《護るための決意》
投稿遅れてしまいました。すみません!
「着いた、あれだよ。」
俺にそう言って嗤う。『お前の平穏な日常はもう終わりだ』と言わんばかりに。
目の前にあるのはどこにでもあるような普通のビルだった。街の郊外とまではいかないが、中心街から少しずつ離れた場所にある。大して大きなものではなく、付近のビルに比べて少し小さいくらいのビルだ。
(本当にここなのか?。)
きっとあの実験関連の研究所の一つに運ばれるのだろうと想像していた俺は、ビルに着いたことで少し困惑してしまった。
「想像していた場所と違うかい?」
「・・・・・。」
ビルの下まで来ると、ビルに隣接して建物があった。車はまっすぐそちらに向かって進む。入り口に大きなシャッターがある事だし、車を格納する車庫か何かだろう。
入り口に着くとセキュリティシステムが作動し、スキャニングが行われた。車全体にレーザー光が当たる。この施設に部外者を入れないために関係者かどうかを調べているようだ。
『スキャニング完了。登録データとの照合・・・完了。』
淡々と機械的な声でスキャン完了の知らせが響く。言葉から察するに、大して使われていない施設ではないようだ。
セキュリティスキャン自体はこの時代大して珍しいものではないが、やはり念入りなスキャンをするからにはこの施設も重要度の高い情報を隠しているみたいだ。
『生体反応3つ確認。そのうち1名登録データとの照合をした結果、データに存在しませんでした。』
「ああ、君の妹さんか。彼女のデータは登録していなかったからね。」
『3名のうち1名』『彼女の』つまりもうすでに俺のデータは登録済みということか、
「セキュリティ、彼女のデータも登録しておいてくれ。」
『了解しました。シャッターを開きます。お帰りなさいませ。』
「おい!何故陽奈を登録する必要がある!もう用はないはずだ!」
「何故、とは考えが足りないんじゃないかい?僕の正体を知っている彼女を今更帰すとでも?」
「それは・・・。」
確かに俺をここに連れて来た時点で妹の人質としての役目はもう無い。しかしこの男の正体を知ってしまった時点で、野放しにするはずがない。
分かっていたはずだ。考えが甘かった、考え直さなければならない、ここはもうあの《地獄》の一端なのだから、
「彼女にも実験に加わってもらおうかな、あの男の子供だ。きっと素晴らしい成果を上げてくれることだろうね。」
目の前で開くシャッターが《地獄の口》のように思えた。外で夕暮れながらまだ明るい太陽に対して、明かりのない建物の中がこの先の闇を思わせた。
建物の中は予想どうり車庫で、広く明かりがなく暗いせいもあるが奥の方が見えない。
「妹を出せ。」
「ああ、そうだね。出してあげよう。」
そういってトランクを開けるために車の裏に回る。
「トランクオープン。」
科学者の声に呼応してトランクの鍵が開く。そして自動で開いていくと、中に横たわっている妹の身体があった。
科学者の言っていたように身体に外傷はないようだ。見る限り安静に眠っている。室内には俺と陽奈、そしてこの科学者。このままだと俺も陽奈もあの《地獄》へと突き落とされてしまう。
もう手段を選んではいられない、なら・・・
「君は今こう考えているんじゃないかい?『1対1なら勝てるのではないか。』って。」
「ーーっ!」
「別に止めはしない。だけどやめておいた方が、君は君でいられる時間が長くなるし、妹さんとも少し長くいられると思うよ?」
「・・・どういう意味だ。」
「そのままの意味で受け取ってもらって構わないよ。さあ、妹さんを起こしたらどうだい。」
返す言葉が見つからず言われたように妹を起こす。しかし眠りが深いのかなかなか起きない。妹を揺らし起こしながら聞く。
「これから俺達はどうなるんだ。」
「まだ教えることはできないが、もしかしたら君にとって懐かしいであろう人に会えるかもしれないね。」
俺にとって懐かしい人とは誰だろう。俺はあの実験場での記憶はほとんどないせいで何も思い出せない。それに君が君でいられる時間というのは一体・・・
今分かっている情報を頭の中で整理していると、妹の目が覚めた。目覚めたばかりの妹は、意識がはっきりしていなかったが、目の前にいる俺に気づいた途端、
「晴兄!大丈夫?さっきお父さんの偽物が晴兄のことを・・・。」
そこまで言って自分が知らない空間にいることに気づく。辺りを見渡して自分が眠らされた後のことをある程度察したらしい、不安で今にも泣きそうな顔をしている。
俺は妹に何をしてあげればいい。『俺たちは誘拐されて、今から実験体になるんだよ。』って言えばいいのか。違うだろ。今俺が妹にしてあげるべきなのは・・・
俺は陽奈の頭に手を載せ、まっすぐ目を見て言う。
「陽奈。大丈夫だ。心配すんなって。いつものお前はどうしたよ?いや、今の方が野蛮じゃなくて可愛いから、このままでいるのもありだな。」
精一杯強がって、いつものように兄貴ぶることだ。
誘拐された妹にかけてあげる言葉の最適解は知るわけないし、これ以外に俺にできることは何もない。
「晴兄のばか・・・こんな時で・・なに言ってるの・・・。」
陽奈が俺に怒る。俺の胸をたたく。だが次第に俺をたたくのをやめた妹は、泣き出しそうなのを必死に堪えて、俺に笑いかけた。
「・・・ありがとう。晴兄。」
俺の強がりなんてとうにお見通しなのだろう。自分が怖いのを我慢して微笑みかけ、俺に気遣ってくれた。出来た子ですよ。本当に。
そんな兄妹の会話を尻目にいきなり拍手が響く。
「いやぁ素晴らしい兄妹愛を拝見しさせてもらったよ。よくここまでのコミュニティを築いたものだ。」
目の前の妹が震えだす、自分を誘拐した人間がこの人だと分かったのだろう。頭をさすり、また強がる。
「人間のことを研究材料程度にしか思っていないお前らには無理だ。」
「へぇ〜そうかい。新しい研究のテーマにでもしようかな。」
そう笑って車庫内にあるエレベーターに向かって歩く。
科学者が言った言葉の意味はまだ分からない、この状況の打開策も浮かばない、だが、
(絶対に・・陽奈を《あそこ》へは行かせない。)
言葉にはしなかったが、そう心で固く決意した。
あけましておめでとうございます!今年もCyber'sーサイバーズーをよろしくお願いします!