い
「というのは如何でしょうか?」
僕の作戦を聞いて、皆唸りだす。
「確かに落城は出来るかも知れぬが、そう上手くいくかの?」
「敵がそう予想通りに動くとは限りませんからね」
その疑問はもっともだ。でも、現状ではこれが一番成功率が高い作戦だ。
「この作戦ならまず間違いなく成功します」
僕は断言した。
「ふむ。ターバクソン男爵がそう言うなら、まず間違いないであろう」
「そうね。子豚がそう言うならまず間違いないわ」
アウラ王女とエリザさんがそう言うので、各将軍達は少し考えるが賛同してくれた。
「では、作戦の開始は五日後という事で良いですか?」
皆、頷いてくれた。
「では、作戦の準備に掛かります」
そう言うと、各将軍たちは席を立ち準備に向かってくれた。
僕も準備の為、テントを出ようとしたが、誰かに裾を掴まれた。
誰だろうと思い、振り向くと顔を伏せたエリザさんが僕の裾を掴んでいた。
「あ、あの。エリザさん、その裾を掴まれていたら準備が出来ません」
僕がそう言っても、エリザさんは放してくれなかった。
そして、伏せていた顔をあげて僕をジッと見る。
「ねぇ、本当にその作戦で上手く良くの?」
「はい。大丈夫です」
「う~、子豚がそう言うなら、そうかも知れないけど、でももし違っていたらどうするの?」
「その時はその時ように作戦を立てます」
「・・・・・・相変わらず、策が次から次ヘと出て来るな。貴様は」
アウラ王女はそう言うけど、まぁ、僕の職業の恩恵だと思う。
「これも僕の職業の恩恵だと思います。王女殿下」
敬礼して言うと、アウラ王女は手を振る。
「貴様はこの戦いが終わったら、正式に妹の婿になる。今はそう他人行儀の事はしなくてよい」
えっ⁉ あれってセリーヌ王女の独断じゃなかったのか?
というか、政略結婚が狙いだったのか!
「側室はエリザであれば問題ない。足りなければ、何人か増やしても構わんぞ」
「いやいや、流石にそれは」
「そうね。今の所増えるとしたら、四人くらいかしら?」
「四人? ああ、男爵に親しい者達が居たな」
「そうよ。まぁ、もう少ししたらもっと増えるでしょうけどね」
「ふっ、まぁ、それだけ男爵は価値があるという事だな」
「それでこそ、わたくしが見込んだ子豚よっ」
エリザさん、そこはドヤ顔をしてもいいけど、その子豚って言うの止めません?」
「エリザ、いい加減男爵を『子豚』というのは止めないか?」
「く、癖になったから、無理!」
「閨を共にしたのに、まだ恥ずかしいのか? いい加減その性格を直せ」
「ほ、ほっといて!」
そう言ってエリザさんはテントから出て行った。
アウラ王女は苦笑しながら見送り、そして僕を見る。
「此度の戦でお前の才が分かる。存分にその智謀を振え、そしてわたしに勝利を捧げろ」
「かしこまりました」
「頼むぞ。未来の義弟よ」
アウラ王女もそう言って、テントから出て行く。
(・・・・・・アウラ王女って意外にノリが良い性格なんだな)
そう思いながら、僕はテント出て行った。
五日後。
作戦の準備が終わり、僕達は城の城門が見える所まで来た。
「う~ん。近くで見ると、結構大きい城だな」
甲子園ぐらいの大きさはありそうだ。
僕達は、タカトーラル城の東方面に陣を敷いている。
「準備は整いましたか?」
「はい。こちらの準備は整いました」
そう答えたのは、アルベルト将軍だった。
僕達が居る陣には攻城兵器であるてこの原理を応用した投石車と攻城塔と言われる動く物見櫓が数十も用意されていた。
さて、攻撃の準備は整った。戦闘を始める前にここは礼儀に則り、降伏の使者を送るか。
「誰でもいいので、誰か城の前まで行って降伏勧告をしてきてください」
僕がそう言うと、アルベルト将軍とドゥワフ将軍達が話しをして、エルフを三人程城門に向かわせた。
そのエルフが馬に乗りながら、城門に向かって降伏勧告をした。
暫くして、城壁から誰かが出て来て、何事か叫んでいる。
ここからはよく聞こえないが、降伏を拒絶しているのだろう。その者は手を翳して、すると手の中から火の玉が生まれた。
火の玉は使者の足元まで飛んで行き爆発した。火の玉自体は小さかったので衝撃などは小さく馬が驚く程度であった。
城壁に顔を出した者がもう一発魔法を放とうとしていたので、使者たちは慌てて踵返した。
僕は戻ってきた使者たちに労いの言葉を掛ける。
「ご苦労様」
「はっ、ありがとうございます」
「城壁に出て来た人は何か言っていましたか?」
「はい『わたしはこの城の主であるモゴノブだ! 侵略者なんぞに屈する事は断じてせん!』と言っておりました。その後は火球の魔法を放ちましたので」
「ご苦労様です。後は後方で休んでいてください」
「「「はっ」」」
使者に行ってくれたエルフ達は敬礼して、その場を後にした。
「こちらの申し出を断ったそのモゴノブってどんな人なんでしょうか?」
僕がそう言うと、隣にいたミルチャさんが説明してくれた。
「モゴノブは現魔王ツシカーヨロウリの弟です。前回の侵攻戦では、連合軍の将を数人討ち取った剛の者です」
「武勇はあるのか。知略のほうはどうだろう」
「モゴノブの性格は竹を割ったかのような性格だと聞いています」
「・・・・・・・それって、つまり猪って事ですよね?」
「その通りです」
「ああ、じゃあこの策には嵌るだろうな」
「わたしが言うのも何ですが、この策は本当に上手くいくのですか?」
「敵の将が猪と聞いて、僕はこの策は上手くいくと確信しました」
「おおっ、流石は男爵閣下。伊達に大賢者と言われていませんね。感服しました」
アルベルト将軍の称賛に、頬を掻きながら僕は指示を出す。
「では、作戦を開始します。後の指揮はお願いします」
「はっ、お願いします」
アルベルト将軍は敬礼して、振り返り腰に差した剣を抜く。
「攻城塔、投石車は前進せよ! 手筈通りの位置で止まり攻撃せよ!」
アルベルト将軍の号令と共に、角笛が鳴り響く。
その音共に、攻城塔引っ張る魔獣が動き出し、投石車も前進を始めた。
両兵器が城からだいたい千メートルぐらい離れた所で止まる。
そして、投石車はてこの原理で、石を乗せて放たれる。
巨大な質量が弧を描いて、城壁に当たる。
当たった衝撃で城壁は揺れ、放たれた何発かの石は城壁に備えられていた大型の弩を破壊した。
そして攻城塔に乗っていた兵士達が射撃を始めて、城壁に居る兵士達を撃ち抜く。
攻城塔に乗っている兵士達の手には、弓ではなく長距離攻撃用の魔弾銃を持っていた。
この五日で使い方をレクチャーして訓練を行った。そのお蔭で問題なく扱っている。
ミルチャさんは魔弾銃で戦っている兵士達を見て、言葉を失っていた。
「あれが、獣人族との戦いで用いられた魔弾銃ですか。弓矢も届かず床子弩であれば届く距離でも、あれ程の威力を持っているとは」
「あれでも、射程を伸ばす為に威力を抑えているのだけどね」
「それでもあのような攻撃が出来るのは凄いと思います」
「言われてみたら、この世界の人にとっては銃は開発されていないから、驚くのは当然か」
僕の世界ではモデルガンとかあったから、見慣れているけどこの世界の人からしたら未知の道具なのだろうな。
「あのような物を作りだすとは、流石は男爵様です。これでは敵も反撃もままならないでしょう」
「そうだね。そう言えば、敵将が現魔王の弟って何処で知ったのですか?」
「・・・・・・わたしの独自の情報網で調べました」
成程。独自の情報網か。
どんな情報網なのか訊きたい所だが、今は戦いに集中しないと駄目だ。
攻城兵器による攻撃は続き、このまま攻めれば、敵の城壁は崩れそこから攻めれるのではと思えた。
そう思っていると、城門が開きだした。そこから騎兵が出撃してきた。数は五百ぐらいだな。
「ふむ。敵はどうやら、兵士を出して攻城兵器の攻撃を防ぐつもりだな」
「男爵様、感心していないで何か指示を」
「大丈夫。もう、既にアルベルト将軍には指示を出しています」
ミルチャさんはそう思い、アルベルト将軍を見る、将軍は剣を振り下ろした。
すると、攻城兵器に控えていた兵士達が前に出てきて横一列に並びだした。横に並んだ兵士達の手には魔弾銃を持っていた。
こちらの方は射程よりも威力を重視した作りで、口径が広い。
敵の騎兵がこちらの攻城兵器目掛けて突撃してくる。兵士達は騎兵に銃口を向けて引き金を引いた。
ドオーン‼
派手な銃声が戦場に響いた。
その音で敵の騎兵が乗っていた馬が驚く。更に魔弾銃の弾に当たったのか騎兵が馬諸共撃ち抜かれて身体に大穴を開けて倒れる。
それを見て、馬は更に驚きパニック状態になった。
その混乱状態を見て、魔弾銃を持つ兵士達は銃は弾を換えて狙いを定めて引き金を引く。
敵将はその様を見て、撤退の鐘を鳴らす。敵騎兵が場内に戻れた時には、出撃した五百の半分しか残っていなかった。
「そろそろ、頃合いだな。合図を」
「はっ」
近くに居た兵士が、赤い狼煙を上げる。
すると、突然城の北から人間族・亜人族連合軍が現れた。しかも、城壁に取りつく事が出来る所まで来ていたのだ。
「勝ったな」
「お見事です。男爵閣下」
僕は北の城壁に橋を取り付けるタイプの井蘭の橋が城壁取りついたのを見て、勝利を確信した。