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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
これまで、そしてこれから(過去編)
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ジルの場合(3)

洞窟ゴブリンの異常増殖。

これが今回の悲劇の原因だとお爺様が教えてくれました。

山を挟んでアルト様の村の反対側にも町があって、そこで増え過ぎた洞窟ゴブリンを討伐することになっていたそうです。

その討伐にマコト様とお爺様が参加していたらしいのですが、その途中で落盤事故が起こり、山の反対側の洞窟に穴が繋がってしまったのです。

それも、洞窟ゴブリンが作っていた巣の近くがです。


マコト様やお爺様が異常に気付けたときは、もうすでに大量のゴブリン達が別な洞窟に流れ込んでいたそうです。

ゴブリン達を倒しながら進んでいる時に、瓦礫の下に埋もれていたロス様を救い出し、急いで洞窟を抜けるとアルト様達が殺されそうな所に出くわして、英雄マコト様の代名詞でもある雷魔法で外にいたゴブリン達を一掃したという事です。


私達はあの後お爺様にこっぴどく怒られました。

お爺様に怒られながら、もうアルト様は怒ってくれる血の繋がった家族がいないだと思うと、とても悲しい気持ちになりました。


あの時村から離れていなければ

あの時アルト様を素早く見つける事が出来ていれば

あの時アルト様以外の事を切り捨てていれば、あるいは・・・

何てことを今でも考えてしまいます。

アルト様に一度今回の件で謝りに行ったことがあるのですが


「それは違うと思います。今回お父さん達が死んだのは山の反対側の出来事をしっかりと情報収集していれば防げたのかもしれませんし、お母さんの事に関しては、僕の判断ミスです。逆にノアさんやジルさんたちは多くの人を助けたと聞いています。凄いじゃないですか」


と言われてしまったのです。

そう言われると、私達は何も言えません。


村の復旧作業と繋がってしまった反対側の町との交渉。

亡くなった方や怪我をした人が多く居ても、やる事は沢山あって村の人達は悲しみに暮れる間もなく働いています。

もしかしたら、働くことで考えないようにしているのかもしれませんが


そんな中、とうとうこの村から出て行くことになりました。

私達は元々外部の人でしたし、アルト様は故郷であっても血の繋がった親族が誰もいないという事で、今まで通りマコト様の所でお世話になるそうです。

ただ、帰る前に少し寄りたい所があるとアルト様が仰って、今は皆でアルト様の後を付いて歩いている所です。

村からそう離れていない所にその家はありました。


「・・・ここが昔僕が住んでいた家でした」


ここもゴブリン達が徘徊していたのでしょう。ボロボロになってしまっている家を見てアルト様がとても悲しそうな表情をしています。

アルト様は、ボロボロになってしまった家を懐かしみながら見渡して、そのまま家の中に入って行ってしまいます。

私達も続こうとしたのですが、マコト様とお爺様は二人そろって首を振って入ろうとしません。


「お爺様?」

「今はそっとしておきなさい」


そう言われて、じっとアルト様が戻ってくるのを待つことになった。

ただ、私は居ても立っても居られなくソワソワとしてしまう。

隣にいるノアも平然としているように見えるけど、目がアルト様が入って行った扉に集中していて、いつでも飛び出せるように構えているように見える。

私も何があっても良いように構える。

もう二度と、あのような失敗をする訳にはいかないのだ。


そこまで考えて、あれ?と不思議な感じがした。

アルト様との関係はまだ”仮”の状態だ。

それなのに、今の私達の考えと行動はこれからもアルト様に仕えるのが当たり前のように、”仮”ではなく”本当”の主従関係になっているような気がする。

その事をノアに聞こうと口を開こうとしたら、アルト様が入って行った家の中から何かが落ちたような大きな音が聞こえて来た。


「アルト様!」


マコト様とお爺様が動くよりも早く、私達は二人して家の中に飛び込んでアルト様を探す。

アルト様はすぐに見つかったけど、地面に座り込んで顔を下げていた。

アルト様の周りには、色々な物が落ちていて、どうやら残っていた荷物を開けようとして落としたようだ。


「アルト様・・・」


身動きしないアルト様の事が気になって声を掛けるとアルト様はゆっくりと顔を上げた


「ッ!」


その顔が、その表情が今にも泣きだしそうで、迷子になった子供のようで驚いてしまった。

そして咄嗟にアルト様を抱きしめてしまった。

ノアも後から二人でアルト様を守る様に抱きしめる。

咄嗟の行動とは言え、少し恥ずかしいけど今のアルト様を放置する事は出来なかった。

家族が亡くなって、気丈に振舞い大丈夫のように見せていた仮面の笑顔すら保てなくなるほど、アルト様の心は限界だったのだと今気付いた。

私達の温もりが少しでもアルト様の力になればと思って、抱き着く力を少し強める。


「・・・二人ともありがとうございます。もう大丈夫ですよ」


少し恥ずかしそうなアルト様の声。

その声からはいつもの様子が感じられて、抱き着く力を緩める。

アルト様の顔はまだ、大丈夫だとは言えないぐらい青白かったけど、先程までの壊れそうな感じはしなかった。


「この家にもまだ荷物が残っていた事に驚いてしまいまして・・・中を見てみたら懐かしい物一杯あったから・・・」


アルト様は床に散らばった一つ一つの想い出を語りながら、それを箱に大事に仕舞っていく。


「アルト様・・・・」


その様子になんと声を掛ければ良いのか分からなかった。

そして、アルト様が思い出を語り終えるまで、想い出を箱に仕舞うまで私達は手伝う事すら出来ないでいた。

私達が触れてしまったら、アルト様の想い出が穢れてしまう、そう思ってしまったのだ。


「お父さんは優しくて、お母さんはもっと優しかったです。怒られた事もあるけど、甘やかされた事の方が多いと思います。だから、僕は家族の為になるならと思って身売りしました。お父さん達がどう思うかなんかちっとも考えていなかった様な気がするんです。再会したお父さん達は、僕の事を後悔していて、僕も久しぶりに会って一人だけ生き残ってしまったから真っ直ぐ見られなかったんです。これから時間があるから、またやり直せばいい。そう思っていたのも事実です。・・・・・時間なんてあっと言う間に奪われてしまうのだと分かっていたのに、奴隷時代何の意味もなく殺されてしまう仲間を見ていたのにも関わらず、そう思っていたのです」


こちらに話しかける様な、自分に語り掛ける様なそんな感じでアルト様は話し続けます。


「だから、僕はもう後悔なんかしたくありません。逃げたくなんかありません。前へ、前に進みます。お父さんが願った強さを得るために、お母さんが願った人を助けられる人になる為に、立ち止まってはいられません。僕は弱いから、だから」


今度はしっかりとした視線でこちらを見てくるアルト様の姿に正直私は見惚れていた。

私だったらどうだっただろうか?

お爺様が亡くなり、ノアが亡くなり、フィーナお姉様達もいなくなったとして、私は今のアルト様のように立っていられるだろうか


・・・多分、無理だと思います。


自棄になって、ボロボロになって、誰かが支えてくれる人がいないときっと壊れてしまうと思います。

だから


「僕よりも優秀な方を主に選んでください。仮の主従関係は今日で終わりです」


というアルト様の言葉に


「嫌です」


と即答できたのだ。


「それよりもアルト様、私達に渡したい物があるのではないですか?」


本来なら、こういう主に対して物を強請る事はしてはいけないのですが、今日だけは特別だと思う事にした。


「え、まぁあると言えばありますけど・・・」


アルト様が未だに混乱しているのを良いことに、このまま突き通す事にしました。

ノアもやる気になっているようで目でこちらを見てきます。

二人で言い寄るよりも、私に任せたと言われたようでとても気合が入ります。


「すみませんが、最後だと言うのであれば今渡して頂きたいのですが」

「え、でもさっき、嫌って・・・え?」


混乱してオロオロしているのが可愛らしく、止めてあげたいけど今は我慢する。

お爺様が言っていた、一族の血の影響を私はいま強く感じている。


この人に仕えたい

お爺様が言ったからではなく、

マコト様が言ったからではなく、

私達の理想に近いからでもはない。


ただ純粋にこの人を支えたい、仕えたいと言う気持ちが湧き上がってくる。

誰かがじゃない、私がアルト様を支えるのだ。

だから


「えっと、一応後で渡そうとしたんだけど・・・今までのお礼を込めて」


そう言って、渡されたこの村の特産品の綺麗な石を使っている小さな指輪。

材料は玩具っぽいけど、細工は綺麗でそれを私達の為にアルト様が作ってくれたと思うと凄く嬉しく感じる。

その指輪を手に握り、そのまま胸に当てて膝を付いて、目を瞑る。

隣でノアが私と同じようにしているのが感じられた。


「どうしたんですか二人とも」


慌ててるアルト様の声が聞こえてくるけど、もうここまで来れば最後まで突き通すだけだ。


「「我が全てを貴方に。例え人が、神が、世界が、全てが貴方を害するのであれば、何時如何なる時であっても、我が全てを以って排除し、お守り致します。この誓いは、未来永劫、死後魂のみの存在となっても続くものであり、永遠に破られるものではないものである。」」


少し騙すような感じあったけど、誓いの言葉に嘘はない。

私達はいついかなる時もアルト様の味方であり続けて、それを支える。

それが私達の存在の意義。

私達はその為だけに、今ここまで生きて来た。

そう心の底から思えるようになった。


「どうか私達の忠義を受け取って貰えないでしょうか?」


未だに驚いているアルト様に向かってそう言うと、アルト様は参ったと言うように両手を上げて苦笑いしている。


「二人の気持ちは凄く嬉しくて、僕が嫌だと言っても気持ちを変えるとは思えない。そうでしょう?」


その言葉に私達は無言で頷く。


「なら、僕も二人の気持ちを意思を背負うよ。僕が二人の本当の主人になれるのか自信がないけど・・・」


本当の主人という者に、なれるものではなないのですよ。私達が認めた時点でアルト様は私達の本当のご主人様なのですから。

という言葉を胸に秘める。

これから先アルト様が自信をもって私達の二人の主人と胸を張って言える様ななった時にこう言うのだ。


「でも、ご主人様。私達はあの時すでにご主人様の事を本当の主人と認めていたのですよ」


と、そう言った時のアルト様の顔を想像すると少しおかしく感じる。


「僕はまだ弱くて、未熟だから色々失敗して後悔することが沢山あると思います。だけど、僕は前に歩き続けます。それがお父さん達との唯一の絆だから。だから、僕が間違った道に行こうとしたら叩いても良いから戻してください。そして、僕を支えて下さい。正直、僕だけだと心細いですしね」


そう言って、笑顔で手を指し伸ばしてくるアルト様をみて、全身にブアァと興奮で鳥肌が立った。

これ程求められる事に対しての嬉しさ。

自分を諫めてくれる存在としての役割とその重要性

恥ずかしながら笑顔で手を指し伸ばしてくる、その可愛らしさ・・・・ゴホンッ

そんな事がグルグルと頭の中で回ってしまうけど、嬉しさのあまりその手に飛びついてしまった。


「はい!よろしくお願いしますねご主人様!」


後から、当時の事をノアから聞かされた時に

「あれは、主従の契約というより、プロポーズされてOKを貰った時のような反応だったような・・・まぁ、経験はないし、男女の立場が逆のような気がしますけどね」


と言って、私は顔を赤くしたのを覚えている。

ただ、私も言い返しましたけどね


「ノアなんか、嬉しさのあまり泣きながら笑っていたのにね」


と、その後、喧嘩になったのは仕方がなかったのかも知れません。

誰だって、一番の思い出を美化したいものなのですからね

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