プロローグ
周りが凄い人達の中、何も特別な力を持たない主人公が直向きに頑張る姿を書きたいと思いました。拙い文だと思いますが長い目で見て頂けると有難いです。
「お前の目を見ていると、昔の自分が惨めに見える」
その男の事を僕は一生忘れないと思う。
「おい、ガキ。こんな糞ったれな世界から逃げ出したいか?」
顔を歪ませて、忌々しそうにこちらを見てくる男。
「・・・そうか・・・なら俺がお前を救ってやる」
でも、その瞳と差し出された手はとても暖かくて・・・
僕はその事を一生忘れないだろうと思った。
「・・・・ってな事でお前も15歳になり、一人で旅をする事ができるようになった」
「はい」
二年前僕を拾ってくれた師匠は、目の前に地図を広げてある場所を指さしていた。
昨日、少し師匠と言い争いをしてしまって、気まずいけど師匠はそんなことを忘れたかのようにいつも通りに何かを企んでいるような表情をしていた。
「ってなことで、一人で此処まで来い。俺達は転移魔法で行く」
「・・・え?」
師匠が指さした場所と師匠の顔を交互に見る。
師匠はニヤリと笑い、いつも通りに・・・そう、いつも通りにこう言うのだ
「できるだろ?俺の弟子なんだから」
そう言われたら、やるしかない。
師匠はどう思っているか分からないけど、師匠の弟子という立場は僕にとって、とても、とても大切な物なのだ。
「因みに、この家も一緒に飛ばすから忘れ物が無いように準備しとけよ。時間は今から三時間だ」
「え?・・・・・えぇぇぇ!」
因みに、師匠の家族は既に目的地に運んでいるらしい。どおりで師匠のほかに人の気配がないと思っていたのだ。
そして、約束の三時間後師匠は
「ほい、初期装備」
と言って、立派に加工され木の棒を僕に渡して消えてしまった。
「・・・・はっ!」
呆然と渡された木の棒を見ていたが、すぐに目の前の家の中に入って行く。
師匠が消えてから、15分間だけ今まで住んでいた家が残るらしく、その中に師匠が旅に必要な物を隠したらしいのだ。
それを15分の制限時間内で探し出すのが最初の試練だった。
”まずはここのタンスを開けてみよう”
「・・・・・・」
家の中に入って、取り敢えず自分の部屋に向かうと、いつも使っていたタンスにそんな張り紙がされていた。
「・・・・・・」
無言でタンスを開けると、金色に輝く・・・・
「・・って10Gですか!何で金色に塗ってるんですか!」
前に師匠が1G=1円っと言っていたのを不意に思い出した。
「ってそうじゃない!早くしないと」
そう言って色々な場所を漁ることにした。
張り紙の通りに、タンスを空け、壺を覗き込み、色々な場所から色んな物を見つけた。
10G、10G、10G、木の棒
「ここにあるなら、何で最初に木の棒を渡されたの!?しかも、お金全部合わせても昼代にすらならないですけど!」
と言っても師匠がいう旅に必要な物という物がどこにあるのかは大体予想がついている。
なぜなら
”ここに必要な物が入っています。ちゃんと開けてね”
という、張り紙が師匠の一人娘であるリースの部屋の扉に貼ってあるのだ
「・・・・・・・」
僕が師匠の家に引き取られてから、一度も入ったことが無いリースの部屋の前でさっきから動けない。
命が掛かっているから、入れば良いだろ?と思う人がいると思う。
僕も、他人事ならそういうに違いないし、心の中でも悪魔がそう言っている。
だがしかし、忘れてならないのが、この家はあと数分後にはそっくりそのまま師匠の元に行くのだ。
年頃の女の子の部屋に無断で入る・・・・
旅が済んで無事に目的地についても、リースに殺されてしまう未来しか見えてこないのだ。
しかも、絶対師匠の事だ。扉を開けて目立つような場所に置いている訳がない。
しかしだからと言って、今の手持ちでは隣の村まで行くことさえ困難だ。
「・・・・・すみませ~ん」
色んな物を天秤に掛けて、命の保証とほんのちょっぴりの好奇心に耐えられずにゆっくりとドアを開けた。
「・・・・・・・・・・・・・・すみませんでした~」
ほんのり甘いリースの匂いが漂ってドキリと胸を弾ませてしまい、そっと部屋の中を見渡して別の意味でドキリとしたものを見つけてしまい、
見なかった事にしたくて扉を閉めた。
”下着入れ”
”勇気を持ってさぁ飛び込もう!君の桃源郷は目の前だ!・・・・こんな下着お父さんは許しません”
なんて張り紙があるタンスに貼ってあったことなんて見ていないのだ。
そして、とうとう時間になってしまい。僕の目の前で家が消えてしまい、ポツンと僕一人だけが残ってしまった。
「・・・・・」
あれから、色々調べて確保できたものが
木の棒×2
10G×10
100G×5
と自分で準備した着替えだけだ。
取り敢えず、近所の人達が急に消えた家にびっくりしているので事情を説明すると同時に少しだけ助けて貰う事にした。
今の状態で旅に出ると間違いなく死んでしまう。
ただ、師匠。一言だけ言わせて下さい。
今までも、無茶難題を言われてきましたけど、これはそんなもんじゃないです。
まだ、ゴブリンの集落を壊して来いだの、ドラゴンをおびき寄せて来いだのの方が楽でした。
いえ、僕一人なら無事に済むことじゃないことですけど、それでも、師匠が近くに居たから頑張れたんです。
ニヤニヤしていつ僕が助けを呼ぶか賭けていた事も知ってますが、それでも師匠がいてくれたから頑張れたんです。
でも、その師匠はいない。そして肝心の目的地は
「陸続きの隣の国へ行くのにも大変なのに、海を渡って別の大陸に来いとはどういうことですかぁぁぁぁ!?」
木の棒を腰に二本下げて、師匠から誕生日プレゼントとして貰ったミサンガ(他のプレゼントは部屋に置いてきた)を腕に巻いて僕の命懸けの試練が始まったのだ。
おまけ
「ってなことで、まぁやり過ぎたとは思うが・・・・反省もしているし後悔もしている。でもな・・・」
「・・・ふぅ~・・・あなたの気持ちも分かりますが、あの子にとってあなたの弟子という事がどう言うものなのか理解しているのでしょう?」
「いや・・まぁ・・それは分かってはいるが・・・ところでいい加減、この縄解いて貰えません?結構必死に抜けようとしているのですが、抜けないのですよ?」
「それはそうでしょう。私達に黙ってあの子を放ってきたのですから。何でも付加出来るだけの精霊と氷術と炎術の合同らしいですよ?元の材料は家にあった物ですけど」
「ちょっと!何であいつらの家族まで!」
「あの人達の家族にとってもあの子は大切だったのでしょう?」
「む・・・そう言われると・・・」
「まぁノゾムさんもあなたの計画に協力していたらしいので、今頃家と同じ事になっていると思いますが・・・・ほら、火とか氷とかが吹き荒れてますよ?」
「あっちの家は大変だなぁ~~~」
「あなたも他人事ではないですが・・・・ほら」
「お父様・・・私の部屋にこんな物が貼ってあったのですが・・・」
「げっ!リース。いやこれはだな・・・お父さんはお前とあいつの事を考えてだな?」
「見られた・・・見られた・・・見られた・・・見られた」
「大丈夫だ。お前の部屋に貼ってあったあいつの写真なんかは全部お父さんが片付けておいたから!・・・でも、あの下着はまだ早いと思うんだ」
「お父様の・・・・・ばぁかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へぶぅし!」