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エンカウント

×××



そして三十分後、案の定迷子になったバカ弟子である。



現在地は中央広場に続く目抜き通り。人ごみを縫って歩きつつ、俺はいつの間にか失踪していたミアを探して辺りを見回していた。



確か少し前までミアは俺のそばにいたはずだ。しかし人混みを縫って歩いているうちにあのバカ弟子は姿をくらまし、いまだに戻ってきていない。



とりあえず通信用の魔法陣を起動するが、応答なし。



この魔法陣、便利なんだが人混みだと結構混線するんだよなぁ……お祭りとかで携帯電話が通じなくなる現象と似ているかもしれない。



その後しばらく自分の足でミアを探していたのだが、だんだん歩くのに嫌気がさしてきた俺は、目撃証言を集めることにした。



「ちょっといいか」



「はいよ、いらっしゃい」



人混みを抜け出し、道端の露店の店主に声をかける。



どうもマジックアイテムの小売り店らしい。敷物に直接品物を陳列するフリーマーケットスタイル。他に客もいないし、多少話しかけても商売の邪魔にはならないだろう。



「人を探してるんだ。一人でうろついている銀髪の女の子を見なかったか?」



俺がそう質問すると、中年の店主は露骨に嫌そうな顔になった。



「あん? 何だよ、客じゃねえのか。聞きたいなら一つくらい商品買ってくのがマナーだぜ」



「硬いこと言うなよオッサン。客なんかいないんだし、話し相手ができたと思えばいいじゃねーか。客なんかただの一人もいないんだし」



「いらねーよこんな失礼な話し相手! 繁盛してなくて悪かったな!」



額に青筋を浮かべている。いかん、これでは話を聞くどころじゃない。



「悪い悪い、まあここの商品を買う気はないが――代わりに有益な情報を聞かせてくれたらいいもんやるよ。この店が客であふれるようなすっげー商品になるものをさ」



オッサンは死ぬほど胡散臭そうな表情を浮かべていたが、結局暇だったのだろう。ため息を一つ吐くと、面倒くさそうに話し出した。



「……ああ、見たよ。銀髪の女の子だろ?」



「本当か?」



「ああ。髪の長さは腰までくらいで、目は青。年はだいたい十二歳くらいで、どことなく犬っぽい雰囲気

の子ならついさっきここの前を通ってったよ」



詳細な情報がありがたい。おまけにバカ弟子の特徴とがっつり一致している。



おいおい、聞き込み一件目にしていきなりアタリか?



「ああそうそう、その子と一緒に誰か歩いてたぞ」



「は?」



 オッサンがもたらした予想外の情報に、思わず聞き返す。するとオッサンはこともなげに言ってきた。



「嘘じゃねえよ。確かに見たんだ。二人で会話してたから他人ってことはないと思うぞ」



「どんなやつだ?」



 俺とはぐれた今、ミアは一人のはずだ。誰かと一緒ってのは考えづらい。



 この街はわりと治安がいいほうだ。悪人に誘拐されるなんてことはそうそうないだろうが、あのバカ弟子のガードの緩さを思えば安心はできない。



 わかりやすく険を増した俺をどう思ったのか、店主のオッサンは慌てて付け足した。



「だ、大丈夫だ。銀髪の嬢ちゃんと一緒にいたのは若い女だよ。ちょうどあんたと同じくらいの年で、紫っぽい髪の。銀髪の嬢ちゃんとは楽しそうに話してたし、危ない雰囲気じゃあなかったぜ」



 紫っぽい髪の若い女ねえ……



 ミアはまったく人見知りをしないうえに人懐っこい性質なので、初対面の相手と仲良さげってのは理解できなくもない話だ。



「ちなみにすげーべっぴんだったぜ」



「このロリコンが。そんなんだから客が寄り付かねーんだ」



「ちげーよ! 銀髪の子と一緒にいた紫髪の女のほうだよ!」



 と。



「――すまない、少しいいだろうか」



 俺の真後ろから声がした。



 棒読みっぽく、いやに平坦な声。



 振り返ると、そこには一人の少女が突っ立っていた。



 濃い緑色の髪は肩のあたりでまとめられ、胸の方に流されている。身体の線は細く、顔立ちは相当に整っていた。年は俺よりやや下くらいだろうか。



 伸長は女の平均身長程度だが、首の後ろから流された緑色の髪を追っていくと、やたらと発育のいい胸が目につく。普段まな板(※ミア)ばかり見ている俺には目の毒だ――じゃなくて。



 ……緑色の髪?



「はい、いらっしゃい。何をお求めで?」



「ああ、すまない。私は今手持ちがないんだ。少し道が聞きたくて声をかけた」



 新たな来客に揉み手をするオッサンから視線を外し、俺は懐からとある魔法陣を取り出した。



 まさかと思うが、念のため。オッサンと緑髪の少女とのやり取りを眺めつつ俺は取り出した魔法陣を起動した。



 気のせいだよな? 気のせいだと信じたいんだが、どうも嫌な予感がしてならない。



 俺が起動した魔法陣は、その嫌な予感を払拭するためのものなんだが――



「あん? 嬢ちゃん、文無しかい。そんなら帰った帰った。商売の邪魔にならぁ」



「しかし、今は客がいないように見受けられるぞ。少し道を教えてくれるだけでいいんだ。幸い今は客がただの一人もいないことだし」



「なあ、なんでお前らはいちいち客入りに言及するんだ? 俺をいじめてそんなに楽しいか? しまいには泣くぞこの野郎」



「誤解だ。私にそんな趣味はない。ただ思ったことを言っているだけだ」



「いちおう言っとくが、そっちのほうがよっぽどタチ悪いからな」



「……」



 店主のオッサンと緑髪の少女がやり取りをしているのを見て、俺は徐々に自分の頬が引きつっていくのを感じていた。



 最悪だ。嫌な予感が的中しやがった。



 俺は望んでいない答えを教えてくれた魔法陣を懐に突っ込み、躊躇ゼロで緑髪の少女の手を掴んだ。



「む?」



「邪魔したなオッサン、俺たち行くわ。ああこれさっき言ってた礼な。遠慮せずにもらっとけ。情報ありがとよ、じゃあな!」



「ん? あ、おい!」



 そこまで一気に言い捨て、俺は緑髪の少女の手を取ったままその場を離れる。



 去り際に一枚魔法陣を刻んだ感応紙を放り投げていくのを忘れない。きちんとミアの目撃情報はもらったわけだし、礼はしておかないとな。



 投げ渡された感応紙を見て怪訝そうにしていたオッサンは数秒後にとりあえず使ってみることにしたらしく、俺たちの背に、



「うおおおおおお! こりゃすげえ! あの百剣の王、リッカ様がこんな鮮明な映像になるなんて聞いたことねえ! こりゃ売れるぞ! うははははははは!」



 なんて笑い交じりの叫びが聞こえてきた。



 緑髪の少女がぱちぱちと瞬きしたのちに俺に聞いてくる。



「……あの店主に何を渡したんだ?」



「着せ替えリッカ人形の魔法陣」



「きせ、か?」



 どうやら俺の言った言葉の意味がわからなかったらしく怪訝そうな声が返ってくる。



 さて、俺は問答無用とばかりに緑髪の少女の手を引き、頃合いを見て大通りから外れて裏道に入る。そこからもう一度曲がり、周囲に誰もいなくなったところで俺はようやく手を離した。



 初対面の男にいきなり腕を引かれ、人気のない裏道に連れ込まれる。並の女なら怯えるか、少なくとも警戒の表情くらいは浮かべそうなものだが、緑髪の少女は顔色一つ変えずに首を傾げた。すげーなこいつ。



「それで、これは何の真似だ?」



「そりゃこっちの台詞だよ」



 何の真似も何もない。俺は憮然と鼻を鳴らし、



「何でこんなところにいる? 家出王女さん」



 アリシア・メア・ファラディオール――現在失踪中とされているファランドル王国の第二王女本人に対して、ぞんざいな口調で質問した。

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