・・再会
「お~い、そっちの木材を取ってくれ」
「・・これで良いですか?」
「おう、重たいから気をつけろよ」
「大丈夫ですよ。これでも一応冒険者ですからね」
村の人達と一緒に騒いだ翌日、僕達は村の復興の手伝いをしている。
「じょ、嬢ちゃん・・・大丈夫か?・・・落とすなよ?」
「大丈夫です。まだまだ持てますよ?」
「・・・・・まだ持てるのか・・」
ミンクは僕と一緒に資材の持ち運びの手伝いをしている。
家を建てるぐらいの支柱を何本も纏めて運ぶミンクに村の人達は初めは驚いたけど、次第に小さな体に負担になってないか心配するようになった。
ミンクは、自分の怪力で人の役に立てる事を喜んで、いつも以上に張り切っている。
そんな様子が分かる村の人達が、ミンクの姿をハラハラとした感じで見ているのだ。
「俺だってそれぐらい持てるぞ!」
「はい、無理な事言ってないであっちの人にこれを配ってくるっす」
「・・・・・俺だって皆の役に立ちたい」
「十分に役に立ててるっす。ヴォルが持っていった食事を皆笑顔で食べてるっすよ」
まだまだ小さいヴォルとそのお守りのナナシさんは、復興の段取りを各人に伝えたりと雑用な事をしている。
現在は、ちょっと早い昼食を配っているところだ。
「そうじゃなくて!もっと・・こう・・・皆の役に立ちたいんだ!」
「なら、私も真面目な話っす。皆の役に立ちたいというのだったら、今自分が何ができるのか?を考えて、周りを見て何をしないといけないのかを考える必要があるっす。正直、男のアルトと力持ちのミンクちゃん並に体力が無いヴォルトや私があっちを手伝っても邪魔になるだけっす。でも、手が離せないアルト達に休憩や食事を持っていく事が出来るのは自分たちだけっす。私達まであっちに加わったら誰がこれを持っていくっすか?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「それにヴォルは勘違いしているっす。ヴォルが持っていった食事を皆どういう表情で受け取っていたっすか?」
「・・・・分からない」
「周りを見ていない証拠っす。よく見てみるっすよ。皆笑顔でヴォルから受け取っているっす。ヴォルは皆に食事と一緒に元気を渡していっるす。これは、ヴォルにしか出来ない事っすよ?」
「・・・ナナシ姉ちゃんに渡されている男の人は嬉しそうだよ?」
「あんなエロ親父は無視するっす。どうせ奥さんに後から叱られるっすよ」
「酷い!」
休憩中の人達から笑い声が聞こえてくる。
ヴォルがどうにかしたい気持ちは十分に分かるけど、適材適所。ナナシさんやヴォル達が雑用的な仕事を済ませてくれているのでこっちとしても動きやすいのだ。
そういった事を後でヴォルに教えようと思い、目の前にある山のような資材を持とうとしているミンクを止めることにする。流石にあれは無理だろ
そんな感じで、徐々に復興作業が進んでいると村の入口から大きな歓声が聞こえてきた。
「・・また、大物っすね」
「・・・・・」
すぐ隣に来ていたナナシさんと一緒に入口の方をみる。
入口にいるのはケントパーティーで、村の近くにいる魔物を狩ってきているのだ。
無論ギルドの依頼である。
川の氾濫で魔物の縄張りが崩れたことによる、被害を抑える為なのだ。
広場にはこの村に来る前に遭遇した暴れ猪や家畜や人を空から襲う大鳥、腕が四本ある熊などDランクからCランクの魔物が死体となって積み重ねられている。
肉は村の食料となり、皮や牙などは商人に売れるので村としては非常に助かる物なのだ。
ケント達は、倒した魔物の一部を受け取る事もできるし、討伐部位をギルドに提出すれば魔物のランクに応じた報酬が貰える仕組みとなっている。
「・・・・・・」
「悔しいっすか?」
「・・・・悔しくないといったら嘘になります」
師匠の弟子という事だけではなく、同じ冒険者としての差まで見せられているようでモヤモヤとした気持ちが沸き上がってくる
「もし、アルトがあのくらいの実力があればあっちの方を優先したっすか?」
「・・・・・・・」
もし、自分があのくらい強い存在であれば、村の復興のしかも荷物運びなんかせずに、強い魔物を倒して皆から喜ばれる存在になれる
「・・・・・・いいえ、もしあのくらいの実力があっても僕はこっちを選びます」
自分がそうなっている想像がつかない事もあるけど、みんなと一緒に汗水流している方が自分の性分に合っていると素直にそう思ってしまう。
「そういうアルトだから私達は付いていけるっす。まぁ、男の子としては憧れるのは分かるっすけどね?」
「そうですね・・・・憧れるのは本当ですが、今自分ができることを精一杯することが大切だと僕は思います」
「そう言えるアルトは一番格好良いっすね」
「・・・・・・・」
「アルト照れ萌えっす」
「・・・・早く仕事に戻って下さい!」
いやぁ~と巫山戯た悲鳴を上げながら逃げるナナシさんを追いかけていると村長さんがこちらに来るのが見えた。
「おぉ、こちらにいましたか」
「どうかしましたか?」
「アルト殿から受け取った物で商人相手に売れなかった物を保管していたのを忘れていましてね。昨日の晩に渡すつもりだったのですが・・」
「そうですか・・・態々有難う御座います。」
「では行きましょうか」
近くにいた村の人に少しこの場を離れる事を伝えて村長の後についていく事にした。
「なら、私達も一緒に行っても良いだろうか?」
「おぉケント殿。魔物退治見事ですな。これだけの魔物を少ない人数で倒せるなど他の人には真似出来ないですよ」
「これくらいできて当たり前ですよ。私は、マコト師匠の一番弟子なのですから」
村長の後を着いて行く途中に彼が声を掛けてそのまま村長と話をしてしまう。
聞こえてくる会話は、村長から彼を讃える内容とそれを当たり前のように受け取る彼の返事だった。
「そう言えば、アルト殿も冒険者でしたな。ケント殿と知り合いなのですか?」
村長が黙っている僕に気を利かせたのか、急に振り向いて尋ねてきた。
「いえ、此処に来る途中に助けられてそれが最初です。ランクも僕はEランクですので・・・」
「君はEランクで此処まで来たのか?自殺行為だぞ」
「ははは、気を付けますよ」
本当は旅をしていて依頼ポイントを稼げてないだけだけど、そこを彼に説明する義理はないので愛想笑いで誤魔化すことにした。
まぁ、現にDランクの暴れ猪を倒せなかったのは事実なのでそれは忠告として受け取る事にした。
「おや?アルト殿はそれ程ランクが低いとは思いませんけどね?海向こうの大陸から来たとお伺いしましたけど」
「ランクが低いのは本当ですよ。まぁ実戦は僕だけが戦う訳ではありませんからね。ナナシさんにいつも助けて貰ってますよ」
「・・・・・情けない」
僕がそう言った時に、心底軽蔑したという風な彼の言葉が聞こえた
「何がですか?」
「情けないと言ったんだ。男である君が女性に庇ってもらっている状況に何とも思わないのか?私は耐えられない。そもそもそういった実力が付いてから旅をするものじゃないのか。他のパーティーメンバーの迷惑になるぞ」
「・・・情けないのは事実ですけどね。僕も出来れば貴方が言うようにしてみたいですよ。でも、理想と現実は違います。僕がいくら力を願ってもそう簡単に手に入る物ではないですし、急に旅をする事になる事だってあるんですよ。そんな中で、出来もしないことを見栄を張って無理にしようとする事こそ他の人の迷惑になると思いますが?」
「それは努力をしていない人が言う言い訳に過ぎない。自分の未熟をそんな言い訳に変えるな。もっと惨めに見えるぞ」
「・・・・・・みんなが皆、貴方達程才能がある訳じゃないんですよ。出来ないなら出来ない中で最善を尽くすようにすることはいけない事ですか?」
「それは当然の事で、出来ないことを出来るように努力をするべきだと私は言いたいんだ」
それが出来ればどれほど良かった事か・・・
もし、彼のように頑張れば頑張るほど、努力すれば努力するほど実力が上がれば師匠は僕を見捨てなかっただろうか
努力をすれば報われる。
師匠が僕によく言い聞かせていた言葉だ。
それを信じて、周りの人が一足先に出来るようになっていく修行も遅れながらも着いて行く事ができた。
一つできることが増える事でその言葉が正しいものだと実感していた。
それでも、周りと自分との実力の差が目に見えて分かり落ち込む事もあった。
努力すれば報われる。
その言葉を否定するつもりはないが、努力した人全員が全員報われる事ができるのか?と言えば果たしてどうなのだろうか。
「・・・・頑張ったって、努力したって、届かないものもあるんですよ・・・・」
だからと言って、僕は努力を諦める事はしない。
どんなに頑張っても届かない場所に僕の求めている場所があるのだから・・・
その事を師匠に拾われてからずっと理解していたのだから・・・
だから、僕は努力することを諦めない。
彼が僕の事を情けないと思っても、惨めだと蔑んでも、僕は僕なりに進んでいく。
「だからそれは頑張りが足りな・・・」
「おっと着きました。すぐに持ってきますので、中に入って待っていて下さい。」
悪くなっていく雰囲気を誤魔化すように、村長が声を上げて僕たちを家の中に促してくる。
彼はまだ何かを言いたそうな雰囲気をしていたがそれを引っ込めて家の中に入っていく。
僕が家の中に入る途中に、村長と目が合って謝られたが首を振って否定しておいた。
トントン
村長さんを待っている間彼と僕の間にそれ以来会話がある訳もなく、ただ座って待っていると扉からノックが聞こえて来た。
「??」
一瞬村長かと思ったけど、村長ならすぐに入ってくるはずである。
首を傾げながら様子を見ていると、もう一度ノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ、開いてますよ」
何で彼が言うのだろうかと思いながら、でも確かにずっとこのままではいけないな思い、何も言わずに扉の方へ注目する。
「!!」
扉を開けて入ってきた人物と目が会った瞬間、部屋の中にいる全員が息を呑むことになった。
入ってきたのは師匠が考えたというメイド服を着た二人の少女であった。
二年前より二人共綺麗になっていたけど、しっかりと面影も残っていて誰だかすぐに分かった。
茶色いふわっふわっの髪を後ろで一つに纏めている少女はジルという名前で
薄い色の銀髪を短く整えている少女はノアという名前であった。
二人共、以前より僕の事をご主人様と呼んで世話をしてくれていた二人だった。
「な、何で此処に・・・」
「お、お会いしたかったです。ご主人様」
「ずっと待っておりましたご主人様」
「ジルにノア?どうして此処にいるんだ?」
ケントが当たり前のように二人を呼び捨てにしていることに少しイラっとしたが、自分が知らない二年間があるので何も言えないでいた
「ケント様も一緒にいらしていたのですね」
「わ、私達はご主人様を迎えに来たのです」
「ご主人様?」
「僕を?」
二人の視線が僕に集中して、二人が言っているご主人様が誰なのかを理解できた彼が驚いた表情になった。
「お迎えに上がりましたご主人様。皆様がお待ちしています」
二人が僕の目の前まで来て、膝を着いてお辞儀をした時に村長が入ってきた。
「アルト殿これ・・・なのですが・・・・一体どういう状況で?」
村長が持ってきたのは、少しボロボロになっていたが、使い込んで色が濃く変わってしまった、旅に出る前に師匠から渡された木の棒×2であった。
村長は、驚いている僕とその僕に膝をついている二人のメイド、そして驚いている表情をしている彼をみて最もな疑問を口にした。
取り敢えず二人の話を聞くことになった僕達はそのまま村長の家を借りることにした。
「なんで私達まで呼ばれるっすか?」
「さぁ?何ででしょう?二人が全員集めてと言ったので・・・・・なんか機嫌悪いですか?」
「そう見えるっすか?」
「・・なんでかそう見えますね」
「そうっすか」
「・・・・・・」
ジルとノアの二人は僕に説明をする前にナナシさん達を集めてくれとお願いしてきた。
特に疑問を持たずにナナシさん達を連れて来たら、二人の姿をみたナナシさんが何故か不機嫌になった(なんとなく)のだ。
「こちらにいる方々で全員ですか?」
「ここにいる人達で全員だね。・・・彼らは違うけど」
「・・・ふん」
二人の話を聞くとなった時に彼はその場を離れようとせず、中々帰ってこない彼を心配したパーティーメンバーが呼びに来ても動こうとはしなかった。
どうやら、このまま僕達の会話を聞くつもりらしい。
「ケント様・・・あまりにも常識に欠ける行いだと思うのですが・・それに、私達の方からご主人様にお願いしているのですよ?」
「ふん、私は彼の事を信じていないのでね。”いつも””色々”お世話になっている二人が心配なのだよ。」
ノアが一度彼に遠まわしで出て行けと言った時に、彼はそう言って僕をキツイ目で見てくるのだ。
二人とも彼の事を知っているのか、諦めた表情で僕に許可を貰うように伺ってきた。
僕は、二人と彼のパーティーをチラリと見て、肩を竦めてみせた。
「・・・・では、お話させて頂きます。その前に、旦那様からご主人様のお仲間の方々に伝言があります」
「・・・伝言?」
「はい、・・・・・”ゲームはこっちの勝ちだ。これで俺を撒いた事はチャラにしてやる”・・・だそうです。私達も何の事か分かりませんが・・・」
「ッ!」
「ど、どうかしましたか、ナナシさん」
「・・・・・いえ、なんともないですよ」
言葉が普通になっているから、師匠からの伝言で何かを感じた事は確かだと思うのだが・・・・ナナシさんの雰囲気が不機嫌からピリピリしている様子に変わったので何もいう事ができなかった。
ヴォルとミンクはそんなナナシさんが怖いのか、若干離れて僕の方へ寄ってきた。
「・・・それで話とは?」
寄ってきた二人の頭を撫でながら、話を進めることにした。
・・決して、ナナシさんが怖い訳じゃない。
「話と言っても、要件はただ一つです。ご主人様を迎えにきたのです。色々な手違いでご主人様を追い返す様な事になりましたが、皆様ご主人様が帰ってくるのをお待ちになられています」
「・・・・・」
師匠に会うことを決心しても、急に言われると決心が揺ぎそうになるが
「ちょっと待つっす」
「・・・なにか?」
頷いて、二人に着いていこうとするとナナシさんが待ったを掛けた。
「アルトがあの人に会いたがっているのは良く分かるっす。その為に今まで旅をしてきたっすからね。でも、この村から嬉しそうに出て行ったアルトを迎えに行った時、アルトがどんな表情をしていたか知っているっすか?」
「・・・・・」
「道の真ん中でどこに行けば良いのか分からない、迷子のような、悲しいようなそんな表情をしていたっす。」
あの時、そんな表情をしていたのかと、改めて、聞かされるとすごく恥ずかしい気がしてくる
「それなのに、迎えに来たのは本人じゃないと言うのは、アルトの事を軽く見ていると思われても仕方がないっすよ?勿論、私達としてもそう言う人の所にアルトを連れて行く訳には行かないっす。・・・・アルト自身がそれを望んでいたとしても、アルトが傷付く可能性が少しでもあるなら私達はアルトを行かせる訳にはいかない。・・・アルトのあんな顔は二度と見たくない。どうしてもというのであれば、あの人が直接こっちに来てちゃんと説明をして欲しい。・・・・私が言っている事は間違っているっすか?」
徐々に熱くなっている自分に気付いたのか、最後はいつもの雰囲気に戻ったナナシさんであったがジル達を見る目は真剣そのものであった。
ヴォルとミンクも僕の事を心配してか、抱きつく力が少し強くなった感じがした。
ナナシさん達が僕の事をそれ程大切に思っていた事に驚き、そしてとても心が暖かくなった。
「ナナシ様が仰っしゃる事は正しいです。本来なら首に縄を付けてでも旦那様をお連れするつもりだったのですが、事情がそれを許しません。お嬢様達は・・・・・色々あって身動きができないのです。それで、私達が選ばれて此処に来たのです」
「選ばれて?」
「な、なんでもないですよご主人様。ちょっと、ほんのちょっと皆様張り切りすぎただけですので!」
「そのお陰で、私達にお鉢が回ってきたのです。・・・所謂、棚からぼた餅です」
何の事か分からないけど、ジルはワタワタし始めるし(説明する時はしっかりしていたけど・・)、ノアは小さくガッツポーズを作っているし(こちらもさっきまでの真面目な雰囲気ではない)で、あぁまたなんか師匠がしたんだなぁと直感的に思ってしまった。
「はい、二人とも落ち着いて。取り敢えず、ナナシさん達の気持ちは嬉しですけど、僕は会いに行こうと思います。どうなるか分かりませんが、ケジメだけは付けたいので」
「・・・・アルトがそういうのであれば好きにするっすよ。当然私達もついて行くっすよ?良いっすよね?」
「・・ごほんっ。それは当然です。旦那様からもお連れするように言われていますので・・・それに私達もナナシ様達とはお話したいと思いますので」
「ナナシ様には、私達と同じ匂いがしますので」
「・・・・なんか癪っすけど同じ意見っす。特にそっちの銀髪の子・・ノアだっけ?すごく気が合うような気がするっす。」
「恐縮です」
「え、え~と、ヴォル様とミンク様も一緒に来て頂けますか?美味しいお菓子もありますから」
「行く!」
「・・・皆が行くなら」
ナナシさんの雰囲気が元に戻ったからか、ヴォルはお菓子と聞いて即答して、ミンクはそんなヴォルと僕達(特にナナシさん)をオロオロとした表情で見比べて小さな声で頷いた。
ミンクは行きたくないのではなく、お菓子に釣られて即答してしまったヴォルがまたナナシさんに怒られるのではないかと心配していたのだ。
そんな優しいミンクの頭を撫でて、喜んでいるヴォルに近づいているナナシさんの姿をみて苦笑する。
「ちょっといいか」
そんな風にいつも通りに戻った風景に口を挟んでくる存在がいた。
ずっといる事は分かっていたけど、意識的に存在を無視していた彼だ。
「どうかしましたか?まさか口を挟んで来るとは思っていませんでしたよ。唯でさえ、勝手に僕達の会話を聞いていたのですから」
流石に怒ってもいいのだろうか?
師匠の一番弟子という立場やジル達と親しい仲だという事を除いても、一人の人間として彼の行動にだんだんと腹が立ってきた。
「煩い、黙れ。君には聞いていない。ノアとジルは一体どうしたんだ?さっきから彼の事をご主人様とか・・・君達の主人はお師匠様だろ?それになんだ、さっきから聞いておけばお師匠様に会うのだ会わないのだ、私はそんな事聞いてないぞ」
「いい加減にして下さい!ケント様!強引に私達の話に入り込んで、終いには自分は聞いていない?当たり前です。この件については貴方は部外者です。偶々此処にご主人様と一緒に居ただけなのですよ!」
「それに言ってはいませんでしたが、此処にいるアルト様が私達の本当のご主人様なのですよ。私達が今旦那様の所にいるのは、旦那様がアルト様が帰ってくるまで雇ってくれたからです。」
急にジルが怒り出してしまい、僕が言いたいことを言ってしまった。それに、いつもあわあわしていたジルが怒る所を初めて見たので特に驚いてしまった。
そして、ノアの本当のご主人様が僕だという発言にもっと驚いてしまった。
確かに、昔から僕の事をご主人様と呼んでいたけど、特別なことはしてないし、ただ単に呼び方の違いだと思っていたのだ。
「な、なら、一体彼は何なんだ」
「お気づきになりませんか?」
「少し観察力が足りないのでは?いえ、ご主人様に興味がないのですね」
「何を言っているんだ」
「ご主人様に会うのは約二年振りですがすぐに分かりました。二人とも同じ物を旦那様から受け取っているのですから」
そう言って、二人は僕と彼を交互に見比べる。
僕は気が付いていたけど、彼の方は全然気が付いていなかった様子だ。
「・・・・答えはこれですよ」
混乱しているのか、それともジル達に口答えされた事に驚いたのか知らないけど、思考が停止気味になっている彼に答えを教えようと左腕を上げた。
「・・ッ!それは」
その事で、彼は僕の左腕に着いていた物が目に入り、慌てて自分の左腕に着いている同じ物を確認した。
「貴方がなんて言って渡されたのか知りませんけど、僕はこれを受け取った時にこう言われましたよ”必ず着けておきなさい。それが証になるから”と」
正確には、誕生日プレゼントとして貰った物だから少し言い回しが違うが、僕はこれを師匠の弟子である証であると思っている。
この旅の最終試験に期限はない。ただ、唯一リタイア条件として掲示されたのがこれの破壊だった。
これが壊れたら試験は強制終了。そう言われていた。
だから、彼が同じ物を着けているのをみてやっぱりそういう事なんだなと納得していたのだ。
「私達はご主人様が旦那様から受け取った事は知りませんが、ケント様が受け取った時の事は覚えています。それが旦那様のお弟子様であるという証です」
「いや・・これは・・そうだ。彼が持っているのはきっとどこかで買った物だ。そうに違いない」
「同じ素材、同じ編み方、同じ魔力の流れ・・・そんな物がこの世にいくつもあるのでしたらそれはそれですごいと思いますが・・・現実を見てください。これは、旦那様にしか作れない物です」
「じゃ、じゃぁ・・・彼は・・」
「そうです。旦那様の最初のお弟子様です。ケント様の兄弟子という事になります」
ノアが静かに告げると彼は左腕に着いているそれを握り締めて顔を伏せてしまった。
「・・・・い」
「・・何ですか?ケント様」
「・・と・・ない」
「ケント様!」
彼の仲間が心配しているが、彼は聞こえていないのか小さい声でブツブツ何かを呟いている。
「認めない!彼が私の兄弟子だと?笑わせるな!私はお師匠様から何も聞いていないんだぞ!」
彼はそう言って僕に初めて視線を向けた。
師匠の弟子である証として貰った、ミサンガを握り締めたまま
おまけ
「そう言えば、お前あのミサンガあいつにも渡して良かったのか?」
「良かったというと?」
「いや、だってあれは・・・・」
「まぁ、あいつに渡した時は違った意味で渡したんだがな・・・受け取った方がそう勘違いしてしまっていたしな」
「それで急遽旅の条件に加えたという訳か」
「勘違いするなよ?リースも言っていたが、俺はあいつの事が嫌いな訳じゃない。弟子を取らないと言っていた俺に最後まで粘ったのあいつだけだったしな」
「それであいつにも同じ物を?」
「片や平凡で特別な力を持っていない主人公、片や才能があり皆からも憧れる主人公。二人に渡したあれが開花する時どうなるか楽しみじゃないか?なぁ望?」
「それは非常に気になるな」
「だろ?だから、俺はあいつにも同じ物を渡したんだよ。俺の弟子である証としてな」
「二年間、旅をして経験を積んだあいつか、二年間、俺達と一緒に修行をしたあいつか、どっちが強くなるかね?」
「強さも色々あるからな」
「そうか」
「・・・・・男二人だけだとオチがないな」
「オチ言うなよ」
「・・・なら、少し話を変えて」
「・・ちょっとは話が続くような話題にしろよ?足が痛いから・・」
「そう言えば、なんで俺たちは正座をさせれているんだろうか?」
「お・ま・えの所為だろうが!お前が娘達を戦わすから!しかも勝者は、メイド二人とか!」
「いや、だってあいつらもハーレム要因だぞ?」
「ハーレム要因言うな!」
「いやぁ、やっぱり世界観が違うとハーレムも受け入れやすいのかね?俺は無理そうだったけど」
「俺は・・まぁ・・嫁さん三人いるし・・なんとも言えないけど」
「お前の場合は、優柔不断なだけだ」
「煩いよ!・・・その通りだけど」
「娘はアルトの取られて」
「取られた言うな!」
「リースにお前の娘っ子三人、ルックの娘に、メイド二人か・・・すでに七人・・・異世界主人公やばいな」
「異世界主人公は俺達だったんだけどな」
「これは所謂2ってことだろ?っていうより、俺が主人公を育てたんだが」
「お前が、俺たちの子供は娘になって次の主人公に寝取られるって言うから!」
「1の主人公っていうのはそう言う役割なんだよ」
「”お父さん大好き”って言っていた頃が良かったな」
「あ、目が死んだようになったな。帰ってこい~」
「・・”お父さんのお嫁さんになるって・・・”」
「あ~ダメだなコレ・・・・そう言えば、俺は分かるけどなんで望まで正座させられているんだろう?」