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46.摩天の狙撃手、潜入(前編)


店の前で鉾良と分かれて歩き出すなり、

「心井さん、追っ手が来ます」

いつの間にか心井のすぐ後ろに現れた黒服が、小さく落ち着いた声で報告した。とあるロウシンの幹部であるその男の顔を見上げて、「あ」と千風が呟く。

「彼は、心井に個人的な借りがあってね」

と鳥巣が補足する。

うなずく千風の前で、黒服が心井の頭にヘルメットを載せる。礼を言った少年が男にトートバッグを手渡してから、ヘルメットのあごヒモを調節し、

「人数と編成、装備は? ……ああ、それだけならしばらく凌げるかな。ちょっと心もとないなぁってみんな(・・・)にぼやいたから、たぶんすぐ増援が来るし」

「私も何人か雇ったしね。そら来た」

鳥巣がそう言って、対向車線に向けて片手を挙げる。

視線の先には、ぶんぶんとライフルを振り返す男が一人。それを嫌そうに見る隣の男女と、千風を見つけてわいわい言いながら駆け寄ってくる男たち。

「遅くなりまして」

両手にごつい革製のグローブをはめた背広姿の男が、鳥巣の前で立ち止まり、きっちりと一礼する。

「いや、オンタイムだ。今から動こうとしていた」

鳥巣が答えるなり微笑む背広の男。その後ろからニット帽の少年がひょいと顔を出して、少し高いところにある男の顔を見上げる。

「あっれ、キミも来たんだ。良くあの親玉が許したね」

背広の男は神妙な顔でうなずく。

「治安部隊との衝突がどうの、区域の均衡がどうの、とロウシン総出で止められましたが、些末。所属ロウシンより治安部隊より均衡より何より、トリスさんからのSOSが最優先事項でしょう」

「わはは、かっけー、いさぎよー」

腹を抱えてけらけらと笑った少年は、次に鳥巣に顔を向け、

「で? 約束通り成功報酬でいいけど、金はきちんともらえるアテがあるんだよね?」

「もちろん」

鳥巣と少年のやりとりに、スーツの男が顔をしかめる。

「金のためか?」

「そりゃね」少年は悪びれたふうもなく、ちょいと肩をすくめるだけ。「いいじゃん、なかなかないよこんな仕事。かなりリスキーな橋渡るんだから、がっぽり稼げるってもんじゃん。もちろん、金もらえるからにはどんな汚れ仕事も喜んでやるよ、任せて」

はぁ、と横を向いた男がため息をついた。

「これだから、傭兵組合(アルティ)は品がない……」

「なによ、やんのー?」

後ろからやってきた派手な髪色の青年が、少年の頭のニット帽を無造作に掴んで、にょいんと上へ引き伸ばす。

「やめとけ少年、この人相手に。一瞬で灰になるぞ」

「わかってるよもう。つーか離せ伸びる!」

いたずらっぽく笑ったままの青年の手を乱暴に振り払って、少年はぶちぶち言いながら傭兵組合(アルティ)の仲間のところに歩いていく。

「ふぅむ」

近くの男たちとしばらく話した鳥巣が、振り返って心井を呼んだ。

「西側の螺旋階段から降りて屑品(ジャンク)市を突っ切るルートと、トンネルから橋の下に下りるルートを考えてるんだが、そのあたりの状況を」

「いっそのことエレベーターで行きましょうよ」

ポケットに両手を突っ込んだまま、けろりと心井が言う。

静寂。

「……いつの間にそんなものが」と鳥巣。

「ね。僕もびっくりです。ほら、あの落盤事故のところです」

「直通?」

「もちろん。こっちだよ」

少年は笑顔でうなずいて、とことこと寄ってきた千風の手を引いて歩き出す。

通りの先で始まった銃撃戦の音から遠ざかるように脇道に入ると、複雑に入り組んだ細い路地を慣れたふうに進む。

心井とつないだ手と反対方向の手をぶんぶんと振る千風が、手近な高さに生えていた狗尾草(ねこじゃらし)を一本手折って顔の前で振り回し。

「みて、おひげー!」

「僕んときは毛虫だったなぁ……あっ、ごめんごめん」

嫌そうな顔をする千風に慌ててフォローを入れる心井。

その千風がふと視線を右に流したかと思うと、振り回していた狗尾草(ねこじゃらし)をひょいとくわえて、歩調を緩めることなく、

――ぱぱん。

「うわ!」

細い横道の先で、物陰に潜んで銃を構えていた前列の数人が唐突に崩れ落ちる。後列の男がのけぞって声を上げる。その路地に数人が駆け込んでいき、連続した射撃音と苦悶の声が聞こえてくる。

ふんふーん、と草をくわえたまま鼻歌を歌う少女。

少女のすぐ後ろを歩く、千風と面識のない者たちが、その揺れるつむじを不審そうに見つめる。

「悪いね。みんなで遠いところからはるばる」

後方から追いついてきた鳥巣が一人に向けて片手を差し出したことで、彼らの意識がそれた。

「いやいやこんな面白いの、現場にいなきゃ損でしょ!」

一人の青年がからっと笑って、続々と集まってくる名の知れたメンツを見渡し。

「しかし、まさか天祭の生存報告を、こんな形で聞くことになるとはねー」

横目でちらりと見た先には、地面にしゃがみこんで小石を拾っている、ひときわ小さな少女。

「よ、ニュース見たぜ、ちー」

かけられた声にぱっと振り向いた千風が、そこにいた顔見知りに、目を爛々と輝かせて。

「ちー、かっこよかった?」

「おう、そりゃあな!」

周囲の男たちがゲラゲラ笑う。

「ここ数年の誰よりも抜きん出てイカしてたぜ?」

満足のいく答えをもらって、少女は得意げににんまりと笑う。

鳥巣の肩に、巻き毛の男がトンと太い指を置く。

「あとよ、トリス。そこらに隠れてる、ありゃあ何だ?」

「ああ。なぁんか妙な取り合わせだが……」

困惑する男たちに、

「心井を喪っては困る者たちが有志で集まった非公式な組織だ、気にしないでいい」

さらりと答えて、かたわらの貧弱そうな少年の肩に手を置く鳥巣を、皆が不可解そうに見やる。視線を集めて照れたように笑う素朴な顔立ちの少年が、先輩、と鳥巣を呼ぶ。

「兎に、声かけました?」

「いや?」

心井がまっすぐに指さした先、大柄な二人の間にいたうつむきがちの人影がふっと姿を消す。


直後――上方から、黒い影が飛んだ。


どさり、と消えたはずの一人の男が、地に伏して取り押さえられる。

「賢明だ」

男を馬乗りに取り押さえた覆面の男が、布の下からくぐもった声を出した。菜切包丁のような形状の刃渡り長めのナイフが、いつでも相手の両腕を斬り跳ばせる構えで突きつけられている。一切抵抗しないまま拘束された男の全身に、がちゃり、と四方八方から突きつけられる無数の銃口。

「……なぜ、こんなにすぐ」

地に伏したままの男が小さく悔しげにつぶやく。

「無秩序に集めてるわけじゃないからさ。こういうことを防ぐために、ね」

手元の紙切れに目を通しながら、鳥巣がのんびりと言った。

「なーるほど、ちっこいくせして役立ちそうな少年だな」

一方の心井はくせっ毛の黒髪を周囲の男たちからぐりぐりと撫でられる。千風が「ちーも!」とねだってそこに駆け寄る。

「ちっ、弾切れか」

後方から追いついてきた一人がつぶやく。

「俺もそろそろだ」

「現地調達、行く奴ー」

周囲を見回した千風が、

「あそこ!」

横道の先に出ている看板を指さした。


***


狭い店に押し入るようにぞろぞろと入ってくる武装した男たちに、

「ああ?」

帳簿から顔を上げたヒゲ面の店主の手元で、タバコの灰がぼたりと落ちる。

「おい、なんだよ、どことどこの抗争だ? 聞いてねぇぞ」

店主は陳列棚を好き勝手に物色し始めた男たちに声をかける。

体格のある男たちの間で一際目立つ、軽装の小柄な少年がにこにこと笑って歩み寄り、

「店長、やる気ないなあ。稼ぎ時だよ?」

かたわらの棚から香料入りの着色水を二本取り出してカウンターに置いた。

「なんだ坊主、お前もこいつらの仲間か? そうか、人質だな?」

「これも、これも買ってー!」

どこからか聞こえてきた明るい声とともに、飲料の横にどさどさと積まれる複数種の弾帯(ベルトリンク)。見えない客に怪訝な顔をした店主が、崩れきった姿勢から身を起こして、

「……おおう?」

カウンターの影にひっついていた女児が、店主を見上げてにぱっと笑う。

「おい、どこだお前ら、こんな大人げねぇ人質とりやがるエンライ……」

そう言って顔を上げた店主のと尻の下で、古びた木の椅子が大きめの音を立てる。

「……え、は……?」

混乱して口をぱくぱくさせる店主の視線に気づいて、

「ああ。一時休戦協定中ですんで、ご心配なく」

と顔見知りのロウシン幹部が、ナイフの品定めをしながら穏やかに言い、

「んだそれ」

そのすぐ隣で銃弾を数えていた、別のロウシン所属の男がくくっと笑う。この2勢力は密輸の権益の関係で衝突することが多く、つい先日も、市街地を見渡す限り丸焼きにして、死傷者ウン十人を出したはずだが。

「なー店長さん、銃足りないんでアレも出してよ、あれ」

そんな声に店主が顔を向ければ、ところどころが錆びた有刺鉄線と太い鎖でぐるぐる巻きにして棚に厳重に固定されていた展示用の希少な銃を、数人がかりで下ろしているところで。

「ああ? ふざけるな、それは最高級――」

青筋を立ててカウンターから身を乗り出す店主の言葉をさえぎるように、

「あっそれちーも使いたい!」

カウンターの前で千風が飛び跳ね、

「おお、嬢ちゃんさっすがー」

男たちが口笛を吹き、

「てことで、もらってっていいな?」

千風の一言で勝手にそう結論づける男たちに、

「は、はあ?」

店主が目を白黒させる。

「さもなくばー!」

元気よく言った千風が、意気揚々と店主に銃口を向けた。

反射的にハンズアップの体勢をとってから、きっちりと銃を持つ女児を前に混乱しきった顔をする店主。

「躊躇ねぇな」と男の一人が苦笑する。

「ちゅーちょ?」

きょとんとする千風。

「あーいや、」

「あのね、お友達には、やっちゃだめなんだよ!」

「ああ、そーな」

ぽん、と男の手が千風の頭に置かれる。


***


一方。

猛スピードでつっこんできた大型バイクが、派手な破壊音を立ててブロック塀に激突した。

「り、リーダー!」

部下たちが慌てて煙幕の向こうの鉾良を呼ぶのに、

「出る幕なければ出なくていいって言われてたんだけどね。そんなわけにはいかないかー」

呆然とする鉾良の前で、走行中のバイクから飛び降りて受身をとった一人がそんなことをぼやきながら、よっこらしょ、と立ち上がる。警戒する鉾良にあっさりと背を向け、煙幕の向こうを見渡すようなしぐさをして。

「あ、良かったね。退いてったみたいよ」

鉾良は一度口を閉じてから、また開いて、問いかける。

「……鳥巣さんからの依頼でしょうか」

「そーよ。そーでもなきゃ、こんな依頼請けないってフツー」

その人は笑いながら鉾良の背を叩き、

「ま、せいぜい死なない程度にがんばって」

「はぁ……」

状況についていけず生返事をする鉾良に、黒服の少女はにんまりと笑って、名を名のる。


***


大小さまざまな金色の歯車が噛み合ってゆっくりと回る。

その様子を、ガラスにべたっと張り付いた千風が楽しげに眺めている。

「あのねー、あれ、こーしのうでどけい!」

「おや、オープンワークムーブメントとは、また粋なものを」

その隣、鳥巣が穏やかに言って目を細める。

「あ、来ますよ」

ぽつりと心井が言うなり、目の前を何かが猛スピードで通り過ぎる。

「……え?」

自由落下していった物体に、心井と鳥巣以外の男たちがどよめいた。

ワイアーを切られた巨大な箱は、轟音を上げて暗い谷底に向かった。途中、壁にぶつかったところから断続的に火花が飛ぶ。

おーう、と下を見つめる千風がつぶやく後ろで、

「まさかそんな馬鹿正直に、言ったとおりのとこ通るわけないですよねぇ」

心井が苦笑しつつぼやいた。

侵入者を始末するため、エレベーターの所有者か誰かがワイアーを切断したらしい。あの箱に乗っていたほうこそが味方だとも知らずに。

全面ガラス張りのように見えるが、実はすべてマジックミラーなので、バレるまでにはもうしばらく時間がかかるだろう。

どかぁん、と下方からかすかな音が聞こえて、少し遅れて衝撃が伝わる。

「……さすがに壊れましたかねぇ、あの箱」

心井がなんとなくつぶやいた言葉に、鳥巣が宙に指で数式をさらさらと書き連ね、

「いいや、こんだけの高さしかないと、箱は無事だね。中身は知らないが」

「なら時間稼げそうですね」

不安そうな顔をした赤髪の男が二人に近寄ってくる。

「なぁトリスさん、これは無事に着けんだよな?」

「ああ。ワイアーを切断した者たちは去っていったよ」

「下に落ちてる残骸に衝突したりは?」

「手前で降りるから問題ない」

鳥巣の手が明滅する操作盤を指さす。

数秒後、がごん、と揺れたかと思うと、箱が止まる。

扉が開くなり入り込んできた埃っぽい淀んだ空気に、鳥巣が顔をしかめてハンカチを取り出す。

「すぐに慣れますよ。あ、足元のゴミくずが簡単に靴底やら足の甲に貫通するから、気をつけてくださいね」

心井がしれっと言って、千風の手を引いて真っ先に箱から出る。そのまま勝手知ったる通りを進んでいく少年と少女を、残りの面子が追いかける。

彼らの前には、屋外なのか室内なのか判然としない奇妙な空間が広がっている。

歩くたびに靴がわずかに沈み込む妙な地面。違法建築のコンクリートビル。みっちりと巡らされた配管や配線類が壁のようにそびえている。薄暗い頭上には、明滅する複数の、異なる色の明かり。

「はー、さすがの俺も、闇市窟(アキバ)は初めてだわ」

ちょうど目の前の沿道で開かれていたメカニック向けの骨董市を、一人が物珍しそうに見回し、

「大抵の奴はそうだろ」

隣を歩くもう一人が、嫌そうな顔でうなずく。


闇市窟(アキバ)――

地下帝国、屑鉄迷宮、万物市場。

あるいは単に、アンダーグラウンドとも。

本国(リトロ)領土内に在るものの、政府が土地として認可していないため、公式の呼称は存在しない。昼夜を通して絶えず大小の非合法な商取引が交わされている、無秩序で広大な闇市(ブラックマーケット)だ。

道端に所狭しと陳列されている蠢く『何か』を、吐きそうな顔で睨みつつ足早に通り過ぎる男たち。

青い顔の一人が、頭を抱えて小さく叫んだ。

「機械部品が並んでたと思ったら……いきなり漬けの臓物置くな、その横にほかほかの焼きたてパンを置くな……!」

ぶるぶると震える男の後頭部を、後ろから同僚が白い目で見る。

「いつも死体の山つくりまくってる奴が何をヘタレたことを」

「違うの。こういうマッド的なのはダメなの俺」

「わかんねぇなー」

それらの商品を楽しげに見ながら先頭をすたすたと歩いていた心井が、ひょいっと脇道に入り、

「あれ? そっちは……」

道を知る一人が、行き止まりに向かう少年に怪訝そうに声をかける。

「ちょっと寄り道」

心井は軽く答えて、ただの学生が何の気負いもなく友人宅を訪れたみたいに、錆びた赤い鉄扉をコンコンとノックする。軋んだ音を立てて扉がわずかに開き、口径大きめの銃口が突き出る。

チェーンロックの音がじゃらりと扉の向こうから聞こえた。ノックした裏拳を顔の高さに持ち上げたまま、額に銃口が当たったままの少年は、扉の隙間に向かってにっこりと笑いかけた。

「今から『帝王』の私財奪いにいくけど、おこぼれにあずかる気はない?」

扉の向こうから野太い男の声。

「おいおい、どういう風の吹き回しだ? いったい何があった」

「簡単に言うと、僕、千風さんと友達なんだ」

「う!」

かたわらの千風がぴょんと飛び跳ね、心井とつないでいる手を上げてみせる。

直後、がしゃんと派手な音がして、何かでぶった切られたチェーンロックがタイル張りの床の上にばらばらと落ちる。鉄扉を乱暴に蹴り開けた大男が、異様な靴音を鳴らして姿を現した。

「内輪モメだけはしないって約束でよろしく」と心井。

「あん? あー、あー、なるほどな」

心井の後ろに集まっている顔ぶれを見て獰猛な目をした男は、その視線を心井に戻し。

「で、報酬は?」

「完全成功報酬。うまくいけば機雷の格納庫くらいまでは到達できると思うんだけど」

「いーねェ」

「うん。じゃあ、とりあえずA3区画までブチ抜いて欲しいんだけど」

「あそこ最近、五重隔壁で固められちまったんだよなぁ」

「わー、さすが競売人(オークショニア)はリッチな守備するね。中二階経由は?」

「そんなら通気口のほうが」

「じゃあそれで」

あっさりと話をつけた心井は、次に端末を耳にあて、数人と会話し、数秒後――どぉおおん、と地を揺るがす大音量。

「ほらよ、貫通したぜ」

がらん、とひしゃげた金属板が男の足元に落ちる。

その他全員が呆然と、目の前に現れた広い焼け野原を見るだけの中、

「ありがとう」

端末をしまって、軽く礼を言う心井。

彼らの背後で、崩れかけの家屋から飛び出してきた者たちが、家財道具を抱えて大騒ぎしながら逃げていく。

「みんな逃げろ! ついにアイツが暴れだしたぞ!」

闇市窟(アキバ)はもう保たない! 死にたくなきゃ早く上がれ!」

「ひっでぇ言われようだぜ、まったく」

不満そうに言いつつ、筋肉に覆われた分厚い肩をぐるりと回す大男。

「……なぁおい少年。なんなの、あいつ」

地上からついてきた一人の青年が気味悪そうに問うのに、

「んー、大昔に鬼と狼を同時に怒らせて下に逃げ込んだって聞いたけど。その前は確か(ミズチ)で斬り込み隊長やってたらしいよ」

ケロッと答える心井。

「それにしたって腑抜けてんなぁ」

一人も向かってこないことにつまらなそうな顔をする一人に、鳥巣が、ああ、と言う。

「この区画はドバトの部下よりもマーケットの売人や客が多いからね。それと、何らかの事情で上に居られなくなった流民が住み着いている。ほかのロウシンの領地と違って、住人の大半がドバトに忠誠誓ってるというわけじゃないからね、ここの場合」

再び歩き出した心井に手を引かれつつ、千風が、ふーん、とあいまいな相槌を打つ。


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