学園対抗戦直前
学園対抗戦当日
いつもの通りに皆と一緒に歩いているといつも以上に視線を集めているような気がしていた。
それも、良い意味ではなく悪い方で
つまり、僕に対しての視線がきついのだ。
「アルお兄様気を付けて下さいね」
そんな僕を心配してかミヤが手を握ってきた。
「僕の事もなんだけど、皆は本当にあれで良かったの?」
少し照れくさいけど、手を握り返すと笑顔になるミヤを見ながら皆に確認する。
僕のチーム以外の皆は、この学園対抗戦を辞退したのだ。
学園の人達が、自分達の実力を確認し示す場として張り切っている中、皆は当然という感じであっさりと辞退したのだ。
「元々、昨年の学園対抗戦で目立ち過ぎて、自重してくれと頼まれていたし、それに、思わず力が入りすぎたら色々危険だからね・・・・他の生徒が」
僕に対する敵意が集まるにつれて、落ち着かなくなっていくリースを抑えながらマリルが説明してくれた。
「ははは、ありがとう」
皆から好意を伝えられて、その意味が分かると嬉しいのやら恥ずかしいのやらで顔が赤くなってしまいそうだった。
「わ、私達も本日はお嬢様達と一緒にいる事になっています」
「大事な日にお手伝いできず、申し訳ありません」
本来なら僕のチームの一員として一緒にいる筈のジルとノアも今日はリース達と一緒にいる事になっている。
「・・・・二人が一番危ない。アルトの事になると手加減を知らないから」
と、いう事らしい。
サヤが二人の肩を軽く叩くと、二人は申し訳ないように体を縮こませる。
「一応、兄さんの潔白が証明されたのにこの状況って、やっぱりあの人が関わっているのかな」
「・・・・・それしかないでしょう」
アヤの言葉に、重い感じでリースが反応した
「り、リース?」
その様子がいつもと違うくて
「フフフ、とうとうこの日が来ました。あともう少しです。フフフ」
何やらブツブツと言い始めていた。
僕に”周りは関係ない”と言っていたリースの姿はそこにはなかった。
「な、何で?」
「リースが関係ないって言ったのは、あくまで私達に対する事なのよ。アルトの事で私達が我慢できる訳がないでしょ?」
「本日に至るまで、ご主人様に対して行われた暴行の数々は一つ残らず記録しております。勿論、誰がしたのかもです」
「そ、それらに対する応報も全て計画済みです」
何か聞きたくない事を聞いてしまった気がする。
だけど皆の様子から、これは僕が何を言っても変わらない事が分かったから
「・・・・できるだけ、穏便にね?」
という事しかできなかった。
・・・・何があるか分からない学園対抗戦の前に、何で自分より他の人の心配をしないといけないのか・・・と思いながら歩いていると前にシェルとファルが歩いている姿が見えた。
二人は師匠の家に扉が繋がってから頻繁に会っているが、朝と学園帰りだけは、今まで通り僕達とは別々だ。
まぁ、住んでいる所が別々な所なのに、毎日一緒に歩いていたら不思議がられるっていうのがあるからなんだけど
「皆さんおはようございます」
「おはよう。今日は何も起こらなければいいけど・・・無理か」
二人も僕達に気付いて、待っててくれた。
シェルはにこやかに挨拶して、ファルも挨拶してくれたけど、僕達の周りの人達の雰囲気を感じ取って肩を落としていた。
「お願いだから、騎士が出て行かないといけない状況にまで発展させないでくれよ」
「フフフ、それは相手次第じゃないかしら」
「・・・・なんかリースの様子がおかしいのだが」
「・・・朝からなんです」
シェル達に会っても変わらないリースの姿に苦笑していたら
「あ、そうだ」
シェルが良い事を思い出したみたいに手を打って、リースの後ろに回り込んだ。
「お母様が言っていました。女性は好きな人の腕の中だと落ち着けるのだと」
そう言って、リースを後ろから押した。
無論、僕の方に向かってだけど
「あ」
「・・・落ち着いてね?あまり無理をすると僕も心配するからね」
少し、いや大分恥ずかしいけど、近くに来たリースを抱きしめて少しだけ頭を撫でた。
すぐに離れたけど、それを見ていた周りの人達からの視線はきつくなる一方で、
だけど、リースは
「・・・・・・・」
「・・・帰ってこない」
サヤがツンツンと指を指しても反応がなかった。
そして
ボンッ!
っと聞こえてきそうな勢いで、顔を赤くして
「だ、大丈夫よ。うん、大丈夫。私は大丈夫・・・・ちゃんとやれるから」
少しギクシャクした感じで歩き始めた
「・・・あれは、逆効果だったのではないか?」
「はははは・・・・その時はお願いしますね」
ファルの言葉に僕は苦笑いで返すしかなかった。
広大のグランド?って言っても良いのか分からないけど、全学園生が揃ってもまだ余裕がある広場に僕達は並んでいる。
僕の後ろには、クーナ、ミリアがいて他の生徒達もチームで縦に並んでいた。
「・・・・それでは、今期前半の学園対抗戦を始めます。先程も言いましたが、この学園対抗戦は今の自分の実力を把握して、残りの半期の課題にするという目的があります。決して、私欲の為だとかないように・・・特に、最近は色々ありましたからね。貴方達の行動は全て見られていると思って下さい。ふざけた真似をすると評価が下がりますよ?良いですね?」
色々と話していた学園長が、最後の忠告のような事を言って舞台から降りて行く。
「・・・・じゃぁ、始めようか」
解散の合図があって、それぞれ移動していく学園生達。
僕達も良い場所を取る為に、急いで場所を移動する。
学園対抗戦のルールは、チームリーダーが持っている旗を奪った方が勝ち、奪われたら即退場となる。という事しかない。
だから、チームの人数や学年の違い等も関係なくバラバラでも良いし、
開始場所を各自で決めても構わない。
そういう、ことも含めて全て評価されるのだ。
「本当に大丈夫なの?」
「まぁ、色々考えたけど一番分かりやすいかなって・・・それに、ミリアの試験にも一応合格できたしね」
「・・・・・ふん」
目的地に向かう途中にクーナが心配そうに声を掛けてきてくれて、一応合格ラインを突破できたミリアに確認するとそっぽを向かれてしまった。
一応ミリアの出した条件である”ミリアから一本を取る”という条件はクリアできた。
所々危なく、力技で勝ち取ったものではあったけど、一本は一本だ。
・・・・確かに、最後の方は手加減をされているみたいだったけど、それが不満ならそんな事しなければ良かったのだ。
だから、僕も一緒に頑張れる事になったのは良かったのだけど、僕が考えた作戦を伝えるとまた不機嫌になってしまったのだ。
まぁ、確かに危ない事もあるかもしれないけど、僕もこれだけは譲ることは出来なかった。
唯一僕がこのチームで貢献できることでもあるし
なにより
「・・・・僕も言いたいことがあるしね」
異世界の勇者である神崎武雄の一言から始まったこの騒動。
色々な事実や皆からの想いも知ることが出来たけど、それでも納得ができない。
学園の人達の僕に対する扱いも変わったし
リース達にも迷惑をかけた。
リース達は気にしていない様子だったけど、初めの頃は学園対抗戦で皆と競う事を楽しそうにしていたのだ。
それを無茶苦茶にして、僕の潔白が証明されたのにも関わらず、また何かしでかそうとしているのだ。
いくら、勇者だからといっても度が過ぎている。
同じ異世界人の師匠やノゾムおじさんと神崎武雄。
師匠達も無茶苦茶な事はするけど、人に迷惑を掛ける事はない・・・いや、殆ど・・・・無い筈だ。
だから、師匠達の無茶の後には皆が笑顔になれる。
だけど、神崎武雄はそうじゃない。
力があるから
皆が認めてくれるから
勇者と言う立場があるから
それだけで、何でも出来ると思って自分勝手に行動している。
実際、何でも出来るのかもしれない。
だけど、それが人に迷惑を掛けていいことにはならない筈だ。
「・・・・・・・」
相手との実力差は歴然。
相手は仲間の数も多く、こちらは三人だけ。
だけど、負ける気がしない。
クーナが強くなったから?
ミリアが強いから?
そういう事じゃない。
確かにそれも利用するつもりでいるけど、それだけだと学園の評価も上がらない筈。
だから、僕は誰からも認められる形で勝たないといけないのだ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
まぁ、その影響でクーナからは心配され、ミリアは不機嫌になっているのだけど・・・・
「・・・・頑張るぞ」
また小さく呟いて、気合を入れるのであった。
おまけ
「おい!どういうことだ!」
「どうもこうも、見たままよ?」
「何で俺のチームとは別なんだよ」
「ちゃんとチーム登録をする時にも話したわよ?今の貴方にはついて行けないって」
「だから、何でだよ!俺達は同じ勇者だぞ、一緒に戦うのが普通だろうが!」
「貴方が純粋にこの対抗戦をする気があるなら、それでも良かったのでしょうけどね。そうじゃないのでしょ?」
「真面目さ!この学園、いやもしかすると王都全体に影響するかもしれない奴をやっつける為じゃないか」
「・・・・それはちゃんと否定されたでしょ?色々な人が検査して、ちゃんと問題ないって言っていたじゃない」
「それもあいつが何かしたんだ。俺達にも分からない特別な何かを使って」
「・・・そうね、今の貴方には分からない方法かもしれないわね・・・・・まぁ、貴方がそう言っている内は私達は貴方に協力できないのよ。したくもない」
「だから何で!」
「興味がないからよ。貴方は、ずっと一緒のチームに入ろうと誘っていた人達が貴方のいう所の悪い人に取られたから嫉妬しているだけ。それに私達を巻き込まないで」
「そんなんじゃ・・・」
「本当に分かっているの?今、貴方は瀬戸際にいるのよ?」
「瀬戸際?俺が?」
「そう、この状況をちゃんと見て。貴方の周りにどれだけ人がいるの?貴方を含めて四人しかいないのよ?私の所はその倍・・・これが何を意味しているのか本当に理解しているの?」
「そんなものお前が無理やり」
「私はただ一言言っただけよ。「神崎武雄に賛同できないのであれば私の所に来て」ってね。それでこの結果よ?」
「それは俺に人望がないって言っているのか?」
「違う・・・そんな小さい事じゃないのよ。ねぇ・・初めの頃異世界なんて何も分からない所に連れて来られた時に言っていたあの言葉は嘘だったの?」
「あの言葉?」
「”ずっと私を守ってくれる”って言っていた言葉は嘘なの?この娘達に言っていた言葉は全部嘘だったの?」
「嘘のもんか!俺は皆を守る。それだけは絶対に嘘じゃない」
「じゃぁ諦めて」
「ッ!」
「もういいじゃない。仲間も沢山増えた。守らないといけない人達もできた。それなのにまだ求めるの?何を求めているの?」
「それは・・・だから・・・お前達を守るために・・・」
「私達の為を想うのならもう馬鹿な真似は止めて。英雄の娘達が仲間にならなくても私達ならやっていける。そうでしょ?」
「・・・そうか分かったぞ」
「???」
「お前たちは嫉妬しているだな。あいつを倒してリース達を解放して仲間にしたとしても、お前たちの事は見捨てないから安心して」
「・・・・・ばっかじゃない!・・・もういい、勝手にして。私達も好きにするから」
「おい、待てよ!・・・待てって!・・・・・・・おい!」
「・・・・・・」
「・・・・・・良いのですか?」
「”称号:魅了されし者”の条件は「周りの有象無象に興味がなくその相手に本気で恋い焦がれている事」。”称号:魅了し者”は「魅了しされし者が十人以上いる事」。私達の能力はそこまで知ることができるのよ」
「そこまでの物なのですか?その称号というものは」
「ナイン達にとってはどうか分からないけど、称号って言うのは唯の肩書よ。私達も”称号:異世界の勇者(仮)”って言うのを持っているしね」
「という事は・・・」
「私達の勇者としての特殊能力みたいなものがあるかもしれない・・・・けど、あると思う?こんな恥ずかしい条件が必要な称号に」
「少なくとも、相手の異性を強制的に魅了させる能力ではないのですからね。あるとしたら・・・・・・」
「何顔を赤くしているのよ」
「い、いえ別に何も」
「それに、これは私も含めてなのだけど・・・・私達全員”称号:魅了されし者”を持っていない。あの人も”称号:魅了し者”を持っていない。私達女の子だけでも十人以上いるのよ?それなのに・・・・」
「確かに、私の場合は助けて頂いた恩はありますが、異性としての好意は持っておりませんから・・・・」
「ってことは、私も勘違いしていただけなのかなぁ~とね」
「だから、一度離れるのですか?」
「そう、神崎武雄も藤堂リリアも一度離れて、考える必要があるの。今までの事、これからの事をね」




