南国に降った雪の落とし物
へたくそなので、肩の力を抜いて、生暖かい目でごらんになって下さい。
「雪だあああ!!」
少年は勢いよく家の扉を開け外に出た。
ここは鹿児島県南部に位置するM市B町H集落。このM市B町は東シナ海に面しているため冬でも温暖な地域である。なので冬に雪は滅多に降らない。仮に降って積もらなくても、それでもその地域に住んでる子ども達ははしゃぐ。
そして、今年は超巨大な寒波が日本全国を襲ったため、九州全域で雪が降った。そして、このB町でも雪が積もったのである。
少年は10年ぶりに積もった雪を見てハイテンションになっていた。
「うおおお!積もってる!」
そう言って少年は海岸へと走っていった。
テトラポットの山を身軽に飛びながら海岸へと降り立つ。
そして、少年はその場に立ち尽くす。
(なにしよう・・・・)
勢いよく飛び出したのは良かったのだが、この少年には特にあてもなかった。
というのもこのH集落には小学生はこの少年一人なのである。
そのためこの少年はいつもひとりぼっちなのであった。
少年はテトラポットの上に座り、雪が降る東シナ海を眺めていた。
(せっかく積もったのにつまんないなぁ・・・)
いつもこんな感じである。いつも元気よく家を飛び出し走っていくが、特に目的も無いということの気づき、ひどい孤独感に襲われる。そして、海を眺めて一日が終わる。休みになるとこれの繰り返し。一度は学校の友達と遊びたいと思っても、友達が住んでいる集落はだいぶ離れている。
少年は足下の雪を手で固めて雪玉を作ってみた。
雪を素手で触ると、指が切れそうな感覚に襲われる。
そして完成した小さい雪玉を海に投げ込んだ。
ひゅっ
とぷん
そんな音を立てて雪は海に沈んでいった。
「はぁ・・・」
退屈しのぎに行ったその行動はあまりにもつまんなく、余計に孤独感を増幅させるものだった。
「そこで何してるの?」
不意に聞き慣れない声が耳に入ってきた。
「え?」
振り返ると、セーラー服を着た少女が立っていた。
年は自分と同じ小学生くらい、髪は黒くて長く、目は大きい。肌は雪のように白かった。
そのセーラーの少女は少年の前に立って言った。
「ねえ、遊ぼうよ。」
そして少年の手を引っ張って立たせた。
「いいの・・・?」
少年は少々困惑気味だった。
いきなり現れた少女がいきなり遊びに誘うなんて。
だが、少年は嬉しかった。人生で初めての遊び相手ができたのである。
「じゃあ、雪合戦しよ!」
そう言って少年は屈んで雪玉を作り始めた。
「負けないぞ~」
少女も屈んで雪玉を作る。
「おりゃ!」
少年は少女に向かって雪玉を投げた。
「きゃっ!」
そして少女に命中した。
「やったなぁ~。うりゃっ!」
そして少女も反撃に出る。
「わあっ!」
それも見事に命中した。
「くっそ~。おりゃっ!」
「きゃっ!」
そしてしばらく二人の間では白い玉の応酬が続いた。
(楽しいなぁ・・・)
少年は雪玉を投げながらそんな事を思っていた。
人と遊ぶのがこんなにも楽しい事だなんて今まで知らなかったのである。
いつも学校のない日は独りぼっちになってしまう。なのでこの少年にとって人と遊ぶのは人生で初めてのことであった。
(ずっとこのままだったらなあ)
「おりゃっ!」
そして少し強めに雪玉を投げた。
びゅん
しかし・・・
「きゃあっ!」
しかしその雪玉は勢いよく少女の顔面に当たってしまった。
「ふええぇ~~ん・・・・」
そして少女は顔を押さえてかがみ込んでしまった。
「あっ・・大丈夫?・・・」
少年は少女のもとへ駆けていった。
(どうしよう・・・)
少年は不安になった。
このままあの子が機嫌を損ねて帰ってしまうのが怖かった。
初めての遊び相手を手放したくなかった。
そんな思いが頭を支配した。
「ごめん!どこが痛い?」
近寄って聞いてみる。すると・・・
「うりゃっ!」
少女が少年に向かって抱きついてきた。
「うわっ!」
少年は不意を突かれ後ろに倒れてしまった。
そして二人は顔を見合わせた。
「わははははははははははは!」
「ハハハハハハハハハハハハハ!」
そして二人はそのままの体勢で大笑いした。
(よかった・・・)
少年はほっとした。
二人は一旦休憩を取るためにテトラポットの上に座った。
「君、何て名前?」
少年はきいてみた。成り行きであそんでいたが、まだ名前を聞いていなかったのだ。
「私は小雪。あなたは?」
「僕は光」
そして光は1番気になっていた事を聞いてみた。
「君、どこから来たの?」
このM市B町は海に面しているため観光客などが来るのはほとんどが夏で、冬にこのような人に会うのは滅多に無いのである。
一呼吸置いてから小雪は口を開いた。
「な・い・しょ❤」
ウインクをしながら人差し指を口元に持って行く姿は何ともかわいらしかった。
そしてその後も二人は遊び続けた。
雪だるまを作ったり、少しの雪でかまくらもどきを作ったり、また雪合戦したり・・・
そして楽しい時間はあっという間に過ぎて、雪もだいぶ溶けて来だした。
「次は何する?」
光が声をかけた時にあることに気づいた。
小雪がつらそうな顔をしてたのである。
そして小雪の口から信じられない言葉が発せられた。
「そろそろ・・・お別れみたい・・・」
小雪は寂しそうな顔で言った。
「またまたぁ。その手には引っかからないよ。」
光はこの時点まではさっきの泣きまね同様、自分を驚かすための冗談かと思っていた。
小雪の体を見るまでは・・・
小雪の体が透けているのだ。
「そんな・・・どうして?」
戸惑ってる光をなだめるように小雪は言った。
「私、本当は雪女だったの。」
衝撃の真実だった。
「本当は北の寒い地域に行くつもりだったんだけど、今年はどこも寒くて、間違ってここに来ちゃったの。」
恥ずかしそうに光を見つめるその姿はとても可愛らしかった。
「そんな・・・どこ行くんだよ!」
光は泣きじゃくっている。
「大丈夫!雪が降ればまた会えるから。」
そう言って小雪は光の頭をなでた。
「絶対?」
泣きながら消えかけの小雪の手を掴む。
「絶対。約束だよ。」
その言葉を最後に小雪は消えていった。
「うわあああああん!」
光は泣きに泣いた。
初めての遊び相手がすぐにいなくなり、しかも雪女だったなんて・・・
光は今までで1番悲しい気持ちになった。
後にはB町名物の夕日が海岸と一緒に光を照らしているだけだった。
♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀
「やっと書き終わった~」
そう言って俺は背伸びした。
「冬の童話祭」ということで何か書く物は無いかと思っていると、この不思議な出来事を思い出したので書いてみたが、ダメだなこりゃ。特にオチも無いし、後日談もない。しかもあれからずっっっっと雪は降ってない。
この話は学校の友達や親にも話したが、全く誰も信じてくれなかった。
小4の頃の自分はムキになって本当だと言い張っていたが、今となって文章にしてみたらほんとにただの不思議体験だ。ってか何で雪女って言われてすんなり信じた?我ながらにびっくりだよ。
喉が渇いたので冷蔵庫を空けた。いつもならコーラとか炭酸の缶の買い置きとかがあるのに今日に限って一本もない。
「おかーさーん!コーラはー!」
「買ってきなさい!」
しょうがない、寒いけど買ってくるか。
財布をジャージのポケットに突っ込み外にでる。玄関を空けると、予想外の光景が広がってた。
「降ってる・・・」
何か今日ニュースでやってたっけな。6年ぶりの超巨大寒波が日本を襲ったとか。
寒い!早く買って帰ろう。
そう思い自販機に向かおうとしたその時だった。
「光君」
「へ?」
誰かが呼んだと思って振り向いてみたが、誰もいなかった。
いや・・もしかして・・・とも思ったけど
「まさか、ね。」
早く買って帰ろう。南国といえどもやっぱり寒い。
もしまた会ったら風邪引きそうだな。いや、でもまた会ってみたいなぁ。
ここまで読んでくれた人はどれくらいいるのか・・・
一応この話はフィクションですが、舞台になったM市B町H集落は実在します。小5までそこで暮らしてました。
M市B町に限らず、鹿児島県全域であまり雪は降りません。でもたまに積もったりして、そんなときは子どもだけではなく大人もハイテンションになります。降っただけでもみんなのテンションはMAXです。
感想待ってます。