けれど海よりも愛しいと想う
「寒いねー」
「そうだな」
「なんでくっそ寒いのに海きたんだろうね」
「お前が来たいってほざいたからだな」
「一時間前のコタツの中に居た私を踏みつぶしたい」
「そうか」
「………ねー、何でさっきからそっわそわしてんの?」
「寒さを誤魔化そうとしてるんだよ察しろ」
「抱きついて温めてあげよう」
「やだよ」
「即答か」
「新作アイス食いたい」
「帰りたい」
「やっぱさー、あれだよね、コタツの中でピノとか食うのが至高だよね」
「帰りたい」
「何だよ元気だしなよ。リポD買ってこようか?」
「おしるこで」
「じゃあ私は甘酒にしよう」
「あ、待て。ここで俺一人待機はちょっと周囲の目が……」
「じゃあ私の分買って」
「奢りじゃないのかよ」
「いや、youの分をmeが買う」
「ごめんすごくイラッとしたわ」
「んだよー。おしるこ買わないぞー」
「あかん甘酒不味い」
「ざまあ」
「くっそ、こんなもの海に捨ててやる」
「環境破壊すんな」
「いいんですぅー。私が許可した物なら何でも流していいんですぅー」
「そういう傲慢が自然をごりごりと殺していくんだよ」
「私が傲慢?失礼な、これは海のお魚きゅんたちへのご褒美的ななんやかんやだってばよ。……それいけ!」
「甘酒マン!」
「うっそ、何でこれだけノリいいの?」
「分からん忘れろ」
「やだ」
「………」
「………」
「……機関車の次に好きだったんだよ」
「マジか」
「機関車のナレーションさんの優しい声が好きだ」
「ああ、確かに。…あー、あとあれ、…なんだっけ、この前見たばっかなのに名前が出てこない…」
「何だよ」
「あの帽子被ってるデブの名前……何だっけ、トロハム卿?」
「どっちだよ」
「トロハム卿、結構好きだよ。デブで」
「ああ…そう…」
「―――おい、まだ帰らないのか」
「帰らないよー。帰んないよ」
「親父さん心配してんじゃないの」
「その言葉、そっくりそのまま返してやんよ」
「俺の両親はもう土の養分になってるよ」
「たまには墓参りしたら?」
「場所が分からん」
「ごめんね」
「いいよ」
「……………」
「……………」
「……もうすぐ夕日が沈むね」
「そうだな」
「明日からお仕事だね」
「ああ。…でも水族館のショー、見に行くよ」
「ほんと?」
「お前の天職だよなあ、あれ。楽しみにしてる」
「じゃあ私も、君の仕事ぶりを見に行くよ」
「馬鹿やめろ死ぬぞ」
「youの格好良い所っ見ってみったい!」
「いや、マジ死ぬからやめて」
「大丈夫だよ、死なないの分かってるでしょ?」
「俺の心臓が過労で死ぬってんだよ」
「嘘つきー」
「嘘じゃねーし」
「あーあ、寒いや。アイス買って戻ろう」
「どっちに?」
「君の家に」
「寂しくないか」
「寂しくないよー」
「なあ、」
「うん?」
「結婚しよう」
「私と?」
「そう。」
「やっと?」
「……まあ、うん」
「君って案外ヘタレだよね」
「うるさいよ」
「私、海がすぐそこの教会でわーわーしたい」
「………津波に遭いそうだな」
「大丈夫だよ。ねえ、そうしようよ。昔みたいに王子様の格好してね」
「え……いや、ちょっと恥ずかしいんだけど」
「じゃあ白い砂浜青い海がすぐ近くにある家を建てようよ」
「買い物するときに不便だからヤダ」
「ぶー」
「…ていうか、何でそこまで海にこだわるんだよ。やっぱり俺は嫌なの?」
「違うよ。私にとって海は切り離せないものなの。どう足掻いてもね」
「たとえ何百年が過ぎても?」
「そう。永遠とね。……」
「じゃあ式の日取りを考えようか」
「はいは……あっ、晩御飯はアレ食べたい!鯛のご飯!」
「おま……"元・人魚姫"なんだからさあ……」
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「けれど海よりも愛しいと想う」訳分からん方用の補足は活動報告にて。