村到着
何もなく街を出てから二日目の夕方に目的の村に着くことができた。
少しスピードが早くて、僕やナナシさんはお尻が痛かったけど、向こうの馬車に乗っていた二人はご満悦な感じであった。
「あれ絶対餌付けされてるっす」
「餌付けって・・・」
まぁでも二人が笑顔で笑っているならそれに越したことはないなとそう思うことにした。
「兄ちゃん!なんかスゲェの!外から見たら大きいけど、中に入るともっと広いの!」
「・・・・何が何だかさっぱりっす」
「え、え~とね?何か空間を・・・え~と」
ヴォルの言葉にミンクが一生懸命説明しようとしているけど、ミンク自身も理解していないのか全然分からない
「仕組みは秘密ですけど、外から見たら少し大きな馬車ですけど、中はそれ以上に広いんですよ。具体的に言えば宿屋の一部屋ぐらいかな?」
「・・・そんなにですか」
ヴォルが興奮して、ミンクが四苦八苦している時に彼のもう一人のパーティーメンバーであるローブを着ている女性が苦笑しながら教えてくれた。
馬車の中の空間を歪めて、広くするという魔法は師匠が昔からしていた。
ただ、その広さが自分が知っているより少しだけ広くなっていたから驚いたのだ。
「あまり驚かないんですね?」
「え、い、いえ。似たような魔法を見たことがある様な気がして・・・」
「あぁ、そう言えば色んな所を旅をしていたんでしたね。ヴォル君達が教えてくれましたよ」
「・・・・ほう」
「ヒィィ!」
「・・ひぅ!」
「ほら~逃げんでも良いっすよ?ちょっとお姉さんとお話しましょうか?」
「ちょ、ちょっと止めて下さい。何をするつもりですか!」
ナナシさんが手をワキワキとさせながら、ヴォル達を捕まえようとすると、ローブの女性が二人を庇うように抱きしめる
「お嬢さんどいて欲しいっす。二人には今からすこ~しお話をするだけっすから」
「なんでですか!この二人は何も悪いことしてないじゃないですか!」
「そう思っているのはお嬢さんで私達にとっては悪い事かもしれないじゃないっすか。そういう事も含めてお話をしましょうと言ってるっす」
僕達みたいな冒険者だけではなく、情報というのは凄く大切な物だ。
酒場での何気ない会話から、問題が解決出来ることなんて珍しくない。
特に僕達はヴォルの故郷の事を含めて、あまり公に出来ない情報を沢山持っている。
それだけじゃなくて、例えば、
ヴォルがどこどこに○○があってとても綺麗だった。
と言う話を何気ない会話でしたとしよう。
あぁそういう所があるんですねっと自分も行ってみようと思うだけなら自由だ。それが、どこかの秘境でない限りは。
最悪なのが、○○を取りたいばかりにどこどこを襲ってみようと考える奴らがいるということだ。
そうなってしまえば、誰が責任をとるというのだ。
まだ、十歳と八歳の二人にはそのへんがまだしっかりとしていない。
だから、ナナシさんは二人と話をしないといけないのだ
「情報はとても重要です。ヴォルや貴方達にとって大した事じゃないかったかもしれませんが、一応冒険者としての基本ですから」
また、これが仲のいいパーティーとなら話は別なのだが、流石にそこまで信用する訳にはいかなかった。
「・・・・ごめん」
「・・・ごめんなさい」
それでも、納得がいかないローブの女性だったけど、耳と顔を伏せたヴォルとミンクが腕から抜け出して自分からナナシさんの所に歩いて行った。
「・・ま、それほどきつくは叱らないっすよ。お話が終われば一杯美味しいものを食べるっすよ」
「そんなお金持ってないですけどね」
「お黙り!」
「うわぁ!」
ナナシさんがふざけて振り上げた腕を大袈裟に避ける。
その事で、少しだけ二人の緊張が解けた様な気がする。
「おや?そこにいるのはアルトさんじゃないですか?」
まだ何か言いたそうなローブの女性より先に、恰幅のいい一人の男性が声を掛けてきた
「あ、店長さんお久しぶりです」
「やっぱりアルトさんでしたか。今回はアルトさんのお陰で助かりましたよ」
「いえいえ、僕は何も・・・残って頑張ったのはナナシさん達ですし、全てを解決したのは・・・」
「そのような事はないですよ。確かにマコト様が全てを解決して頂きましたけど、マコト様が来るまで希望を捨てずに待っていられたのは貴方という存在があったからのですよ」
「でも僕は何も」
「お金をくれました。食料を分けてくれました。人手を貸して頂きました。みんなに声を掛けて下さいました。これ以上の事をして何もしていないというのであれば、私ほど何もしていませんよ。この村を発展させようと数年前から頑張っていますが、今回の件で何も出来なかった自分の力がちっぽけな物だと思い知らされましたよ。」
「いえ、店長さんは私財を投げ出して食料を分けていたじゃないですか。商人なのに利益がない事なのに進んでするなんてできるものじゃないですよ」
「そうですね。商人というのは利益をいつも考えています。では、商人でもなく、この村とも関係がない貴方が私財を全て投げ捨ててまでも助けてくれた貴方は凄くないんですか?」
「・・・・・そう言われると・・」
「それに、これは依頼なのですよ。私達がナナシさんという冒険者さんにこの村を救ってくれた小さな英雄をもう一度連れてきてくれってそういう依頼です。」
「っということで、店長さん依頼達成でいいっすか?」
「えぇ、できれば着く前に連絡を入れてくれた方が有難かったですけどまぁいいでしょう」
「・・・・私達の予定じゃ明日の昼ぐらいに着く予定だったっすよ・・ってことでほいっす」
「え?」
ナナシさんが僕の襟首を掴んで、猫のように店長さんに渡す。
「確かに・・・・では参りましょうか」
「え??」
店長さんがそのまま僕の腕を取り、そのまま村の中に入っていく
「皆!小さな英雄が戻ってきたぞ!」
「うわっ!本当だ!みんなを集めなくちゃ!」
「おう!坊主戻ってきたか!」
「この度は本当に・・・」
「ナナシさん~!説明を!説明してください~!」
どんどんと集まってくる村人に押されながらナナシさん達を向くと、皆して笑顔で手を振っていた。ローブの女性は困惑している表情だったけど
「これがドナドナっすか」
「何か違うと思う!」
村の復興中である事と夕食間近という事であまり豪華な物ではありませんがと言われ、次々に食事を持ってくる村人の人達にお礼を言いながら村長の家で接待を受けている
「すみません。あまりにも早く来られたので準備ができていないのですよ」
「いえ、お気になさらないで下さい。ある程度目処が立っていると言っても、食料や資材はまだまだ必要な物なのですから」
「この度は本当に有難う御座いました。貴方が去った後に来た商人の話では、貴方がこの村に立ち寄るようにお願いしたとか・・・正直、その商人が来ていなかったらマコト様が来るまで持ち堪えていられなかったでしょう。身体もですが心がです。」
「その事については本当についででしたので・・・目の前で困っていたのに自分の用事を優先させてしまった負い目もありましたし・・・」
自分の用事というのは、もちろん師匠に会いに行くことだった。
村に唯一あった商店の店長さんが私財を使ったり、村の人達と協力して被害を最小限に留めようとしたけど、被害が大きすぎた。
店長さんの店も被害に合い在庫がそこを尽きそうになり誰かが、村の外へ救助を求めに行く事になったが、村の人達はそんな気力は残っていなかった。
そこで、街に用事があった僕が選ばれたのだ。
まだ復興の途中というか、日に日に顔色が悪くなる村の人達を放っておいて自分だけという思いがあったが、
村の事は村で解決しますから
此処まで助けて頂いただけでも十分ですから
せめて、近くの村まで助けを呼んで頂ければと
等、言われて結局好意に甘える事になったのだ。
ただ、僕の負い目を感じたのか自分も同じ考えだったのか分からないけど、ナナシさん達が残って僕の分まで頑張ってくれる事になったのだ。
それじゃぁという事で、有り金など全てナナシさんに預けてこの村を出て行ったのだ。
一番近い村で救援を頼んで、街に歩いていると旅の商人さんがいたので、この村に行ってくれと頼み込んだのだ。商人さんはいい儲け話を聞いたという表情で去って行ったので行くだろうなと思っていたけど、予想通りに来たみたいだ。
「それで、申し訳ないのですが・・・商人から買う資材の中で村にあった物でも払い足りない分がありまして・・・」
「良いですよ。その為に渡したのですから。一応、これでも冒険者ですし、蓄えはそれなりにあるのですよ」
まぁ、それなりであって十分ではないのだけど、それを村長に正直に言う事ではない。
「いえ、そういう訳にも・・・一応、村の若い娘でもと思ったのですが」
「それは・・ちょっと・・」
「はい・・ナナシ殿にも断られました。旅をしているから邪魔だと」
村長さんは苦笑いして頬を掻いていた。
僕の両親みたいに、生活が苦しくなると子供を奴隷に売る人は多い。
色々な種類の奴隷がいるけど、若くて健康な男女の奴隷は凄く高い。
単純な金銭だけの比較なら、僕が渡した私財より奴隷の価値の方が数倍も高いのだ。
でも、だからと言って有難うございますと受け取る訳にはいかない。
人道的な問題もあるが、それ以前に僕達は冒険者なのだ。
価値が高い奴隷を報酬に渡しますよ?有難うございますで済むのは、余裕のある冒険者だけだ。
良く考えてみると、単純に、旅をする人が一人増えるのだ。
ナナシさん達を含めて四人で旅をしていて、何とか遣り繰りしている状態にもう一人。しかも旅に慣れていない村の人を一人貰っても負担が増えるだけなのだ。
「・・・理解して頂いて有難う御座います」
「と、言われましても・・・正直、今のこの村には出せる物が無い事には変わりはないのですがね」
それでも、報酬の代わりにと村の人を渡す事は珍しくないし、受け取る方もいる。
なぜなら、代わりに出せる物がないからだ。
受け取る方も、只働きよりはマシだと受け取るのだ。
「本当に良いのですよ。僕の恩人が前言っていた事なのですが、お金を人に貸すと言う行為は、戻ってこない事を覚悟してしなさい。という事らしいです。無駄金に使われたのであれば色々考えますが、人の為になったのでしたら僕のお金も本望でしょう」
「・・・・私は貴方の様な人に会った事がありませんよ。そこまでして私達を助けて下さったのは有り難いですが、いつかその事で貴方が酷く傷つかないか凄く心配になります。貴方はご自分の幸せを考えていますか?他人を救うのも良いですが、もう少しご自分を勞ってください。」
「ははは、よくナナシさんにも言われます。まぁでも性分ですかね?身体が勝手に動くというか・・・」
「・・そうですか。ま、助けて頂いたのに説教をした悪い村長の話だと思って心の隅にでも留めて置いて下さい。」
「いえ、先人のお言葉しっかりと心に刻みたいと思います」
「本当に出来過ぎですね。私の息子にも見習わしたいぐらいです。因みに、まだ結婚していない孫がいるのですが・・・」
「・・・お孫さん10歳ぐらいじゃなかったですか?」
「なに、後五年したら成人ですよ」
「はっはは!ご冗談を・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・あれ?いつの間にか皆こっち見てる!」
「さぁどうするっすか?10歳の村長さんの孫か、10歳のミンクちゃんか!」
「いきなり入ってきて何て事言ってるんですか!しかも本人達連れて来てるし!」
ナナシさんが顔を赤くしている当事者二人を連れて扉の前に立っていた。
他の村の人達も興味があるのかニヤニヤしてこちらを見ている。
「いや、何か面白い事になってるレーダーが反応したっす」
「なにその迷惑なレーダーは!・・・・レーダーってなんですか?」
「なんっすかね?急に頭の中に出てきたっす。って誤魔化しても無駄っす!さぁ答えるっす」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・い、今は、誰ともそういう事は考えていないと言うか・・・なんていうか・・・」
「む!この反応は誰か心に決めた人が居るっすね!・・・分かっていたっすけど。でも、今近くに居ないあの人よりも、今近くに居る若い果実!目指せ多くの現地妻!」
「最低だこの人!」
「ふむ・・・最低一ヶ月・・・いや半月は留まって欲しいですね・・」
「ってことは、半月交代で回るとして・・・・やったすね!一年間で最大24人現地妻確保できるっす!」
「村長さんもナナシさんも何を言っているんですか!」
「ごめんなさいっす。間違えていたっす・・・・私とミンクちゃんはずっと傍にいるから、26人っすね」
「人数の問題じゃない!・・・・あれ?今僕告白された?」
「乙女の告白をそんなに軽く流すなんて・・・・まぁ冗談っすけど」
「冗談でも軽く告白したらダメでしょ!・・・もうやだぁ」
ワハハと僕とナナシさんの遣り取りで村の人達が笑う。
僕達がこの村に来た時は、笑うことすら出来なかった人達が笑顔で笑っている。
ダシにされた、僕とミンクちゃん達は顔を真っ赤にさせているけど、こうやって笑っていられるのが一番良いと僕は思う。
ナナシさんが加わって更に笑いが絶えなくなり、夜遅くまで宴が続いたのだった。
おまけ
「ッ!」
「どうした?」
「いえ、何だか胸騒ぎが・・」
「そうか・・なら尚更ゆっくり寝とけ。いざという時に動けないぞ」
「既に動ける状態ではないのですが・・・お父様があんな事を言うから」
「はっはは!あれには俺もびっくりしたぞ、綺麗に五人とも同時に倒れたからな」
「皆必死でしたからね」
「俺は女の友情が怖くて仕方なかったけどな・・・男一人の為にあんなになるんだからな」
「親友だからですよお父様。正々堂々と戦って勝ちたいじゃないですか」
「そんなもんか・・・まぁ確かに人様には色々言えない事を言いながら戦っていたもんな・・・聞いている俺が恥ずかしかったぜ」
「・・・・言っていた事は本心ですが、改めて思い返してみると凄く恥ずかしいです」
「ケントが居なくて良かったな。あいつが居れば立ち直れないぞ?」
「いても構わなかったですよ?確かに恥ずかしかったですが、自分の気持ちがしっかりと確認できましたし」
「・・・ケント不憫な子・・」
「そもそも、私はあの人の事なんとも思っていませんですし・・・・周りが騒いでいるだけで・・・」
「・・・俺はお前の気持ちを知っているから良いが、確かに周りから見ればお前達は仲良いもんな」
「そうですか?」
「・・・・俺の娘はどこで鈍感系ヒロイン体質を手に入れたのだろうか・・・」
「失礼ですね。ちゃんとあの人が私に対してどんな想いを持ってるか理解しています」
「それで、あの態度なら悪女も真っ青だ」
「嫌ってはいませんからね。普通にしているだけです」
「普通ね~。なら質問だ。もし、休日買い物に付き合ってくれと言われたら?」
「また突然ですね。まぁいいでしょう。身体のあちこちが痛くてまだ眠れそうにないですから。それで、質問ですが・・・そうですね、普通に付き合いますね」
「男と二人きっりだぞ?デートだぞ?」
「デートとは好き合っている異性が行う行為では?」
「・・なるほど、自分は好いてないから問題ないと・・・じゃぁ次は、彼から身に付ける用のプレゼントを貰いました。そのプレゼントはどうする?」
「またアバウトな質問ですね・・・一応、貰い物ですから何日かはさりげなく付ける・・・かな?」
「じゃぁ次、彼の事が気になる別な子がお前に手紙を渡してくれと頼んできた。その手紙をどうする?」
「・・・自分で渡した方が気持ちが伝わると思うから、自分で渡すように突き返す」
「学園からの帰り道彼が遠くからお前を呼んでいる。お前の友達は気を利かせて離れていく。お前はどっちと一緒に帰る?」
「態々声を掛けるぐらいなので、一応彼の話を聞きますね。だから、彼と一緒に帰る事になるのでしょうか?」
「・・・・・・まだ、色々聞きたいが、彼に気があると思われても不思議じゃないぞ?」
「そうですか?」
「なら、彼をアルトに変えようか・・・アルトが休日に買い物に付き合ってくれと言ってきたら?」
「精一杯お洒落して、集合時間の一時間前には着いときます。いえ、むしろ迎えに行きます。」
「・・・・彼から身に付ける用のプレゼントを貰いました。そのプレゼントはどうする?」
「本当なら厳重に保管しときたいですが、マリル達に自慢しますね。目立つ所に付けます」
「・・もし本当に貰った時は自重しろよ?今日以上にマリル達と喧嘩することになるからな?」
「むしろ望む所です!」
「・・そうですか。彼の事が気になる別な子がお前に手紙を渡してくれと頼んできた。その手紙をどうする?」
「破り捨てたい気持ちはありますが、その子が真剣なら色々調べてから一緒に渡しに行きます」
「色々っていうのは?」
「その子が、アルトの事をどこまで好きなのかを調べるのです」
「・・・具体的には聞かない事にするよ。じゃぁ最後、学園からの帰り道彼が遠くからお前を呼んでいる。お前の友達は気を利かせて離れていく。お前はどっちと一緒に帰る?」
「その質問には意味がありません。何故かと言うと、アルトとは毎日一緒に帰るからです」
「・・・確かにお前の中で線引きができているのな。アルトが一緒の学園に通うようになれば今の噂は消えるだろうけど・・・さっきも言ったがお前とケントが付き合っているという噂が今あるのは確かだ」
「私はアルト一筋なので関係ありません」
「問題はその噂がアルトの耳に入ることなんだが・・・・」
「・・・・・・!」
「・・・・何て顔をしてるんだ」