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19.幕間:もしキサキがロリコンだったら

2万PV+ブクマ100件御礼小話。お読みいただきどうもありがとうございます!


キャラ崩壊注意。タイトルをもう一度確認してください。

本編と別次元の話。この話を読まなくても一切続きに支障はありません。


・キサキ(ご隠居)がロリコンです。

・カイエ(うみちゃん)が始終おにおこです。

・ちーは活躍しません。


それでも良ければ。




小さな丸い瞳が、物珍しそうにきょろきょろと石張りの玄関を見回す。

着替え一式をリュックに背負った千風が鹿の屋敷に一歩足を踏み入れるなり、

「千風さああぁーーん!!!」

木咲(キサキ)の盛大な歓声が出迎えた。

全身を宙に放り出して、幼い少女に全力で飛びつかんとする黒シャツの男。

その腕が千風に触れる前、不自然に急降下して、ずべんとマヌケに地に伏した。

「ぐえ」とうめいて潰れた木咲の後ろ、仁王立ちする迷彩服姿の女性に、

「うみちゃ!」

顔を上げた千風が、ぱあっと顔を輝かせる。

木咲の背中をぐりぐりと踏みつける海江(カイエ)が、ひょいと片手を上げて少女に挨拶。

「痛い痛い~」

その足の下で、へらへら笑いながらじたばたしている木咲。それを無視して、海江は玄関先にたたずむ少女に手招き。

「まぁ上がってくれ、天祭。鹿の屋敷へようこそ」

「おじゃまし、ます!」

少女は上り(がまち)にちょこんと腰かけて背を丸める。

「靴、脱げるか?」

「できるよ!」

元気よく答えてせっせとブーツの紐をほどく千風。海江がそこから視線を外すと、下からじいっと見上げてきていた木咲と目が合う。

「……なんだ?」

木咲が首を振って顔を伏せる。はぁ、と、わざとらしい、とても残念そうなため息。

「姉さんもあとウン十年若かったらなぁ……って、あいててででででっ」

ぎりりり、と不穏な音が木咲の肩甲骨の間から鳴る。

そこへ、とん、と軽やかな足音がして。

「くつ脱いだー」

上機嫌の千風が歌うように言って玄関を上がる。その声に、右の頬を床に付けていた木咲が顔を上げた。すぐ鼻先でひらりと小花柄のスカートのすそが躍る。

「おっ絶景――」

言いかけた声は、唐突な発砲音に掻き消される。

木咲が動物じみた瞬発力で海江の足の下からすばやく飛び退った直後、ちょうど木咲の頭部があったところの床材が砕けて散る。

玄関先にたちこめる焦げくさい匂い。白煙のたちのぼる床を見つめ、唇を尖らせた木咲が言う。

「危ないなぁ、なにするんすか姉さーん」

「お前こそ、何してる……?」

銃を構えた海江の、地を這うような低い声。その剣幕に口をつぐんだ木咲がゆっくりと両手を顔の横に挙げた。

海江の指先が、カチリと銃の安全装置をかける。それから少女に向き直り。

「天祭、こういうときは、迷わず撃ち殺せと再三言ったろう?」

「う? ごいんきょ、ちーの味方だよ?」

「千風さんは、ほら、お優しいからー」と木咲。

「子どもの無知につけこむな社会的恥部が!」

そのまま勢いにまかせていくつかの長い説教を木咲にかました海江は、最後に、はぁ、と疲れたようなため息をつく。

「必要なときはいつもどっかに隠居してるくせ、何故こういうときに限ってはきっちり屋敷に居るのか……」

「そりゃ、おれの優秀な部下がちゃんと連絡くれたからね。千風さんが泊まりに来るって聞いて、おれが戻らないわけにはいかないでしょ~」

ねー? と朗らかに少女に問いかける男。それを真似て、こてんと首を傾ける千風。

海江がじろりと、木咲の背後に控えるスーツ姿の男たちを睨む。

「……配備の確認に至急お戻りいただく必要があり……」

苦渋の表情を浮かべつつ、やむにやまれぬ事情を口にしてうなだれる壮年の男に、お前も大変だなと同情じみた目を向ける海江。

そんな彼らの大人じみた苦労などどこ吹く風で、

「千風さん、お菓子あるよー食べる?」

「たべる!」

右手で千風のリュックを受け取り、左手で千風の手をとった木咲は、執事よろしくこちらへどうぞと少女を廊下の先に導く。

「お茶淹れるな。よぉし、とっておきの玉露を出そう」

「ん!」

たかたかとぎこちないスキップもどきで廊下を進んでいく少女の後ろに続いて、眉間に深いシワを刻んだままの海江も部屋に入った。


***


「うまい?」

「んー!」

木咲お手製の豆腐ドーナツを両手でつかんで、口の周りに粉砂糖を付けた千風が上機嫌にうなずく。その顔を、クマ柄のタオルでそうっとぬぐってやってから、頬杖をついた木咲がテーブルの対面からにこにこと見守る。

千風の隣、窓側の席に座る海江は、先ほど部下が買ってきたばかりの雑誌をぱらぱらとめくっている。

空になった急須を持って立ち上がった木咲が、ひょいと海江のティーカップをのぞきこむ。

「姉さんも紅茶のおかわり、いります?」

「ああ、私のはいいから――」

そう言いかけて雑誌から顔を上げた海江の前で、千風の横を通り過ぎざま、木咲の空いている手がぺろんと千風のスカートを――

「め! く! る! な!!」

その意図に正確に気づいた海江が、俊敏に木咲の手を蹴り飛ばす。突然横から突き出てきた海江の足に「わう」と千風が驚いた声を出し、ばさり、と海江の雑誌が床に落ちる音がして。

「……う? うみちゃ?」

「気にするな取り込み中だ!!」

千風が気づいたときにはすでに、なんだかとてもブチ切れた海江が木咲の胸ぐらを掴み上げているところだった。両手を上げて降参のポーズをとった木咲は、相変わらずへらへらと笑う。

「いやぁどうなってるのかなぁって」

「好奇心は言い訳にならんぞ!」

「うーん、じゃあ、なんていうの、神秘に引き寄せられたっていうかー」

「神秘のままにしておけ!!!」



「――と、いうわけだジュード、トリス。鹿(うち)には置いておけん。遠征だかなんだか知らんが早々に引き取りに来……なに? 今、ロマにいる? おい、何泊するつもりだ、いやお前らは分かってない、危機感が足りないぞ、幼少期に性的トラウマを植え付けてどう――あ、くそ、切りやがった。……これだから男は」

舌打ちを鳴らして通話を切った海江が、思案顔で端末をしまい。

「よし、キサキ」財布から紙幣を一枚取り出すと、ぴっと男の鼻先に突き付ける。「お前、これから数日外泊してこい。こちらから連絡するまで決して戻ってくるな」

「ええーそれだけはご勘弁を!」

悲壮な声を上げ悲壮な顔をする木咲に、

「……確かに、これでは心もとないな」

と神妙な顔で呟く海江。

この程度の対応では木咲はいつでも気が向いたときに戻って来れるし、実際に来るだろう。数分も経たないうちに。

「よし」海江は千風の手を引いて廊下に向かう。「私が数日出てくる。誰も近寄るな。誰だろうと見つけ次第、撃ち殺す」

「えええ、姉さん、そんなさびしいこと言わんでくださいよ。おれ、今日のお泊りすっごい楽しみにしてたのにー」

「ち、ちー、ごいんきょと遊ぶ!!」

なんとなく事態を理解した千風が慌てて叫ぶのに、海江が足を止めた。

「……天祭、だがな……」

徐々に涙目になって震え始める少女を前に、海江はどうしたものかと顔をしかめる。木咲が千風のためにと、数日前からせっせと食器や寝具や菓子や遊び道具の用意をしていたのも知っている。

ぱん、と顔の前で勢いよく両手を合わせる木咲。

「姉さん、ご容赦を! 絶対に、絶対に変なことしないので!」

「はぁ……本当か?」

海江は、ちっとも信じていない顔で木咲の顔を見やり。

「……よし、天祭」

「う?」

涙目でうつむいて指遊びをしていた千風を、海江がひょいと抱き上げ。

「キサキ、座れ」

「はい」

すとん、とその場の床に速やかに正座する男の、折りたたまれた太ももの上に、少女をそっと下ろした。

「……おおう」

と謎の声を発する木咲。

「変なこと、しないんだろう?」と海江。

「もちろんです」とよどみなく答えた木咲が背筋を伸ばす。

「手が震えているぞキサキ」

「いやいやぁ、気のせいですって」

千風に気づかれないくらいわずかに上体を遠ざけた木咲に、

「ごいんきょ!」

涙を止めた千風が嬉しそうに言って、腕を伸ばして木咲に引っつく。ぽすん、と小さな頭が木咲の胸板に当たる。

「おおーう……」

ぷるぷると頬を引きつらせる木咲の、一挙一動を間近で観察する海江の冷静な目。いつでも銃を抜ける構え。口元は、わずかに上がっている。

「よし、そのまま……五分だ」

「た、楽しんでますね姉さん?」

「なんでもないんだろう、なにをだ?」

そらっとぼける海江。正座した膝の上に千風を乗っけたまま、ぷるぷると震える木咲。

「ぎょーざー」

千風の小さな手が木咲の金髪をさらりとどかし、右の耳たぶをべたんと折り返す。

「懐かしいな」

二人の傍らにひざをついた海江が、それを見てのんびりと言う。

「あのねーこれね、お仕事中におとーさんにしたら、怒られるー」

「まぁそうだろうな。今のうちに、キサキに存分にやってやれ」

「ごいんきょ、いい? いい?」

ぱあっと顔を輝かせて見上げてくる千風に、

「よ、喜んで」

ぎこちなく微笑む木咲。

玄関が開く音がして、数人の部下が帰宅の旨を告げる声が聞こえた。

海江は壁の時計を見て、ひとつうなずいて、

「ま、その態度を維持できるというなら、いいだろう」

千風の両脇に手を差し入れ、ひょいと木咲の膝から下ろす。途端、

「やったぁ、一緒にお風呂入ろう千風さん!!」

やっべ鼻血出る、と叫びながら浴室に走っていく木咲を、

「――お前はいったい何を聞いていた?!!!」

激昂した海江が全速力で追いかけていって、その勢いのまま木咲を勝手口から蹴り出したのは、この数秒後のこと。


作業BGM:BUMP OF CHICKEN


*Special Thanks:芳川見浪(ID:643203)様

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