表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/88

百剣の王(笑)

×××



 俺こと寺宇時雨(じう しぐれ)はバリバリの日本人だ。



 剣と魔法のファンタジーワールドに暮らしているが、遺伝子レベルで日の丸国家の血を引いている。



 四年前。



 当時中学三年生だった俺は学校帰りにトラックにぶっ飛ばされて死に、気が付くと辺り一面何もない真っ白な世界に突っ立っていた。



 わけもわからず呆然としていると、数秒後、目の前に女神を名乗るイタい美女が出現。その後のやつと俺の会話を端的にまとめると以下のようになる。



女神「今からあなたには異世界に転世し、魔王と戦ってもらいます」


俺「いや、俺ただの一般人なんだけど。戦えないんだけど」


女神「大丈夫です、私があなたに戦う力を授けましょう。人外レベルの怪力でも、絶対的な防御力でも」


俺「おおっ! じゃあせっかくだし、人並み外れた量の魔力とかくれよ! 一回魔法とか使ってみたかったんだ!」



 あの頃の俺は青かった……ネット小説とかでよくある『異世界転世モノ』に憧れて、盗賊やらモンスターやらが跋扈する物騒極まりない世界に二つ返事で来てしまった。



 女神のお情けなのか、この世界の言語には不自由しなかったし、転世のあと一日は女神とテレパシーで色々と質問もできたのだが――問題が発生したのは転世後二日目。



初の野生モンスターとの戦闘で、俺は魔力の使い方がわからないという非常事態に直面し、質問しようにも女神との通信は切れた後で、それはもう大変な思いをしたものだ。



 女神のアフターサービスは肝心な時に役に立たん。それ以来あの女とは顔を合わせることもなかったしな。



 それでも何とか他の転世者である剣士、モンスター使い、ヒーラーと一緒に魔王を討伐したのが丁度そこから一年後のこと。



 俺もいちおう女神にもらった比類なき魔力量を武器にそこそこ活躍したのだが、もともと魔王を倒すためにこの世界に送られた俺たちは、その時点ですることがなくなった。



 そんな理由から、伝説のパーティーとまで呼ばれた俺たち四人は魔王討伐報酬の金をもらったあとそれぞれ勝手気ままに生きることを決意した。



 俺はといえば、宮廷魔術師団の指南役やら、魔法具研究室やらからスカウトはきていたもののなんかもう疲れたので王国のすみっこに住み着いて好き勝手に魔法陣の研究とかをやっている。



 せっせと新たな魔法陣を開発したり 、偶然拾った幼女を弟子にしていたらいつの間にか三年が経過。


 

 そんなわけで現在、十八歳となった俺は悠々自適な隠遁生活を送っているわけだ。


×××


「お師様お師様、これは何の魔法陣ですか?」



「これか?」



 居候兼弟子の銀髪幼女が俺の作業机を覗き込んでいる。


 

 机の上に載っているのは、魔力を通す紙である『感応紙』に円形の陣を書き込んだ、一般的な形の魔法陣だ。



 この世界における魔法陣とは呪文を図式化したもので、これに魔力を流し込むと魔法が発動するという代物だ。普通に呪文を唱えるよりも出力は落ちるが、魔力の扱いが下手でも(※ここ重要)魔法が使えるようになる素敵アイテムである。


  

 そう、この世界には魔法がある。



 発動方法は主に二つ。『詠唱』と『魔法陣』だ。呪文を口で言うのが詠唱で、図にして書くのが魔法陣。俺の専門は後者、つまり魔法陣だ。



 そもそも俺は純粋な地球人なので、この世界にきた当初は女神から受け取ったはずの魔力を知覚することすらできないほど魔力の扱いが下手だった。



 ところが魔力の扱いが死ぬほど下手な俺でも、魔法陣を介すると魔法が使えるのだ。必然的に魔力量以外に取り柄がない俺が戦う術はこっちに限定される。



 魔王討伐後はもっぱら俺の研究テーマになっており、今俺がやっているのも新しい魔法陣の開発作業というわけだ。



「ま、見せてやるよ。ちょっと離れてろ」



 俺はそう言って、机の上にある開発中の魔法陣に魔力を流し込んだ。 



 淡い水色の光を放ち、感応紙に刻まれた魔法陣が輝きだす。



 そして出現した『映像』に、ミアが呆けたような声を出した。



「おおー……あれ? これ、もしかして……」



 魔法陣の上に現れたのは十分の一スケールの少女の立体映像だ。


 

 赤いロングヘアの凛とした見た目の少女で、腰には剣を帯びている。まだまだ色彩は薄いしデフォルメされてはいるが、彼女を知る人間からしてみれば充分誰の姿かわかるはずだ。



 その証拠に、そのホログラムを色んな角度から覗き込んでいたミアが歓声を上げた。



「お、お師様! これってもしかしてリッカ・タチバナ様ではありませんか!? あの魔王討伐パーティーの前衛を務めたという剣士の!」



 興奮したようにまくしたててくるミアの反応に満足しつつ、俺は頷く。



「ああ、そうだ。巷では『百剣の王』とか呼ばれて調子に乗ってるあのリッカだ」



「お師様凄いです凄いです! こんなに精密な映像ができるなんて聞いたことないですよ!」 


 

 きらきらした目で立体映像を凝視しているミアだった。まあ、悪い気はしない。



「つってもこれはまだ未完成だけどな。俺の記憶で補強しないと精度が落ちるし。純粋なイラストを映像化させるにはまだまだ研究が必要だ」



「いらすと? ……あ、お師様は何かを創るのが夢なんでしたっけ。あの、アメみたいな……」



「『アニメ』だバカ弟子。師匠の目的くらいちゃんと覚えとけ」



 俺は嘆息した。この弟子は魔法陣に関しては異様な記憶力を発揮するくせにこういうことはすぐに忘れる。



――アニメを創る。


 

 目下、俺の目標である。



 魔王を倒してから俺はとにかくヒマだった。日本と違ってこの世界には娯楽的なコンテンツが少なすぎる。地球人時代はもっぱらオタク趣味を有していた俺からすればこの世界の人間はどうやって時間を潰しているのか理解できない。



 なので、俺はこの世界で培った魔法陣の知識を活かして創ることにしたのだ。



 二次元的娯楽コンテンツの極致、アニメを。

 


 ヒマだったし。あと、魔王討伐の旅を映像化すれば売れるんじゃないかなーみたいな下心もある。



「この映像版十分の一リッカは、その第一歩だ。さらに、この魔法陣にはこれだけで商品となりうる付加価値がある」



「付加価値? 魔法陣に組み込まれた技術のことですか?」



「ハズレだバカ弟子。そんなもん研究者にしかわからんだろ。そうじゃなく、もっと誰でも楽しめるものだ。特に小さい女の子と大きいお友達がな」



「小さい女の子……? もしかして私もですか!? どんな付加価値なんでしょう……」



「気になるか? なら見せてやろう! これが俺の野望の第一歩――」



 ピンポーン

 


 言いかけたところで、部屋に片隅に設置した別の魔法陣からそんな音が聞こえてきた。



 まったく同時にそっちの魔法陣から浮き上がった映像には、見知った人物が映っている。



 俺はそれが誰か確認したうえで、見なかったことにした。



「お師様、お客様ですか?」



 俺は部屋の隅にある魔法陣、通称『インターホン』を覗き込もうとするミアを手で制しつつ、



「お前は見なくていい。……この魔法陣には隠された機能があってだな」



 ピンポーン



「お師様、ぴんぽんが鳴ってます」



「わかっていて無視してるんだ。で、この魔法陣だが……」



 ピンポーン



「お師様、ぴんぽんが鳴ってます」



「気のせいだ。心を強くもて。心頭滅却すればぴんぽんもぴんぽんじゃなくなる」



「お師様、意味が分かりません」 



 ピンポーン



 ピンポーン



 ピンポーン



 ピンポーンピンポーンピンポンピンポンピンピンピンピピピピピピピピピ――



「うるっせーな! 何だよ! 何しに来たんだよお前!」



『あら、折角会いに来てあげたのに随分な言い草ね。っていうかさっさと家に入れなさいよ。こちとらこ

のインターホン的な魔法陣を連打しすぎて指が痛いのよ』



「お前が勝手にやったんだろうが!」



「あの、お師様……?」

 


 部屋の片隅に走っていって魔法陣に喋りかける俺に、ミアが不思議そうな目を向けている。



 しかし今はそれどころじゃない。



「残念ながら今は忙しいからさっさと帰れ。つーか何しに来たんだ? 遊んでほしいのか? ヒマな奴だな」



『はっ倒すわよ。……いいから、話くらい聞きなさい。そしたら悪いようにはしないから』



「お前が言葉を濁す時は厄介ごとを隠している時と決まっている。悪いが追い払わせてもらうぞ! フハハハハ、警備用ゴーレムの性能実験の的にしてくれる! 行け、『自宅警備兵』! その女と遊んでやれ!」



『ああもう、あんたは!』



 ゴゴゴゴゴ……と何か巨大なものが動き出すような音がして、プツッとインターホンの映像が消える。



 俺は一仕事終えた気分で振り返り、



「じゃあミア、話の続きをするか」



「何ですか今の! あんなお師様初めて見たんですが!」



「気にするな。ちょっとした心温まるコミュニケーションだ」



「警備用ゴーレムの性能実験とか言ってませんでした!?」

 


 そんなことを言いあっていると、いきなり俺たちのいた部屋の壁が爆ぜた。



 ガラガラとついさっきまで壁だった瓦礫が落ち、隅に立てかけてあった実験用具が粉々に砕け散る。俺とミアは絶句。



「ったく、普通あんな大きいゴーレムをけしかけてくる? 私じゃなかったら大惨事よあれ」



 壁に空いた大穴から、一人の少女が悠々と入ってきた。



 深紅の髪を腰まで伸ばし、勝気な瞳は今は呆れたように細められている。



 そして、少女の手には物騒な光を放つ一本の剣。



「あ……あっ!」



 ミアが作業台の上の立体映像と、侵入者との間に何度も視線を往復させている。



 まあそういうリアクションにもなるよな。ほとんど同じ見た目だし。



「……で、何しに来たんだよ、リッカ」



 俺は久々に再会した昔のパーティメンバーに、諦めたような挨拶をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ