英雄の聖女と騎士
僕は一人で学園区を歩いている。
いつもなら、リース達と一緒に帰るのだけど、リース達は学生に囲まれてしまって身動きができない状態だった。
だから、今日は珍しく一人でいるのだ。
キョロキョロと周りの店を見て歩くと、クーナが働いている店の前まで来てしまった。
クーナ自身はリース達と一緒に捕まっていたので、今この店にはいないだろうけど、此処に来るとクーナの制服姿やファミルの事を思い出してしまう。
英雄が一人の騎士の娘。
始めて出会った時に、物取りを取り押さえる動きを見てリース達に負けない程能力が高い事に驚いたのを思い出した。
騎士を目指しているという彼女の表情はとても誇らしげに見えたが、所々影が見える表情をしていた。
昼ご飯を一緒に行動するようになっても、そういう表情をする事があり、大丈夫かと聞いても、大丈夫と答えるだけだった。
シェルムもこの間の話から笑顔が少なくなっていて、二人揃って溜息をついている姿も見てしまう。
「どうにかは・・・・できないんだろうな」
友達としてどうにかしたい気持ちはある。
だけど、彼女たちが抱えている悩みは僕なんかでは解決できない大きなモノなのだと思う。
先日にシェルムから相談というか、意見を求められたけどそれにも満足に答える事ができなかった。
いや、まぁ・・・僕にもっと力があればもう少し強引な意見も言えたと思うけど、今の自分では無理だった。
「此処にいたか」
そんなことを考えながらブラブラと歩いていたら後ろから、ファミルの声が聞こえてきた
「一人ですか?」
振り向くとファミル一人しかおらず、ほかの皆はどうしたのだろうと考えてしまう。
「ちょっと君に用事があってね・・・・押し付けてきた」
「それは・・また・・」
未だに揉みくちゃになっているだろう、皆の姿を思い浮かべて少し笑ってしまう。
「それで、僕に用事ですか?」
「あぁ、少しついて来てくれ」
そう言って歩き始めるファミルの後を慌ててついていく
「どこに行くのですか?」
「私の家だ」
・・・何故!?
ファミルの家と言えば、騎士の家系で尚且つ貴族。
しかも、英雄と呼ばれる騎士の家系なのだ。
いくら、僕が師匠の弟子だと知っていても簡単に招待できるものではない。
にも関わらず、平然と歩いていくファミル
僕も置いていかれないようについていく。
学園区を抜けて貴族や富豪の人たちが住んでいる東区に向かっている。
勿論、僕は一度も行ったことはない。
そして、そのまま歩いていくとなんとなく見覚えがある壁が見えてきた。
「師匠達の家と同じ壁が」
「聞いた話では、マコト様がついでにと言って作ったのだとか」
まぁ、師匠らしいかなっと思ってしまった。
師匠の家みたいに、門番さんがいたけど何も言われずに入る事ができた。
そして、壁の中も師匠達の家とあまり変わらなくて
「何故、屋敷が二つあるのでしょうか」
師匠達の家よりも大きな屋敷が二つ並んでいた。
ファミルは騎士の家系と言っていたから、別の騎士達の宿舎みたいなものかと聞いてみたけど
「奥の方はマリー様のお屋敷だ。元々私の家系は護衛が主な任務だったんだ。だから、同じ英雄同士で住む所を纏めたんだ。マコト様達も纏まっているだろ?英雄として味方も多いけど、敵もいるからこういう風にした方が良いって、マコト様やノゾム様が提案したらしい」
「なる程・・・それでマリー様と言うとあの?」
「分かっているのに聞くのはどうかと思うが、その通り。英雄が一人聖女のマリー様だ。まぁすぐに会うと思うから自分で確認すれば良い」
やっぱり師匠達と同じ英雄の一人だった。
師匠やノゾムおじさん。マリルの父親で英雄の一人であるエルフのルックさんは小さい頃からの知り合いで気心はしれているが、会ったこともない他の英雄の家に来たことに緊張してしまう。
「今頃緊張しているのか」
クスクスとファミルさんが笑っている
「何度も言っていただろ?私達は英雄の一人娘で貴族なんだと・・・君は私達の事を何だと思っていたんだ?」
「そう言えばそうでしたね・・・普通に友達感覚でした」
「普通の友達・・・ね」
そうだ。
本来ならファミルだけじゃなくてシェルムとも気軽に話しかけれる存在ではない。
リース達と友達だったから仲良くなる機会があっただけで、それがなかったら僕なんかは今もリース達を囲っているだろう集団の一人に過ぎないのだ。
「ほら、いつまでも立ってないないで行くぞ」
「あ、はい」
そのまま、ファミルが屋敷の扉を開けると
「お帰りなさい。少し遅かったわね」
「お帰りなさいファミルちゃん。あら、その子が例の子なのね」
女性としては身長が高めの凄く綺麗な女性とニコニコと笑顔が可愛らしい女性が待っていた。
二人の女性はどこなく、ファミルやシェルムに似ていて
「何を固まっている。さっきも言っただろ?すぐに会うと思うって」
「はははは」
もう、笑うしかなかった。
出迎えて来てくれたのは、英雄が一人騎士のルミス様と聖女のマリー様だったのだ。
「ごめんなさいね?ルミスがファミルちゃんが男の子を連れて来るって大騒ぎだったから気になって」
「ばっ、別に大騒ぎではなかっただろ・・・ただ、どうすればいいか聞いただけじゃないか」
「朝早くから夜中まであーだこーだ相談しに来たことが”ただ”ね・・」
「ぐっ」
僕達をほっといて始まった、二人のやり取りは師匠達家族とのやり取りと似ていて、二人の仲が凄く良い事が分かってしまう。
「母様落ち着いて下さい。マリー様もあまりからかわないで下さい。母はそういうのは苦手ですから」
「あら?いつもみたいにマリーおば様で良いのよ?そんなに畏まらなくても」
「・・・人前ですから」
「なる程ね・・・私達はもう満足したから出掛けるけどあまり無茶はしないであげてね。多分初めてだから」
その言葉は、僕に向けられた言葉であったらしくマリー様は僕の肩を軽く叩いて、外に出て行ってしまう。
「お、おい!どういう事だ!」
「何が?」
「そ、それは、無理をしないでとか・・・初めてとか・・・」
「ルミスも分かっているでしょ?女の子が初めて男の子を家に連れて来る意味を・・・あら?普通は逆かしら?」
バタン
静かに扉が閉じて、マリー様達の声が聞こえなくなった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何とも言えない雰囲気になってしまたが、ファミルがゴホンと咳払いをして仕切り直そうとする。
まぁ、少し顔が赤くなっていたけど・・・
「・・・・ところで、ルミス様やマリー様には僕のことは・・・」
「いや、ただ友達を連れてくるしか言っていない。」
僕が師匠の弟子であることを伝えていたのか気になったが、ファミルはちゃんと約束を守ってくれていた。
「当たり前だろ?ちゃんと約束は守るよ」
そう言って、笑ったファミルの笑顔が可愛く見えた。
「さぁ行こうか。ついてきてくれ」
そのまま家の中を通り、反対側?の出口からでると屋敷とは別に大きな建物があった。
「これは、訓練所だ。私達だけじゃなく他の騎士達もここで訓練を行う。因みに、隣に見えるのが教会だ」
ファミルの指をさす方をみると教会の屋根がみえる。
「え?でも・・」
教会は皆が気兼ねなく来れるようにと、街の中心付近に作られていた筈だ。
貴族や富豪が多い東区にあるなんて聞いたことがなかった。
「所謂、貴族用の教会さ。市民達は中央の教会、貴族達はこっちと分けているんだよ。じゃないと、色々問題があるんだ」
確かに、貴族の人が中央の教会を使っている所は見たことがなかった。
「では、訓練所の所に行こうか」
「訓練所ですか?」
「あぁ大丈夫。今日は貸切にして貰っている」
「ど、どうして」
「なに、ちょっと確認したくてね」
「何をですか」
「・・・・君の可能性かな?」
ファミルはそのまま訓練所に入っていって、ちゃんと応えてくれなかった。
どういうつもりでファミルが此処まで連れてきたのか、分からないけど冗談や巫山戯た様子はなかった。
「ま、行くしかないよね」
先日のシェルムも今回のファミルも、何故か僕に期待している感じがする。
リース達がが何か吹き込んでいるのかもしれないけど、僕は其処まで期待される人物ではないと自分自身思っている。
だけど、それでも、少しでも何か皆に返せるなら、頑張ってみようと思う。
「・・・よし」
軽く頬を叩いて気合を入れてから、ファミルの後についていくことにした。
おまけ
「つ、疲れました」
「今日はやけに人が多かったですね」
「・・・・ぐったり」
「ま、また胸を指さされました・・・私だけじゃなくて皆さんも小さくはないのに・・・」
「アヤが目立ちすぎるんだよ」
「そんなこと言われても・・・」
「旦那様達が広めたブラジャーという下着が出回るようになってからは特にですね」
「・・・私でも谷間ができる」
「女性の魅力を一段階増しできますしね」
「う、ううう。で、でもですね。何も指を指さなくてもいいじゃないですか。後、男性の方の視線も気になりますし」
「アヤはクーリ母様から”男を虜に出来る方法”を教えて貰っているのに、恥ずかしがり屋だよね」
「教えて貰っているからです。そ、その~」
「・・・アヤは妄想が卑猥過ぎる」
「ちょ、サヤ姉さん!それは酷すぎます。た、確かに母から教わって具体的に想像してしまうことはありますが・・・」
「サヤ達は教わってないの?」
「私はそのまま元気でいれば良いって言われました」
「・・・・・それも魅力の一つだと言われた」
「な、なる程・・・奥が深いですね」
「ところで、ファミルの姿が見えなくなってるけど」
「ファミルならアルトさんを探しに行きましたよ?」
「・・・シェルムどういう事?」
「あれ?聞いていないのですか?今日はアルトさんを家に招待するって言ってましたけど。ついでに、母もウキウキしてましたけど」
「よし、ちょっとお話しましょうか」
「え?何で皆さん・・・顔が怖いですよ」
「ここでは無理が出来ないから、幻想空間に行きましょうか」
「む、無理ができない!?何をするつもりですか!」
「はいはい、良いから、良いから。天敵がいる所に行きましょうね・・・・きっと相手も喜んでくれるでしょうし」
「い、嫌です!前も下着姿をアルトさんに・・・・・あ」
「はい強制連行!叩けば埃がいっぱい出そうね」




