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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
第二章 学園編(二人の少女)
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期待はずれ

訓練所の中は当たり前だけど、かなり広かった。

いや、広すぎる。

絶対に建物以上の広さがあった。しかも、馬もいて騎乗しながらの訓練もできるような所があった。


「マコト様とノゾム様が張り切ったらしくね」

「・・だと思いましたよ」


師匠たちならと納得してしまう


「さあ、急に連れてきたのは申し訳ないけど、少し模擬戦をしてくれないか」

「・・・良いですよ」


理由は聞いていないけど、何かを確かめたい。多分そんな理由なんだと思う。

理由は何なのか?なぜ僕なのか?

そんな疑問があるけど、ファミルは僕を選んでくれた。

なら、こんな僕でもファミルに応える事ができるなら、全力で応えようと思う。


シェルムは一旦控え室に行って、着替えてきた。

街のあちこちで見られる女騎士の制服に銀色の鎧。

機動性を考慮してか、全身を覆うタイプではないが要所はしっかりと守られている。

ファミルの家系の家紋が鎧には刻まれていて、そこだけは他の騎士達とは違う意匠になっている。

武器は、右手に木剣、左手には小さな盾がついていた。


「アルト殿の武器は」

「この二つで良いです」


僕は、練習用の木剣を二つ持って、重さや使いやすさを見ていく。


「二刀流か・・・・防具は」

「今、修理に出していますので・・・それにどんな状況でも戦えるようにと師匠に教えてもらっているので」

「そうか」


僕は荷物を地面に置いて、ファミルと向かい合う形で立ち止まる


「ルールは一本勝負。魔法は禁止で純粋に剣技だけの勝負としよう。何か質問は?」

「強化魔法は?」

「それがなければ、私は力勝負で負けてしまうよ。こう見えても、強化魔法を使わないとか弱い乙女なんだぞ」

「ですよね」

「・・・素直に頷かれるのも恥ずかしいのだが」


顔を赤くしてボソボソと呟いていたけど、パンパンと頬を叩いて気合を入れ直している。


「これは私の我が儘で、何も説明しないのにも関わらずに勝負を受けてくれたことは感謝する」

「理由は・・・」

「勝手な話だが、答えることはできない」

「・・・・そうですか」

「怒らないのか?」


ファミルが不安そうな声で聞いてきたので、思わず笑ってしまった。


「む。君は失礼だな」

「ごめんなさい。正直に言えば納得できない事は多いです。でも、ファミルさんが何も理由もなくこういうことをする人ではないと知っています。だから、僕は貴女に応えるだけです。理由は要らない。不安も疑問も全て放り投げて、僕は全力で貴女に応えようと思います」

「・・・・あぁそれで良い」

「では」

「合図は、このコインが落ちた瞬間からだ」


ファミルは小さなコインを高く指で弾く


クルクルとコインが回りながら落ちていく。

両手の木剣を握り締めて、その時を待つ。


チリン


コインが落ちた瞬間に僕はファミルに向かって飛び込んでいく。


「はっ!」

「なんの」


右手で振り下ろした剣をファミルは小さな盾でしっかりと防ぐ


「な!?」


だけじゃなくて、最小限の力で僕の剣先を逃がしてしまう。

僕はそれにつられるように姿勢を崩してしまう。


けど


「まだまだ!」


無理やり姿勢を戻すのではなく、逸らされた力に乗るように体を傾けて地面を転がりながら、ファミルの右手の剣を躱す


「・・・無茶をする」

「無茶でもしないと追いつけないですからね」


誰にとは言わない。

師匠ではない。師匠を追い越すという気持ちはあるが、それは目標ではない。

だから、僕が追いつこうとしているのは、僕自身だ。

正確に言うなら、未来の僕。今の僕が想像している自分自身に追いつくために今頑張っている。


「行きます!」


たったの一撃。それだけで僕の実力がファミルに届いていない事が分かった。


現にファミルは僕の一撃を一歩も動かずに、防ぎ、反撃してきた。

それぐらい実力に差がある。

だけど、それでも、僕が諦める理由にはならない。


何度、盾で受けられても

何度、地面に転がされても

何度、無様な格好で逃げても

それでも、僕は諦めない。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「・・・こんなものですか」


それでも、全力で攻撃をする僕と軽く受け流し攻撃するファミルでは体力の消耗に差が出てくる。

僕は肩で息を整えるが、ファミルは汗の一つも掻いていない


剣技


それだけ見ると、ケントよりも上なのが分かる。

盾の使い方、剣の捌き方、相手の動きを捉える速さ、反撃の仕方、その一つ一つが僕よりも遥か高みにある。


「なら、防御ならどうですか」


今まで突っ立ったままだったファミルが勢いよく飛び込んできて剣を振り下ろしてくる


「くわぁあ!」


左手に持っていた木剣で受け流そうとするも、力で負けてそのまま吹き飛んでしまう。

そのまま地面を転がるが、その時に左手を挫いてしまう。


だから


「ッシ!」


地面を転がって体制を立て直してすぐに、右手の剣をファミルに向かって投げる。

追撃をしようとしていたファミルはその剣を避けずに打ち払う


その瞬間に、左手で持っていた剣を右手に持ち替えてファミルへ向かって飛び込んでいく


「はっ!」

「ふっ!」


木剣と木剣がぶつかり合い甲高い音が響いた。


「・・・・・参りました」


カラン

と、僕が持っていた筈の木剣が地面に落ちた音がした。

僕の首元には、ファミルが握っている木剣の先があり、どう見てもファミルの一本だった。


「・・・ありがとう。こんな無茶に付き合わせて」


ファミルは剣を下ろして笑顔で手を伸ばしてくる


「・・いいえ、少しでも役に立てたのなら嬉しいです」

「そうか、左手と右手もか少し捻っているようだから手当をしよう。道具を持ってくる」


そう言って、ファミルは奥に向かって歩いていく。

僕は、ズキズキと痛む左手を庇いながら、左手よりも痛む胸を握り締める


「ははは・・・ファミルさんはお世辞が下手だね」


確かに、顔は笑顔だった。だけど、目だけは違っていた。


期待はずれ


言葉にすればそんな感じの目だった。

先日のシェルムと同じような、期待していたのに、それに達してくれなかった。そんな期待を裏切られたような目だった。


勝手といえば勝手な話だ。

理由も言わず、何も説明されてもないのに期待され、一方的に裏切られたような目を向けられる。

巫山戯るなと大きな声で言いたい。


そんな気持ちがあるけど、

それよりも、その期待に応えることが出来なかった自分が悔しくて、悲しい。

師匠の修行を再開して、リース達との訓練とで少しずつ実力がついてきたのが分かった。

だけど、それでも足りない。


皆の期待に応える為には、たったそれポッチの力ではダメだったのだ。

僕は泣きそうになるのを堪えて、ファミルが戻ってくる前に立ち去る事にした。



おまけ


「それは本当ですか?いえ、本気ですか」

「本気も本気、超本気」

「巫山戯ないでください」

「別に巫山戯ているつもりはない」

「では」

「なら聞くが、これ以上の案があるのか?」

「それは・・・」

「マコト殿それは流石に無茶なのでは」

「ルミス・・・お前がもう少ししっかりしとけばこういうことにはならなかったんだぞ?」

「確かに私がしっかりとあの子に教育をしなかったばかりに・・」

「違う、そこじゃない。問題はあの子じゃなくてお前らだ」

「え?私達に問題が」

「そうだ。ぶっちゃけお前らの問題は本来問題にならないことなんだよ。マリーの場合は仕方がない部分もあるがそれでも、自力で解決できる問題だ」

「それはどういう・・」

「マリー。お前は此処に来た時ルミスをからかっていたな?ルミスの娘が男を連れてきたと言って」

「ええ。ファミルちゃんが初めて家に男の子を連れてきたのが嬉しくてつい・・・ファミルちゃんは私にとっても娘みたいなものですから」

「じゃぁ何故、自分の娘の幸せを考えられない。お前の娘も本来ならそういうことをしても可笑しくない年頃だぞ?」

「それは・・・あの子が納得」

「納得しているのか?納得しているのなら悩まない筈だ」

「・・・・・・・」

「ルミス。お前の場合は初心を忘れている」

「・・・初心」

「お前は何の為に剣を取った。お前はその剣で何をしたかった。」

「私は・・・・・」

「二人共、時間が来るまでその事を考えておいてくれ」

「ですけど、貴方の計画ではファミルちゃんが一番危険に」

「それは間違いだ。この計画で一番割に合わないのはシェルムの方だ」

「え?だって」

「ファミルは聖剣の使い手として認めてもらうために戦う、だけど、シェルムはその結果によって身の振り方が変わる。自力で変えようとするファミルよりは、受けになっているシェルムの方が割に合わないだろ」

「ですけど、ファミルちゃんが危険に」

「そりゃぁ少しの危険はあるだろうが、そんなこと言うなら聖剣なんて捨てればいい。聖剣を受け継ぐと云う事は、これからの戦いに身を置くっていうことだぞ」

「・・・・・」

「それに、まぁ一番怪我をするのはファミルじゃないだろうしな」

「・・・・貴方は昔からそうやって一人で何もかも考えて、一人で何もかも変えて、一人で抱え込んでしまう。私達が聞いても、結果が出るまではのらりくらりとはぐらかして」

「そりゃぁ、自信満々で計画してそれが外れたら恥ずかしいからな。確実に結果が出るまでは教えられねぇよ。俺は小心者なんだから」

「だから、私は・・・」

「はい、アウト~でも正解でもあるかな。お前の娘はお前のそういう所も引き継いでいるかもしれねぇぞ?」

「何を言って・・・」

「お父様!」

「どうした慌てて、来客中だぞ」

「す、すみません。マリー様とルミス様も申し訳ありませんでした」

「良いですよ。でも、まだ様付けなのですね。普通におばさんでも良いのですよ?」

「私達の娘とも仲良くしてもらっているし、私達もお前たちの事は自分の娘のように可愛んだが」

「あ、ありがとうございます」

「はいはい、それでどうした」

「アルトがいなくなりました」

「・・・・まじか」

「大マジです」

「望ん家の娘どもは?」

「いま全力で探しています・・・ですが」

「・・・・アルトのパーティーメンバーは?」

「・・そういえば、見ていないですね」

「なら別に構わない。あいつらの好きにさせろ」

「そんな、だって!」

「最初に言っただろ?あいつの事をちゃんと見とけと、じゃないとあいつがいなくなるかもしれないって」

「だからこそ!」

「今、お前達が行ってもアルトは変わらないよ。まぁ良いからそっとしておけ」

「・・・・分かりました。サヤ達に連絡しておきます。ですけど!・・・お母様達に言いつけますからね」

「あ、ちょっとそれは止めて!?」

「・・・・・大丈夫なのですか?リースちゃんがあれ程必死になっているの初めて見るのですけど」

「あ、ああ大丈夫だ。いつもの事だ」

「それで、そのアルト君?っていうのは?」

「そうだな・・・なんて言えば良いのか・・・・今回の切り札かな?」


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