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ぎいちゃん拾いました。

もし千風がゆきちゃんのリアル孫だったら、義維が鉾以外に居たら、っていう別パターンです。

錆びた螺旋階段を登り終え、義維が周囲を見回す。

廃墟ビルの屋上。


風除けのためにプレハブの裏に回り込んで、服の下からタバコを取り出そうとしてーーそこにいた先客と目が合う。きょとんと見上げてくる二つの丸い瞳。


室外機の上に座って、ひとり、両足をぷらぷらと揺らす小さな少女。


「……誘拐か?」


「ゆーかい」


鸚鵡返しにつぶやく少女が、こてんと首をかしげる。


「ここで何してる?」


「そげき」


「……そうか」


「うん」


手ぶらでのんびりと街を見下ろしているだけの少女を見てから、義維はタバコをジャケットの奥に押し込んで、少女の斜め前、車止めのコンクリートブロックに座る。


「あ。おかし、あげるー」


少女がポケットから取り出した飴玉を差し出す。義維はちょっと考えてからそれを受け取った。オレンジ色のパッケージには「みかん味」のポップな文字。

続いて取り出したもう一個を、少女は鼻歌を歌いながら自分の口に放り込んで、美味しそうにコロコロと転がす。


地上からの風で、少女の細い髪が揺れる。どこかから硝煙のにおいが漂う。


***


「役立たずが!」


男の怒声。罵声。

散らかった部屋の隅。割れたガラス瓶の破片が、四方に吹っ飛ぶ。


ひび割れたコンクリートの床に顔面を押し付けられて、義維が小さく呻いた。ぱっくりと割れた額から流れる血。

嘲笑とともに茶色の液体が浴びせられる。目鼻と傷口に容赦なくしみる度数の高いアルコールに、むせこむ義維。


「お、オイ! なんだお前ら!」


意識を手放しかけた義維の耳に、扉の向こうから騒がしい音が届き。

部屋の扉が外から開く。


「ぐ……!」


数人が壁際に吹っ飛ばされた。手に持っていた酒瓶が割れる音。


突然の混戦に騒ぐ男たちの間を縫っていきおいよく飛び込んできた小さい塊が、義維の背中にぽすんと乗っかる。高めの体温。聞き覚えのある鼻歌。

身をよじって見上げた義維が、つぶやく。


「……ちー?」


喫煙所代わりにしている件の屋上で何度か会った少女。それを守るようにさっと二人の黒服が立ち、異様な剣幕で銃口を向け、残りの青年たちを下がらせた。

ハンズアップして壁際に寄った若者たちが、黒服の顔を見てもれなく青ざめる。


「あ、あんたら……」


小さな両手が義維の広い背中の上に、てしんと載る。血みどろのシャツをぺしぺしと叩いて、少女が満面の笑みで言う。


「あのねー、この子、ちょうだい?」


「はっ、ど、どうぞっ」


部屋に転がり込んできた比較的年長の一人が慌てて答える。うむ、と嬉しそうにうなずいた少女が、青いポンチョの下から花柄のお財布を取り出して、誇らしげに頭上に掲げてから、丸い瞳がくりっと男を見上げ。


「おいくら?」


「いえっそんなっ」


首をかしげながら財布から紙束をごそっと抜き出して、年長の男に歩み寄ってそれを押し付ける。その背後、恰幅の良い黒服の男がひょいっと義維を担ぎ上げ、別の黒服が扉を大きく押し開けた。


ばいばい、と小さな手を振って部屋から出た少女は、覚えたてのぎこちないスキップで廊下を駆け抜ける。


***


白いカーテンが風をまとって大きく広がる。


全身の痛みと消毒液のにおいで目を覚ました義維の目の前に、すーすーと穏やかな寝息を立てる小さな少女。丸まって眠るその小柄な体躯を動かさないように、義維はゆっくりと身を起こし。


ベッドのスプリングが鳴ると同時、目の前のまぶたがぱちりと開く。

まっ黒な虹彩が義維を見上げて、


「ぎいちゃ!」


ぱあっと顔を輝かせて飛び起きて飛びつこうとした少女が、義維の両腕と首に巻かれた包帯に気づいてピタリと止まって、慌てて身を仰け反らせ、


「わう」


後ろにひっくり返ってベッドから落ちーーそうになるのを、腕を伸ばした義維が反射的に抱きとめた。遅れて枕が床に落ちる音。

義維の腕の中、数回まばたきをした千風が丸い目を更に見開いて、甲高い声でわめく。


「ぎぃちゃ、うで、おれてるっ」


「問題ない。それより、」


「うぶ」


小さな顔面を片手でむんずとつかんで黙らせ、


「説明しろ。ここはどこで、お前は何者だ、ちー」


ベッドの上に千風を放ったあと、その前の床にあぐらをかく。

んん? と不思議そうな顔をした少女は、寝っ転がったまま自分を指さして。


「ここは、ちーのおうちで、ちーは、きとう ちかぜ、ですっ」


「……鬼藤?」


しん、と静寂が部屋を満たした。

丸い目をした少女がうなずく。

あの鬼藤か、とつぶやく義維。むふん、と得意げに息を吐く少女。


「すえっこちょうじょ!」


「……まじか」


「まじー」


つまりは鬼藤家次期当主。

予想外の事情を整理するのに思わず鼻にシワを寄せる義維。それを真似て、千風が懸命に自分の鼻を動かそうとして変顔になっている。


「それで?」


「んーと、ちーの世話係えらべって、ゆきちゃんがー」


「ゆきちゃん?」


「きとう ゆきふみ。おじーちゃん」


鬼藤 雪文。数あるロウシンの中でも群を抜いた権力を誇る、ひどく気難しいことで知られる鬼藤家現当主。

そのいかめしい老人の顔を思い浮かべ、それは鬼の中から選べという意味では、と思い至り、ますますシワの深くなった義維の鼻に、てん、と少女の小さな指が乗っかる。


「ぎぃちゃんは、今日からちーの世話係、ですっ」


少女の楽しげな笑みを前に、義維はちょっと考えてから、


「……そうか」


腕を伸ばし、小さな少女の丸い頭をわしわしと撫でた。

・千風がゆきちゃんのリアル孫だったら→ちょっと偉そう(大人に指示を出すことに慣れている)。狙撃手は狙撃手のまま。冒頭のシーンは狙撃の下見をしてた。

・義維が鉾以外に居たら→ちーの扱いがちょっと雑(もうちょい育ちが悪いので)


ちなみに十堂は父のままです。鬼藤の当主なんて面倒くさいものは御免だと言って狙撃手稼業で生きて、数年前からふらっと失踪中。

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