34.救援と眼帯、十堂の銃(後編)
昼食を終えるなり自分の部屋に駆け込んだ千風は、端末を取り出して耳に当てる。
「みゃじ!」
『おう、どーした』
右手をぶんぶん振りながら千風が興奮気味に言う。
「あのね、おとーさんの猟犬がね! 一緒にとりかえそ!」
『はぁ、やーだよ。俺あんなんに撃たれたくねぇし』
「あ」
通話が切れる。むむう、と液晶画面をにらみつける千風。
すぐに部屋の隅に駆けていくと、洋服ダンスからしましまのくつ下を一組引っぱり出して、義維にわめく。
「ぎぃちゃん、おくるまくださいっ」
「宮地さんとこか。行くのは良いが、交渉材料がいるぞ」
椅子から腰を上げた義維が、車のキーを手に言う。
「んー」
千風はくつ下を手に持ったまま、ぺたぺたと板の間を歩く。
「前にね、せーちゃん人質にしたのは、すっごい怒られたから、ダメなんだよ!」
部屋の出口に向かう義維の歩調が急に落ち、千風が不思議そうに振り返る。
「……せーちゃんの名前、言えるか」
「うんと、星利……くみちょー?」
「……なるほど。それは、ダメだな」
「うん」
砂を傘下に擁するロウシンのトップだ。
「あ、すな――」
「砂田組長もダメだ」
「ぎぃちゃん、いじわる!」
ごねる千風に、きっぱりと首を振る義維。
「それは脅迫だ、交渉じゃない」
「う?」
「いつも、宮地さんに頼むときはどうやってた? 金払ってたか?」
「ううん。それ、おとーさんがおしゃべりしてね、なんかやってた」
「そうか。宮地さんが欲しがっているもので、ちーが渡せるものはないか?」
「んー?」
「物か、情報か、人脈でもいいな。ああ、他の人に迷惑がかからないもので」
「うーん。あ、」
いきなりUターンした千風は、走って部屋の奥に戻ると、キツネリュックを背負う。それから、いたずらっこそのものの目で義維を見上げる。
「ちーのおうち、行って!」
「塔か? なにかあるのか」
くふふふ、と嬉しそうに顔をほころばせて。
「ないしょ!」
***
無人の門から敷地内に入るなりすぐに庭先のラティスに手をつっこんで遊ひ始めた千風を義維が促している間に、敷地の奥から物音がして、義維は顔をあげた。
白い革ジャンを着た長身の美女が、後方の男たちと何事か気ぜわしく話し込みながら歩いてくるのが見えた。艶めく黒髪が風になびく。
義維が千風を呼ぶ前に、女が千風に気づく。
「ひ」
短く言うなり、顔を引きつらせつつ数歩後退。庭を区切る土壁にべたりと背中を貼り付ける。
義維が何か言う前に、
「し、敷地内に入れるなと言っただろう宮地!」
黒髪の女がそう叫んだ。
「ほーんと苦手っすね星利さん。勝手に来たんすよ」
別の方角からサンダルをつっかけて現れた宮地が、ぼりぼりと頭を掻いて答える。女の傍らに立っていた初老の男がそれをじろりと睨む。肩をすくめて咳払いをひとつした宮地が、
「大変失礼致しました、星利組長」
と仕方なさそうに態度を改める。
それから、ラティスに両手首を突っ込んだまま、やりとりを静観していた千風に向き直って、ひょいと片手を挙げる。
「よお、ちー。それ良いだろ、俺の部下が端材で作ったんだぜ」
「目玉焼きの人?」
「そうそう」
にっしっし、と得意げに笑う宮地。
まったく、とため息をついた黒髪の女がその場から去っていく。
「それで? さっきの件なら断ったんだが?」
千風はキツネリュックを地面に下ろして、中から小さな棒を取り出すと、宮地の手のひらに転がす。
「あん? 印鑑? 落し物か?」
「あとね、あんしょーばんごー!」
「暗証番号? なんの」
と言いながら印面を見た宮地が、即座にぎょっとなる。
「ちょっっと待て、『公社』の敷地に入ったのか千風?!」
にわかに問い詰める宮地。その宮地に揺さぶられつつ、コクリとうなずく千風。
「一回目はね、スーツケースの中でおるすばん。二回目はね、おとーさんが一人で行ってこいって」
「十堂めえぇぇ」
苦悶の表情とともに額を押さえる宮地。
義維も存在だけは聞いたことがある。『公社』――国内最大手の非公式奴隷商だ。自由と尊厳を主義としている星にとっての敵。そうでなくとも星に敵は多いが。
へたりと地面に座り込んだ宮地が、天を仰いで嘆く。
「あーあー3日みばん焼跡ひっくり返した俺らの苦労……」
ぼんやりと突っ立ったまま、それをじいっと眺める千風。
「で、何すりゃいいって?」
数秒で立ち直ったらしい宮地に、
「おとーさんの、だっかん!」
千風が飛び跳ねて端末を取り出し、どこかにかけようとする。
「待て待てぃ」
ぺちりとその額を叩いて、横から出てきた宮地の手が端末を取り上げる。千風の手が宙を泳ぐ。
「どこかけようとしてた?」
「ちっぴー」
「やめとけ。……かといって十堂のネタなんてぇのは、ケチっても出てこねぇか」
ぶつぶつ呟いた宮地が、ううん、と唸ってから。
「ロイだな」
ひとつうなずいて自分の端末を耳に当てる。
「ロイでもいーよ?」
と千風が宮地を見上げ、
「はいどーも」
と宮地が片手を振る。
呼び出し音が鳴る間、
「ちー」
義維が呼ぶのに、丸い頭がくりっと振り返る。身を屈めた義維が、宮地に聞こえないように千風に耳打ちする。
「鬼藤さんところとは無関係なのか?」
「ん。さっき、いただきますの前におでんわした」
「そうか」
「――はいよ、じゃあよろしゅう」
宮地がそう言ってロイとの通話を終わらせる。端末を胸ポケットに入れてから、千風に顔を向け――花壇の土をむんずと掴んだ千風が、せっせと泥だんごを作り始めるのを見て、嫌そうな顔をする。
「つーかよ。中入ろーぜ、ちー」
「や」
頑固に言い放つ千風を呆れたように眺め、『リース用』と書かれた一人乗りの小型クレーン車に寄りかかる。
数秒後、
「あい! おだんご!」
宮地の前に満面の笑みで差し出される、歪な形の泥だんご。
宮地がぐぐっと寄り目になる。
「……なにそれ、どーすんの」
「みゃじのごはん!」
「やだよ、腹壊すしそんなん」
「だぁめ!」
「あー、ぎぃちゃん、代打ぁ」
義維は黙って千風の前に行って、泥団子を受け取り、
「いただきます」
「まじで」
おどけたように言う宮地の前で、義維は団子を持つ手を背中側に回して、
「ごちそうさま」
と言った。
「うーと、おそまつさま!」
満足そうにうなずく千風を見て、
「あっズリぃなにそれ、そんなんなら俺も」ようやくままごとの方法を理解した宮地が慌てて言う。「ちーさんもっかい! も一個作って! 俺の分!」
機嫌を損ねたらしい千風に「やだー」と言われて、眉を下げたところで着信音が鳴る。
「おっと、来た来た」
胸ポケットから端末を引き抜き、大声で返事をして、
「あっそ、ちょーどいい、下絡みか」
宮地が口笛を吹く。
「大抵あっこに集まるもんなぁ、武器も奴隷も情報も」
片方の口角を上げて振り返り――花壇の中央に腐葉土の山を作り上げていた千風と目が合う。
にんまり笑う千風。泥んこの小さい手が、ぺしぺしと山頂を叩く。
ロイと話し込む宮地のところに駆け寄ってきた千風が、宮地のズボンを掴もうとするのに、
「おおっと、待てぃ」
宮地が言う。千風の手がぴたりと止まる。
「満足したか? 手ぇ洗うぞ」
「ん! ……あ、トンネル……」
「また今度な。――ああロイ、ちょっと保留」
宮地が庭の端にしゃがみこんで、スプリンクラーに繋がる青いホースを引っこ抜き、じょろじょろと流れ出る水を千風に向ける。
「ほーれ。服濡らすなよー」
「ん」
両手を差し出した千風が、水の冷たさに歓声を上げる。派手な色のワイシャツのすそをズボンから引き抜いて、宮地はごしごしと千風の手をぬぐい、
「わう」
ひょいと千風を小脇に抱え、クレーン車の扉を開けて運転席に座らせると、
「お待ちどう。で、なんだって?」
再び宮地が耳に当てた端末に、反対側からわくわくと頭を近づける千風。
『ご依頼の銃、所在つかめたよ。鬼の騒動で撃ってた持ち主の人は、既に別件の騒動でお亡くなり。そのあとの経緯の説明は省略するけど、次の競り市の出品リストに載ってるね』
ぺらり、と紙をめくる音がする。このたった数分で、んなリストどうやって入手したんだよ、とぶつくさ呟く宮地。
『穏便な手として、客のフリして入って落札するっていう案もあるけど』
「てめぇのもんを金払って買わなきゃならん理由がどこにある」
宮地が吐き捨てるように言い、
『だよねぇ。分かった、ちょっと待ってて』
電話の向こうで何か話していたかと思うと、
『交渉決裂。もう告知流しちゃってるから、出品取り下げはできないってさ』
「はいよ。で――後腐れは?」
『ないようにしておく』
落ち着き払った明快な返事に、宮地はあくどくニヤリと笑って。
「だ、そうだ」
と千風を見る。
「ありがと!」
千風が足をぶらぶら揺らしながら端末に顔を向けて言い、
『いえいえ』
ロイがくすくす笑いながら答える。
「で、開催場所は?」と宮地。
『高いよ?』
宮地がぐぐっと顔をしかめ、大きく息を吸って、
「なーんでいつもそういう微妙なところで出し渋るかねぇお前は!」
怒鳴る宮地に、電話口の相手は平静なまま答える。
『そう言われても。こっちも商売だからねぇ、情報、欲しがってもらわないと意味ないし』
「ほんっと性格悪いよな」
『えー、心外だなぁ』
宮地は手元の印鑑を手のひらの上で転がしつつ、じっと見て。
「あー、わぁったよ、買う買う」
『まいどあり。俗に『S3』って言われてる場所でね』
「あー」
足元から聞こえた小さい声に、宮地が千風を見下ろす。
「なによ?」
「ちー、そこ知ってるー」
「まじか?! あーじゃあロイ、道案内は結構。その分情報料まけてく」
『買うって言ったのは、たった数秒前の君でしょう?』
穏やかな声に、宮地はゆっくりと顔をしかめる。
「あのさ、お前さ、いまの俺の財布の中身知ってて、それ言ってんだろ?」
『うん。全部の口座の預金残高も、来月の収入見込みも知ってるね。でも、それとこれとは一切関係ないよね?』
「……はぁ、もうほんと、食えねぇ奴」
肩を落として端末をしまう宮地を、じいっと見ていた千風が言う。
「ちっぴーああいうことしないよ」
「うっせぇアイツは論外だっ」
***
静まり返った店先に、唐突に一人の男が現れる。
「悪いね、今日は貸切だ」
店番の青年は来客を見もせず、追い払うように手を振る。
「ここが会場だろう?」
確信めいた響きに、店番の男はゆっくりと顔を上げた。大柄な男の、関係者にしてはどう見ても若い容姿を見て。
「はあ? 何の話だ?」
壁の時計を見上げた来客――義維がジャケットの下から銃を取り出し、
「顔面ぶち抜かれたくなければ――」
言いかけたところに、ばばばば、と発砲音。
「……」
店番の男の背後にあった作りつけの商品棚から、どさどさと煙草のパッケージが落ちる。
「……」
なぜか目の前の義維も髪の毛を焦がして固まっている違和感に、店番の男が気づいたところで、
「ばあぁーん!」
義維の後ろから可愛らしい声がして、小さな少女がひょこっと顔を出す。けらけら笑う女児の手には、白煙をくゆらせる銃が一丁。
「……ちー、早い」と義維。
「ぎぃちゃん、撃つってゆった!」
「言ったが、そういう意味じゃない」
「う?」
店の奥から複数の足音が近づいてくる。
「どうした!? 何の騒ぎだ!」
ライフルを抱えて飛び込んできた男たちは、青ざめてハンズアップしている店番の男と、それに黒い銃を突きつけている義維を見る。
「お前らどこのロウシンだ!」
「ぎぃちゃーん、終わった?」
緊張しきった空気をぶち破る、のんきな声が店の入り口から聞こえた。硬質な靴音を鳴らして店に入ってきた男を見るなり、ライフルの男たちがぎょっとなる。
「み、宮地?!」
「やべぇぞ! なんで星が!」
ばたばたと奥へと逃げていく男たちを見送り、
「姉さんの威を借る俺」
誇らしげにニヤリと笑う宮地を、千風がぼんやりと見上げて、黙って首をかしげた。
「お? 見たことある顔だな」
千風の手を引いていた青年に気づいて、宮地がその顔を覗き込む。
「どもっす」
陣区が緊張ぎみに頭を下げる。両手を広げて千風が言う。
「今日はねぇ、じんくん、ちーの荷物持ちなの!」
宮地はそれを聞いてげらげら笑って、
「男を尻に敷くにゃ、まだちっと早ぇぞ、ちー嬢」
「う?」
「で、倉庫はどこだ?」
***
陣区と義維が突入するのに、運送業者らしき作業服の男たちが積み荷を放り出して逃げていく。
「いーのかね、あんなにあっさり。たしかあそこは護送料も込みだろ?」
作業服の背中のロゴを見て、ふん、とバカにしたように笑う宮地。その横で銃を構えていた千風が小さく首をかしげ、
「そ、そこまでだ、止まれ!」
脇の扉から顔を出した燕尾服姿の男が、護衛の男の後ろに半分以上隠れながら宮地の名を呼んだ。
「わ、我々は協定に則って正式に……そ、そうだ星も加盟しているぞ。お前の独断専行はロウシンの足を引っ張ることに」
「うっせぇ。知ったこっちゃねぇーよ」
宮地がめんどくさそうに言う。
その横で照準を定めていた千風が引き金を引く。数発の銃声。簡素な造りの天井板がばきばきと音を立てて降ってくる。なさけない悲鳴をあげた燕尾服の男が逃げ出す。
その後ろで、主催者らしき小太りの男が頭を抱えているのが見えた。
「あった! あれ!」
千風が指さした先に掛けられていた銃を、駆け寄った陣区がこわごわと持ち上げる。
「うっへ。すげぇなぁ。……なぁこれ、いきなり爆発したりしない?」
「しない!」と千風。
「よーし、ずらかるぞ」
宮地が言ったところで、部屋の奥から、ばあぁん、と盛大な破壊音。猟犬をかついだ陣区が嫌そうに言う。
「なんすかあれ、大砲?」
「いや……また別の改造銃だな」と宮地。
千風がうなずくのに、部屋から廊下をのぞこきこみながら、義維が聞く。
「ちー、あれは十堂さんのじゃ」
「ちがうー」
「そうか」
廊下の先から駆けてきた集団と応戦が始まり、
「ち、しぶといな」と宮地がぼやき、
相手側の、異様な形状の銃口に義維が気づく。
あんなものに千風が一発でも当たったら、死ぬ――
――ぱっと、鮮血が散った。
***
「ごめんな、さいいぃ」
突っ立ったままひんひん泣く千風。
「俺が勝手にやったことだ」と義維。
千風の、あふれ出る涙と鼻水を、冬瓜の手がまとめてタオルでぬぐう。
「ほらな、見てみ。ギイさんでけぇし大人だから、どばっと出ても割と平気なんだよ。分かったろ?」
「やーでもびっくりしたよなぁ。ボロ泣きのちー抱えた血みどろのギイさんが飛び込んできたときは、俺でもホント、なにごとかと思ったもんな」
上腕に包帯を巻いた義維が、千風をひょいっと抱き上げて自身の膝の上に座らせる。
「で、ホントに医者行かなくていーんすか」と久我。
「ああ。問題ない」と義維が答える。
「ぎぃちゃ、いたい?」
真っ赤な目の千風が顔を上げ、義維の目がじっと少女を見下ろす。
「多少」
「たしょう」
ぼんやりと復唱する千風に、
「ちょっと、って意味だよ」
冬瓜の解説。
千風は、すん、と鼻をすすってから、周囲を見回して。
「みゃじは?」
「帰ったんじゃないか?」と義維。
「いや、さっき厨房で天ぷらつまんでましたよ」
部屋に入ってきた宇村が答える。
その後ろから格子が入ってきて、
「どうだった、格子」
窓辺に立っていた鉾良が問うた。
「はい」格子は義維と千風の前に椅子を引いてきて座ると、いずまいをただしてから切り出す。
「北の、いわゆる成金ですね。いくつかのロウシンのスポンサーみたいなことをやってる男です。裏もとれました。件の銃については、闇市窟に流れた珍しいものを転売用に買い取っただけだと」
「……そうか」
うつむいた千風が、銃をぎゅうと抱きしめる。
***
筋肉の盛り上がった肩にライフルをかけた屈強そうな四人の男が、部屋の入口をがっちりと固めている。そこへ、廊下の先から小さい少女が駆けてきて、
「う」
開け放たれた扉の脇に並んで突っ立つ彼らの視線に気づいて、ぎくりと硬直すると、そのまま動かなくなる。
見合ったまま膠着状態に入ろうとするのを、
「何してる、入ってこい」
室内からの、呆れたような鬼藤の声が中断させた。
ひょこんと一礼した千風が、左右の男たちをちらちらと見上げながら部屋に入ってくる。
「悪いな、しばらく厳戒体制でな。――で、どうした?」
書机で書類に目を通していた鬼藤を見るなり、ぷぅと頬を膨らませる千風。
「おみまい来たのに……」
「眼球一個で寝てられるか。しかし、見舞いとはまた、けったいな知恵をつけてきたな。外の奴の入れ知恵か?」
「ん! じんくん! あ、」鬼藤に駆け寄った千風が顔を輝かせる。「ゆきちゃん、それ、かっこいいー!」
「はは、そうか」
鬼藤が顔を歪ませ、革製の眼帯の上から失った右目を撫でる。
鬼藤の部下が二客の椅子を運んできて、鬼藤の前に置く。礼を言った義維が千風をひょいっと持ち上げる。椅子にすとんと座らせてもらった千風が、足をじたばたと揺らして、
「ゆきちゃん、あのね、ちーとおやつ食べよ!」
「ああ。何持ってきた、緑茶でいいか」
いそいそとキツネリュックを下ろす千風の手元をのぞきこんでから、鬼藤は部下に手で合図を送る。
「あのねー、いつものおやつ!」
「ほう」
「くまさんおせんべ!」
「ほう」
「……んん」
取り出した袋の両端を持って、しばらくじいっとしていた千風が、
「ゆきちゃん、開けてー」
「ああ」
鬼の組長に向かって遠慮なくアルミ蒸着の菓子袋を突き出す女児に、壁際に並ぶ男たちが変な顔をしそうになるのを懸命にこらえている。
「あっ、あのね、みてみて!」千風が、義維が背負ったままの猟犬を指さす。「おとーさんの! とりかえしたの!」
鼻息荒く自慢する千風の銃に見覚えのある商品タグがぶら下がっているのを見て、鬼藤は先日の報告を思い出す。
「ああ、お前だったか」
「う?」
「そこそこ騒ぎになっとる。大方、星と砂あたりの企てだろう、っつー話だったがな」
「ん! みゃじもいたよ!」
「――お話中、失礼いたします。千風様、どうぞ」
運ばれてきた立派な茶器の中で揺れる緑色の水面を嬉しそうにのぞきこみ、千風がうれしそうにふーと息を吹きかけた。
作業BGM:相棒 劇場版




