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42.摩天の狙撃手、混迷

えぐい描写があります。注意。

(次話以降、いちいち警告しません)

一方、ほぼ同時刻。


昼過ぎの、とある民家の庭先。

転がるボールを拾い上げた男児の前に、スッと影が差す。

顔を上げれば、目の前に太い腕。

「ひ」

喉から出た小さな悲鳴はすぐにくぐもっった。大きな手で顔面を鷲掴みにされた男児は、突然の恐怖に何もできないまま、見知らぬ男に片腕で持ち上げられて――

「おっと!」

その男が驚いたような声を出す。

瞬間、男児は強い力で後方へと引き剥がされた。転がるように背中から芝生の上に落とされて、後頭部にぽすんとボールが当たる。

「うう」

男児が目を開けた先に立っていたのは――


こちらに背を向け立ちはだかる、黒服の細身の男。

その対面で、迷彩柄の上下を着た、褐色肌の若い男が言う。

当たり(・・・)か、この家で」

襟を直していた黒服の男が、ぴくりと手を止めた。

男児はぽかんと口を開けて、突然現れた見知らぬ二人の男を見上げる。

「ま、さすがに無人のわけはないか」

先ほどまで男児をつかんでいたほうの腕を揺らして、チンピラまがいの男が笑う。

下品な笑みを浮かべるその男の顔をじっと見て、黒服が無表情に問う。

「どこの所属だ、()の奴だろう」

男はニヤリと自虐的に笑って、アゴで東の方角を示す。

(ここ)に居るっつうことは、名乗るほどでもないんだろ、お互い」

「……どこからの依頼だ」

さてね、と軽い調子で答えて、迷彩柄のブルゾンのポケットからナイフを取り出す男。

拳を握って構えた黒服が、大きく踏み込み――

滑らかな動きでナイフを蹴り飛ばし、男の腹部を右の拳で突き上げた。

「ぐ……っ」

苦悶の声を上げて、どさりと地面に倒れこむ男。

座り込んだままの男児の、小さな肩がびくりと震える。

遅れて、近くの草の上にナイフが落ちた。

腹部を押さえてうずくまる男を見下ろす黒服の、その手にいつのまにか握られているのは、すでに撃鉄の上がった拳銃。

「――動くな」

黒い銃口はまっすぐに男の心臓に向く。

褐色肌の男はゆっくり息を吐き出して上半身を起こすと、その場に座り込んだまま両手をあげた。

「参ったね、あんた、軍隊上がりか」

黒服は答えない。

「よくそれで出れたもんだな。分界制約(ジストリクタ)はなぁにやってんだよ」

黒服は答えない。

「もったいねぇな。こんなところでガキのお守りかよ」

安直な挑発。だがそうと分かっていても、反射的に黒服がわずかに目の端を動かし、

――と、そこへ。

「お待たせしました」

黒い服を着た数人が、ブロック塀の切れ目から駆け足で飛び込んできた。

座り込む男から目線をはずさないまま、銃を持つ黒服が無表情に言う。

「遅いぞ、連れてけ」

「はい。――おい、立て」

そういって両腕を拘束してくる、部下らしき黒服たちが息を切らしているのを見て、それから、袖の上に巻かれた銀色の腕時計に目線を移して、

「アイツら、どおりで遅ぇと思ったら」

予定通りの集合時刻に現れなかった仲間の事情をようやく知って、迷彩服の男は眉を下げた。


銃を服の下にしまった男が、後方を振り返る。ガタガタ震えている男児の前に膝を付き、黒服は短く問いかけた。

「怪我は?」

「ううう」

怯えきった男児の様子をじっと見たあと、男は男児から一歩遠ざかる。

そこへ、入れ替わるようにゆっくりと近づいてくる足音。

男児はハッと顔を上げる。

「……にいちゃん?」

「なるほど。ご在宅では、ないのですね」

そこには、男児が期待した兄の姿はなく――また別の、黒い服をまとった男が近づいてきていた。

「まだ中に?」

「恐らく」

黒服二人は矢継ぎ早に会話をしつつ、取り出した端末を耳に当てる。


***


更に、ほぼ同時刻。


間近で、銃声。

「え」

突然襲ってきた銃撃に、少年は短い声を漏らして全身を硬直させた。

続いて数発。

「うわ、わ」

数瞬遅れて数歩下がって、バランスを崩して、どすんと尻餅をつく。トートバッグの中身が周囲に散らばる。即座に四方から駆け寄ってくる、複数の硬質な足音。

「お怪我は」

「ないよ、ありがと」

とっさに地面についた手首を「いてて」とさする少年。目の前に差し出された防刃グローブの手を握り返せば、すぐに手を引かれて物陰に誘導される。

にわかに硝煙くさくなった周囲を見回しつつ、立てた襟の間から、黒服の男が少年に言う。

「心当たりは」

「いくつかあるけど、」

自身のすぐ後ろの壁にできた真新しい弾痕を見て、少年が答える。

「そのどれでもない可能性が高そうだ」

「……そうですか」

男は固い声で答え、手に持った拳銃を構え直す。その背に隠れるようにして、少年は、ずれた眼鏡を鼻の上に押し戻してから、服の下から端末を取り出して耳に当て、

「もしもし、せんぱ――」

パァン。

発砲音は、衝撃からわずかに遅れて天井に反響する。

細かなプラスチック片を散らして、少年の手から弾き飛ばされた端末が数(メートル)先でカラカラと回る。「通話中」と表示されていた端末の画面が一瞬で暗くなった。

「……なるほど、狙撃の名手だね」

努めて平静を装って、少年は端末を当てていた自身の右耳に触れる。小刻みに震え続ける手で。

「この腕前なら、少なくとも、僕は殺される心配はなさそうだ。流れ弾も含めて」

「いえ、そのような」

護衛の男が言いかけたところで――


――その頭部が弾けとんだ。


息を呑む少年。

どさり、と崩れ落ちる身体。飛び散った鮮血が少年の全身をべっとりと濡らす。

残りの護衛数人が、即座に立ち位置を入れ替える。

「心井さん、姿勢を低く――」

「うん」

一番近くにいた護衛の言葉にしたがって少年が上半身を丸めようとしたところで、


ピー、と、置き去りにされた少年のトートバッグの中から、甲高い電子音が鳴った。


「……失敗、か」

狙撃位置を推測し、回り込んで反撃に向かった者たちの離脱の合図。少年は心配そうな顔をしてから、きゅっと唇を引き結び、顔を上げて――

「要求は?!」

裏返った、ひきつった声で遠方に向かって叫んだ。


返事はない。


その代わりとでも言うかのように、更に数発の銃声。

「おい、増援はまだか」

「連絡が――」

どさどさ、と倒れる音。負傷して苦悶の声を上げる者。

(……なんなんだ、この狙撃)

「こちらへ!」

立ち尽くす少年を抱え込むようにして路地の奥に誘導しようとした一人が――直後、無言で崩れ落ちる。

「や、やめて!! やめろ!」

なおも続く無機質で平坦で無慈悲な銃声に、蒼白な顔で少年が叫ぶ。

「危険です」

「いいからっ」

護衛の手を押し退け、ずり下がった眼鏡をそのままに、ピントの合わない視界で、見えるはずもない遠方を見渡し。

「用があるのは僕だろう!? この人たちはただの護衛で、関係ない! 知っているだろう、僕は――!」


銃声がぴたりと止んだ。

周囲を包む、不気味なほどの静寂。


肩で息をする少年の前に、一人の男が立った。

目が合って、息を呑む。

見覚えのある顔。近くの傭兵組合(アルティ)に所属する男だ。

護衛たちが一斉に銃を向けるのに、「止めといた方がいいぜ」と後方――狙撃の方向を示してみせる、丸腰らしき男。

その場にずるずるとしゃがみこんだ少年が、誰かが蹴り飛ばしたのか、ちょうど足元に落ちていたトートバッグに震える手を伸ばしたところで、目の前の男が一言。


「母親と弟」


ピタリと、少年は動きを止めた。そのすぐ背後に立っていた護衛の男が、顔をしかめて言い放つ。

「ブラフ極まりない」

「本当?」

「ええ、先ほど連絡がありました」

「そう」

額の汗をぬぐって、ふー、と少年が長い息を吐く。

その様子を楽しげに見ていた男が、クイと親指で後方を指さし。

「さて、一緒に来てもらおうか。意外と甘ったれな奴で手間が省けたよ」

「……『手間』って、いうのは?」

耳ざとく反応する少年に内心で舌を巻きつつ、さてね、と肩を揺らして笑ってみせる男。


***


「もしもし、ゆきちゃん!」

『悪いな、会合があってな。どうした?』

「あのね、ホコがピンチ!」

『そうか。鉾の屋敷か? すぐに迎えをよこす』

「ん!」

笑顔で通話を切った千風に、運転席の冬瓜が声をかける。

「ちー、着いたぞ」

「ん!」

沿道に乗り上げるようにして乱雑に停めた車から下りるなり、少女は砂の敷地に勢いよく飛び込む。

「みゃじ!」

「うお!」

足元をすり抜ける小さな身体に、門番が驚いてあわてて銃を向け、

「お、っと、千風さんか。そのカッコどーした」

「急用! みゃじ!!」

見知った男であることに気づいた千風が、即座に振り返ってぴょんぴょん飛び跳ねる。

「だ、そうです宮地さん」と門番。

「う?」

視線を追って、千風がくりっと顔を向ければ、ざりざりと砂利道を踏みしめて、スーツ姿の宮地が前髪を掻き上げながら歩いてくるところだった。

「やーっぱ来たか」

「う! あのね、手伝って!」

「嫌だっつったろうが」宮地はあくどい笑みを浮かべて、千風の前にしゃがみこんだ。「わかってるだろ、俺としては鉾がなくなってくれたほうが都合がいいんだ。早く俺んとこ来いよ、ちー。まぁ、そうだな、リーダーとぎぃちゃんくらいは連れてきてもいいぜ、一緒に面倒みてやる」

「みゃじ、ひどい!」

「なら、逆に聞くが。仮に今回、俺が手を貸したとしてもだ」

千風の小さな額に、宮地が人差し指を突きつける。

「こういうことは今後も起こるぞ。お前は一生、あの弱小エンライの守りに奔走して、あんな手のかかる奴らに縛られて生きてくのか? お前がそこまでする必要ないだろ。数宿数飯の恩義と割り切れ。お前の腕は確かにすごいけどな、あの人数をたった一人、銃一丁で守り切れるわけがない。どんどん死ぬぞ。いいのか? それでも」

千風の唇がわなわなと震える。

「だ――だって、おとうさん、言ってたもん!!」

千風が涙声で吠えた。

「どこに居て、何を守るかは、ちーが決めるの!」

宮地は穏やかな目をしてうなずく。

「ああ、それはお前の自由だよ。俺の意見に振り回される必要はない。俺は俺の立場から言ってるだけだ。好きにすればいい。だが――俺はお前を失うようなことは、絶対にさせない。そのためになら、鉾だって切り捨てられる。俺はな。……それだけだ」

しばらくの間のあと、千風はコクリとうなずいて。

「……わかった」

「そうかよ」

千風は宮地に背を向けて砂の敷地内から駆け出していく。それから、近くの建物の軒先に入ると、ちょこんとしゃがみこんで、端末をぽちぽちと押し。

「ちっぴー!」

先ほどと違い、相手はすぐに出た。

『やぁ千風さん。先ほどは悪いね、ちょっと立て込んでいて。なにかご入用かな?』

「ん。あのね、ホコを守るの。手伝って!」

『ふむ。敵襲かな』

「どっかのエンライ! ちーのせい!」

『……偶然かな、こちらもさっき、謎の襲撃を受けて、後輩が一人行方不明なんだよね。まぁ本人の心配はそんなにいらないんだけど』

千風は、屋根に付けられたプラスチック製の雨どいをじいっと見上げつつ、

「……うんとね、ちっぴー、オールト式、しってる?」

『うん?』

「銃弾みて! ホコのとこの攻撃、オールト式の大型だった!」

『ふぅん? オールト式大型遠距離狙撃とはこれまた……そうか、ではその流通ルートはこちらでトレースしてみよう。それと、こちらの現場の銃弾をいくつか持っていくから、千風さん、あとで機種など確認してくれるかな?』

「う! ぴっちーいる?」

『あぁ、いるよ』

「ぴっちーに、せんじょーこん、しょーごーしてってゆって!」

『ん? なに? ああ、線条痕(せんじょうこん)の照合ね』

「ん!」

『分かった、そうだね、念のためそうしよう。私が敵なら別の武器を使うし、同じ、だとしても2台以上所持している可能性も捨てきれないが。まぁ、おそらくご推察のとおりだろう』

「ごす?」

『千風さんの思ってるとおり、だよ。何者かが何かをたくらんで、同時多発的に行動を起こした』

「ん! えっと、にじゅーごおく、さんぜんまん!」

提示された数字が、現在の少女の所持金のほぼ全てということを把握している鳥巣は、ゆるやかに笑みを浮かべ、

『いいよ。充分だ。――それでは、未熟な貴女に、世界と戦う知恵と計略を授けよう』

紳士的に商談を結んだ。

ほくほくと満足そうな顔をする千風が次の指示を仰ごうと息を吸ったとき、つかつかと足早に近づいてきた宮地が、

「あ」

ひょいっと千風の端末を奪う。

「よぉ、鳥の旦那。ちーにあんまし余計なこと吹き込むなよな。あんたの使い捨ての手駒なら、他にもうんといるんだろ」

『いきなりのご挨拶だね、壊し屋の若造』

名乗ってもいない宮地のことを即座に断定し、落ち着き払った声音で応じる鳥巣に、宮地は嫌そうな顔をして。

「お前が囲ってるあの技師ちゃんだってそうだ」

『……あんまりナメた口利くと、こっちだって黙ってないよ』

「おーいいぜ、ぶちのめしてやる。貧弱野郎が何を偉そうに」

はぁ、と電話越しに、もっともらしい長いため息。

『そこまで言うなら仕方ない。可及的速やかに、お前の性癖と過去の失態すべてと、現在『融通』してもらってる総額とその手口などなど、砂の店と、個人的に懇意にしている御方々にぶちまけといてさしあげよう』

「すんませんしたっ」

俊敏に頭を直角まで下げる宮地。

ぱちぱちとまばたきをした千風が、それを物珍しそうに見つめる。

『というか若造。お前こそ、千風さんを知らない者の前にひょいひょいと千風さんを連れ出す迂闊な真似はやめてもらいたいね。ドバトの一件もそうだが、『旋風』の情報を売れという問い合わせが絶えなくて困ってるんだ』

「俺がどこ行こうと俺の勝手だろうが」

『その言葉、そっくりそのままお返しするよ。私と千風さんの関係に、お前が首を突っ込む権利はない』

「俺はちーのダチとして言ってんの」

『安心したまえ、私も千風さんの友達だ』

「あっそ、ならいーけど? 言っとくけど、自分だけ安全圏にいて相手を戦陣に出すっつーのは正しいオトモダチ関係じゃねぇからな?」

『ただの役割分担、適材適所の配備だ。何を言っているのか分かりかねるね』

「あーあーどーしてインテリっつうのは頭いいとか嘯いてるくせにこうも馬鹿なんだろーねー」

『切るよ』

時間の無駄と察知したらしい鳥巣が、短く言って通話を切った。ふん、と鼻を鳴らした宮地が、はらはらしていた千風に端末を返し、

「突然悪かった。大丈夫だよ、ケンカじゃねぇから」

なだめるように小さな肩を叩く。

「ただの牽制だよ」

「んー」

それを振り払うように肩を揺らした千風が、宮地の鼻先にぴっと細い指を突きつけ。

「ちっぴーに、ぴっちーのこと、いじめちちゃ、め!」

「あいあい、わーってるよ」

宮地はめんどくさそうに首の後ろを掻いて顔をそむけた。むー、と赤い頬を膨らませた千風の手元で、端末が鳴る。ディスプレイを見るなり、ぱっと顔を輝かせる千風。

「もしもし、ゆきちゃん?」

『おい、どこに隠れてる? 表に群がってた治安部隊は蹴散らした、出てこい』

「あのね、ちー今いそがしいから、ゆきちゃん、みんなのことお願い!」

『何を言ってる。お前の身柄を確保しに来ただけだ』

「え、ち、ちがう! あのね、助けて!」

おろおろと視線をさまよわせる千風。

電話口の冷淡な声は続く。

『下らん。エンライにくれてやる戦力などない。千風、いつまでもそんなところで遊んでないで、そろそろ真面目にやれ』

「ち……ちー遊んでない! 真剣!」

「……あらまぁ、あのおっさんの相手たぁ、ちーも大変だなぁ」

千風を眺めてぼんやりと呟き、隣でタバコをふかしていた宮地の端末に着信が入る。見覚えのない番号が表示されているのを見て眉を寄せ。

「はぁい、もしもしー?」

『速やかに千風さんに替わりたまえ』

「……あん? 鳥の旦那?」

『数秒前まで通話してた相手の声も忘れたのかい』

「いや」

相変わらず高慢な物言いの年長者に、宮地は反抗的に顔をしかめて、目の前で鬼藤相手に戦っている千風をちらと見る。

「あいにくと今ちーは通話中でね。重要な交渉の真っ最中だ」

『知ってるよ。鬼藤だろう? だからこっちにかけた』

宮地の眉間に、ぐっと深いシワが寄る。

(……こいつ、ちーの端末盗聴してること、しれっとバラしやがった)

『ほら、余計な脅迫をされたくなかったら早く』

「あー、わーったようっせぇなぁ。――おい、ほれ。ちー、鳥野郎から」

「う? とりさん?」

きょとんとする千風。

「トリス」

「ちっぴ!」

千風は片手をぴっと伸ばして宮地から端末を受け取ると、鬼藤との通話を保留にして、

「もしもし、ちっぴー?」

『ついでに、鬼に牽制もしておきな』

「う?」

『今、鉾に危害を加えたら――って奴』

千風はハッとなって、慌てたように鬼藤との端末を口元に近づけ、

「あのね、ゆきちゃん、鉾に攻撃したら、ちーおこるよ! ゆきちゃん絶交!」

電話の向こうの鬼藤は数秒押し黙り。

『……トリスだな。余計なことを言うなと伝えろ』

「よけいじゃない! ちーの希望!」

なるほどなぁ、と宮地は紫煙を吐き出しながら納得する。

今の、この状況。

鉾の者たちを人質として、鬼が千風を脅迫することはたやすい。が、今後いつ千風に寝首をかかれるかもわからな。

十堂の教えどおり、千風も、誠実な付き合いにはどこまでも誠実な戦果で返してくる。でなければ一方的に自分の有利に進めることに一切の躊躇いもないだろう。

それでは、鬼は、困るのだ。

しばらく何やら押し問答したあと、鬼藤の声が言った。

『……鉾に加担はしないぞ。今回の企みが失敗したら、大人しくエンライからは距離を置くことだ、二度と繰り返すな、いいな』

「ん。ゆきちゃんありがと」

満足そうに通話を切る千風に、宮地が眉を寄せる。

「ああ? まさか鬼が容認するってか?」

「ん!」

「はー……なに考えてんだあのおっさんは」

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