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魔法都市

×××



「お師様はもう少し私のことを大事にしてくれてもいいと思うんです」

 


 ミアがややふてくされた声で何か言っている。



「無事だったんだからいいじゃねーか。ほら、このクレープでも食って落ち着けよ」



「(はむっ)まったく、食べ物で釣ろうだなんて女性に対して失礼ですよ。お師様はいつも私を子供扱いして――わああ美味しい! こんなの初めて食べましたよ! 感動しました!」



 安定のチョロさである。



 俺はそのへんの露店で買った冷たいクリーム入りのクレープ一口で機嫌を直したロリ弟子を呆れた目で眺めつつ、



「ま、過ぎたことをいつまでも気にしてないで楽しめバカ弟子。せっかくこんなところまで来たんだからな」



 表情そのままの呆れた声でそう言ってやった。


 

 ――魔法都市シャレア。



 俺やリッカが拠点にしている国の北西部に位置する大都市だ。かつて魔王の襲撃に備えて増築された城壁の中には見事な白レンガの街並みが広がっているが、この街の本質は街の奥に配置されている研究施設群にある。



 良質な魔鉱石が採れるラドルク山脈、そのふもとに広がる魔法植物の宝庫・ラドルク樹林のすぐそばという好立地。そこから得られる魔法資源をありったけ利用して魔法技術の研究を進め、発展を繰り返してきた研究者の聖地――それがここ、シャレアという街なのだ。



 まあ、魔法技術者志望なら一度は来てみたい場所だろうな。かくいう俺も、初めてここに来たときには露店に並ぶ見慣れない魔法具の数々に目移りしたもんだ。



 観光客も多い。



 三年前まではここの研究者たちは魔王討伐のために兵器の開発を国から命じられていたが、魔王が討伐された今じゃあ娯楽用の魔法陣なんかが開発の主流になっていて、街のいたるところに他では見られないマジックアイテムが転がっているようなありさまだ。



 と、噂をすれば。



「バカ弟子、こっち寄れ」



「はい? わわっ」



 目を輝かせて街並みを見回していたミアの腕を引っ張る。俺の行動の意味がわからなかったようで、ミアは不思議そうに俺を見上げたが――数秒後、さっきまでミアのいた場所の頭上すれすれを勢いよく通り過ぎる『何か』を見て目を見開いた。



「っとと、あっぶねー! すいません!」



「ばっか野郎、ちゃんと高度保っとけよ! あぶねーだろ! 本当すいませんっ!」



 などと叫びながら人ごみの上を飛行していくのは、長辺一メートル、短辺三十センチくらいの板の上に器用に立つ少年二人。連中は道行く人たちに謝罪しつつ、ぐんぐん高度を上げて飛び去って行った。



「お、お師様! 今のは何ですか!? 何だか不思議な板に乗って人が飛んでいましたよ!?」


 

 俺の手を掴んだまま興奮した口調で言ってくるミアだった。



「あれは『スカイボード』っつうマジックアイテムだ。板の裏側に魔法陣が刻み込んであって、あれに乗ると空を飛べる。かなり練習はいるみたいだが、慣れれば空飛ぶドラゴンと並走することもできるらしいな」


 

 早い話が空飛ぶスケボーである。



「ドラゴンと並走……あ、でもそんなことをして大丈夫なんですか? 魔法陣は魔力の漏れが大きいですから、あんまり長時間飛んでいると物凄く疲れてしまうのでは?」



 と、魔法陣のこととなると意外に鋭い弟子から質問が飛んでくる。



 ミアのいう通り、魔法陣には魔力が術式をたどっていく過程で、込めた魔力の大半が漏れてしまうという欠陥がある。具体的には魔力のほぼ八割が、魔法陣の術式を達成する前に散ってしまう。



 込めた魔力のうちたった二割しか術式を完遂できない、この欠点のせいで魔法陣は長いこと戦闘では使えないような残念技術だと言われてきた。魔法陣で詠唱と同じ威力を出そうと思ったら単純計算で五倍の魔力がいるからな。



 まあ、どこぞの『法陣士』とかいうやつが莫大な魔力にものを言わせて魔王討伐までやってのけてからは色々と注目されているようだが――まあそれはいいとして。



「確かに魔法陣だけなら難しいが、あのアイテムで魔法陣が担当してるのは『進路を操作する』って部分だけだ。『宙に浮く』のはそういう性質を持つモンスターの魔法素材を使って補ってる。進む方向を操るだけなら大して魔力消費も大きくならないって寸法だ」



「な、なるほど……!」



 魔法陣は出力のいらないパーツとしてなら無類の強さを発揮する。モンスターの魔法素材ってのは消費魔力が少ない代わりに一つの効果しかないものが多いからな。それを補助するために多芸な魔法陣をくっつければ『スカイボード』みたいな便利グッズに化けるわけだ。



 矢継ぎ早に繰り出される質問に答えていくたび、ミアが興味深げに頷いている。魔法陣に興味があって俺に弟子入りした、というミアの言葉はあながち嘘でもないらしい。



「やっぱりこの街は面白いですね! お師様、はやく広場の魔法市に行きましょう!」



 修学旅行当日の小学生みたいな表情で言ってくるミアに俺は呆れたため息を吐いた。



「テンション上がるのはわかるけどちっと落ち着け。この人混みだし、ゆっくり行かないとはぐれちまうぞ」



「子供じゃないんですからそんなことありません! お師様は私を何歳だと思っているのですか」



 何歳だと思ってるって……



「犬に換算すると八か月くらいだろ?」



「どうして犬に換算したのかわかりませんが、十二歳です。このくらいの人ごみで迷子になんかなりませんよ!」



 威勢よく言ってくるミアだが、こうも自信たっぷりに言われると確かにそこまで心配する必要もない気がしてくる。



 まあ十二歳ともなれば小学校も卒業しようかという頃合いだ。そうそう迷子なんてならないか。



「それもそうだな。んじゃ行くか」



「はいっ!」



 そんなやり取りを経て、俺たちは本来の目的である魔法市の会場を目指して歩き出した。


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