27.幕間:兄妹デート
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「17.兄妹ダウト(中編)」で、だらだら長くなったのでボツにしたシーン。
オチなし。ちーと冬瓜が騒いでるだけです。
「うーと……おせわに、なりますっ」
その場に正座し直してひょこんと頭を下げる千風に、冬瓜家の3人が揃って相好を崩す。
「それ誰の仕込みだ?」と冬瓜。
「しみ?」きょとんとする千風。
「そのセリフ、誰から教わった? 十堂さん?」
鞄から取り出したお風呂アヒルを冬瓜の母親に見せながら、千風は嬉しそうに答える。
「うーとね、ごいんきょ!」
「……ご隠居?」
どこの黄門様だ、と疑問符を浮かべる冬瓜。
「おとーさんがお出かけのときにね、おとまり会したの!」
「おお、なるほどね」
どこぞの託児所の人なんだな、と早々に納得した冬瓜を、母親が呼ぶ。
「ちーちゃんの着替えとか、あんた持ってきてないわね、これ」
千風が好き勝手に散らかした荷物の中央で、開きっぱなしのカバンをのぞきこんだ母親が言う。
「あ、着替え忘れた。取りに戻るかぁ」
と冬瓜が頭を掻く。
「そこの角に子供服屋さんあるから、出かけるならついでに買ってきなさいよ」と母親。
「ああ、そうだな。ウリに精一杯着飾ってもらえ」と父親。
「そんなんしないって」と冬瓜。
「あら、なんでよ」母親が不満そうに言うのに、冬瓜は「うん」とだけ答えて千風と手をつないだ。
***
道行く人を物珍しそうに見回して、
「あ、くろい!」
駐車場からぞろぞろと出てきた集団を指さす千風。
「ああ、喪服な。……そうか、そんな時期かぁ」
ぼやく冬瓜の顔を、疑問符を浮かべた千風が見上げる。
「あっちにでかい寺があってな、みんな墓参り行くんだよ」
「はかまいりー?」
「そ。お墓行って、」
「……おはか?」
「ああそっか、区域にゃそーゆーのないんだよな。あのな、死んだ人の骨、散骨じゃなくて土に埋めるの。で、そこに毎年会いに行くの」
「う?」
「区域生まれだと分かんないかー」苦笑する冬瓜がこれ以上の説明をしようとして、うーん、と口ごもり。「そーだな……今度、社会勉強がてら行ってみる?」
「ん!」
「あ、オバケ出るかもしれねぇけど良い?」
にわかに硬直する千風を「冗談だよ」と笑い飛ばして、通りの向かいに建つ店舗を指さす。
「ちー、そこだよ、そこの店だ」
「ふくやさん!」
つないだ手を上げて通りを渡る。冬瓜の足が路側帯の白を踏み、千風が歩道の縁石を両足揃えで飛び越える。
「変わってねぇなぁ」
懐かしそうに看板を見上げた冬瓜は、店頭のワゴンセールで叩き売られている手近な一着をつまみ上げて目の前に広げる。
「今回の礼だ、好きなもん選んでいいぞ、ちー」
「ほんとう?」
顔を高揚させた千風が両手を挙げて店の中に飛び込んでいき――その数秒後、たかたかと手ぶらのまま戻ってくると、冬瓜のズボンにぎゅっと引っ付いて。
「うりちゃん、選んで!」
「えー俺の見立てでいいのか? えー」
仕方ないなぁとやに下がった笑みを浮かべて入店した冬瓜が、ハンガーラックに手を伸ばす。何着か引き抜いては戻しを繰り返し。
「……うーん、よく分からん」
「う?」
わくわくと待っていた千風がこてんと首をかしげる。
「弟はいんだけど妹はいねーんだよ、よく分からん」
「ふぅん?」
「ちー、こういうのは?」
目の前に広げられたフリル付きの可愛らしいパジャマを、
「や!」
にべもなく一蹴する千風。
「だよなぁ」
千風が動きにくい格好が嫌いだということは、鉾ではすでに周知の事実。
「お、これは?」
シンプルなデザインの一着を引き抜いた冬瓜が振り向いて、
「……うーん、それは足に着けるもんじゃねぇかなぁ……」
「う?」
いそいそとニーハイを両腕に通している千風と目が合う。
「じゃーん!」
「おおー」
誇らしげな千風の様子に思わず拍手する冬瓜。むふん、と得意げな顔をした千風は、長い靴下を手の先から下げたまま、きょろきょろと周囲を見回して、
「これなにー?」
服の間から飛び出ていた、ダッフルコートの留め具を靴下越しの指でつまむ。
「なんだろ。着てみる? お、コートだな」
冬瓜が服を引き出してハンガーからはずし、執事よろしくうやうやしく片膝を付いてコートを広げ。
「はいお嬢さん、着せて差し上げよう。こっちに背ぇ向けて、はい、右手からー」
冬瓜の手馴れた指示に、けらけら笑いながら千風が従い、
「……ん? これどうやって留めるんだ? こうか?」
千風の前に回った冬瓜が留め具を手に困惑するのを、
「って、おい?」
千風がいきなり振り切って、
「でねーこれ、これ!」
飛び跳ねながら奥の棚のほうに消えた千風が、バスタオルくらいある大きな謎の布を持ってくる。
「なにそれ?」
「あたまに、巻くの!」
「頭に?」と首をかしげながらも、とりあえず言われたとおり巻いてやって、数歩下がり出来栄えを確かめる冬瓜。
「……えっと、ターバン?」
「たば??」
「やっべー、中東感出てるぜ、ちー!!」
「んー!」
「写真撮んべ、あいつらに送んべ!」
「ん!」
冬瓜はげらげら笑いながらジーンズのポケットから端末を取り出す。
「ポーズとってー、そう、いーねいーね、モデルさんだぜ、ちー」
赤子を抱えた女性が嫌そうな顔をして、騒ぐ冬瓜から遠ざかる。
「んんっ」
店主のわざとらしい咳払い。
「……あー、売りもの撮っちゃマズイかぁ」
試着室の上にあった壁掛け時計の時間を見て。
「つか、ちげーや。ちー、パジャマと明日の服、買いに来たんだぞ!」
「ん!」
***
「――お、そのパジャマが例のパジャマか? ちー」
大量の枕を抱えて部屋に入ってきた陣区が、部屋の中央で両手を広げてくるくる回転している千風に言う。
「う!」
振り返った千風が、真新しいパジャマの端をつまんで、びしりと決めポーズ。冬瓜と決めたポーズらしい。
「へぇ良いじゃん。それがフューリの趣味かぁ」
水色の上下に白い星の模様。まじまじと眺めて千風を褒めそやす陣区の後ろ、
「趣味言うな」
シーツを敷き終えた冬瓜が寄ってくる。
持ってきた大量の枕を適当なところに山積みにしてから、陣区は近くの布団の上にあぐらをかいて千風を手招く。
「なぁちー、フューリんちどうだった」
元気いっぱいに駆け寄ってきた千風が、その前にちょこんと正座する。
「んとねー、工場ー!」
「らしいな」
「じんくん行ったことない?」
「おう」
「あ。あとねー、ちーの銃ちょうだいって!」
「……は?」
「ああ違う」冬瓜の説明。「ちーが風呂に銃抱えて入ろうとしたの見ておふくろがびびったみたいで、『防犯ブザーと交換しましょ』って交渉しはじめてさぁ」
「んじゃそりゃ」
「おかーさん、うりちゃん、ごっつんこ!」
甲高い声で言って、千風がけらけら笑う。
「なー。あれひどかったよなぁ。なんで俺が怒られにゃならんのか」
数日前に拳骨の落とされた頭を痛そうになでる冬瓜。
「うりちゃん、うりちゃん、」千風が冬瓜を見上げて。「またお泊り行ってもいい?」
「おう。また行こうな」
うなずく冬瓜に、少女は嬉しそうに笑う。




