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第80話 これは、敵も考えたな

 やがて、亜人族の将軍たちがやって来て、軍議が行われた。

「では、これより軍議を行なう」

 アウラ王女がそう宣言すると、エルカス将軍が手を挙げる。

「総大将閣下に申し上げる。ここいらの地図を大まかではあるが、わたしどもの兵を斥候と使い魔を使い製作しました。それを見て作戦を立てる事にしませんか?」

「ほう、いつの間にそんな物を。まぁいい、ではその地図を見せてもらおうか」

「分かりました。では」

 エルカス将軍が指を鳴らすと、テントの外に居た兵士達が大きな地図を持ってきた。

 見るとなかなか明確に描かれていている地図だった。

(僕達が居る所がここだから、タカトーラル城は・・・・・・ここか)

 地図にある平原を見つけると、そこから少し上を見ると、川を挟んでタカトーラル城と書かれ大まかな城の形をした絵が描かれていた。

 こうして見ると、川を防壁にした城構えのようだ。

 川は西と南をに流れているので、攻めるとしたら北と東からの二方面だけだ。

 でも、城を攻める際必ずどこか逃げ道を作るのが常道だ。

 じゃないと、敵が必死に抵抗する。そうなったら損害は馬鹿にならない。

(北か東のどちらかに兵をさせないで攻めるか、どっちにしろ時間が掛かるな)

 包囲したら降伏するかもしれないが、今はどうなるか分からない。

 そう考えていたら、アウラ王女とエルカス将軍が熱論を交わす。

「まず、第一目標はこのタカトーラル城ですが、周囲の小城も気になります。大きさから言えば千には満たない数しか置けない大きさの城です」

「そうだな。まずは、その小城を落としその中でも、一番損害が少ない城に本陣を置くとしよう」

「良いのですか? 敵方の城ですよ」

「罠があるかもしれないが、そこは調べて見ないと分からんし、そんなあるのかないのか分からない罠に怯えて、外で陣を張るぐらいなら念入りに調べてから使った方が良い」

「かしこまりました」

「明朝、日が昇り次第。タカトーラル城の近くにある小城を落とす。各将は今夜はゆっくり休み。明日に備えよ!」

「「「はっ!」」」

 アウラ王女がそう締めくくると、将軍達は敬礼してテントから出て行った。

 僕もテント出て、兵糧と武具の確認をしに行った。


 *********************


 翌日。

 亜人族軍がそれぞれの種族の部隊に分かれて、小城に向けて進軍した。

 僕達人間族の軍は、この陣営の防備の為に残っている。

 僕は久しぶりにマイちゃん達と話をしていた。

「何か、久しぶりにマイちゃん達と話をするね」

「そうだね~、ノッ君も男爵になった領地を貰ったりして、殆ど王宮には居なかったからね」

「うむ。わたし達も一度ノブの領地に行こうと思ったが、こちらも忙しくて行く暇がなかったからな」

「猪田君も忙しそうだったからね」

「でも、その分貰った領地がすんごく発展してるって聞いているけど、本当?」

「いやぁ、都市が幾つかと村が沢山出来たぐらいだよ」

「それでも昔に比べたら発展してるでしょう。凄いじゃん」

「まぁ、頑張ったからね」

「このままノブが元の世界に帰らなかったら、男爵になるのだな」

「そうね。だとしたら、猪田君と結婚する人は男爵夫人になるのね」

 椎名さんがそう言うと、マイちゃん達の目がピキーンと光った気がする。

 僕の頬に冷や汗が流れた。

(でも、もう男爵夫人になる人がほぼ確定していると言ったら、どうなるだろう?)

 もし「実はもうエリザさんとセリーヌ王女と婚前交渉をしたから、娶らないと駄目なんだ」と言えば戦争になるかもしれないと思った。

(いや、それでだけじゃあ済まないな。下手したら国が亡ぶな)

 この四人が揃えば、それくらい出来てしまいそうで怖い。

 なので、ここは話を転換する。

「そ、そう言えば、天城君が久しぶりに見たけど、前に比べて随分と変わったね」

 前は無駄にキラキラしていて明るい雰囲気をだったのに、この前見た時はまるで暗い底なし沼のような雰囲気だった。

「ああ、あれはな」

「う~ん。何て言えばいいんだろうね」

「自業自得な所があったけど、流石にちょっとかわいそうだったね」

 三人は何故かなんとも言えない顔をしていた。

 だが、椎名さんだけは首を傾げていた。

「ユキナッチ、けっこうきつい事を天城に言ったんだけど?」

「そうなの?」

 椎名さんの反応を見て、三人は首を横に振る。

「哀れな」

「流石にこれはね」

「やばっ、哀れすぎて涙が出そう」

 三人は何か話しているが、何を話しているのか僕の耳にはまったく聞こえない。

 ふむ。話を聞いた限りだと、大事にはなっていないがそれでもなかなか大きな問題が起こった様だ。

 僕は何があったのか訊こうとしたら。

「失礼します。男爵様はおられますか⁉」

 僕達がいるテントの前で兵士が大きな声を出した。

 その声の大きさに驚きながらも、僕は応えた。

「僕ならここにいますよ」

「総大将閣下が、お呼びです。至急大本営に来られたしとの事です」

「分かりました。直ぐに行きます」

 僕は立ち上がる。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃい~」

 マイちゃんの声を背で聞きながら僕はテントを出た。

 テントを出て、僕は大本営のテントに入った。

 すると、アウラ王女と各軍団団長達が難しい顔をして地図を睨んでいる。

 これは何かあったのだなと思いつつ、僕は話し掛ける。

「お呼びにより参りました」

「来たか」

 アウラ王女は、それだけ言って自分の用の椅子に座る。

「男爵、お前の知恵を借りたい」

「僕の知恵でよければ、で、何があったのですか?」

「亜人族軍から伝令が来たのだが」

「苦戦しているですか?」

「いや、既に城は落ちた」

「落城したのですか。では、何故皆さんはそんな難しい顔をするのですか?」

「伝令の報告だと、兵士が一人も居なかったそうだ」

「一人も居ないのですか」

「ああ、しかも全ての伝令がそう報告している」

「・・・・・・成程。そうですか」

「お主は敵が何を考えているか分かるか?」

「ええ、敵の作戦が分かりました」

「「おおおおおっ⁉」」

 各軍団長は感心した声をあげる。

「して、敵の狙いはなんだ?」

「ずばり、焦土作戦を狙っているのです」

「ショウドサクセン?」

 僕がそう言うと、アウラ王女と各軍団長達は意味が分かっていないのか、互いの顔を見る。

「焦土作戦というのは、簡単に言えば敵を自国領に引き摺り込んで、防衛拠点を限定しつつ、敵の補給線を叩き、そして総攻撃をする作戦です」

「ふむ。成程。では、現状で言えば敵は防衛拠点を限定したという事になるな。ならば、敵は補給線を叩きに来るのか?」

「その可能性もありますが、現段階で言えばそれよりも落城した城の食料又は井戸に毒を仕込んでいる可能性もあります」

「そうか。では、もし食料があれば調べる必要があるな」

「はい。その通りです」

「ふむ。では、城の方にも何か仕掛けがあると思った方がいいな」

「そこまでは断言できませんが、あるかもしれません」

「では、落とした城に本陣を置くのは危険か」

「そうなりますね」

「仕方がない。本陣はここ置くしかないな」

 僕は何も言わず頷いた。

 そして、そのまま会議になり、僕は参加した。


 亜人族の将軍たちが落城した城を調べた結果、井戸の水には毒が流し込まれており、食料はなかった。

 調べている最中、井戸に毒が入っていると知らず水を飲んだ兵が、数十人程が意識不明の重体に陥った。他にも倉庫に入っていた食料にも手をつけて倒れた者も居た。

 城自体はくまなく調べた結果、罠などはなかった。

 しかし、井戸などが使えない上に、特殊な場合で発動する罠があるかも知れないと考え、アウラ王女は本陣を平原に置いたままにした。

 だが、タカトーラル城には兵はまだ送っていない。

 北か東のどちらかに兵を置くか、亜人族の将軍達を集めて軍議を行なってから送るようだ。

 その軍議の席には、僕も参加しているのだが今、激論を交わされていた。

「やはり、東でしょう。北は敵の首都に行く道につながる。故にここは北に兵を置くよりも、東に兵を置いて、敵の士気を削ぐのです」

「いや、そこは敢えて北に兵を置いて士気を削ぐのだ。そして攻勢を掛ければ、敵はどれ程多く居ようと難なく落とせるだろう」

「いっその事、二方面を包囲して兵糧攻めしてから攻撃をすれば良いと思います」

「それでは時間が掛かり過ぎる。それよりも、二方面から間断なく攻めて敵の疲労を誘い、そうした後に総攻撃をするべきじゃ」

「いっその事、ドワーフ軍の穴掘り技術を活かして、地下から城に潜入してそこから内と外で同時に攻めれば良いと思うぞ」

 と色々な案がではするが、イマイチこれといった案が出ない。

 僕はまだ何も言わない。僕の案はここぞ言う所で言うべきだと思ったのだ。

 アウラ王女も会議が始まってからは、一言も発さない。

 恐らく皆が静まるのを待って、自分の考えを話すのだろう。

 そう考えている間にも、議論は熱が帯びていく。

 熱が帯びていった所為なのか、言葉に棘が混じりだした。

 その棘が気に障り何人かが、暴論を言い出した。その暴言が呼び水になり議論から罵り合いになった。

「そんな策しか立てられないから、貴様らは穴掘り虫とか言われるのだ!」

「ふん! 気位だけ高くて魔法以外取り柄がない耳長が何を言うか⁉」

「カシュー、お前の作戦では時間が掛かり過ぎる。もっと時間が掛からない作戦を考えられないのか?」

「それを言うならば、レオン。お前の作戦は味方も疲労が蓄積するであろうが、この後の首都攻略の時に兵達が役に立つか分からぬではないか⁉」

 何か、もうグダグダだな。

 ここはそろそろ総大将が一喝しもらうしかないかな。

 そう思い、視線を送ると、アウラ王女は僕の視線に気づいたのか、溜め息を吐いて息を吸う。

「皆、静かにせよ」

 アウラ王女がそう言うと、皆ピタリと静かになった。

 流石はバァボル陛下の御息女だ。陛下に勝るとも劣らない威厳を持っている。

「我らは罵り合いをする為に、魔人族領に遠征に来た訳では無い。諸将、少し落ち着け」

 そう言われて、各将軍達はクールダウンしたようだ。

 ここで言うべきだと思い、僕は手を挙げる。

「ターバクソン男爵、何か案があるのか?」

「はい。その前にエルカス将軍にお聞きしたい事があります」

「何か?」

「占拠した城に近くには村はあった筈です。その村には住人は居ましたか?」

「いや、人っ子一人居なかった」

「ありがとうございます。これで現状で一番効果的な作戦が考えられます」

「「「「おおおおおおおおっ」」」

 その発言を聞いて、将軍達は驚きの声をあげる。

「して、どのような作戦だ?」

「はい。僕が考えた作戦は」

 僕の作戦を聞いて、将軍達は驚いた。








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