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14.隠居とおにおこ(前編)


「あー、いい天気~……」

ほどよい日差しの差し込む、とあるマンションの一室。

革張りのソファに沈み込んで薄汚れた窓越しに街並みを見下ろし、男はのんびりとしたあくびをひとつした。腹の上にあったタオルケットがずりおちていくのを、裸足の指先でひょいと摘み上げて器用に元に戻す。

扉の外側から錠の回る音。扉が開いて、ニット帽の男がコーヒー片手に顔を出す。

「げ、また泊まったのかよサキ」

「おはよーさん」

サキと呼ばれた男は寝転んだまま、骨ばった白い手をひらりと振る。

「ここはお前の城じゃねーぞー」

ポストから取ってきたばかりの朝刊をばさりとダイニングテーブルに放り投げて部屋を横切るニット帽の男――山暮(やまくれ)に、ソファに伸びたままの男――サキがのんびりと答える。

「いやぁ、最近おれんち、なんだか騒がしくって」

「何したんだよ、オンナか?」

「いやー……」

言葉を濁すサキに、山暮は不審な顔をして。

「あんだよ、取り立て系とか言わないよな。なんでもいいが、ここに押しかけられんのだけはやめてくれよ」

「いやー、ここはまだバレてないと思うんすよねぇ」

あごをさすりながら神妙な顔で呟くサキに、山暮は、うげ、と言ってこの上なく嫌そうな顔をする。

「おいおい、早めに片付けてこいって。そういうのはほっとけばほっとくほど面倒なことになるもんだぞ」

「いや、時期的にはそろそろ落ち着く頃だと思うんすよね」

なんだそれ、と山暮が言いかけたところで、また扉が開く。

「あ、オハヨーゴザイマス」

サキは柔和な笑みを浮かべ、次の入室者にもまた、骨ばった白い手をひらりと振る。

入ってきた男は、ソファにだらしなく寝そべるサキをぎろりと睨みつけ、

――どすん、と室内を揺るがす大きな音。

カウンターキッチンの奥で湯を沸かしていた山暮が、慌てて室内を振り返る。

「……いてて」

ソファから転げ落ちたらしいサキが、顔をしかめて腰を押さえている。

山暮が顔をしかめ、

「おい、またか。やめろよセゼン」

そう言ってコンロを止め、二人に近づこうとして、

「命令すんな」

サキの前に仁王立ちになっている瀬前(セゼン)が、同い年の山暮相手に顔を見もせず、ぴしゃりと言い返した。それから、尻餅をついたままの優男をじろりと見下ろし。

「へらへら笑ってんじゃねぇ。何様のつもりだ、役立たずの新入りが」

「いやぁ、組長の許可はもらってますよ」

ほら鍵、とセキュリティカードを胸ポケットから出して振るサキの手から、瀬前がそれを奪うようにひったくる。

いてて、と弾かれて赤くなった手を押さえて、サキはやはりへらりと笑った。その態度に苛立ちをさらに募らせた瀬前が舌打ちを鳴らし、近くのゴミ箱を蹴り飛ばした。壁にぶち当たって紙くずが飛び散る。

「リーダーも先輩も! なんでこんな何にも使えねぇ奴置く気になったんだか、意味わかんねぇ!」

幹部が全員出払ってるのをいいことに関係あることないこと、すべての悪口をまくしたて始める瀬前。いつものことだ。山暮は黙って眉を下げる。

(何がそんなに気に食わんのかねぇ、朝から)

呆れる反面、まぁでも少しはその気持ちも分からないでもない。ある日ひょっこり現れた柔和な笑みの優男は、何をどうやったのか、手品のようにいつの間にか幹部たちの信頼を根こそぎ得て、あっという間に古参のメンバーの輪に入って気安い冗談を叩き合うまでになった。

癇癪持ちの瀬前の説得を今日も山暮は早々に諦め、肩をすくめてキッチンに戻った。

「ったく。サキの奴も、何で言い返さねぇのかねぇ」

コンロのスイッチを回しつつ、小さくぼやく。ちらりと振り返ると、煙草を片手に律儀にベランダに出て行くサキの薄い背中が見えた。

「別にここ禁煙じゃねぇのに。……ああいうのが意外と、キレると一番厄介だったりするんだよなぁ」


***


さかのぼって――その数時間前。


鉾良の部屋に、蹴りノックを鳴らした千風が訪れ、

「あい!」

通話状態になっている端末をずいっと突き出した。

「誰からだ?」

「ちっぴー!」

にわかに真面目な顔つきになった鉾良が端末を受け取り耳に当てると、すぐさま聞こえてくるのは聞き覚えのある鳥巣の声。

『突然失礼。鹿場(かば)からの直々のご指名があってね。千風さんの身柄、取り急ぎ、借りてもいいかな』

「仕事の依頼ということですね。分かりました。ちーが合意しているのなら、どうぞ」

鉾良は内心の動揺を悟られぬよう、努めて平然としたやりとりをこなす。一度切るよ、と鳥巣に言われて、別れの言葉とともに通話が切れた。その端末を千風に返してから、鉾良はじっと目の前の少女を見つめ。

「その……ちー、鹿場を知ってるのか?」

ぴっと片手を挙げて、千風は淀みなく答える。

「知ってる! シカさんなのに、カバさん!」

「あー、ああ……」

区域内でも評判の物騒な集団を称するとはとても思えぬ、なんとも無邪気な覚え方に、たまらず鉾良は肩の力を抜いて、目の前の書机に頬杖をついた。

「大丈夫か? 必要なら義維、買い出しから呼び戻すが」

「んーん!」

「会ったことは」

「いっぱいある!」

「そうか。嫌なら断ってもいいんだぞ」

「ううん、楽しみ! お友達も、いるよ!」

「……そうか」

良く分からん、と思考を放棄した鉾良を置いて、楽しげにばいばいと手を振った千風が退室する。

部屋に戻るなり再びかかってきた電話を通話状態にしてから、ベッドに転がるテディベアの腹部に端末をぽすんと置き、千風はその横にごろんと寝そべる。

鳥巣の声。

『さてと、家主の許可も取ったし。用件はね、まぁいつものと言えばいつものなんだけど、あのご隠居、またどっかにご隠居されたみたいで。カイエがかなりご立腹だ』

「う? りぷ……?」

『立腹。怒り心頭ってことだね。おにおこ』

「おこ!」

きゃい、と逃げるように両手で顔をおおう千風。

『間の悪いことに、鹿場、今ちょうど盛大な抗争の真っ最中でね。よもや天下の鹿場が幹部、絶世の体術遣いと名高い男がこの危機にふらふら市井を放浪していて行方知れず、などという悪評が立たぬよう、他の組に気づかれぬうちに探し出して速やかに連れ戻せ――という依頼だね。いいかい、本件、鉾の連中にも知られちゃいけないよ』

「あい!」

『既に隠居先の見当はついてる、が、候補がいくつかあってね。可能性の高いところから順に回ってくれるかい』

「あい! ちっぴー、もちものは?」

『そうだなぁ。いつもの三丁と、あと組立式短狙撃銃くらいは持っていったほうが安心だな。持てるかい?』

「ん! おやつは?」

『うん、小さいのを二つまで』

「あい!」

最初の行き先を聞いて通話を切った千風は、まず両手を挙げて部屋を飛び出し、トコトコと廊下を歩いて厨房に飛び込んだ。先におやつを調達したあと、部屋に戻って、言われたとおりの装備を身につける。

「お、ちー。どっか行くのか?」

廊下で雑談していた男たちが、リュックを背負って靴下をはいた千風を見つけて聞く。

「ん! おしごと!」

「おお」

「着いてこっか?」

一人が言うのに、あわてて首を振る千風。

「んーん、だめ!」

「何だよその怪しい仕事。リーダーには?」

「ゆったよ! いいよって!」

男たちは顔を見合わせ。

「なら……いいのか」

「気ぃつけてな」

「ん!」

すれ違う男たちに手を振って、靴を履いて鉾の屋敷から飛び出したあと、しばらく坂道を駆け下りる。

「うーん……遠い……」

徒歩ではたどり着けないことにようやく気づいて、きょろきょろと周囲を見回す。

タバコ屋の店先でカウンターコーヒーを飲んでいるハチマキ集団に向かっていき、

「へぇい!」

彼らの中央で元気よく言って、びしりと親指を立てる。日焼け顔の男たちが、がははと大口を開けて機嫌よく笑った。

「よく知ってるなぁ嬢ちゃん」

「どこまでだ?」

「えっと、えーと、西のね、はいきょ街のね、旧駅!」

「おお。なら、あっちの10台だな。どれに乗る?」

「うーとね、」

ずらりと並ぶ、乱雑に停められた装甲車を見回し。

「あれ! 青いトラック!」

「トラックじゃねぇよ!」

男たちがげらげら笑う。指名された車の運転手が「ほらよ」と助手席のドアを開けてから頭を掻く。

「あ、しまったな、チャイルドシートなんてねぇぞ」

「へーき!」

手をついて四つんばいでタラップを上り、男の褐色に焼けた筋肉質の腕の下を潜り抜けるようにして、千風は身軽に車内に上がりこんだ。上等なシートの上で嬉しそうに数回飛び跳ねたところで、端末が着信を知らせる。

「あい!」

いつもより少し早口な、鳥巣の声。

『悪い千風さん。忘れてたよ、今すぐ足を手配し――』

「いらない!」

『鉾はダメだって言ったろ?』

流れる車窓を、わくわくと眺めながら答える。

「いまねー、ハイウェイ!」

『ん? タクシーでもつかまえたのか? 迂回とぼったくりに気をつけろよ』

「ううん。のまどの、にーちゃん!」

『なるほど、走り屋(ノマド)のヒッチハイクか』

「おとうさんも、よくやるよ!」

『そうだね。足がつかないし、そっちのほうがいいや。いいかい、ちゃんと乗り換えるんだよ』

「ん!」

「おら、着いたぞ嬢ちゃん、廃墟街の旧駅だ」

千風は窓から標識を確認してから、車から下ろしてもらう。

「ありがと!」

アスファルトに両足を着けるなり、男にぺこりと頭を下げる。男は気安そうに笑う。

「いいってことよ。こんな別嬪さん隣に乗せてドライブしたのは随分久しぶりだな、楽しかったぜ」

「あ、おかし、あげる!」

ポケットから取り出した飴玉を突き出すと、男は困ったように頭を掻いて。

「いや、それは嬢ちゃんのだろ? 嬢ちゃんが食いな」

「うん」

千風は言われたとおりすんなりとうなずいて、飴を自分の口に放り込む。口の中でころころと転がし、

「あ、ちっぴー、情報ください!」

『そこからだと(コウジ)商店が近いね』

「だって!」

「ん?」

じゃあなと言って背を向けた男が、タラップの途中で振り向く。

「こうじ商店が安いよ!」

「ん? そりゃまさか……」

「はいおく!」

「おお、慣れてるなぁ嬢ちゃん。分かった、糀商店だな」

「山側のねー、トンネル抜けるの!」

「恩に着る」

猛烈なエンジン音を上げて走り去る青い装甲車を、飛び跳ねながら両手を振って見送り。

姿が見えなくなると、千風は縁石に腰かけて銃を取り出す。電話先の鳥巣と、とりとめのない話をしながら、かちゃかちゃと音を立てて簡易の整備、点検、取り回しの反復練習をして過ごすこと数分。

再び聞こえてきた轟音に、千風は銃を仕舞い直すと、立ち上がって親指を立てた。


***


床に座り込んで目を閉じていたサキが、不意に目を開けた。ソファで新聞を開いていた瀬前が、ゆらりと立ち上がったサキに気づく。何事か考えているような表情でつかつかと向かってくるサキに、

「なんだよ」

すごむ瀬前。サキは答えぬまま瀬前のすぐ目の前まで迫る。革靴をはいたままのサキの右足がすっと上がり――

ソファの肘掛けにトンと乗った。

「おい!」

怒った瀬前が身を起こしてその足を蹴り飛ばそうとするより早く、サキの手が屋根裏へと続く紐を引いた。

「あ」

という小さな声は、開いた扉の向こうから。

「おや」

サキの驚いたような声に、少女はぱちぱちと驚いたようにまばたきする。

「かわいいお客様だ」

目が会うなり、サキは柔和に微笑んで両手をひょいと上げる。

脇に手を差し入れられた少女はそのまま階下に運ばれて、一人用のカウチにすとんと座らされた。

突然現れた女児に、瀬前は顔をしかめ、げ、と嫌そうな声を出す。

「おい、なんだ、そいつ」

「どうしたー? ……お?」

食品庫をごそごそやっていた山暮が物音を聞きつけてやってくる。口にくわえた蒲鉾をもごもごしつつ、暴れる様子も見せない少女の前にしゃがみこむ。

「うーん、少年兵には見えねぇな。そこそこ綺麗な身なりだが、そこらへんの浮浪児か?」

身よりも家も持たぬストリートチルドレンが寒さをしのぐため、民家の屋根裏に入り込むことはよくある。

少女は答えず、ぐるりと周囲を見回したあとで、ぽつりと――万が一見つかったらこう言えばいい、と鳥巣に言い含められていた言葉を――呟く。

「……ごめんなさ、い?」

ほらな、と言わんばかりの顔でサキを見る山暮。

「良かったな、怖いにーちゃんいなくて。今日は幹部、皆、出払ってんだよ」

「ヤマさん、あんまりべらべら……」

「お前、コイツが密偵かなんかに見えんの?」

「いえ、それはないですけど」

「だっろ? ああ、ちょうど昼飯時だし、何か食うか。ガキでも食えるもん、なんかあったっけなー」

ちょっと待ってろ、と言って立ち上がると、上機嫌に鼻歌を歌いながら山暮がまた台所に向かっていく。

「ヤマさん、面倒見いいんだよ」

サキが苦笑しつつ小声で少女に言う。山暮の丸みを帯びた背中が柱の影に消えて、その背を追っていた少女の目が、次にソファに寝そべっている男のほうへ向けられる。

「そちらはセゼンさん。おれのセンパイでね、」

「あ、」

少女の瞳が、寝返りをうった男の、うなじに彫られた鳳凰の刺青を映す。

「とりさん!」

嬉しそうに言った少女がカウチからぴょんと飛び降りて駆け寄り、その背に向けて手を伸ばすのを、

「来んな、うぜぇ」

低く呟く瀬前が、太い腕を振って振り払う。

「わう」

その勢いに驚いた少女がこてんと転んだ。いつもへらへらと笑っていてめったに表情を変えないサキが、わずかに顔をしかめ、

「センパイ、あんまりいじめないほうが」

小さく咎めるのを、瀬前はここぞとばかりに笑い飛ばした。

「あん? いつから俺に指図できる立場になったんだ、てめぇ」

少女は床に座り込んだまま、まばたきを数回して、二人のやりとりをじっと眺める。

そこへ、山暮が戻ってくる。

「ジュースはなかったわ。ジンジャーエールか、牛乳だな」

「あ、おれもなにか飲もうかな。お湯沸かしました?」

と言ったサキが、少女を持ち上げ元通りにカウチに座らせてから、入れ違いに立ち上がって台所に向かう。山暮がローテーブルにお盆を置きながら答える。

「ああ、さっきな。麺ゆでる分は鍋で沸かしてっから、それ好きに使って良いぞ」

「麺? あ、うどんだ。じゃあ遠慮なくいただきます」

山暮が少女の前にしゃがみこむ。

「そんで、ジョッキか(さかずき)しかなかったわ。どっちがいい?」

苦笑して山暮が掲げる二つの食器を、少女の瞳がじっと見比べる。

「珍しいか? ここ、酒飲みしかいねぇからなぁ」

「ええ、おれ違いますよ」

意外そうな声音で反論しつつ、サキが戻ってくる。その手が持っている陶製の茶器一式を見て、山暮は怪訝な顔をする。

「そんなもんあったっけ?」

「おれの私物です。他の人に使われないように、奥のほうに隠してあるんすよ。――お茶、飲む?」

「のむ!」

少女がぱっと差し出した両手に、サキが湯のみを渡す。少女は途端にニコニコしながら、両手で持った湯飲みを傾け、薄茶をすする。

床に着かない足が宙でぱたぱたと動くのを眺めつつ、サキがのぞきこんでたずねる。

「美味いー?」

「ん!」

「ここ、水が美味いんだよね。屋上に浄水器付いてんのかな」

「サキが淹れたのは飲むのかよ」

先に挑戦してフラれた山暮がぐいっと牛乳をあおったあと、ジンジャーエールを瀬前に渡し、悔しそうに食品庫に戻っていく。

そのわずか数秒後、部屋全体がどかんと揺れた。

「なんだ?!」

慌てて立ち上がり懐から銃を抜いた瀬前が、窓際に張り付いて外の様子をうかがい。

「お、おい、やばくね?!」

炎と煙を出してがらがらと崩れていく階下の家屋を見て、焦ったような大声を出す。

キッチン側の窓に近寄った山暮も、

「おいおい、どんどん増えてくぞ」

二車線の道路を封鎖するように、乱雑に停められていく十数台の迷彩柄の装甲車を見下ろす。

「ていうか、あいつらどこの機だ?」

「ライフル砲なんか乗っけてやがる」

「その弾でもビクともしない、あっちの複合装甲はなんだよ」

「ここらのエンライがあんなもの持ってるなんて聞いたこと……まさかロウシンか?! なんでこんなクソ狭ぇとこに」

またたく間にすべての窓ガラスが下方からたちのぼる黒い煙で覆われ、その向こうにちらちらと大小の赤い炎が見え隠れする。

天井からぱらぱらと建材の破片が降ってくるのに、少女が顔を上げる。

「おいおい、まったり茶ぁすすってる場合か。逃げるぞ」

ソファに座ったままのサキと少女に、山暮がヘルメットを手渡す。

「うーん、こんくらいならまだ大丈夫じゃないっすかねー」

足を組み直してのんびり答えるサキに、すでに顔面蒼白の瀬前が怒鳴る。

「何言ってる、外見てみろ! すぐ下で自走砲やらライフル砲やらがドンパチ始めてんだぞ?」

「すぐどっか行きますってー」

どたばたと荷物を掻き集めて隣の部屋に飛び込んでいく瀬前。山暮は食料品を詰めたリュックを背負う。

二人の慌ただしい様子を眺めて、サキの隣、少女がこてんと首をかしげる。

弾丸の装填数を確認しながら隣の部屋から戻ってきた瀬前が、椅子にかけてあった黒いジャケットを羽織り、ウェストポーチを締める。

「おい、お前は金庫持ってこい!」

そう言いながらさっさと玄関に向かう瀬前がドアの前でいらだったように振り返り。

「置いてくぞ!」

そう怒鳴った直後、部屋の外から、どかどかと騒々しい足音が近づいてくる。瀬前の目の前で、扉が外側から蹴破られた。

「動くな!!」

突然の咆哮じみた怒号。狭い部屋にびりびりと響き渡る、その声は女のもの。

先頭に立つ女の顔を見るなり、瀬前の顔がざあっと青ざめた。

「し、鹿の……カイエ?!」

このあたり一帯を取りしきる筆頭ロウシンの幹部だ。その手には薄く白煙を上げる、愛銃である最大口径のマシンガン。

「……な、なんで、こんなとこに……?!」

柱を背にして両手を挙げた山暮も目を白黒させて、なんとかそれだけ呟く。

動揺しきった二人が動けないでいる間に、女の後ろから更に、完全武装の数十人がずかずかと室内に踏み込んでくる。

「か、勘弁してください……ッ!」

ガタガタ震えながら瀬前が言うのに、海江(カイエ)は一瞥もくれずに。


「で、何してるんだ、キサキ」


まっすぐにサキだけを見て、酷く冷たい声で、ぴしゃりと言い放った。


作業BGM:MAN WITH A MISSION

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