二年後
二年後
「やっと街に着いたぁ~・・・・もう死にそう・・・」
目の前にある門の前で、やっと目的地に着いたことにホッとした。
ここに辿り着くまで色々な事があった。
最初に近所の人に恥を忍んでお金を借りて、大きな街でお金を稼いで、近所の人にお金を返して。何故か道を歩けば盗賊とかに襲われて、行き倒れや、無理やり奴隷にされそうになっている人を助ける事になって。勘違いから軍の人に捕まって、無実を証明するために何故かダンジョンに潜らされて、お忍びで街に遊びに来ていた王族の人と知り合って、暗殺とかそんな感じの事件に巻き込まれて。やっと港に着いたと思ったら魔物がいるから船は出せないって言われて、何とかしないとと思って近くの森を歩けば古代の転移装置でどこか分からない場所に飛ばされて・・・・
うん。纏めて見ると、色んな人達と出会い、助けて貰いながら何とか無事に辿り着いたぞって事だ。
「おい、そこの少年。何やら思い耽っているみたいだが、身分を証明できる奴があるか?」
「あっ!すみません。このカードで良いですか?」
「冒険ギルドか・・大丈夫だぞ。しかしランクが低いな?良く此処まで来れたな?」
門番の人から返されたギルドカードを見ると、Eランクと書かれていた。
Fランクが最低で街の中でしか依頼が受けれないランクで、Eランクは外で依頼を受けれる最低のランクだ。
「いえ、クエスト自体はあまりする余裕がなくて・・・・あ、でも、魔物とかの討伐は大丈夫ですよ?依頼になかったのが殆どなのでランクは上がらなかったですけど・・・」
昔、師匠が依頼になくても大物とか討伐したら臨時でポイントが付いても良いだろうっと受付の人に噛み付いていたけど、基本的に依頼以外の魔物を討伐してもポイントにはならない。
何故か?それは、ランクを早く上げようと高ランクの魔物を討伐しようとして命を落とす者が多いからだ。昔はそれで、Fランクから一週間ぐらいでCランクまで行った人がいるらしいのだが、余りにも死者が多く出たために禁止になったのだ。
「そうか・・・よし通って良いぞ。さっきみたいにボォっとして周りの人に迷惑かけるなよ」
「・・・・はい、気をつけます」
恥ずかしいやらなんやらで、フードで顔を隠して街の中に入る事にした。
「・・・ほぅ」
綺麗な町並みと活気ある人々の声に溜息が漏れた。
流石、王族と五人の英雄の内二人、騎士と聖女がいる王都だ。
英雄
魔物が溢れ、国の軍では対応できなくなった時に現れた、二人の異世界人。
その二人と共に魔物の氾濫を止めたのが、旅に出ていたエルフと先程出て来た騎士と聖女なのだ。
因みに、言っても信じて貰えるか分からないけど、僕がいう師匠は異世界人の一人だったりする。何でも、目立ちたくないという理由で活躍した大陸から離れて小さな村に住んでいたのだ。異世界人のもう一人と旅のエルフの家族と共に
「っとそんな事より、早く家を探さないと・・・・宿に泊まるお金がないからねぇ・・・・はぁ~」
因みに、ご飯も満足に食べていない。ここに来る前に、村の近くの川が氾濫して復興資金が足りないという事で半ば無理やり貸して来たのだ。
だってしょうがないじゃないか。その村まで送ってくれた老夫婦の家族が大変な事になってたし、近くの街に助けを呼んでも実際に動けるのは少し後で、本格的に動く前に何人かが死んでしまうのが分かってしまったのだから。
まぁそんなことで、自己満足性は満たされたが、腹が満たされていない状態なのだ。
「あの~すみません~・・・・・な人どこに住んでいるか分かりませんか?」
「いや、分からんな」
「あの~すみません~・・・」
「ごめんな」
「あの~・・・」
「知らん」
・・・・
・・・
・
「何故だ・・・・師匠が大人しくしている訳がないのに、誰もそういうことをしそうな人を知らないなんて・・・」
前の村や街では有名だったのに・・・
ドラゴンを一人で倒して来ただの
盗賊団を一網打尽にしただの
まぁ一番有名なのは、師匠に連れられ逃げ回っている僕の姿なんだけど・・・
「しかし困ったな・・・ん?」
キョロキョロと周りを見て、似たような形の家を探すも分からない。前の村だと、師匠が考えた異世界風の家は目立っていたけど、ここでは英雄が考えた家は人気なのか、流石に全部では無いけど殆どは異世界風に変わっていた。
とそこで、見慣れた懐かしい後ろ姿を見つける事ができた。
サラサラの茶髪を肩まで伸ばして、背筋をピンと張って歩く。堂々としてでも威圧がある訳でもないのに、周りの人も一回はそっちを見てしまう。
十中八九間違いないだろうと思いながら声を掛けようとして
「リ・・・・・・・」
何故か声を掛ける事ができなかった。
師匠の一人娘であるリースの隣には笑顔でリースと話している、金髪イケメンがいたのだ。
「・・・・・・・・ふぅ」
胸に詰まった色々な感情を吐き出すように、大きく息を吐く。
いつも一緒にいて気付かなかったこの感情。二年間離れてようやく自覚した感情だけど、その二年間はとても長かったらしい。
「・・・・・・よしっ」
気合を入れて、気持ちを入れ替えて・・・・替えたつもりで離れてしまった、リース達を追いかける事にした。
「っていない!?」
リース達が曲がった道を曲がると細い路地になっていて、リース達を見失ってしまった。
ふと、恋人・デート・路地裏・・・・と妄想しそうになったが、頭を振って走り出す。まだそう遠くには行っていないはずだ。
「ミギャァ!」
「おっとゴメンよ!ってイテテテテ!」
猫の尻尾を踏んでしまい、その倍以上返しを貰い
「危ねぇぞ!ガキ!」
「すみません!」
飲食店かの裏口から出て来た人にぶつかりそうになり
「ねぇ坊や・・・遊んで逝かない?」
「・・・・間に合ってます!」
色っぽい姉さんに声を掛けられて
「いたぁ!」
何とか門の中に入るリーナ達を見つける事ができた。けど・・・
「・・・・なぜに門さ」
急いでその門に近づくとその大きさが目立つ。門は既に閉ざされていて門番が二人槍を持って立っている。
確かに師匠の家は異世界風で目立っていたけど、こんな馬鹿でかい城みたいな物では決してない。
塀も高く、外から中を覗く事は出来ないし、よく見るとこの高い塀がず~と向こうまで続いているのが分かる。
「二、三個の家が丸々入っているんじゃないか?」
というぐらいの広さ・・だと思う。
「え~と、あの~すみません」
「何か」
挙動不審に周りを見ていた僕に警戒し始めた門番さんに慌てて声を掛けることにした。これ以上ここにいても仕方がないからだ。
「聞きたい事があるのですが・・・ここは、師匠・・・いえ、マコト・イノウエの屋敷でしょうか?」
「そうだが・・・なんの用だ」
ホッとした、やっと見つける事が出来たのだ。
「すみません、私マコト師匠の弟子で・・」
「またか・・」
嬉しくて、早く師匠に会いたくて名乗ろうとしたら面倒臭いような表情で言葉を止められた。
「どこでマコト様の事を聞いたのか知らないが、マコト様は弟子を取ることをされない。勿体無いことだがな」
「しかし、僕は・・」
「そう言って来る自称弟子が来る事は最近少なくなってきたんだがな・・・誰の指図だ」
「いえ、自称とかではなくてですね・・」
「なんだ?ほら言い訳は良いからとっとと帰れ」
背中を押されるが、僕だってここで諦める訳にはいかないのだ。
「いえ、確かに師匠は弟子を取ることはしないですが、一人だけ、一人だけ取ったことがあるのです!師匠に、マコト師匠に聞いて下さい。そしたら分かる筈です。」
そこまで言うと門番の二人は顔を見合わせて、背中を押していた力を抜いた。
「・・・ッ!」
振り向き返して、再度お願いしようとすると、二人が持っている槍が向けられて驚いた。
「そこまで知っているなら容赦しないぞ。」
「確かに、マコト様は弟子を一人だけ取っている。が決してお前なんかじゃない」
「え?」
「お前が云う、マコト様の弟子は先程リースお嬢様と一緒に帰られている。だから、お前がここで出鱈目を言っても意味がないんだよ。分かったらさっさと去れ!まだここに残るようで有れば刺すぞ!」
その言葉を聞いて、目の前が急に暗くなった。
・・・・
・・・
・・
・
気が付いたらどこかの路地裏の壁に座り込んでいた。
朧げだけど、師匠の門の前からフラフラと歩いた記憶がある。
二年間だ。
その二年間が長く感じるか短く感じるかは人それぞれだけど・・・
拾われてから二年間・・・・師匠達と一緒に過ごしてとても幸せだった・・・
旅に出てから二年間・・・・師匠達と分かれて旅をしたけど、色々な人達と出会えて、楽しいことだけじゃなかったけど、それでも胸を張って良かったと言える二年間だった。
でも、その二年間で僕の根本的な居場所がなくなってしまった。
師匠の弟子
その言葉に縋って、誇りに思って、頑張って、
褒めて貰いたいから
一緒に笑って欲しいから
一緒に・・冒険をしたいから
一緒に・・・・美味しいものを食べたいから
一緒に・・・・・・
一緒に・・・・・・・・
「・・・・一緒に・・・居たかっただけなんだけどなぁ・・っっ」
師匠に拾われてから四年間経って、久しぶりに涙を流す事になった。
もう流すことはないと思っていた、悲しみの涙を・・・
おまけ
「追っ払ってから言うのも何だけど・・・さっきの小僧今までの自称より演技が上手くなかったか?それこそ本物みたいに」
「ほんとに追っ払ってからいうのな。確かに最後の言葉でかなりのショックを受けていたような気がするが・・」
「演技なんだろうけど・・・っと」
「・・・・ただいま」
「お帰りなさいませお嬢様方」
「・・・・どうされましたか?サヤお嬢様?」
「・・・アルの匂いがする」
「また?そう言って二ヶ月前から変な物ばっかり買ってるじゃない」
「・・・マリルはアルへの愛情が足りないから分からない」
「し、失礼ね・・・そんなこと・・」
「・・・それで?・・・何か・・あった?」
「い、いえ。また、自称マコト様の弟子が来ただけ・・・・で・」
「ちょっとサヤ!爪を引っ込めなさい!」
「いた・・・」
「え?」
「・・・いた・・・確実にここにアルが来た」
「・・もう、でもサヤがアル君の匂いを間違う訳がないしね・・・取り敢えず落ち着こうか。門番さん達には私から聞いておくから」
「でも・・・アルが来たのにこの人達は・・・」
「はいはい、それを言ってもしょうがないでしょう?アル君の事は私達しか知らないのだから」
「えっと・・お嬢様方?」
「ごめんなさいね。詳しい話はまた後でしますから、交代になったら中に入って来て下さいね。詳しい話はみんなが揃ってからしましょう?」
「・・・・行く」
「待ちなさい」
「・・・・・」
「はい、良い子。では後ほど」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・マリルお嬢様めっちゃ怖かったな」
「・・・なぁ、俺の首血出てないか?」
「・・・・・少し」