《救世主であり親父であり》
《晴》の実験後の話の一部を書きました!
高速で視界を整えられた街並みが過ぎて行く。窓から見える空は淀んでいて今にも雨が降ってきそうだ。
俺の通う高校は、自宅の最寄りの駅から約20分程度のところにあるので、必然的に俺はこの電車通学ライフを満喫することになっている。
入学式はもうとっくの昔に終了していて、ある程度高校に通うことも慣れた。この車窓からの景色も随分と慣れ親しんだものになっている。
こんな景色を見ることができるようになったのも、ひとえにどっかのゲーム好きのおかげなのだが。
《如月 和也》(きさらぎ かずや)
俺の親父の名前。親父といっても俺との血の繋がりはなく、養父だ。俺は幼少期の頃の記憶がない。話によると、親が居らず孤児だった俺を引き取ってくれたのが親父でありこの《如月家》らしい。
俺の記憶がリセットされまた保存し始めたのは何故か病室のベットの上からだった。何故?病室?と真っ先に思った。俺は体に何処か悪い部分でもあるのか?
状態を起こそうとすると、激しい頭痛に襲われた。頭が焼けるようだった。俺は頭を何かに酷使したりしたのか?
「・・・痛っ。」
その時俺の病室にいた親父が俺の小声で漏らしたその声に気付き、突然こう言った。
「お!起きたか。まあ、その・・・あれだ!俺の息子になれ!」
そこそこの声量で放たれたその言葉は病室が凍りつかせた。皆が皆同じ反応をしていた。「ええ!?。」
病室で目覚めたばかりの子供、それも初対面の人間相手にかける言葉にしては、突然「息子になれ」なんてかなりおかしいし、誰だって驚くし戸惑うだろう。
「そこは俺の息子になるか?って聞くとこじゃねぇの?」
「いや、なれ!」
「強制かよ・・・。」
冗談混じりにいってみた言葉に、親父は真っ直ぐに俺を見て答えた。俺は少し呆れたように答えたが、親父はじっとこちらを見続けていた。なにかとても強い意志のようなものを感じた。
頬に何か熱い液体が伝ったような気がした。
その瞬間から、俺は《如月家》の一員になった。
《如月家》の一員になってから、名前も忘れていた俺は名前をつけてもらった。
《如月 晴》 母さんがつけてくれた名前だ。
《如月 淑》(きさらぎ しずか)
温厚な性格でとても優しい。そんな母に名前をもらった。恐らく教育を受けていない俺が、受けていたとしても忘れてしまっている俺が、一年もかからず中学校に無理なく入学することができたのは、彼女のおかげと言う他ない。
当時塾の講師をしていた事もあり、教え方がとても上手だった。何故か記憶力が良かった俺はすんなりと理解することができ、小学校卒業程度の学力なんて何の苦もなく取得することができた。
陽奈もよく俺のことを兄として迎えてくれたと思う。どこから出たかも分からない他人を、まだ幼い妹が優しく接してくれた。恥ずかしくて口には出さないが、感謝している。
ぼんやり柄にもなくそんな方を考えていると、学校の最寄りの駅に到着するチャイムが鳴った。着くの早すぎだろ、どんなだけボーとしてたんだ俺は。
(マジかぁ〜もったいねぇ。)
普段ならたっぷりゲーム・アニメに費やすはずの電車内の時間を、無駄にしてしまった事を心底後悔しつつ、電車を降りる。
駅のホームへぞろぞろでてくる人の波に流されて駅を後にする。未だ人類全体の人口は増える一方だ。いつもの光景ではあるが、未だ飽和状態な辺り一帯を眺め、ため息をつく。
(嫌だな、いやマジで。)
向こうから俺の方に向かって手を振りながら自転車をこいでいるクラスメイトと、これから始まる学校に家でも感じた気だるさを覚え本気でそう思ってしまった。
修正しました。