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第6話 僕は珍しいデュアルらしい

 僕は西園寺君の言葉を聞いて呆然としていた。

 自分としては出来る事をしていただけなのに、西園寺君からしたら興味の対象だったようだ。

 惚けていたら、僕の両頬が同時に引っ張られた。

「いはい、いはい、いはいよ。ふはりとも(いたい、いたい、いたいよ。ふたりとも)」

 僕は両隣で僕の頬を引っ張る二人に言う。

「「ふん!」」

 そして、二人は同時に僕の頬を離す。

 僕が赤くなった頬に手を当てていると、二人は無言で部屋から出て行った。

「な、なんでこんなことするかな?」

「大丈夫、猪田君?」

 椎名さんは椅子を立ち、僕の所に来る。

「だ、大丈夫だよ。いつもの事だから」

「そ、そうなんだ」

 あの二人は、いつも僕が誰かと親しくしていると、何故か不機嫌になる。

 そして僕に当たるのだ。理由が分からないので、どうしたらいいか対処に困る。

「皆、部屋から出て行ったようだし、わたし達も部屋を出よう」

「うん、そうだね」

 僕たちは部屋を出た。

 出た瞬間、男子の嫉妬の視線が僕に突き刺さる。

 僕は慌てて、椎名さんから離れて列の一番後ろに並ぶ。でも、何故か椎名さんも後ろに並びだした。

 何で? と思っていると皆揃ったので、ライデルが歩き出した。

 僕達が居た建物から出て、直ぐの所に神殿が見えた。

 そこ所をライデルに訊くと、僕達が居た場所はライデルが信仰する宗派の巡礼者が泊まる施設だったらしい。メイドだけは王宮から貸し出されたそうだ。

 そんな話を聞いていると、神殿の正門前に着いた。

 荘厳で美麗な門を潜り中に入ると、エントランスでライデルと同じ服を着た人達が待っていた。

「「「「お待ちしておりました。異世界からの御客人様方」」」」

 たぶん、神官だろうと思った。

 その神官達の中で、一人を代表して前に出た。

「準備の方は整っております」

「うむ、ご苦労」

 ライデルが労いの言葉をかけている所を見ると、本当に偉いんだなと思った。

「では、皆様参りましょう」

 そして、ライデルを先頭に歩き出した。

 少し歩いたら、かなり大きい扉が見えた。ここが目的の場所なのだろう。

「入ります。どうぞ、皆さま、心の準備をしておいてください」

 ライデルがそう言うと、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

 扉に手を掛けると、あんなに大きい扉なのに苦も無く開きだした。

 部屋は、全て白く染まった部屋の中に台座の上に水晶が一つあるだけだ。

「どうぞ、皆様、お入りください。説明は中に入ってからいたします」

 ライデルが部屋に入ると、皆も続いて入って行く。

 僕は部屋に入ると、何処も変な所もないのでほっとした。

(これは西園寺君が思っていた事は起こらないようだな・・・・・・)

 そう思っていたら、ライデルが台座の隣に行く。

「ここは職業を得る部屋で通称『会得の間』と申します。皆様にはここで職業を授かってもらいます」

「どうやって貰えるのですか?」

「この水晶に手を置いてもらい、その水晶が答えてくれます」

 ふ~んと皆思っているが、誰も水晶に手を置こうとはしない。

(どんな職業を得るか分からないから、皆慎重なんだな)

 皆、自分の近くに居る人に肘で突っついて行けと催促するが、誰も行こうとはしない。

「俺が行こう」

 天城君が行き、水晶に手を置いた。

 すると、水晶が輝きだした。眩しいが目を開けれない程ではない。

 輝きが止むと、水晶から無機質な声が聞こえてきた。

『天城信成……職業、ソードマスター』

「「「おおおおおおっ⁉」」」

 水晶から声が聞こえたのと、聞いた限りでは凄い職業なのでクラス皆は驚きの声をあげる。

「これは、珍しい。ソードマスターの職業を得るとは」

「そんなに珍しい職業なのか?」

「ええ、この職業を持った者は歴史を振り返っても、数人しかおりません。そしてこの職業を得た者達は皆例外なく歴史に残る程の偉業を成しました」

「「「「うおおおおおおおおおおおっ⁉」」」」

 ライデルからそう聞いて、皆さらに驚いた。

 天城君は自分でもこんな職業を得た事に驚きながら、台座から下りる。

 そんな天城君に皆集まりだす。

 口々にやったなとか凄いねとか褒め称えていた。

 そんな天城君に続いて、一人の男子が台座に向かう。

「デユフフウフ、ぼくちんは天城よりも凄い職業を得て、この世界でハーレムを築いてやる。デユフフ」

 そう言っているのは、北畠智和きたばたけともかずと言う男子だ。

 百七十センチある僕に対して、彼は百五十センチくらいで僕よりも横幅がある。

 例えるなら、ファンタジーに出て来るドワーフを髭を生やしていない体だ。

 北畠君はクラスの中で、僕よりも嫌われるという珍しい人だ。

 僕がクラスに好かれていないのは、クラスと言うか学校でも上位に入る美女と親しいので嫌われているのに対して、北畠君は皆生理的に受け付けないようだ。

 いつも女子をいやらしい目で見ているし男子にも馬鹿にしたような発言をするので、どうもクラスから浮いてしまっている。

 本人はそんな事など気にしないで、ニヤニヤしながらボーッとしている。

 その姿が余計に気持ち悪いので、クラスの皆から気味悪がられている。

 僕も同じクラスなのに、そんなに話した事はない。

 話したとしても事務的な事で、それ以上踏み込ませてくれない。

 なので、接し方が分からない。

 ちなみに口癖が『デユフフフ』と笑う事だ。

 台座に向かう途中も小さい声で『デユフフ、これでぼくちんの時代が来たんだ! ここで凄い職業を得て、クラスの皆を見返してやる。そこかたクラスの女子皆ぼくちんの奴隷にして、そしてこの世界で活躍してあらゆる種族の女の子をぼくちんの奴隷にして、ハーレムを築いてやる。デユフフフフフ』と言っているのが聞こえてきた。

(何か、凄い事を考えているなぁ、北畠君)

 そうしていたら、北畠君は水晶に手を置くと水晶が輝きだす。

 輝きが止むと、先程同じように無機質な声が響く。

『北畠智和……職業、木こり』

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 皆、思ってもいない職業を聞いて、目が点になっていた。

「こ、これは、また・・・・・・何とも言えない職業を授かりましたな・・・・・・」

「フ、フへ? ぼ、ぼくちんが、き、きこり?」

 北畠君も思っていた職業と違って、驚きを隠せない。

「あ、あの、聞いていいですか?」

「はい、どうぞ」

「ぼくちんの木こりは、そのまま意味で良いですか?」

「ええ、そのままの意味でとってよいです」

「この職業を貰って、何か歴史に残るような偉業をした人はいませんか?」

「いえ、寡聞にして存じませんな」

 ライデルにそう言われて、北畠君は膝から崩れ落ちた。

「そ、そんな・・・・・・・・・・」

 見ていると可哀そうなくらい落ち込んでいた。

 どう声を掛けたら良いかなと悩む。

「プッ、ぷはははっは、まじ笑えるわっ! 木こりとかそんな職業ここじゃなくても、別に貰えるじゃん。マジウケるわっ! ぎゃあはははははははっ⁉」

 この笑っている男子は長坂勝介ながさかかつすけと言う男子だ。

 長坂君はクラスの中で一番チャラいと言える。

 だが、見た目に反して頭が良い。成績も学年で四十位内に入る程だ。

 僕はあまり話さないが、どうも嫌われているようだと分かる。

 何か話す際、僕を見る目は嫉妬に満ちた目で見る。

 どうも、僕が椎名さん達と親しいのが気に食わないようだ。

 凄い高圧的な所があるので、クラスの殆どの人は彼を嫌っている。

 僕の印象としては、口が上手く要領よく立ち回る抜け目ない人だ。

 ひとしきり笑うと、長坂君は台座に向かう。

「さぁて、俺はどんあ職業を得るかな~、まぁ、キモデブみたいなしょぼい職業を得ないだろうなぁ、はつははははは!」

 笑いを終えると、長坂君は手を水晶に置いた。

 輝きだし、止むと無機質な声が響く。

『長坂勝介……職業、道化師』

「「「えっ⁉」」」

 皆耳を疑った。

 あれだけ言って道化師は、少し可哀そうだ。

「これは何とも言えない職業ですな。正直、木こりとどっこいどっこいな職業ですな」

 シ~ンと静まりかえる。

 あんなに馬鹿にしていた木こりと同じ位と言われるとは。

 何とも言えない空気があたりに漂う。

 長坂君は顔を俯かせて、台座に下りる。

「うそだ、うそだ、俺が、あんなキモデブと同じ位とか、ありえねえ・・・・・・・・・・」

 ブツブツと呟きながら、元いた場所に戻る。

 その後は誰も続こうとはしない。

(これはさっさと行って、僕も無難な職業を貰った方が良いかな)

 そう思い、僕は台座に向かう。

「次は猪田か」

「あいつどんな職業を得るかな?」

「そうだな。あいつ結構頭良いから学者とか?」

「いやいや、ここは意外に教授とか?」

「それだったら、俺達が居た世界でも出来る職業だろう」

「でもさ、あいつ勉強教えるの上手いぜ。俺さあいつに勉強教えて貰うけど、要点が分かりやすく教えてくれるから、先生の授業を受けるより分かりやすいぜ」

「言えてる言えてる。あいつ教え方上手いよな」

「色々と博識で良い奴なんだけど、でもムカつくんだよなっ」

「そうだっ、俺達でも近づくの躊躇う。あの美女三人衆と話す事であいつは死刑になってもおかしくないっ! というか、どうやったら仲良くなるか教えて欲しいぜ!」

「「「そうだ、そうだ!」」」

「猪田君は話せば面白いんだけど・・・・・・」

「あの体型だから、ちょっとね」

「それに加えて、西園寺君や天城君と普通に話せるからムカつくのよ!」

「わたし達が話している間でも、西園寺君は猪田君を見ているのよ。きいいいいいっ」

「天城君も猪田君に良く話し掛けるのよ。羨ましいいいいいいい!」

「と言うか、その位置変わってええええ!」

 僕が台座に向かいだすと、何故かクラスメート達が叫び出した。

(ええ~、男子がよく嫉妬の視線を向けてくるのは知っていたけど、女子の方もそんな風に思っていたの⁉ 西園寺君と天城君は中学頃に同じクラスになって馬が合っただけなのに!)

「何というか、貴方様は皆様から慕われているようですな」

「これをどう見たら、そう思えるの⁉」

 この人の目は節穴か? と思いながら僕は水晶に手を置く。

 先程と同じように輝きが止むと、無機質な声が響く。

『猪田信康・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 あれ? 前の人達に比べて、職業を直ぐに言わないぞ。

「これは・・・・・・もしや⁉」

 なんか、ライデルが驚愕している。

 そんな中で、無機質の声が響く。

『猪田信康……職業、賢者、軍師』

 えっ⁉ 賢者? 軍師?

 これはいったい?

「おお、まさか、貴方様はデュアルでしたか、それに賢者に軍師とは両方とも珍しい職業ですな!」

「そうなんですか?」

「ええ、ええ、賢者は魔法使いと僧侶の職業が合わさった職業なので、滅多になる者はおりません。それに軍師の職業になる者は、どこの国に居ても引く手あまたの職業ですぞ!」

「そ、そんなにですか⁉」

 僕が貰った職業は凄すぎる!




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