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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
第一章 再開編
5/86

街出発・・・そして

僕達は、朝早くから川の氾濫で困っていた村に行くことになった。なぜなら


「お金がないっす」


朝ナナシさんに起こされてすぐに言われた言葉だった。


「アルトが考えなしにばかすか食べるからっす」


そう言われたら何も言い返せない。


「アルトがあの村から出る時に交渉した商人さんが使っていないお金を返してくれるらしいし、村の人達からももう一度しっかりとお礼をしたいからと連れてくるように頼まれていたっす。途中でギルドの依頼を済ませれば、一石二鳥?三鳥?ぐらいになるっす」

「・・・でも・・・」

「アルトがずっと会いたかったお師匠さん達がこの街にいることは知っているっす。でも、アルトはなんか困った感じっす。何かしら理由があるにしても、少し時間を置いて考えてみるのも一つの手っす」


 師匠達に会いたい気持ちと、会うことに戸惑っている気持ち。

二つの気持ちがせめぎ合って考えが纏まらないのも事実だ。


「・・・・・そうしようか」


 今まで立ち止まらずに、脇目も振らずに頑張って来たけど

少しぐらいなら


「・・・・・・・・・少しだけ迷っても・・・立ち止まってもいいでしょうか・・・師匠・・」


 と、いう流れでナナシさんがいつの間にかギルドから依頼を引き受けていて、あれよこれよと急かされて今街道を歩いている。


「昨日街に着いたばかりなのに、二人共大丈夫?」

「・・・・大丈夫」

「おう!なんか兄ちゃんと一緒に歩かないと元気がでないんだよ!」

「・・いや、犬の散歩じゃないんだから・・・」

「案外、似たようなもんかも知れないっすよ?ところで、何でお子様二人には聞いて、私には聞いてくれないっすか?」


 可愛く拗ねるナナシさんであるが、


「一人だけ馬車に乗ってる人に何の心配をしろと?」

「小さくて、ボロボロの馬車っすからお尻とか痛いっすよ?後でマッサージを希望するっす」

「女の人が軽々しく男の僕にそういう事を言ってはいけません!」

「顔を真っ赤にさせているアルトマジ萌えっす!」

「・・・・ミンクちゃん。今日の野営の時は思いっきり揉んで上げて」

「ちょっ!それ洒落にならないっす!」

「・・・お姉ちゃん酷い・・」

「ぐぅっ!拗ねているミンクちゃんマジ天使っす!・・・・さて、冗談はさておき、急に決めた依頼っすからね。馬車も一人用しか借りれなかったっす。お子様二人ぐらいは荷台に乗れない事もないっすけど結構ボロボロっすからね。まだ歩いた方がマシっすよ?」


 師匠が開発したバネ?と呼ばれる物で殆どの馬車は、乗ってもお尻が痛くなりにくくなった。

しかし、品数が少なく乗り継ぎや命の危険が伴う冒険者が借りる馬車の殆どは従来通りのガタガタ揺れる馬車なのだ。

 しかも、ナナシさんが乗っている馬車は野営の準備の荷物で既に荷台が一杯になっていた。


「今回の目的はあの村に行くことっすからね、ギルドの依頼も薬草系の採取ぐらいしか受けてないっす」


という事で、あまり大きな馬車を借りる必要もなかったのだ


「というより、大きな馬車を借りるお金がないっす」


そうとも言う。

そんな風に、師匠達がいる街まで普通にしていたやり取りをしながらゆっくりと歩く。


「それと、ちょっと聞きたかったことがあるっす」

「なんですか?」

「アルトはお師匠さん達と会ったらどうするっすか?」

「どうするって?」

「アルトの目的はお師匠さん達に会うことっす。それを果たしたらこれからどうするつもりっすか?具体的に言うと、ここまで付いて来た私や産まれた村に帰れないヴォルとミンクちゃんの事っす」

「・・・・・それは・・」


 その事は考えているつもりだった。奴隷だった自分を暖かく迎え入れてくれた師匠達ならナナシさん達も受け入れてくれると勝手に思っていた。

 弟子への最終試験だという事を忘れて、ナナシさん達に意見も聞かずにただそうなるだろうと勝手にそう思っていた。


「責めているつもりはないっす。私達も漠然と今まで通りにアルトと一緒にいれると思ってったすから・・・でも・・」


ヴォルとミンクも不安なのか周りを警戒しながらも耳を傾けている。


「嬉しそうにお師匠さん達の所に向かった筈のアルトが何故か辛そうな顔をしていたのをみて思ったことがあるっす」


いつも明るいお姉さんポジションのナナシさんがあまり見せない真剣な表情でこちらを見てくる


「このまま私達と一緒に旅を続けませんか?アルトがあの人達の事を大切にしている事は分かっています。それでも・・・少しでも思う事があるなら私達と一緒にいてくれませんか?」

「・・・・・・」


真剣で冗談も許さない、いつもの軽い口調ではなく、これがナナシさんの本当の姿なんだと理解することができた。

何か言わないとと思っても、色々なことが頭を巡って言葉にならない。


「!!」


そんな時、異変に気付いたのはヴォルだった。


「兄ちゃん達何か来る!」


 ヴォルの焦った声にナナシさんはさっきまでの雰囲気を消して、いつもの雰囲気に戻り馬車から飛び降りて腰に下げてあるナイフを取り出す。


「ヴォルとミンクちゃんは馬車の方へ」


 ヴォルとミンクちゃんは多分本気を出せば僕より強い。

 でも、何よりまだ成人を迎えていない子供を戦場に立たせる事は僕もナナシさんも良しとしない。

二人はその事を不満に思っているけど、渋々馬車の近くまで下がり周りを警戒する。


「・・・・・・チッ!暴れ猪っす!」


ドドドド!と地響きを鳴らしながら突っ込んでくる魔物は人より数倍大きな体格の猪の魔物だ。

 硬い皮膚に鋭い牙。その図体からは想像できない程のスピードで突っ込んでくる突進力は家ぐらい簡単に吹き飛ばす事ができる。

 一直線しか突進できず、落とし穴などで簡単に動きを封じる事ができる為ギルドの依頼ランクは低いが、何も準備をしていない状態で対峙するには分が悪い相手だ。


「取り敢えず、このままだと馬車が轢かれてしまいます!壁で勢いを殺します!」

「了解っす!」


 ナナシさんが馬車に飛び乗って動かし始めるのを横目で確認しながら地面に手を付ける。

師匠ならこんな事をせずに無詠唱で出来る魔法であるが、二年間経った今でも触媒に手を触れなければ十分な魔法を発揮することができない。


「・・・まぁ無詠唱は出来るようになったけど・・」


 二年間で無詠唱を出来るようになった事を喜んでくれるか、逆に此処までしかできない事を嘆くか師匠ならどっちかかなと少し頭によぎるが、頭を振って目の前の事に集中することにする


「今の状態なら三枚が限界・・・だ!」


 体内にある魔力を練り上げ、イメージを明確にする。

 師匠がこちらの世界に来るまでは、魔力を練り上げながら詠唱をして放つと言う魔法であったが、師匠はその詠唱を短縮ではなく省略した。

その為に必要なのはイメージだと言う。

 僕がイメージするのは、昔ゴブリンの集団が襲った村の周りに師匠が張った石の壁。

武器も魔法も全て受け止める事ができたただの石の壁。それをイメージする。


ドゴォ!

一枚目は急いだ為か、魔力の練り上げが足らずすぐに壊された。


・・ドゴォ!

二枚目は少し勢いを殺すことが出来たがそれでも壊された。


・・・・・ドゴォ!

三枚目も壊されたが、先程みたいな勢いはなくなった。


それでも、勢いは止まらず僕は横に飛び去る


「それでも十分っす!」


それと同時にナナシさんがナイフを振りかぶって暴れ猪の首に突き刺す。


キィン!


「・・やっぱり硬いっす!」


 ナナシさんのナイフは正確に首に当たったが、硬い皮膚に防がれてしまった。

今の僕達の装備では、あの硬い皮膚を突破する事は無理だった。

唯一可能であるなら、ミンクの怪力であるが、動けない状態だったらいざ知らず、あの突進を小さな体で受け止める事は無理だ。


「・・・・・圧縮を使います」


師匠のオリジナルの魔法の一つ。魔力を圧縮させ体外に待機させ、必要に応じてそれを開放する。魔法の威力を二倍~五倍にする事が可能な補助魔法だ。


「・・・それしかないっすか」


 ナナシさんの顔が苦渋の表情となる。

今までの旅でもピンチを切り抜けて来た僕の切り札の一つ。

 魔力の量も、魔力の操作も平均的な僕がその魔法を使うと、まず体が保たない。

体内にある殆どの魔力を一つに纏めてそれを圧縮させ待機させる。

その上、残った魔力で増強させたい魔法を作る。

この時点で、僕の魔力は空になる。

魔力が空の状況で魔法を放つと、反動が抑えられずに自分の体が吹き飛んでしまう。

今までは、文字通り体が吹き飛んだり、右腕が火傷したりで大怪我にはなったけど、命の危険まではなっていない。

 今回も運が良ければそれぐらいで済むが、最悪命を落とす危険がある。

このことを知っている、ナナシさん達はあまりこの魔法を僕に使って欲しくないらしい。

それでも、それしか方法がない場合はいつもすまなさそうな、悔しそうな顔をしている。


「・・・・・魔力圧縮式”補弾”・・・開始」


 暴れ猪の突進が止まり、こちらを向くまでの時間でこの魔法を完成させないといけない。

体内にある魔力を一箇所に集めて、それを圧縮させる。

そして


「・・・・貫け”雷槍”」


 魔法の完成まで後少しという所で、誰かの声と共に暴れ猪に突き刺さる一本の雷の槍。


「・・あ」


 体内で圧縮させていた魔力が急激に霧散していくのを感じながら呆然と声がしてきた方を向く。


「冒険ギルドの掟で、獲物の横取りは禁止されているが君たちには対処出来ないと判断して介入させて貰った。」


いとも簡単に一撃で暴れ猪を倒してしまったその人は


「俺の名前はケント。英雄と呼ばれるマコト様の一番弟子だ。」


リースと笑顔で話していた

門番さん達が師匠の唯一の弟子だと言っていた人


痩せすぎもせず太すぎる事もない、それでも鍛えていると分かる身体。

笑顔を向けられれば女性なら頬を赤く染めてしまうほどの整った容姿。

男としての自信をぶっ壊されて、ぐちゃぐちゃにされて、丸めてポイッとされるような男が立っていた。


そんな男が使った魔法。

雷魔法。師匠のオリジナルの魔法で誰にも真似ができない唯一の魔法。だった筈。

僕がどんなに頑張って練習しても、この二年間も休まず練習しても会得出来なかった魔法。

それを使いこなす事が出来る男。


師匠の一番弟子。

彼は自分でそう言った。

それだけの実力。それだけの自信があるのだ。


師匠に弟子を辞めてみるかと言われた僕。

師匠の唯一の弟子と認められている彼。


師匠の弟子という立場が不安定に感じられた事で逃げてしまった僕。

師匠の弟子という立場を自信を持って言える彼。


彼は僕の何歩も先にいる人だった。


「アルト!」


 ナナシさんが慌てて走ってくる姿を確認しつつ、今までで一番のショックを受けて、中途半端に発動させてしまった魔法の影響で意識が落ちてしまった。



おまけ


「やっぱり姐さんだったか」

「おや?今日は珍しい子を連れているね」

「いや、もう帰す。この子達が嗅いだ匂いが誰か知りたくてな」

「そうかい」

「サヤありがとう。もう良いぞ。リース達と合流しなさい」

「・・・・・・・」

「・・・なんかあの子に嫌われるような事をしたかね?なんか睨んでいるようだったけど?」

「まぁ・・色々あるんですよ。」

「そうかい。それで?嫁と子供が怖くて情婦一人すら抱けない英雄様が何か用かい?」

「ぐっ!・・・・それは・・・」

「なんだい?食事や酒までは付き合うのに、いざ本番となったら逃げ出すキチン様?」

「ガハァ!」

「しかもそのことがバレて、一時嫁にすら口を聞いて貰えなくなった事もあったね~」

「も、もう止めて・・・・俺の紙より薄っぺらい心が破裂しそうだよ」

「本当に薄っぺらいねアンタは」

「・・・・・・・・」

「英雄様と持て囃されて、私達が知らないような事を知っていて、それを活用できる器用さがあって、綺麗な嫁さん、可愛い娘。頼りになるお仲間達」

「・・・・・・・・」

「そして今はお師匠様ってね」

「!!やっぱり知っていたか」

「知らないよ。アンタの一番弟子には私は興味ないんだ。・・・久しぶりにいい男がいたけど興味ないって逃げられたけどね」

「その男と一昨日の晩一緒にいたか?」

「教える訳がないだろ?・・・・ただまぁ、一昨日の夜は久しぶりに女としての本能が動いたね。いつもは何人か相手するんだけど、その日は一人の男で満足してしまったよ」

「・・・・その男は何か言っていたか」

「さぁね?男と女の秘め事を私が言いふらすような女に見える?」

「・・・・・・・」

「英雄と呼ばれる前。この世界に異世界人として召喚された当時と何も変わらないねアンタは。薄っぺらいよ。昔私が言った言葉を覚えている?アンタが正義を振りかざして余計なお世話をした時のことさ」

「あぁ、覚えているさ。”力を手に入れて調子に乗っているだけの唯のガキ”だったか」

「私はね表面だけの男が嫌い。いつかアンタは私に言ったよね”向こうの世界じゃ俺は何もしていなかった”ってそれが、こっちの世界にきて特別な力を手に入れてさぞ喜んだだろうさ。こっちの世界で、特別な力で人を救い、人から愛される。失敗しても挽回できる。いいね!誰が見ても英雄様だ。・・・ただ、私から言わせればそれだけの男さアンタは・・・根本的な部分がちっとも変わってなんかいやしない」

「・・・・・・・」

「”前を向いていますか?僕の目は今も諦めよとしていませんか?師匠が・・・・僕の恩人が眩しいと言ってくれた目をしていますか?”だとさ」

「ッ!」

「自分が出来なかった事を人に押し付けるな。その人をみて自分が克服したと勘違いするな。アンタは英雄だけど、アンタの根っこの所は唯の臆病なガキのままだ。また、何か起きるまでただ待つのか?また何もせずに逃げているだけかい?あの子は迷っていたけど進もうとしていたよ」

「姐さんがそう言うから!・・・・その言葉を思い出してしまったから・・・俺があいつにしてきた事を・・・あいつを通して俺が何を思っていたのかを理解したから!」

「勝手だね・・・アンタが持っている特別な力とは神にでもなるような物なのかい?」

「それは・・・」

「アンタが何を思って師弟ごっこを始めたか知らないよ。勝手に始めて、自分の間違いに気付いたから勝手に辞める・・・自分の気持ちだけじゃないか。あの子の気持ちなんか少しも入ってない。」

「・・・・特別な力がなくても、失敗を恐れずに、失敗しても諦めずにすれば何かを変えられる。」

「そうさ、私はそんな男が好きさ。失敗して挫けて地面を這いずり回って、それで立ち上がれたら一緒に喜んであげる。まだ立ち上がれないのであれば慰めてあげる。失敗を経験せずに楽しく過ごせるそんな男なんか色々軽すぎる。言葉も態度も人生も」

「姐さんぐらいだよ、俺に説教を言う奴は」

「ふん、何を言ってるんだ。自分から説教をされに来たアンタが言う言葉じゃないね」

「違いない」

「・・・色々終わったらうちに来な。上手くいったら一緒に喜ぼうさ。上手くいかなかったら叱ってあげる」

「慰めてはくれないのか?」

「馬鹿言っちゃぁいけないよ。慰めるのは奥さんの仕事だよ」

「・・・・うちの嫁さん失敗したら一ヶ月は口を聞いて貰えなさそうなんだけどな」

「甘いね、三ヶ月ぐらいじゃないかい?」

「・・・想像できるから嫌だな。・・・・んじゃ聞きたい事を聞けたからもう帰るよ」

「聞きたいことじゃなくて、説教されに来たんだろ?せっかく昔馴染みがお尻を叩いたんだ頑張りな」

「叩き方が痛いってぇの・・・頑張る前に挫けそうだったぜ・・・・あぁ最後に言い忘れた事があったよ」

「なんだい?」

「師弟ごっこなんかじゃない。俺とアイツは師匠と弟子でそれと・・・・」

「それだけの覚悟があるなら一々此処に来るんじゃないよ・・・・私はアンタの母ちゃんじゃないんだよ」

「それは知ってるよ・・・じゃあな姐さん(姉さん)」

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