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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
第二章 学園編(二人の少女)
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聖女の力

試合は無事にファミルの勝利となり、それですべてが終わりとなれば良かったのだが、僕は今命の危険に晒されている。


「アルト殿、大丈夫なのか?」

「・・・正直、大丈夫ではないですね・・・・すごく寒いです」


ジワジワと折れた左腕と右足から氷が侵食してきて、もう左肩や右の太腿まで凍ってしまっている。


「回復魔法でどうにかできないのですか?」

「無理。俺の力では折れた腕をくっ付ける事は出来るけど、この氷をどうにかしないと無理だ。この氷は一種の呪いで、材料があれば俺でも解呪できるが・・・・」


教皇の孫。イサオ様は僕の腕を見て首を振る。

イサオ様は聖女と同等の力を持っているが(聖具を使ったら聖女の方が上)、解呪が苦手なのだと言う。

その事を謝られるが、僕は気にしないで下さい。とだんだんと朦朧としてくる意識の中で応えた・・・と思う


「・・・・イサオ様は・・・最初から・・・」


このまま意識が落ちるとやばいと本能的に分かってしまい、話をすることにした。

僕の質問にイサオ様はバツが悪い表情になって、頭を掻いている。


「いや、うん。元々、婚約の話は断るつもりだったんだ。だって、俺と彼女とは歳が大分離れているからね」


イサオ様の歳は30歳を少し超えたぐらいで、シェルムとは大分離れているのだという。

女性関係の事は調べれば分かるし、歳も離れているから、シェルム達が断ると思っていたのだが


「家のくそ爺が何かしたのか、それとも深読みし過ぎたのか、彼女はこの話を断らなかった」


それが一番の誤算だったと、イサオ様は笑う。


「なら何故、貴方の方から断らなかったのですか」

「うん、そう言われると思っていたけどね・・・色々あるんだよ。くそ爺が権力に拘っていたり、俺の大切な人がいなくなったりな」

「!?」

「俺は、治す事に対しては聖女とも互角だと思っているけど、戦う術は殆どないの。防御とか補助魔法ならまだ使えるけど」


そういイサオ様であったが、気絶していた人が起きて力いっぱい殴ったり、剣で切り付けてもびくともしない壁を維持できている時点で謙虚にしか聞こえない。

だって、炎の剣の攻撃すらびくともしていないんだもの


「んで、どうするかなぁと悩んでいたら、井上さんが現れた。やっぱり、英雄と呼ばれる人は違うのかね?助けて欲しい時に現れるんだから」


そこからは、話は簡単だったらしい。

師匠がイサオ様の大切な人を保護して、他の人達も危険にならないように工夫して、イサオ様は自由に動けるようになったらしい。

だけど


「まぁ、それで今回の件は終わっても良かったんだが、また爺が何かしてくる可能性があったからな。この機会に爺を潰そうと思ったわけだ。井上さんの話だと、今回の聖剣の話も爺が関わっている可能性があるって事みたいだからな。こうして捕まえに来た訳だ」


元々、教皇の立場で国に対してそこそこの発言権を持っていたのだが、聖女の娘と血縁関係になり、自分の息が掛かっている人に貴族の立場を与える機会を与えへその恩で味方につける。そうすることで、立場を上げようとしたのだ。


「君たちには悪いと思ったが、確実に相手を捕まえる為にはこの試合は必要だった。逃げ足だけは早いからなくそ爺は・・・だけど、特にアルト君には非常に申し訳ないことをした。謝って済む問題じゃないが、確実に君の手足は治そう。それだけじゃない。君が何か困ったことになったら俺が手を貸そう。教皇の孫の名は伊達じゃないからな」

「いえ、そこまでして頂く訳には・・・」

「そこまでして貰う価値を手に入れる程の事をしたんだよ君は」


頭を撫でてくれるイサオ様の手は、師匠の様に暖かい感じがした。


「ま、姫のピンチを救うのは王子様でもあるが、王子様のピンチを救うのは・・・・ほら、噂をすればなんとやらだ」


少しでも氷の侵食を防ごうと、何やら魔法を掛けていたイサオ様だったが、急に顔を上げてやっと来たかという表情になった。


「アルト君!」

「・・・・シェルムさん」


慌てて駆け寄って来たのはシェルムで、とても必死な表情をしていた。


「あぁぁぁぁ」


シェルムさんは僕の折れて、無くなってしまった手足を見て、力が抜けたように座り込んでしまった。


「私が・・・私が・・・意地を張ったばかりに・・・・」


両手で顔を覆い、泣いているシェルム。

その声からは、後悔しか感じられなかった。


「なあ、今までの会話が聞かれる可能性が・・・」

「たぶん、僕が着ているマントが原因だと」

「あちゃぁ~しまった。そういうことなら後から言えばよかった」


イサオ様は困った顔で頭を掻いていたが、急に真面目な表情になってシェルムの所に歩いていく。


バシッ!


そして、手加減なくシェルムの頬を叩いた。


「いい加減にしろ。泣いていても何も変わらんぞ。それどころか、あいつはこの瞬間さえも死に近づいているんだ」


叩かれが頬を呆然と支えていたシェルムだったが、その言葉を聞いてハッとした表情になった。


「過ぎた事はしょうがないと開き直る必要はないが、今何が大切なのかをしっかりと考えるんだ。今、君がする事は後悔して泣くことかい?それとも・・・」

「・・・・ありがとうございます。目が覚めました」

「それで良い。俺も今回の責任からは逃げないし、逃げたくない。君を思いっきり叩いたことも含めてな」

「では、後からその責任を取って貰います。ですが、今は」

「あぁ、あの氷の呪詛を解呪しないといけない。それが済めば俺が手足をくっ付けて」

「話の途中にすみません」


シェルムとイサオ様が話している中に、僕の手足を拾ってくると言って離れていたファミルが入っていった。

だけど、拾ってくると言った僕の手足は持ってなく、表情もとても暗かった。


「アルト殿の手足ですが・・・・完全に氷に覆われていて・・・そのまま・・」

「・・・・砕けたと」

「・・・はい」

「そんな!」


シェルムが悲惨な声を上げるが、僕は大体想像できていた。

僕の体の方は、イサオ様が何かの魔法で侵食を抑えていたけど、折れてしまった手足はそのままだったのだ。侵食の速度が違って当たり前なのだ。


「・・・・しゃぁない。井上さんちょっと良いですか」

「・・・なんだ?今、猛獣(俺の娘達)を抑えるのに必死なんだ」


イサオ様が僕に向かって(正確にはマント)話しかけると、どこからか師匠の声が聞こえてきた。


「いえ、ちょっと人手が欲しいんですよ。私は今から魔力を練りますから、あの壁を解除しなくてはならなくて・・・あいつらを見張ってくれる人が何人か、そして、聖女様を連れてきて下さい。それと、心の声と実際の声が反対ですよ」

「まじかっ!・・・ってもな、こいつらに任せたら殺しそうだし・・・マリーの方は大丈夫なんだが・・・え?いいのか?・・・・分かった・・・・マリーとルミスがそっちに行く。ルミス一人でも大丈夫だと思うが、ファミルも一緒に見張れば大丈夫だろ」

「・・・・・成程、では急いできてください。これ以上は全身が凍る前に心臓が止まってしまいます」

「っ!ああ、わかっ」

「来たぞ」

「・・・・・めちゃくちゃ早いですね」


師匠が言い終わる前に、マリー様を肩に担いだルミス様がすぐそこまで来ていた。

これには、イサオ様もびっくりしていた。


「驚いている暇はない。さっさと準備をするんだ」

「・・・・急ぐのは良いのだけど、流石にこの歳でこの姿勢は少しきついのだけど・・」

「鍛えてないからそうなる。40にもなるのだから少しは鍛えたらどうだ?」

「ま、まだ、30代です!」

「あと数年の話じゃないか」


女性にとって歳の話は禁句と師匠が言っていたけど、正直師匠達は年相応の姿には見えない。

リース達の母親達もそうだけど、30~40歳が近い筈なのに娘達と姉妹と見間違えられる事もある。


「はいはい、そんなこ・・とではないですね。はい、すみません。ですが、時間が無いのは本当です。早くしましょう」


勇者だ!こんな所に勇者がいた!

そんな言葉がマントから聞こえてきたような気がした。


「分かりました。取り敢えずあの人は後で説教です。それで、私は・・いえ、私達は何をすれば良いのでしょうか」

「話が早くて助かります。貴女達には解呪と呪詛の進行を抑えて貰います。聖女の力見せて貰います」

「ふふふ。私達の力を見て落ち込まないで下さいね・・・・全力でお応えしますよ」

「っ!・・期待しています」


マリー様から放たれた魔力に、イサオ様は冷や汗を流していた。

僕もニコニコと笑っていた表情から一変して、真剣な表情になったマリー様を見て驚いたと同時にやっぱり師匠と同じ英雄なんだと、改めて理解した。


「では、シェルムやりますよ」

「はい、お母様」

「・・・・・後で、一杯話をしましょうね」

「・・・はい」


二人で同時に何かをするのかと思ったら、マリー様はシェルムの後ろに立ち何もしようとはしない


「何をしているのですか!本当に危ないんですよ!聖女の力を見せるんじゃなかったのですか!」


その姿にイサオ様が怒るが、マリー様は気にせずに


「見せませすよ。聖女の力を舐めたらいけませんよ。こんな呪詛の解呪の一つや二つ、他の最上級魔法と同時に扱えなくて聖女なんて名乗れませんよ。戦場では一人一人に治療する暇なんてないのですからね・・・だから、できますね?」

「はい、命に掛けてもやり遂げます」


シェルムの肩を軽く叩く。

シェルムもその言葉にしっかりと頷いて、僕の体に手を当てる。


「今、楽にして上げますから」


因みに、マントから「その状況で言われると、別の意味(介錯)に聞こえてしまうんだけど」という言葉聞こえてきたが、皆無視していた。


「・・・・お願い、彼を助けて!」


ぶわぁ!


と、体の中に暖かいものが流れ込んできた。

それと同時に、氷の侵食が止まり、徐々に氷が消えていく。


「詠唱破棄!しかも、聖具を使わずにだと!」


イサオ様がすごく驚いた顔になっていた。

その後ろには、逃げようとしたのであろう対戦相手が山のように積み上げられて、ルミス様とファミルが話をしていた。

そんな光景に思わず笑ってしまって


「ふふ、何か面白いものがありましたか?」

「そうですね・・・」


僕を治そうと必死になりながらも、笑顔を向けてくれるシェルム。

ルミス様と話をしていて、終いには稽古をして貰っているファミル。

そんな二人の表情には、最近の影は全くなくて


「とても綺麗なものを見つけました」


体力の限界なのか、痛みがなくなってきた事による気の緩みか分からないけど、段々と眠くなってくる。

リース達が望んだ。

僕も望んだ。

たぶん、皆が望んだ事。

やっと辿り着けたそんな場所をまだ見たくて、必死になって眠気と戦う。


「綺麗なものですか?」

「ええ。貴女達の笑顔です」


だから、きっとこんな事を言ってしまったのは、そういうどうしようもない事が原因だったと思う。


ボンッ!


とシェルムの顔が赤くなり、離れていた場所で稽古をしていたファミルが急に躓いた姿をみて、自分が何を言ったのか理解して、僕も顔を赤くしてしまう。


「あらあら」


と嬉しそうに笑っているマリー様を見て、恥ずかしさのあまり意識を手放すのだった。



おまけ


「ほう、義手。いや新しく作ったのか」

「はい、向こうは良いのですか井上さん。何か必死でしたけど」

「ああ、なんかアルトの恥ずかしい言葉を聞いたらなぜか落ち着いた」

「あぁ、あれは聞いていて恥ずかしかったですね。私は言えません」

「俺も言えない。でも、言えてしまえる奴がいるんだな」

「そうですね」

「それで、その手足はアルトの細胞から一から作ったと思うんだが・・・成長が早くねぇか?クローン技術の応用だろ?」

「そうですね。本当なら凄く時間が掛かるのですけど、奥の手を使いました」

「奥の手・・ね」

「秘密ですよ」

「お前が転生者っていうこともな」

「こんな事もあるんですね。僕は産まれてすぐに第二の人生キタコレ!!って思ったんですけどね・・・・先着様がいたんですよ」

「ま、俺らだな」

「はい。小さい頃から修行をして魔物の氾濫の原因を突き止めるのは俺だ!って思っていたら、勇者召喚ですよ。しかも同じ日本人」

「勇者はやめろ」

「そうでしたね。今は英雄ですしね。っとこれで終わりっと。後は引っ付けるだけですね」

「すまないな」

「謝るのはこっちの方ですよ。くそ爺の事もですが、俺も諦めていましたからね」

「そうか・・・それでどうだった?」

「良いですね、彼は。まさしく、理想の相手ですよ」

「ウホっ!」

「言うと思いましたけど、違いますからね!ちゃんと嫁さんいるんですから!」

「何人もな」

「ぐっ!」

「その辺は、望と同じなんだよな」

「別に良いじゃないですか・・・向こうでは全然モテなかったんですし」

「ふ~ん」

「自分から弄って、興味ないみたいな態度止めて下さい」

「悪い悪い。で?」

「強くて無双!までは無いですけど、恵まれた力でここまでこれた分、やっぱり期待してしまいますね」

「だろ?」

「ええ。力はない。周りはチートだらけ。でも、諦めずに頑張って、自分が傷付こうが体を張って、最後にはしっかりと結果を残す。俺TUEEE!も良いけど、そういう主人公が俺は好きですよ。俺達は向こうの世界で諦めてしまった分、眩しくも見えますよ」

「そうだな。あいつが傍にいると昔の自分を思い出して嫌になる時もある。何で、あの時頑張らなかったのか。あいつより恵まれていたのに何で頑張れなかったのかってな」

「だからこそ、見守りましょう。彼が折れてしまわないように」

「楽しみながらな」

「それを悪趣味っていうんですよ」

「知っている。だから、娘達の暴力も受け入れているんだよ」

「覚悟の仕方が違うんじゃないですか?」


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