現代的絶望
帰りたいと思いながら電車の中で書いた作品。こんな感じのを書いていけたらと思います。
「私たちは慰め、慰められ、キレイな言葉で溢れる世界で傷ついた心を誤魔化し、一途に社会の1部であろうとするの。どれだけ苦しくてボロボロで明日が見えなくても、社会に組み込まれなくちゃならない。ほら、残酷でしょう?きっとあなたは身も心もズタズタになった友人をまた社会の歯車として使えるようにするために慰めるのよ?」
「・・・・・・」
「使い尽くし、壊れたら修理してみる。それでダメなら破棄する。そんなのはもうイヤ。休む?相談する?好きなことをする?それは修理よ。結局なにも変わらない。無意識に社会に取り込まれ、時々得られる幻想のような幸福感だけを頼り回り続けざるをえない。それなら――――――」
「……どうするの?」
「離脱するの。全ての共同体から」
「離脱?」
「そう。家族、友達、自治体、国、世界。その全部を投げ出して、向こう側に。」
「向こう?」
「ええ。私たちは行かなくちゃならないの。何処か具体的な場所じゃない。どこかにあって、どこにもない。あなたとわたしというふたつの存在が外界に流し込んで形成される世界。きっとそこには苦しみも楽しみも後悔も幸福もない。でも、歯車になることはないわ。」
リラの言葉の意味はよくわからなかったけれど、想像することはできた。思いすらない世界。わたしとリラの生があるだけ。そんなところに行ってみるのもいいかなと思えた。
「――――――わかった。行こう。一緒に。」
そう答えると、リラは少しだけ微笑んで、柔らかくわたしの手をとった。日の光がリラを包み込んで、ひどく美しい。
「最後に、この世界に未練はない?」
リラの意外な質問に少し戸惑う。
「未練……………」
思い返しても、ここではつらいことしかなかった。それでも、全てが変わってしまった後で未練らしい未練が出てくるかもしれない。だけどリラと一緒ならそんなことは些末に思えた。あるとしたら――――――
「未練は、ないよ。でも、わたしはこの世界に感謝してる。わたしが歯車であったことに。」
「え?」
リラは驚いたのか目を丸くした。
「うん。だってこの世界がわたしの歯とリラの歯と噛み合わせてくれたのだもの。きっとそれがわたしの一番の幸せだったんだと思う。」
繋いだ手がぎゅっと握られる。リラはほんのちょっとだけ顔を赤らめた。
「そうね。そういうことも、あるのかも――――――」
目を閉じる。わたしたちは、辿り着くであろうその世界に思いを馳せた。いつかきっと。
私は画面に少しだけ手を強く押し付けた。なにも起こらない。向こう側、とはどこだろうか。もしかしたら今読んでいる文章が表示されている画面の”向こう側”かもしれない、と私は思った。
ガリガリガリと、嫌な音。ああ――――――
私はタブレット端末の電源を落とす。画面から暗い室内に放散されていた光が途絶え、闇は更に深くなった。歯車は止まらい。いや、固定されていて取り外すこともできないのだ。回り続け、いつかは摩耗する。
ガリガリガリガリガリ、軋む。
天井を意味もなく見上げた。物語のように歯車は簡単には外せない。明日はある。欺瞞を重ね、取り繕い、思考を放棄する日々が。
死にたい程に生きることが辛くとも、”向こう側”には行けない。”向こう側”へ行ったのであろう主人公とリラの結末がディスプレイされる画面は私を拒絶する。
画面の向こうに行けたら――――――、どんなにいいだろうか。想像することしかできない。
ガリガリガリ、歯が、欠ける。
ああ、きっとこの歯車は誰とも噛み合わない。軋み削られながら明日へと回る、きっとそれが私の歯車――――――
ガリガリガリ、ガリガリガリ………
「2次元に行きたい」という思いを斜め45°くらいから書いてみたかったので。