16.兄妹ダウト(前編)
若手三馬鹿の一人、冬瓜の話。
前・中・後編の3話でひとまとまりです。
日曜の朝八時。
鉾の屋敷のとある一室は、
「おおっ、仲間来た来た! おせぇよ!」
「変身ー!」
「かっけー!」
パジャマのままの集団の、戦隊アニメの鑑賞会で盛り上がっていた。
部屋の中央にでんと据えられた32インチの液晶テレビを囲み、口々にキャラクターの名を呼び、わいわいと声援を送る。
座布団の上であぐらをかいていた久我の背中に飛び乗った千風が拳を振り上げて、
「そこだー!」
久我の背中に小さな膝小僧がどかどかと当たる。
「いててて、ちー、蹴るのなし!」
遠慮なく暴れる千風を見かねて、
「ちー、ストップ」
「あう」
久我の後輩にひっぺがされる。そのまま、
「フューリさん、パース」
「おーう」
近くのソファに座っていた冬瓜の膝の上にすとんと下ろされる。冬瓜の膝の上で千風はいそいそと座り直してから、箱の中の戦況をわくわくと見守る。
「あ、いま、なんかいた!」
数秒も経たないうちにそこから飛び降りてテレビに駆け寄り、画面の右端を真剣に指さす。
「いたな。なんだろなぁ」
と冬瓜が優しく応じるのに、
「ラスボスだろ」
と久我が言う。
「てめっ言うなよ!」
「今の影で誰か分かるじゃん」
「お前なあ!!」
「あ、でてきたー!」
千風の声に、問答していた久我と冬瓜が勢いよく画面に視線を戻し、
「……え、何、嘘、味方なのアイツ?」
「つーか、つええ!」
きゃー!、と千風のつんざくような悲鳴のような歓声。
皆がとっさに耳を覆い、その一瞬で画面全体が煙幕に包まれた。
「え、今何が起きた?」
動揺する皆を差し置いて、
「どかーんって! どかーんって!」
唯一画面を見ていた千風が、両腕をぶんぶん振り回しながら、真っ赤な顔でそこらじゅうを跳ね回る。
「あーちょ、ちーストップ!」
「や!」
取り押さえようと伸ばした久我の手が空を切り、きゃいきゃい言いながら窓のほうに駆けていく。久我はまぁいいやとすぐに諦めて、派手な戦闘の真っ最中の画面に視線を戻す。
「おお、すげぇな総力戦」
「わはは、さっきのトラックまで突っ込んできた」
「いけいけー!」
両手を広げて駆け戻ってきた千風が、部屋の中央でぴょんぴょん飛びはねる。
やがて画面の中でひときわ大きな爆発が起きて。
「お、勝った!!」
「勝ったー!」
エンドロールが流れ始めても興奮さめやらぬ千風が、久我の革ジャンのすそをぐいぐい引っぱって、
「くーが、くーが、変身!」
鼻息荒くムチャぶりをかます。
「まじでー?」ソファにねっころがった冬瓜がげらげら笑い転げる。「おいクーガ、お前、変身したら何になんだよ?」
すかさず千風が両手を挙げて大声で答える。
「トラーンペットー!」
「なんでや!」
おおい、と画面の前に座り込んでいた陣区が千風を呼ぶ。一気にピンク色に切り替わった華やかなCM画面を指さして、
「次の次は姫さんアニメだってよ。いいのか、ちー」
「ん」
千風は全く興味がなさそうに短く答えると、久我の変身談義に戻っていく。ふーん、と陣区が画面に向き直り、
「……意外と面白いな、これ。あっちょっなにすんだ」
「野球観ましょうよ、昨日の夜鷹戦」
森洲が足元に落ちていたリモコンを拾って、ぽちぽちと変えていく。
「人が観てんのに、あっ、ちょ、それにしようぜ」
「嫌です、野球どっかやってな……」
大人げないチャンネル争いの真っ只中に、
「がおーーー!」
「うっわ!」
両手を挙げた千風が勢いよく飛び込んでくる。
受け身なしの頭からのダイブに、反射的に陣区が抱きとめる。
「がうがう!」
陣区の腕の中からひょこんと頭を出した千風が吠えるのを、冬瓜がげらげらと笑う。
「ゴンちゃんはさっきの攻撃でバラバラんなっただろ、ちー」
「いいのー、復活するのー!」
その言い訳に、ニヤリと笑った久我が、両手で角の形を作って、
「じゃあ俺も復活した闇聖ドラゴンー!」
駆け寄ってくるのを、千風が両腕で押しのける。
「だめー!」
「なんでよ」
「だって、強い!」
「強いから良いんじゃん」
「ううう……あ、復活しない呪いが、どーん!」
なに?! と久我が大げさに反応したところで、しかめっつらの朝食当番が部屋に顔を出す。
「おい、朝からうるっせぇパジャマ集団。朝飯は?」
「まだっす。いいっすよ片しちゃって。俺らはどっか食い行こーぜ」
床に座り込んでいた陣区が、どっこいしょ、と腰を上げる。
誰かの端末が鳴る。
冬瓜が端末を耳に当てるなり、顔をしかめて言った。
「――え、また?」
「なんだなんだ」
「いや、ちょっと家で……あ、おれ朝飯パス。ちょっと実家に顔出してくるわ」
ひらりと手を振った冬瓜が、そう言って一人先に部屋を出て行く。
「あいつ最近多いよな、里帰り」
久我がぽつりと言うのに、そだな、と陣区もうなずく。
***
立ち上る硝煙の香りに、廊下を歩く千風が鼻をひくつかせる。
やはり必要だろう、ということで――
若手の有志が集まって、使っていなかった車庫と裏庭を改造して、狭いながらも簡素な射撃場を作り上げたのが数日前。
あらかたの幹部たちが一度は使い終えて、ようやく引いた今日、その手狭な射撃場に若手たちが集まって騒いでいた。
ぎぃ、と軋んだ音を立てて扉が内側から開く音に、壁際で順番待ちをしていた数人が振り向いて。
「お、ちー。メシ食ったか」
てこてことやってきた少女が、その言葉に「うん」とうなずいたあと。
「ちーが、おしえたげる!」
むふん、と得意げな笑みを浮かべて愛銃を取りだし、ぐいと胸をそらす。
「おお」
「あのねっ、ここね、こーやってね!」青年たちの視線が集まるのに、浮かれた様子でちゃかちゃかと手早く銃を動かして構え。「でねっ、こーして、で、おしまいっ」
「ちょっと待て! ちーそれもっかい、ゆっくり!」
一人が慌てて制止の挙手。
「手首やらかいなー」
わいわいと千風の周りに男たちが集まる。
「こうか?」と一人が真似てみせるのに、
「んーん」と悲しげに首を振る千風。
「何が違うんだ?」
「これが、こう!」
「だから、こうだろ?」
「ちがうー」
「同じに見えるんだよなぁ」
「うーん……」
たまりかねた一人が、
「ちーせんせ、実演!」
そう言って、自分の順番待ちをすっとばして千風に射座を明け渡す。周囲の誰からも異論は出ない。
「ん? じつえ?」
きょとんと首をかしげる千風に手招き。
「お手本みしてよ。ここで撃ってみて」
「いいよー」
その快諾を聞きつけて、他の射座を使っていた者も、列に並んでいた者も、千風の銃を置いた射座の周囲に一斉に集まってくる。
義維お手製の踏み台を引きずってきた千風が、
「んんんーんんー」
彼らの視線をよそに、調子外れの鼻歌を歌いながら踏み台に飛び乗り、マイペースに照準器をのぞきこむ。
――ぱぱぱぱん!
放たれた四発の銃弾は、吸い寄せられるように標的紙の一番小さい円に収まり、どう見ても――弾痕は一つしか見えない。
「おおう……」
「わっけわかんねぇ……」
歓声と苦悶の声が半分ずつ。
「じゃあ次、これで撃ってみて、ちーせんせ。俺の」
千風の頭上から陣区の声。
ごとん、と目の前に置かれた銃に、ぱっと顔を輝かせる千風。
「げーと!」
「正解。撃ったことは?」
「あるよ!」
その言葉どおり千風は手馴れた様子で調整し、
――ぱぁん!
やはり、弾痕は増えない。
「……まじかー」ぼやく陣区。「よし、その状態のまんま、俺に撃たして」
千風をひょいと抱き上げて近くの射台に座らせた陣区が、入れ替わりに標的の前に立ち、引き金に指をかけて照準器を覗きこむ。サンダルをつっかけた足をぶらぶらと揺らしていた千風が、「あ」と声をあげる。
「じんくん、いま、ずれたよ」
「げ、本当だ」顔をしかめる陣区。
座らされた位置から尻をずらして陣区の銃の真横までにじり寄ってきた千風が、照準器をぺしぺしと叩いて。
「ばってんのとこ、合わせたままにするの」
「おう。ちょっ、と、待って」
ふらふらと揺れる銃筒を、千風の目が不安そうに見る。それから一度、標的に目をやったかと思うと、
「ここ!」
甲高い声で叫んで、陣区が調整している銃を、いきなり両手両足を使ってがっちりと抑えこんだ。
「ん?!」
突然の衝撃に何事かと顔を上げようとする陣区に、急かすように千風が言う。
「いま! ここ! うって!」
「そのまま撃てってよ、ジンク」
後ろから陣区の先輩が低い声で言う。
「は、はい」
――ぱぁん!
「だめー、じんくん動くー!」
寝転がってじたばた足を揺らす千風と、
「うーくっそー……」
あさっての位置に弾痕を見つけて、悔しそうに頭を抱える陣区。
「つーか……ちー、スコープのぞかなくても狙えんのかまさか」
「いやまさかぁ」
群衆の中で何人かがぼやく。
「ちーせんせ、拳銃なんてもっと難しいよな?」
不安そうな顔で挙手する久我に、「ん?」と千風が目を向けたところで、
「ぱーす。俺ちょっとあっちで自主練」
愛銃を抱えた陣区が、入れ替わるように久我を押しやる。
「くーがの番!」
両手を広げる千風の前に久我が立って、銃を抜く。
「格子さんみてぇに片手撃ちが理想なんだけど……」
恥ずかしそうに両手で構える久我に、千風は首をかしげて。
「こーし、この前、両手だったよ?」
「え、まじで?」
「ん。みゃじとばとる、したとき」
「……みゃじ?」
「あ、砂の宮地さん?」と別の一人が言い、
「ん」
コクリとうなずく少女。
「ああ……そりゃあなぁ」
皆が納得の声を上げる。
「くーが、肩がウッってなってる」
千風がぴしゃりと言うのに、両肩に入っていた力を慌てて抜く久我。じぃっと久我をにらむように見て。
「んー、なんか、へん!」
「えええ、変ってなんだよー」
眉を下げる久我。
群衆の中から一人が呟く。
「なんか右に寄ってね?」
「確かにな。久我ぁ、もうちょい左に重心、そう、そんくらい」
――ぱぁん!
「惜しい」
「むー、くーがも動くー」
じたばたと悔しそうに足を揺らす千風。
「でもさ、ちーもチビんときは動いてたろ?」
「う?」
「そんとき十堂さん、何つってた?」
「う?」
「おお、ナイス質問」
「だろ」
「んーとね、あのね、持つのは全身でね、撃つのは指だけ、だよ!」
「ほうほう。撃つのは指だけ、指だけ、肩、左、指……」
低い声でぶつぶつと呟きながら狙いを定める久我に、
「いやそれ怖ええから」
と順番待ちをしている先輩からのツッコミが飛び、
――ぱぁん!
すぐ左隣の射座で、わっと歓声が上がった。
「おおモリス一番乗り! 二連続で中央命中!」
「いやまだ感覚つかんでな……」
本人は相変わらずの冷静な表情を崩さずに標的紙を指さすも。
「いーやっ、お前の番は終わりだ、さっさと替われ!」
勢いよく集まってきた年長者たちに有無を言わさず押しのけられる。騒々しい横暴な先輩にため息をついて銃を服の下にしまったところで、目の前ににこにこ微笑む小さな少女。
森洲はぐっと背を丸めて視線を合わせ、
「ありがとう、ちー」
「ん!」
少女は嬉しそうにうなずいた。
***
きゃー、と千風の甲高い歓声。
「「「わっしょい!」」」
自分の射撃に集中していた久我が、どんどん大きくなる騒ぎ声に集中力を切らして背後を振り向くと、いつの間にか、
「……なにごと?」
ちーを胴上げする会が発足していた。
「さっすが、ちーせんせ!」
「えっへん!」
持ち上げられた空中で、誇らしげに胸を張る千風。
「天井、気をつけろよー」
通りすがりの宇村が、呆れ顔でその光景を見やる。
ひとしきり上げられ終えた千風が、すとんと地面に下ろされたところで、
「――あ、いたいた、ちー」
「ん?」
少し開いた扉の隙間から、こいこいと冬瓜が手招きしている。覚えたてのおぼつかないスキップで近寄った千風の手を、冬瓜がつかんだ。
「う?」
冬瓜に引っ張られて、その場でくるりとターンする千風。
「ちょっち付いてきて」
そのまま手を引かれて向かった先は。
「りーだーのとこ?」
「うん」
冬瓜の右手が、鉾良の部屋の扉をノックする。
「失礼します」
そう告げた横顔に珍しく焦りの色がにじんでいるのを見つけて、千風は不思議そうにじっと見上げる。
室内の鉾良が書類から顔を上げる。
「お帰り。どうだった?」
「はい、やっぱり間違いなさそうっす」
「そうか。で?」
鉾良の問いかけに、ぐっと顔をしかめる冬瓜。
「考えたんすけど……あの、数日、俺にちー貸してください!」
そう言うなり、冬瓜は鉾良にがばっと頭を下げた。
「こんな個人的な用事、ちーに頼むの、ホントに申し訳ないとおもうんすけど! でも、あの、俺一人じゃたぶんどーにもできないし、他の鉾のメンツじゃあいかにもエンライすぎて、いきなり連れてったら何事かってすげぇ不審に思われるし、犯人がいるとしてもそんなところじゃまずボロ出さないだろうし……」
「まぁな」
鉾良がうなずく。
「通りすがりのスリの可能性もまだありますし。今後何もなけりゃそれでいいんで、できれば家族にはあんまし心配かけさせたくないっていうか」
「うん。ちー」
鉾良の声に、きょろきょろと周囲を見回していた千風がぱっと顔を上げる。
「冬瓜が家のことで困ってるんだが、お前、手助けしてやってくれないか?」
「いいよー!」
「おお、気前いいな。まだなにも聞いてないのに」
呆れる鉾良と、
「だって、うりちゃん困ってる!」
勇ましくそう答える千風と、
「へ、あ、あざっす!」
まさかの快諾に、目を白黒させながらも喜んでみせる冬瓜。
「てことだ。ちーがいいなら、俺としても異論はない」
「ありがとうございます! ありがと、ちー!」
慌ててしゃがみこんだ冬瓜が千風の両手を握る。えへへ、と浮かれた笑みを浮かべる千風。
「義維も、異論ないな」
部屋の隅にいた義維が、鉾良の問いに黙ってうなずく。
冬瓜が恐縮したように頭を下げる。
千風がそれを真似て、柔らかい髪がひょこんと跳ねた。
***
屋敷を出た二人は、手を繋いで歩道を歩く。
「で、今から犯人探すわけなんだけど……どーすっかなー、見当もつかねーし」
冬瓜がぼやいて頭を掻くのに、
「はんにん?」
千風がきょとんと見上げる。
「おう」
何から説明するかなー、と小さくぼやいた冬瓜が、かたわらの街路樹に視線を向け。
「耐久繊維って分かるか? 衣類に織り込む防弾・防火・防塵性の成分なんだけど。ほら、迷彩服ってなんかごわごわするだろ、あれ」
「ん。ちー、あれ嫌い!」
「でもあれ入れねぇと、銃撃戦数回ですぐダメになんぞ」
「ううー」
「俺の家、あれの工場なの」
「こーじょー?」
「そ。あれ作るのが仕事」
冬瓜の説明にハッとなる千風。
「ちー、工場、知ってる! 行ったことあるよ!」
「おおう。……ちなみに、それって仕事で?」
「ん。32人と、5台撃った!」
おおう、とオーバーリアクションでたじろぐ冬瓜を、少女の丸い目が不思議そうに見上げる。
「まぁいいや、でな。その繊維の作り方ってのは、町工場によって結構違うんだけど、どうやら最近、大手の工場がウチと似た素材を次々と出してな」
じっと見上げる千風の前で、冬瓜の表情が徐々に曇ってゆく。
「ついに、ウチしか作れなかったはずの特殊繊維まで。こりゃあどっからからウチの情報が漏れてるなってことになって。従業員に内通者がいるとか、誰かが侵入したとか、色んな可能性はあるんだけど……俺は、俺のとこが濃厚だと思ってる」
「……うりちゃん、スパイ?」
悲しそうな顔で問う千風に、ぎょっとなった冬瓜があわてて手を振る。
「違う違う、俺じゃなくって! 俺の持ってるデータ!」
「う?」
「工場が火事とか事故で壊れたとしても復活できるように、何人かで分担して、作り方のデータを持ち出してるんだよ。特に、その特殊繊維のレシピ持ってたのって俺と弟だけで、でも弟は先月まで刑務所に入ってたし、漏洩の可能性として一番高いのが、制限区域にまで持ってきてる俺ってわけ」
憂鬱そうに呟く冬瓜。
「ダチとか、鉾のみんなとか、カノジョとか、俺の周りの人間、できることなら疑いたくねぇんだけどな。――説明は以上。なんとなくわかった?」
「んん、ばっちしだぜ!」
「おお。じゃあな、今から俺んち行くけど、怪しい奴とか、気になることとかあったら教えてな」
「うん」
「あと……区域の外だし、相手もそんな物騒な真似はしてこないと思うんだけど、もしなんかあったら、助けてな」
「ん」
「さて、到着ー」
「とうちゃーく!」
立ち止まった目の前にそびえたつ、年季の入った町工場を、千風の両目が興味深そうに見上げる。
「ここで育ったんだけど、細かい作業とか、俺、全然向いてなくて。実家出てふらふらしてるところを格子さんに拾われてさ」
「こーし、えらい!」
「そうなー」
半開きの錆びた鉄扉から、作業着姿の男性が顔を出す。
「おう、ウリ」
「たでーま」
冬瓜の足元にささっと隠れる千風に、冬瓜が笑って言う。
「ちー、これ俺の親父。怖くないぞー」
「う? ……うりちゃんの、おとーさん?」
「そ」
冬瓜のズボンにしがみついたまま、ひょっこりと顔を出す少女。
冬瓜の父親は、息子が連れてきた小さな少女に目を丸くする。
「その子は?」
「先輩の子ども。最近よく一緒に遊……面倒見てんの」
「へー、お前が」
千風はくりくりと目玉を動かして、頭上で会話する二人を見比べ。
「うりちゃん、おとーさんと、そっくり!」
「え、そうか?」意外そうな声を出す冬瓜。
「おお、元気な子だなぁ」
冬瓜の父親は目を細めて笑ったあと、どっこいしょ、と身をかがめて。
「こんにちは。冬瓜がいつも世話になっているね」
「うん!」
「おい、ちー」思わず半目になる冬瓜と、
「う?」それを不思議そうに見る千風。
どっこいしょ、と立ち上がった冬瓜の父親が鉄扉を広めに押し開け、
「まぁ立ち話もなんだ、俺も休憩にすっから、おやつにしようや」
「おやつ!」
両手を挙げて素直に喜ぶ千風に、娘の欲しかった三人兄弟の父は、目じりにしわを刻んで目を細めた。
2016/12/12 修正




