アヤの場合(1)
自分より体の大きな男の人が近づいてくる。
幼い頃より両親から力の使い方を教えて貰っていたけど、恐怖で頭が真っ白になってただ震えている事しか出来ないでいた。
力づくで破られてしまった母さんから貰った可愛らしい服をかき集めて、少しでも外に晒される肌を隠そうとする。
男はその私の姿に興奮するのか、鼻息を荒くしてジリジリと近づいてくる。
そして、とうとう背中に壁が当たり逃げる事ができなくり、男の手が近づいてきて・・・・
「ッ!・・・はぁ・・はぁはぁ」
勢いよく起き上がり周りを見渡す。
あの時と同じような暗い部屋の中であるが、近くから温かな存在を感じて少しだけ落ち着くことができた。
「・・・・アヤ?」
近くで寝ていたサヤ姉さんが私に気付いて声を掛けて来た。
「何でも・・・いえ、大丈夫です」
「・・・・そう」
寝ていた所を起してしまった罪悪感があり、何でも無い風に装おうと思ったけど今みたいに昔の事を思い出して飛び起きてしまう事が何度もある為誤魔化せないと思った。だから、平気だという事だけを伝えた。
サヤ姉さんは何も言わず私に近づき抱き着いてきて、そのまま一緒に布団の中に入り込んだ
「・・・・心配はいらない。ここには悪い人は誰もいない」
「はい」
サヤ姉さんの温もりを感じて、徐々に落ち着いてきたら少しずつ眠たくなってきた
「・・はふぅ」
「・・・・眠たい?」
「はい」
私を落ち着かす為か、ずっと頭を撫でていてくれたサヤ姉さんの温もりを感じながら今度は良い夢が見れたらいいなと思っていたら、背中に衝撃がきた
「あはは、早く走らないと追いつきますよアルお兄様~・・がんばれ~・・・がんばれ~・・・・にゅふふ」
ミヤが寝言を言いながら、私を誰かと勘違いして抱き着いてきたのだ。
一瞬その姿にイラっとしたけど、抱き着いてきたミヤの温かさも心地よく
まぁいいかっていう気持ちになった。
サヤ姉さんとミヤの温もりを感じたまま、意識が段々と遠のいていくのが分かる。
仲の良い三姉妹でこれからも変わりなく過ごしていくのだと漠然と思っていたけど、その中に一人だけ異物が入って来た。
「アルお兄様」
最近、ミヤがよく話をする隣のおじさんが連れて来た男の人。
その人の事を少しだけ思い出してしまって、慌ててサヤ姉さんに抱き着く。
・・・・だって私は男の人が怖いから
「アルお兄様と仲良くなれば良いんだよ」
というのに、最近ミヤはこう言ってあの人と会うように言ってくる。
「なんで私が」
「だってアヤ男の人嫌いでしょ?」
「それを知っていて何でそういう事を言ってくるの」
男の人は嫌いだ。
厭らしい目で見てくるし、デリカシーのない言葉や行動が多いから。
「でも、ずっと男の人を嫌いのままではいられないよ?これから色々な人に会うだろうし、結婚とか子供とかも作らないといけないし」
「それはそうだけど・・・・ってミヤ、あなたそんなことも考えているの!?まだ私達12歳よ」
男の人は・・・怖い
身体が大きく、力が強くて、乱暴だから
「もう12歳だよ。後3年したら成人で結婚もできるようになるんだから」
誰かの事を思い出しているのか、少しだけ顔を赤くしているミヤをみて少しだけショックを受けた。
ミヤも今まではこれから先の事をあまり考えていないような気がしていた。
言葉にも出さなかったし、何より将来の事に不安を感じているような気がしていたのだ。
それなのに、最近では明るくなり今みたいに将来の事も考えるようになっている。
それが誰の影響なのか説明されなくても理解できるけど、それが何となく嫌な気持ちになるのだ。
それと、ミヤが変わったのに自分が変われていない事、ミヤに置いてきぼりにされたような気持にもなってしまう。
だから
「そうだけど・・・だからと言って」
「大丈夫。アルお兄様は優しい人だから」
「・・・・そこまで言うなら」
ミヤの言葉に背中を押される感じで返事をしてしまったのだ。
「っという事で、今日からアヤも一緒です」
「・・・どういう事なのか分かりませんけど、よろしくお願いします。アヤ様」
改めてその人に会ってもやはり他の男の人と同じように緊張してしまう。
「また様付けしていますよ!アヤは私と同じ歳なので様はいりません!アルお兄様の方が年上なのですよ」
「そうは言ってもミヤさん。ほぼ初対面のしかも英雄様のご息女にいきなり・・・」
「私もそのご息女ですよ?」
「いえ、ミヤさんは様を付けると怒りますし」
「はい!あとさん付けも禁止です。義妹に敬語?を使う兄はいないとお父さまから聞きました」
ミヤと楽しそう?なやり取りをしているのを見ても、その気持ちに変化はない。
チラリ、チラリとこちらの事を気にしているその人の視線が凄く気になってしまう。
ミヤは一緒に日課をすると言っているけど、私にはその気は全くない。
ミヤ達とは別に日課をこなそうと思っている。
だけど、ミヤが変わったのはこの人の影響だと分かっているから少しだけでもどういう人なのか知ろうと会いに来たのだ。
「アヤさ・・んはどうされ・・どうしますか?」
「私の事は気にしなくていいです。勝手にしますから」
ミヤの視線で所々言い直すその人を見ながら、私は出来るだけ素っ気なく答える。
多分、意地なのだろう。
ミヤが変わってしまった事、それを自分達で出来なかった事、それでも気になって会いに来てしまった事、そして何より男の人に弱みを見せたくなかった。
「アヤ何で・・・」
「ごめん、だけどこれが今は精一杯」
ミヤがあの人から離れて私の方に近づいてくる。
複雑そうなミヤの顔をみて、罪悪感が沸いてくるけど今はこれが精一杯だった。
「・・・そう」
ミヤが尻尾を下げて、元気がなくなってしまった姿をみて流石に悪い気がしたから
「それと、アルトさん。ミヤが言うように私には様付けはしなくていいです。何だかミヤと差があるみたいで嫌なので」
「分かりました。では、アヤさんと」
この私達のやり取りで、少しは元気になったミヤに引っ張れながら二人して走って行く姿を見送る。
元気に走るミヤの姿と必死になって走っているアルトさんの姿は、本当の兄妹のように見えて何だか複雑な気持ちになってしまった。
それからミヤ達の日課の前に少しだけ話するという事を続けた。
まだ、アルトさんと二人で話をすることはないけど、ミヤが近くにいることもあってか徐々に慣れてきたような気がしている。
チラチラと同世代よりも成長している胸を見てくるのはまだ慣れないが、ミヤが言うように優しい人で他の男の人とは少し違うのかもと思い始めていた。
「・・・成程、アヤさんはどう思いますか?」
一つは、ミヤと二人で話していても私に気遣って話題を振ってくれる事
「そうですね・・・」
「アヤはきっと」
「ミヤは黙っていて、またある事無い事言うつもりでしょ!」
一つは、私とミヤのやり取りを見る目がとても優しい感じがする事
「まぁまぁ、お二人とも、ではこういうのはどうでしょうか?」
「それなら」
「まぁ、良いのではないですか」
一つは、乱暴な言葉遣いをしないで優しく声を掛けてくれる事
「はい、では時間もそろそろですし今日はここまでにしましょう。アヤさんも気を付けて下さいね」
一つは、アルトさんの雰囲気がミヤが言っているように兄のような感じがして・・
だから
「・・・今日は私も一緒について行きます」
「・・えぇでは、今日は一緒に走りましょう。と言っても、僕の方が足が遅いですけどね」
いつも楽しそうにしている二人に少しだけ近づこうと、勇気を出してそう言っていた。
アルトさんは驚いた表情になったけど、すぐに笑顔になって了承してくれた。
「じゃぁ、早く行きましょうアルお兄様!」
「はい、行きましょう」
私のこの行動が嬉しかったのか、ミヤが尻尾を激しく振りながらアルトさんの腕を引っ張っている姿と
そのミヤを落ち着きがない妹を見る様なアルトさんの姿をみて
「ところでアルトさん。私もミヤと同じように兄と呼んで良いですか?」
気が付いたら、何故かこんなことを言っていた。
自分でも言ってから驚いたけど、アルトさんはもっと驚いた表情になっていた。
「・・・何も出来ない義兄で良ければ」
アルトさんは少し複雑そうな表情になり、でも最後は笑顔でそう言ってくれた。
「ではよろしくお願いしますね。兄さん」
まだ、男の人は嫌いで怖いけど今日から兄ができました。
これから少しずつ男の人にも慣れていけるのかもとそう思いました。




