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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
第二章 学園編(二人の少女)
29/86

力とは

どうして僕は弱いのだろう


師匠に引き取られてからずっと思い悩んでいる。

師匠は、「弱くても良い。途中で投げ出さず、逃げるより遥かにマシだ」という。

リース達は、「それなら私達が守ります」と言ってくれる。


だけど、違うのだ。


師匠が僕の何を見ているかは分からない。

リース達が僕を心配してくれる事は凄く嬉しい。

だけど・・・

だけど僕は・・・・

それでも、皆の隣に立ちたいのだ。

隣に並んで、一緒の景色を見たいのだ。

だけど、僕には力がなくて・・・・


シェルムとファミル

二人が悩んでいる事は何となく分かっていたし、二人が僕に相談してきたのはリース達が影響していると思う。

リース達も昔は二人と同じように悩んでいて、僕は自覚がないのだけど、僕のちょっとした行動や言葉で救われたと言っていた。

だから、二人も僕に相談してくれたのだろうが、結果は二人が望むようなものではなかった。

その顔を思い出す度に”あぁ、どうして僕は弱いのだろう”と考えてしまう。


「雑念が多いっすよ。もっと周りに気を配るっす」

「・・・・どうして此処に?」


荒い息を整えながら、目を瞑っていたらナナシさんの声が聞こえてきた。


「兄ちゃんこれ、一人で倒したのか?」

「・・・・無理しちゃダメだよ」


ナナシさんの後ろからはヴォルやミンクが周りの状況を見渡して驚いた表情を作っていた。


「魔兎に魔狼の群れ・・・・っ!暴れ猪もいるっすね」


ナナシさんは周りに倒れている魔物達を確認しながら、徐々に顔を顰めていった。


「あ、あのナナシさん!これには理由が・・・」

「正座」

「?」

「正座をするっす」

「あ、はい」


腕を組んで振り向いたナナシさんをみて、逆らったらいけないと感じて素直に正座をする。

この正座は、師匠が怒られる時によくする座り方で・・


「余計なことは考えないっす」

「すみません」

「二人は討伐部位を持ってくるっす。せっかく倒したのだから勿体無いっす」

「は~い」


ヴォルトミンクは素直に返事して、魔兎の血抜きや魔狼の牙、暴れ猪の牙など旅をしている時に覚えた手順で回収していく


「依頼は、魔兎を5匹倒すことで、他は意味がないですよ」

「確かに、ギルドのランクには影響しないっすけど、素材が欲しい人はいるっすよ」

「たしかに」


ギルドのランクには影響しないが、魔物や動物の素材を欲しがる人は多い。

ナナシさんは、そういう人達に後で売りつけるつもりなのだろう。


「それで、どういうことが説明して欲しいっす」

「あ、はい。最初は、魔兎を普通に倒していたのですが」

「そこら辺は想像できるから別にいいっす」


では、いざ説明をっと思って話し始めるが、ナナシさんは手を横に振って違う違うと言う。


「大方、魔兎を倒したはいいがボーとしていたら、魔狼の群れが来て、慌てて倒したら、その血の匂いに誘われて、暴れ猪が来たってところっすね。その、暴れ猪も一直線に飛び込んできたから、土の壁と落とし穴で動きを止めてからトドメを刺したって所っすかね?」

「大当たりです」


どこからかずっと見ていたのかと疑うぐらい正確だった。


「だから、そこは別にいいっす。問題は、そのボーとしていた理由を知りたいっす。魔物の血で臭う場所で立ったままって、初心者冒険者でもしないっすよ」

「あ」


確かにそうだ。

暴れ猪まで襲ってきたのは、僕がずっと魔物を倒した場所から動かなかったからだ。

今は、ヴォル達が死体から素材を取るまで動かないが、もう少ししたらこの場から離れないといけない。


「基本の基本を忘れるぐらい、何かあったんすよね?」

「・・・・・・」


確かにあったが、それをいうのは何か恥ずかしいものがある。

シェルムの時は唯の相談だったから、モヤモヤした気持ちは残ったけど何とか普段通りに生活することができた。


でも、ファミルの場合は模擬戦で、僕の力が弱いことを自覚してしまって、体を動かさないとどうにかなりそうだったのだ。


「・・・・話したくなかったら話さなくてもいいっすよ。でも、こんな無理をするなら、危ない事になりそうなら私達の誰かを連れて行って欲しいっす。何も出来なくても見守ることぐらいさせて欲しいっす」

「そんな!ナナシさん達が何もできないなんてそんなことはありません!」

「でも、実際は私達は何もできていないっす・・・・そんな汚れた姿になる程危なかったのに、私たちは何一つ出来ていない。魔物を倒す力があっても、誰よりも先にアルトを見つける事が出来ても、その場に居なければ何もできない!・・・っすよ」


ナナシさんは、悲しそうな顔で僕の腕や顔に着いた傷を治療してくれる。


「・・・・・力ってなんですかね?期待に応える為には何をすれば良かったのでしょうか・・・・」


気付いたらそんな言葉が口から飛び出していた。


「話せるだけでも話して下さい」


真面目なナナシさんの顔をみて、ポツリ、ポツリと何があったのかを話していた。


シェルムの婚約話と何も言えなかった事。

ファミルの模擬戦と負けてしまった事。

二人共僕に何かを期待していたみたいだったが、僕はその二人の期待に応えられなかった事。

話しながら、僕の惨めさを思い出してしまい、両手を強く握り締めてしまう


「・・・・・私はどちらの気持ちも分かるっす」

「なら、僕はどうすれば良かったのでしょうか」

「アルトはそのままでいいっす。別に何かをしないといけないとか、そんな事は考えずに、したい事をすればいいっす」

「でも・・・それでは・・」

「たしかに、あの二人はアルトの事を買いかぶり過ぎたっす。それ以前に、アルトの事を知らなすぎたっす。リース達からの話の中のアルトばかり見て、目の前にいるアルトを見てなかったっす。まぁ、リース達も二人にアルトの事を直接知ってもらおうとして、意味ありげな事ばかり言って、具体的な話をしなかったから、二人の想像するアルトがとんでもない事になってしまったのだとは思うっすけどね」


ナナシさんは、散らばっていた魔物の素材を集めて来るヴォルトミンクの姿を確認して、よしっと言って僕の腕を引っ張り立たせてくれる。


「・・・・この世に必要な時に望まれる結果を出せる人はそんなに多くはないっす。異世界の英雄だろうが、現在の勇者だろうが、ある一部の者を救えても、全部を救うことは無理っす・・・だけど」

「持ってきたぞ!」

「お兄ちゃん・・・もう無理しちゃダメだよ」

「ごめんね。二人共」


近寄ってきた二人の頭を撫でながら、歩き始めたナナシさんの後をついていく。


「・・・・だけど、居て欲しい時に来てくれる、居てくれるだけでも救われる事はあるっす。魔物を倒さなくても良い。楽しい会話ができなくても良い。ただそこにいるだけ救われる。そんなこともこの世にはあるっすよ」

「・・・・・・」


前を向いているナナシさんの顔は見えないが、そう話す言葉には照れている様子が見受けられた


「だから、アルトにはこれを渡すっす」


くるりと振り向くナナシさんはいつもの表情をしていて、照れている様子は見られなかったが、いつもより口調が早い様子だった。

そんなナナシさんは小さく折りたたまれた紙を差し出してきた。


「これは?」

「アルトのお師匠さんからの伝言と私が調べて分かった事っす」


渡された紙の内容をみてかなり驚いてしまった。


「ナナシさん!これ!」

「アルトのお師匠さんは何者っすかね・・・どうも今私達が此処に居ることも計算されているような気がしてくるっすよ」


師匠からの伝言にはただ一言しか書いていなかった。


”まだ、折れてなければ此処まで来い”


その言葉と一緒に手書きの地図があり、矢印が向いている場所は夕方、ファミルと模擬戦をして訓練所だった。

そして、ナナシさんが独自で調べたと言う内容は


「ナナシさん!僕は!」

「行ってくるっすよ。そういうアルトだから、私達はアルトに付いて行く事にしたっすからね」

「ありがとうございます!」


苦笑しながら手を振っているナナシさんに背を向けて僕は走り出す。

訓練所にすぐに向かいたかったが、ナナシさんのメモを見ると準備をしないといけなかった。

だから、すぐに行きたいのを我慢して目的の場所まで行かないといけない。


「はっ・・・はっ・・・・はっ・・・着いた」


街からあまり離れていない場所で依頼をしていたから、其処まで来るのは遅くは無かったけど、それでも既に日は落ちている。


「すみません。アルトと言いますが、頼んでいた物はできていますか?」


息を整えて目的地でもある、店の中に入る。


「ああ、丁度終わった所で、明日ぐらいに連絡するつもりだったが、急用か?」

「はい、できれば今渡して頂けるとありがたいのですが」

「ま、いいだろ。準備をしてくるから少し待っとけ」

「ありがとうございます」


店の奥に入っていく店員さんに頭を下げて、ナナシさんが渡してくれた紙の内容を思い出す。


シェルムの婚約話の具体的な内容と聖剣を使えないファミルの事だった。

シェルムの婚約者は教皇の孫で、性格や能力は問題ないが、女性関係が気になること。

ファミルが聖剣を使えないことで、貴族としての立場が危ないと言うこと。

そして、それを解決するために師匠が考えた解決策。

それが


「ほらよ、これで全部か?」

「ありがとうございます」


受け取ったものをその場で着ける。これは命を守るもので、妥協できない物だから不具合があってはいけないのだ。


「大丈夫そうか?なんなら調整できるぞ」

「いえ、大丈夫です。かなりぴったりで逆に驚いています」

「そいつは良かった。親方が張り切っていたからな”恩人に借りを返す絶好の機会”っとか言って・・・親方と知り合いか?」

「分かりません。前回来た時も直接はあっていませんから・・・」

「そうか・・・それにしても今からそいつが使われるとしたら、決闘でもするのか?」


そう言って、身体につけた物、防具を指差してくる。


「似たようなものかもしれません」


似たようなものもなにも、決闘をしにいくのだが言葉を濁しておく。あまり、広める話題でもないからだ


師匠は二人の問題を解決するために、暴挙というぐらいの手段を取った。

決闘

しかも、聖剣チーム対聖剣候補チームと漠然なチーム分けと報酬がシェルムとなっていた。


シェルムは聖女の娘でその容姿でも有名な存在だ。それを勝てば自由にできるとあれば張り切る人は大勢いるだろう

そんな人達が集まりそうな聖剣候補チームである為に、教皇の孫は聖剣候補チームであるが、他のチームとは連携が取れないだろうとナナシさんは予想していた。

教皇の孫は女性関係が気になる存在ではあるが、ちゃんとしっかりとした思考の持ち主なのそうだ。


一方、聖剣チームはリース達が入るのかと言えばそうではなく、今の所ファミル一人である。

これは、ファミルが聖剣を使いこなすことができるのかを確認するためで、聖剣の本来の力が出せれば敵が何人いても問題はないだろう?と相手側が求めてきたからだ。


師匠は戸惑う事なく了承したが、一つだけ条件をつけた。

ファミル一人に対して相手は五人。相手が十人ならファミルに一人助っ人が付く。と言うように、あまり人数に差がでないようにしたのだ。


ナナシさんの情報では、これにより聖剣候補チームの選抜にひと悶着あったみたいだ。

聖剣候補には、聖剣候補を準備した一族とそれを扱う一族の二ついたからだ。しかも、聖剣を使う一族は傭兵を頼み決闘を確実のものにしようと考えていた。

そこで、問題になったのが、師匠が提示した報酬がシェルムと言う事だ。

ただ単に、ファミルが聖剣の力を使えずに勝てば、得られるのは、貴族としての地位とシェルムの二つ。シェルムは教皇の孫に嫁ぐことが決まるため、実質は貴族としての地位のみだ。しかし、それに納得できない人達がいた。傭兵だ。傭兵は貴族には興味はなかったが、整った容姿をもつシェルムに興味を持ったのだ。それには、教皇の孫が反対してという感じになって、結局は聖剣を準備できた一族から5名。聖剣を使う一族から3名。傭兵から1名。教皇の孫の1名の十人出ることになったのだ。


だから、ファミルのチームも一人だけ助っ人が入ることができるが、一般の人達や同じ騎士達には話すことができない。

何故なら、英雄の騎士の娘が聖剣を扱えないということが広まってしまうかもしれないからだ。

ファミルの事情を知っているリース達は、戦力が強すぎてチームに入ることができない。

だったら


「僕に何ができるのかは分かりませんが・・・」

「それでも、何もしないでいるよりはマシだろ。何もせずに逃げたら、一生後悔するぞ」

「はい」


店の人にお礼をとお金を払って、訓練所に向かう。

行っても迷惑がられて何もできないかもしれない。

それでも、友達の為に少しでも何かできればと

そう思い、全力で駆け出した。



おまけ


「本当に大丈夫なのですか」

「それはルミスの娘に言えよ。結局はあいつが、聖剣の力を使いこなせないと意味がないからな」

「それはそうですが・・・」

「マコト殿からこの話を聞いたときは、時間稼ぎをするためだと思ったのだが」

「それもあるな。あいつら人数の制限をした途端、揉め始めたからな~人間の欲深かさを垣間見たよ」

「しかし、その時間稼ぎでもファミルは聖剣の力を使うことが出来なかった・・・」

「あ、それ間違い。俺が時間稼ぎしたかったのは別なことだ」

「別なこととは?」

「色々さ・・・でも、一番気をつけていたのは修理の状況だな」

「修理?なんのですか」

「この場で修理っていって思いつくものと言えば、剣か防具だろ?」

「なぜだ?ファミルには騎士の鎧があるし、武器は聖剣が」

「じゃぁ、ファミル以外なんだろ?」

「助っ人の事か?でも、あれは・・・」

「お師匠様只今帰りました」

「おう。よくここが分かったな」

「いえ、丁度帰ってくる時に例の人達に会いまして」

「あの腹黒忍者もよく動くな」

「では、これも偶然ではないと?」

「一種の仕返しだろうな。俺に対してかお前に対してかは分からんが」

「そうですか・・・ではしっかりと見てきたいと思います」

「そうしろ」

「助っ人は、今来たケントではないのか?」

「俺の弟子ってことで有名なんだから無理に決まっているだろ?アイツが今来たのは本当に偶然だ」

「では誰が」

「来たら分かる。それに始まるぞ」

「十人か情報通りだな」

「・・・ファミルちゃんは大丈夫でしょうか」

「あ、そうだ。結局二人に宿題を出していたが、答えは出たか?」

「今はそれどころじゃ」

「今だからだろ?」

「・・・・・そうですね、私はこの決闘が済んだら娘に謝ろうと思います」

「私もだな・・・・もっと大切な事を教えてやれば良かった」

「なら、ルミス。答えが出たお前には分かるだろ。お前の娘は今の状態で聖剣の開放ができるのかどうか」

「・・・・・・・・・・・・・無理だな」

「そ、そんな」

「・・・っ!?待て!なら助っ人というのは!?それにあの言葉は・・」

「ど、どうしたのルミス」

「おいおい、そんなに睨むなよ。無駄にはしない。だから、無理やり報酬を変えたんだ。この場に聖女がいてもいいようにな」

「だからと言って!」

「お願いだから落ち着いて!急にどうしたの?」

「マリー、今から少し魔力を練っておいてくれ。できればシェルムにも協力を・・・この決闘、下手をすると死人が出るぞ!」


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