50.摩天の狙撃手、台頭(前編)
「――ここだな」
陣区はそう呟いて、手元の紙切れと錆びた看板を見比べる。仲間と顔を見合わせてから、困惑顔で端末を取り出した。
「もしもし。おい、ちー、着いたけど。ここ新聞屋だぞ?」
『んん、お電話、かわって?』
「えーと……」
陣区が店先の暖簾をくぐるなり、店番をしている仏頂面の老人が黙って手を突き出してくる。
『じーちゃ!』
端末を受け取って電話越しの声を聞くなり、
「おお、千風か」
老人はにわかに相好を崩した。
『あのね、武器だしてー、ぜんぶ!』
「……全部か?」
耳と肩で端末を挟んで立ち上がろうとした老人が、千風の指示に驚いて動きを止める。
『ん!』
「てっきり撃ち殺せっつうために連れてきたんだとばかり」
『だ、だめー!』
千風の甲高い悲鳴。
やせ細って骨の浮いた、どう見てもただの老人。その横柄な言葉に、押しかけてきた青年たちは不審そうな顔をする。
疑問を解決するように、端末の向こうから千風が言った。
『じーちゃはねー、ゆうめいな狙撃手、だよ!』
「昔、な。死ぬのが怖くて戦場から逃げ出した、ただの新聞屋の老いぼれだ」
タイプライターのような旧式のレジスターの横、老人は投げやりな態度で呟いて、紫煙をくゆらす。
***
同時刻。
端末を両手で握り締めてきゃいきゃいと楽しげに会話する千風の、すぐ前を歩いていた鳥巣が突然ぴたりと足を止めた。
「うむん」
ぼす、と鳥巣の足に、止まりきれなかった千風が激突する。
周辺の何人かが慌てて救助に入ろうとし、赤くなった鼻をさする小さな少女に、合流したばかりの何人かが不安げな目を向ける。
鳥巣が前を向いたまま呟く。
「……千風さん、その新聞屋のご老人というのは、もしや」
鳥巣がそこまで言いかけたところで、千風が「あっ」と声をあげた。通話状態になったままの端末を、小さな手がばしばしと叩く。
「じーちゃ、じっちゃ、てつだって!」
『わあったから、叩くのをやめろ! これでも耳は老いてねぇんだ』
「ん!」
ぴたりと手を止めて、目の前の鳥巣に向けて、どうだと言わんばかりに笑む千風。
『で? どこの誰を仕留めりゃいいんだ。報酬は?』
「あい!」
聞こえてきた問いに、千風は鳥巣にずいと端末を突き出す。
いつもの調子で話し始める鳥巣。
千風が、「あっ」と声を上げて、
「りーだー!」
飛び跳ねながらぶんぶんと手を振る。
「おお、生きてたか」と宮地。
数十人の部下と護衛役の者たちを連れて合流した鉾良が、「おかげさまで」と一礼した。
通話を終えた鳥巣が千風に端末を返したところで、
「ちっぴー、届いたよー」
菱架が笑顔で駆け寄ってくる。
両手を振って、後ろからやってきた車を停める。
荷台から地面に降ろされたのは、レース競技用の電動車椅子。
千風がばあっと顔を輝かせる。
「よいしょ」
じじくさい声とともに鳥巣がそれに座り、足元のパーツと義足とを接続し固定してから、
「千風さん、どうぞ」
ぽすぽすと太ももを叩く。千風が「うわぁい」と駆け寄ってその膝の上に飛び乗る。
「んふふー」
「ほら、シートベルトするよ」
「んー!」
ぱっと両手を挙げた千風の腹の前で、かちりとバックルを留める鳥巣。
「命中率は落ちてないかい?」
「んー、ちょっと歩くのつかれた」
くてっと鳥巣に寄りかかる千風。
鳥巣の手が、肘掛け近くの操作盤に伸びる。
がー、と騒々しい音を立てて、徒歩よりいくぶん速いスピードで進む車椅子。数人を追い抜いて、またたく間に先頭に出る。
「はやい!」
両手を上げて喜ぶ千風に、
「試し撃ちするよ」
鳥巣が言うなり。
その下腿の下半分、千風の足が届かない位置に無数の穴が開く。
そこから一気に発射される、大小様々な弾丸。
周囲の建物の外壁に亀裂が走る。
窓ガラスが割れる。
車椅子は減速しない。
最後に、爪先を覆う部分からビームのようなものが出て、目の前の道路をしびびび、と焼き切った。
「……うん。問題なし」
「大アリだ!!」
宮地が反射的に叫ぶ。
菱架がけらけら笑う。
「すごいでしょー。あのね、座るとこの下にあるやつ、全部弾丸なの! ずっと撃ってても一時間は保つよ!」
「そんないいもんあるなら最初から使えよ」
呆れ顔の宮地が言うのに、
「闇市窟は悪路で無理だったんだよ」
鳥巣が答える。
***
「狙撃部隊の配備を確認」
黒服が言うのに、
「まぁ予定通りかな」
腕時計を見ながら心井が呟いた。
「……で、どうやって切り崩す?」
鳥巣の車椅子のすぐ後ろに控えるように立った男が、一同を見回しながら言う。
「まずあの狙撃部隊どかさねぇと近づけねぇんだろ」
「ここからじゃ届かないかな?」
心井が千風に聞くと、千風はいくつかの銃器の名を挙げた。
全て聞き終えた鳥巣と心井が同時に首を振る。
「向こうの射程距離が勝つね」と鳥巣。
「むー」
不満そうな千風がうめくのに、
「本来なら充分すぎる品ぞろえだけどな」と気味悪そうに一人が呟く。
「……あれ? 鹿の狙撃のって、アイツ死んだんだろ?」
「俺も聞いたことあるな。あのぅ、ロイさん、噂なんすけど」
「ちっがうよー、ヨエンいるもん!」
千風が足をジタバタさせながら反論。
「ヨエン?」
千風と鳥巣と心井以外の、その場のほぼ全員が聞いたことのない名前にキョトンとするのに、
「あぁ、あいつのせがれか」
少し離れたところから、しわがれた声が一つ。
振り向いた千風がパッと笑顔になる。
「じーちゃ!」
無彩色の迷彩に身を包んだ完全武装の老人が、左目を覆う黒い武骨なスコープの調整を終えたあと、隣に立っていた陣区から黒いハードケースを受け取る。
「ご存知で」と鳥巣。
「まぁな」と老人。
「じーちゃ、よえんと、おともだち?」
千風が聞くのに、老人が「まぁな」とうなずぎ、
「うー!」
嬉しそうにじたばたする千風の頭を、寄ってきた老人がぽんと叩く。
鉾良と陣区が話し込んでいるのを見つけた千風が、
「あっ、じんくん!」
鳥巣の膝から降りると、ダッシュで駆けていって陣区に飛びつく。
「おう、無事か?」
「ん!」
短く答えて、陣区の右足にしがみついたまま撃った。
「え」陣区がぎょっとなる。
瓦礫に隠れていた一人が、「ぐがっ」と声を漏らして倒れた。
「しかのこ!」
撃った方向を指さし、千風が叫ぶ。
即座に銃撃戦が始まる。
「判断はええな」
牽引車の裏に隠れた一人が千風を見てぼやく。
千風がくりっと振り向く。
「今の、顔見知りなんだろ?」
キョトンとする千風。
「そこんとこの区別はしっかりしてるよ、見誤ったら失うこともね」
訳知り顔の鳥巣が言う。
「さて、本題だが――心井、手はある?」
鳥巣に頼られた少年は、珍しく困ったような顔をする。
「ううん、狼の幹部は少数すぎて、さすがに直接のツテはないんですよね……敵対勢力の盗聴情報くらいは入ってきてますが。何かあったかなぁ」
千風がくりくりと目玉を動かして。
「あ!!」
その様子を見て、心井も「ああ」と声を上げる。
「なんだよ二人して」
怪訝な顔の宮地に、心井は黙って笑顔で千風を示す。
「うーと、」
端末を取り出した千風が、ぽちぽちとボタンを押し。
「もしもし、くーが、今おうち? あのね、ちーのね!」
『何? 大事な話?』と電話の向こうから久我の声。
「だいじ! あのね、」
「急げ千風」と、応戦中の一人が急かす。
「ん! いそいで、くーが!」
『はいはい、なにをよ?』
「玄関行ってっ」
『ほい、来たよ』
「CONのケース、あけて!」
『えーと?』
「赤い鈴、ついてるやつ!」
『ええっとー……あ、これか。開けた――ぞ』
がぱ、と音がする。
「んとね、みぎうえの、かっこいーやつ!」
『ん? これか? ただのインカムじゃん。武器じゃねぇの?』
「……インカム」
まさか、と呟く鳥巣に、千風と心井が同時に笑顔でうなずいた。
***
『――ヨエン! こっち撃っちゃ、め!』
唐突にイヤホンから聞こえてきた、聞き覚えのある幼い声に、
「……え、え?! うわ!?」
仰天した少年は大きくのけぞって、目の前の狙撃銃から手を離して派手に転倒した。
「おい、どうした」
周囲の人間が振り向くのに合わせて、じゃこっと大量の銃口が向けられる。
『しー!』
耳元からは、相変わらずの元気な声。
「え、あ、あの、いえ、……えっと、虫がいて」
「お前ね」
これだからど素人が混ざるとめんどくせぇ、と何人かが悪態をつき、呆れ顔と睨む目が四方に散っていく。
ぎこちない嘘は前回の初陣の緊張とよく似ていて、都合よく勘違いされたらしい。
慌ただしい喧騒の中、呼遠は耳元にそっと手を当てる。
「……あ、あの、」
『ちーのこと、撃っちゃ、や!』
「……あの……」
呼遠は困ったように呟いて、それきり黙りこむ。
確かに彼女は恩人だ、狼でまさかこの位置に取り立てられる日がくるなんて。
何一つ不自由なく、あまつさえフレイムをまた扱える日がくるなんて。
彼女という貴重な戦力を独占するためだけに、狼が無茶な要求をふっかけて彼女の仲間を傷つけたということも、残念ながら知っている。
(……ど、どうしよう)
少年は眉を寄せて黙りこむ。
***
「あのね、ヨエン、こっちきて! あっ、フレイム持ってきて!」
じたばたと手を振りながら懸命に話しかける少女の姿を見守りつつ、宮地が唇を尖らせてうめく。
「あーいいな、俺もあんなふうにちーに熱心に誘われたかったなー」
「会うなり真っ先に合流してきた人が、何を寝言を言ってるのか」
真顔でツッコミを入れたあと、
「千風さん、電話交代。パス」
鳥巣は千風に向けて、ひらひらと手を揺らす。
「ぱぁす!」
ぱしん、と小型の無線端末が男の手に渡る。
「やぁ、はじめまして。情報屋の鳥巣と申します」
その名に息を呑む少年の気配を聞きつけて、鳥巣はニマリと笑い。
「千風さんが無茶を言ったね。いや、狼から寝返ってくれとまでは言わないよ。キミの居場所を奪うつもりはない。安心したまえ、こちらは作りたての、出来合いのチーム、ほんの数十人だ。狼を潰すほどの戦力はないよ」
先ほどまでの好戦的な表情をきれいさっぱり消して言う鳥巣。
近くで宮地が呆れた顔をしているのを、鼻でふっと笑って。
「ただ――この場は全弾わざと外してくれ、それだけでいい。見返りはこちらにいる皆から、弾ませてもらおう」
唐突な要求に押し黙る無線越しの少年に、
「なぁに大丈夫、キミのその愛銃は区域最高倍率のスコープだ、少なくとも狼の中に気づく奴はいない。そして、そういうふうに――キミなら、できるだろう?」
鳥巣の意味深な物言いに、こてんと首をかしげる千風。
白紙に何やら書きつけていた心井が、余分な黒鉛を払ってからそれを鳥巣に手渡す。
鳥巣はそれをぴらぴらと揺らしながら。
「ふぅん。もうひといきかな。では――従っていただけない場合、ミッションスクールに通うキミの姉君の命と、亡き父君の同僚たちの命はないと思いたまえ」
『え……!』
呼遠の、小さく、ひどく焦ったような声。
当たり前だ、軍の特殊部隊の構成員情報などそう簡単に割りだせるものではないし、ましてや姉の方は長らく県外に住んでいて一度も区域に入ったことなどなく、しかも数年前から国外に住んでいる、ただの一般人。
家庭の事情で呼遠と苗字も違うし、同じ戸籍に載ったこともない。
鳥巣はそんな個人情報満載の紙切れを心井に返して、すぐに処分するよう手振りで伝えてから。
余裕ぶった笑みを浮かべて、少年の名を呼んだ。
「狼は、キミの個人的なごたごたまでは助けてくれないだろう? どうする、キミ一人で助けに来るかい?」
「ちっぴー悪役ー」
この程度の脅迫など日常茶飯事の女児は、装填の合間にけらけらと笑う。
『標的確認! 四時の方向!』
無線の向こう――つまり狼の狙撃ポイントから、監視員の声。
端末から少し耳を離した鳥巣が、前に出すぎて敵に捕捉された、宮地の部下の一人を睨みつける。
無線の向こうで誰かが呼遠を呼ぶ声がして、
『は、はいっ』
鳥巣の耳元で緊張ぎみの返答が聞こえた直後、
――爆音。
鳥巣のすぐ目の前に着弾した大口径の銃弾が、亀裂の入っていたコンクリートの塊を派手に弾きとばした。
遅れて、ぱらぱらと破片が降る。
「ヨエン! 撃っちゃだめって、ちー、ゆった……」
かっとなってわめく千風の前に、さっと腕を伸ばして諌める鳥巣。その口角がゆっくりと上がって、
「お見事。その調子で頼むよ」
「う?」
鳥巣が指さした先。
今しがた腕を負傷した一人が物陰に脱ぎ捨てた、血みどろの上着が目立つように瓦礫の上に乗っかっていて、フレイムにしては比較的散弾の少ない型の弾頭がいくつかめり込んでいる。そこから、まるで狼煙のようにたちのぼる白煙。
鳥巣が端末を千風に返す。
端末の向こうで、監視員が爆散した現場の状況と、血痕のついたいくつかの所持品が見えるのを報告する声がする。
そのあと、よし、と手応えを感じたらしい聞き覚えのある数名の声がする。
千風はにんまり笑って、
「ん!」
待機している全員に見えるように、びしりと親指を立てた。
「なかなかどーして適役を味方に付けたんじゃねーの?」
部下を叱り飛ばしてから戻ってきた宮地が、腕の腱を伸ばしながら笑う。
「ああ、狼への忠誠心が浅く、そして最高距離の武器を唯一扱える狙撃手、だ」
鳥巣が腕を組んでうなずく。
「で、このあとは?」一人が聞くのに、
「そりゃ突撃だろ」別の一人が前方を指さし、
「っつったって……たった一人脅迫しただけだろ? あっちの狙撃手何人いると思って」
そこへ、端末の向こうと何やら話し込んでいた心井が歩いてきて、
「行こう。こっちだよ」
と落ち着いた表情で言った。
***
市街地の細い路地を抜けた先に、謎の、古めかしい鉄扉があった。
その脇に設えられたテンキーのフタを開け、ぽちぽちと手馴れた様子で12桁の暗証番号を押す心井。
ピピ、と電子音が鳴り、重そうな鉄扉が自動であっけなく開く。
その向こうに現れたのは、使われた形跡のない、下りの階段。
「で、ここまっすぐ行くと、さっき見えてた建物の地下に繋がってるから。先輩はそっちのスロープからどうぞ」
こともなげにそう説明して、あっけにとられる群衆を放置して、さっさと階段を下り始める心井。
その横に並んだ宮地が、周囲を見回しながら心井に聞く。
「しっかし、お前にこれバラしてんの狼の子分だろ? 自分の懐にわざわざ敵招き入れるとは酔狂だよなぁ、ドMか?」
「ううん、違うよ。これ教えてくれたのは、鬼で工作員やってる友達」
「……おお怖」
すぐ後ろを歩いていた木咲が、心井の上からひょいっと顔を出し。
「ねぇ。おれんとこの、こういう情報も持ってるのかな?」
心井は上を向いて、木咲と目を合わせて、にっこりと微笑む。
「安心して。悪用しないから」
「……あー……」と木咲。
「『悪用』の意味な……」と宮地。
千風がぴくりと肩を揺らす。直後、コンコン、と天井が鳴る。
複数の銃口が一斉に上を向き、
「ここにいます撃ってくれってか? ご丁寧な敵だな」
口角を上げる宮地の声をさえぎるように、天井の板が動いて、少し開いた隙間から穏やかな声が降ってくる。
「天祭さま、鬼藤の遣いの者です」
「ゆきちゃんの?」
ぱっと顔を輝かせる千風を、宮地が諌めるように片腕で遮る。
「おいおい。あのじーさん加担しねぇって言ってたじゃねぇか。信じ込むなよ。味方かどうか分からんぜ」
「ええ、まぁ、増援ではありませんね。天祭さまの護衛を言い付かっております。天祭さまの身に何かあった際には、身柄を確保した上で、即座に戦線を離脱するようにと」
天井からの説明に、「なるほど?」と鳥巣が眉を上げる。
千風の端末が鳴った。
「もっしもし、ちーです! ゆきちゃん! ん、今ね、お空から来たよ!」
嬉しそうな顔をした千風が、しばらく鬼藤とやりとりをしてから顔をあげ、
「あのね、お空のひと、ゆきちゃんのお友だちだって!」
そう言い終えると同時に、皆のいる空間に、すとん、と男が着地する。
「ちー、見覚えは?」
宮地が聞くのに、千風はじいっと男の顔を見たあと、「んーん」と首を振る。
「隠密担当ですので」と男が答える。
「ふーん?」疑念たっぷりに宮地が言う。「信用しすぎるなよ、不審な動きをしたらすぐに撃て」
「ん」
従順にうなずく千風。
宮地が鳥巣に寄っていって、小声で尋ねる。
「なぁおい、あれ、ホンモノか?」
「確認中だが、恐らくね。時間的に見て、ドバトと鹿の件を聞いて送りこんできたってところだろう」
「ったく、調子の良いじーさんだな」
「ただの正攻法だろう。どっちが千風さんによく効くかは別として」
「まぁあんだけでかい組織、こーいう変則的なときに動きにくいのもムリないが。……ん、どーした?」
とことこと寄ってきた千風が、二人をじいっと見比べて。
「仲良し、なった!」
「はー? どこがよ」
むふふ、と不可思議な笑い声をあげた千風がぎこちないスキップで去っていくのを、首をかしげながら見送る宮地。
***
甲高い警報音が鳴り響く。
亀裂の入ったコンクリート壁が一気に崩れ落ち、粉塵が舞い上がった。
「これで俺らに普請が来りゃ良いんだけどねぇ」
呟いた宮地が、肩をすくめて瓦礫を踏みつける。
千風が「ん」と呟いて足を止める。
そのすぐ背後に控えていた鬼藤の遣いの男が、急にある方向へ駆け出す。足元の瓦礫を蹴り飛ばし――
「うわっと!」
薄暗い脇道から出てこようしていた先頭の一人が突然のめくらましに顔を覆ったところで、その心臓に銃口を向け、ピタリと動きを止めた。
パタパタとそこに駆け寄った千風が、男の後ろから脇道をのぞきこみ、
「あ、うりちゃん! みっけ!」
嬉しそうに飛び跳ねる。
「下ろしてくれ、味方だ!」
慌てて鉾良が駆け寄るのに、ハンズアップのままコクコクとうなずく、青い顔の冬瓜。
「……んん?」
こてんと首を傾げた千風が、とある名前をぽつりと呟く。
昨年の襲撃で死んだ、鬼の一人の名。
「ええ、師です」
銃を下ろした男が千風を見下ろし、とても嬉しそうな顔でうなずいた。
ずり落ちた眼鏡を直しつつ、心井が言う。
「後方から敵襲。銃器所持、15人から30人。あと2分くらいで会いますね。前方は数キロ先に第三隊の20数人が待機中」
鳥巣がふむとうなずいて、全員を呼んで。
「先ほど指示したとおりだ、ここで二手に分かれよう」
舌なめずりをした宮地が重心を落とし、
「これ、いっぺん言ってみたかったんだよな」
大きく息を吸って、叫んだ。
「――ここは俺が食い止めてやる、お前らは先に行け!!」
「う!」
即座に駆け出す千風の後ろ、鳥巣があきれた目で宮地を見る。
*Special Thanks:絹谷田貫(Twitter:@arurukan_home)様




