第19話 真実の告白
翌朝、ひさしぶりに登校した。
棚橋がいないことはわかっている。
いつもと変わらない学校。
誰も、私がいようといまいが気にしていないことを
つきつけられた感じがした。
覚悟した孤独はがまん出来ても、
不意打ちに襲って来た孤独は耐え難いものがある。
中学時代の自分に言ってやりたい。
(あんたはすごい。よく、孤独でいられたね)
その日の放課後、校舎を出てすぐ、
スマートフォンの着信音が鳴った。
「もしもし」
入院しているはずの棚橋からだった。
「もしもし」
なぜか、緊張してきた。
「あの、今、大丈夫ですか? 」
棚橋が遠慮気に訊ねた。
「うん。何? 」
私は、駅前の公園に立ち寄るとベンチに腰かけた。
「告白したいことがあります」
棚橋が告げた。
「急に何? 」
私はドキッとした。
「まなさんが落ちたのは、私が原因なんです」
棚橋がかすれ声で言った。
「え? 落ちたってどういうこと? 」
私は驚きのあまり声が上ずった。
「あれは、自殺なんかじゃありません。
いわゆるアクシデントなんです」
棚橋が強い口調で主張した。
棚橋の話によると、あの日、あの時、
棚橋は、まなに呼び出されてあの場にいた。
まなと激しい口論になり、
棚橋が発作的に飛び降りようとした。
その時、まなが、棚橋をかばおうとして
誤って、自分が転落してしまったという。
時々、涙声になり、聞いている方も胸がしめつけられた。
もし、私が、棚橋だったら、こんな大変な事実を
胸の中にしまっていることに耐えられなかっただろう。
「木平さんが、ひいらぎが、
まなさんだと言い出してから、
いつ、バレるかと思って気が気でなかった。
まなさんが、私のことを木平さんに話した時、
自殺のことについて
何も触れなかったと知ってホッとしました。
でも‥‥ 」
棚橋が何か言いかけて言葉を詰まらせた。
「でもって? 」
私が訊ねた。
「アンさんが、ひいらぎの分身としてデビューした後、
ジンさんが、
アンさんをかばって大ケガしたこともあって、
隠していることが、だんだん、罪に思えて来たんです。
考えている内に、
発作が起きてしまい入院するはめに‥‥ 」
棚橋が早口でまくしたてた。
「そうか。あんたも、葛藤があったんだね」
私が言った。
「今まで、黙っていて、ごめんなさい」
棚橋が涙ながらに謝って来た。
「それで、何を言い争っていたわけ?
ついでに、教えてよ」
私は、2人の口論の理由がすごく気になった。
「まなさんに、私が、
ともだちにシカトされるようになったのは、
私にも責任があると説教されて、
保健室登校したって、
何も変わらないと諭されました」
棚橋が口論の理由を語った。
「まならしいね。相手のことを考えもせず、
すぐに、正論をぶつけてくる。
どうして、あんたにそんなこと言ったんだろうね」
私は、まなが、
正義感が人一倍強いことを思い出した。
私もしょっちゅう、まなに説教された。
私の場合、黙って聞いていたが、
棚橋は反論したらしい。
「今考えると、まなさんは、私を立ち直らせようと
してくれたんだと思います」
棚橋がしみじみと言った。
「まながあの後、どうなったか聞いてない? 」
私は期待を込めて訊ねた。
「幸い、一命を取りとめて、
遠い町へ引っ越したまでしか知りません」
棚橋が答えた。
「教えてくれてありがとう。
まなはやっぱり生きていたんだね」
私は思わず涙が出た。
「いつか、会えるといいですね」
棚橋が告げた。
それで、通話は終わった。
次の瞬間、今まで見ていた景色が鮮やかになった気がした。
私はふと思い立ち、鹿さんに連絡を取った。
渋谷のハチ公前で待っていると、鹿さんがやって来た。
「僕に頼みたいこととは何だい? 」
鹿さんが訊ねた。
「モスピグレットのゲーム内で、
まならしきプレイヤーを見つけたんです。
鹿さんの技術で、そのプレイヤーを見つけ出して、
まなかどうか、確かめることって可能ですか? 」
私が言った。
「個人情報保護法に引っかかる案件だし、
それはどうかな? 」
鹿さんが難色を示した。
「じゃあ、出没するエリアの割り出しならどうですか?
もし、もう一度、遭遇出来たら自分で何とかします」
私がダメ押しした。
「わかった。僕も協力するよ。
まなさんらしきプレイヤーと会った時のことを
くわしく話して」
鹿さんが快く引き受けてくれたから安心した。
それから、私は覚えているかぎり、
まならしきプレイヤーと会った時のことを説明した。
「手がかりは少ないけれど、やってみるよ。
3日間、猶予をもらえるかい? 」
鹿さんが訊ねた。
「はい。代金はいくらかかりますか? 」
私は、依頼料の交渉に入った。
アルバイトをしていないし、お小遣いしかないから、
払えない場合はあきらめるしかない。
まな探しも、行方不明者の捜索と同じになるのだろうか?
「探偵や弁護士ではないから、お代はいただかないよ。
あくまでも、プライベートで引き受けた案件だからさ。
そのかわり、まなさんらしきプレイヤーと会う時は、
嫌だろうけれど、僕も同席させてもらう」
鹿さんが咳払いすると言った。
「問題ありません。よろしくお願いします」
私はそう言うと頭を下げた。
「それにしても、どうして、
今のタイミングで、君の目の前に、
まなさんは姿を現したんだろう? 」
鹿さんがふとつぶやいた。
「それもそうですね」
私も同じ疑問を抱いていた。
「もしかしたら、君が自分を捜していることを
何かのタイミングで知ったのかもしれない。
たぶん、まなさんも、君に会いたがっている。
開けっぴろげに出来ない理由があって、
ゲームを利用したのかもしれないね」
鹿さんが神妙な面持ちで言った。
「わかったら、教えてください。ではまた」
「他の人たちには内緒にしておこう」
「棚橋にもですか? 」
「もちろんだ」
私は、鹿さんの秘密主義に驚きながらも、
まな探しを引き受けてくれたことに感謝した。




