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理の枝

送信時にエラーが発生して、一度消えました…。



          いつか教えてあげたい

            その痛みは

      隠すべきではない 大切な心なのだと





「申し上げます!」


 神将(しんしょう)と各将軍との顔合わせを行っていた広間に、下級騎士の報告が響いた。


「ユワム地方戦場において、巡回騎士団がほぼ全滅! 救助に向かった姫殿下が孤立しております! ご助力を!」

「姫将軍の残存戦力は?」

「およそ百かと…!」


 顔合わせの仕切りを副将に任せて何をしているのかと思えば、自軍の戦力を半分残した状態で救助に向かうとは、自らの持つ力を思い上がっているのだろうか。


「私が行こう」


 右赤(うせき)騎士団を率いる将軍が立ち上がった。リージュも共に立つ。


「神将閣下?」

「準備に時間が掛かるでしょうから、僕が先行して姫将軍の下に向かいます」


 すぐに動き始めると、一人の青年が後を追ってきた。


「お待ちを! 私をお連れください!」


 本日初めに、姫将軍の副将によって紹介された青年だ。神将の副官となるべく、軍人から騎士階級へと復位したらしい。神将の補佐となり、神将不在の際にはその代理として軍を率いる。

 名を確か、


「ティッカードと言いましたよね。足を引っ張らない自信がありますか」


 ちらりと、半歩後ろを走るティッカードの全身を確認する。戦闘は予定外だったので、わりと軽装備だった。


「お役に立ってみせます」

「ならば許可します」


 厩舎にて俊足の馬二頭を借り受ける。


「姫将軍は国民の心の支え。僕の補佐より彼女を守ることに専念してください」

「……はっ」

「しかし、本当に無謀な人です」


 鐙に足をかけて乗り上げながら言うリージュに、


「殿下の闇への愁いは大きくていらっしゃいます」


 神妙な顔で答えるティッカード。


「愁い?」


 リージュはさらに言葉を発するが、二頭の激しい嘶きや駆け足の音に打ち消されて、ティッカードの耳には届かなかった。


(そうではない)


 否、人々のための愁いもある。だが、それ以上に大きい個人的な感情が、彼女の中には在る筈だ。

 心を焦がすような強い感情を、彼女は己が意志で厳しく律しているに過ぎない。全ては、光の民に相応しくないが故に。


(だからこそ、彼女を…)


 失うわけにはいかない。救わねばならない。導かねばならない。

 彼女が悲しみというヴェールで、ひた隠しにする憎悪に気付かぬ振りをして。


(彼女を守る)


 光と闇を内包する、希少なる存在。

 リージュの望む未来に、彼女が必要なのだった。





「姫さん!」


 周囲は剣戟の音が木霊している。神将として戦場に立つ以上、声を荒げて味方の不安を煽るような行為は避けるべきだったが、この混沌とした戦場の中では大声を出さねば相手に届かない。

 敵に拡散されていくつかの集団に分かたれたようだが、報告を受けたときの人数からさほど減ってはいないようだ。


「僕は先に行く」


 よりによって、一番味方の人数の少ない集団に姫将軍がいた。隣を走る副官に一声かけ、リージュは馬上を蹴って空高く舞い上がった。


(ことわり)の枝よ」


 騎士達の頭上を飛ぶリージュの手の中に、小振りの木の枝が召喚された。それは見る見る両手剣へと姿を変えていく。

 剣を両手でしっかりと握り締めて、そのまま大きく振り降ろした。


「ギャッ」


 姫将軍の背後から近づいていた敵の剣を弾き、その勢いに負けた男は遠くへ吹き飛んだ。


「大丈夫ですか?」

「かたじけない」


 言葉遣いに気を回す余裕すらないらしい。

 横手から投擲された小剣を刃表で防ぎ、その隙を狙って逼迫して来た敵の腹を右足でけり飛ばす。反対の敵が頭上から細剣を落としてくるのを剣の柄で防御し、一つステップを踏んで姿勢を正した後、相手の膝を狙って蹴りこんだ。

 騎士のようなお上品な剣技は持ち合わせてはいないが、一切気にはしていなかった。


 ギチギチと耳を掻き毟りたくなる嫌な音がしたかと思うと、それはネスティア姫が敵の刃を己が剣で防いでいる音だった。震えている腕と苦痛にあえぐ顔を見る限り、防ぐのが精一杯でそれ以上押し出すことは出来ないようだ。

 リージュはその敵の背後へ回り、こちらへ反応する前に素早く、肩から腰にかけて斜めに斬り捨てた。


「?」


 今の敵の反応の鈍さでは、彼らは強敵とは思えなかった。


「どうしたのです、姫さんらしくない」

「魔術、が……」


 肩で息をする姫を敵の攻撃から庇いつつ、精神を集中すると、確かに戦場から少し離れた位置に魔術師の団体を感知した。

 能力低下系統の術をかけられていると思われるが、そのわりに騎士達は健闘している。元々の能力に大きな差があったのだろう。


「せい!」


 気を込めて横一文字になぎ払う。周辺に集まっていた敵が、悲鳴と血飛沫を上げながらバタバタと倒れていく。


「枝よ」


 敵部隊との間隔があいた隙に、両手剣を地面に突き刺し短く唱えると、刀身が淡く光り始めた。


「理の元に異法(いほう)を解除する」


 剣から淡い光が靄のように溢れ出て、戦場一帯を覆いこむ。


(見つけた)


 魔術の影響下にある場所を、一筋の差異もなくぴったりと靄で包んで、


浄法(じょうほう)


 シャン!!


 鈴の音に似た音が空間に響き亘ると同時に、自然な状態を取り戻した。


(……っ)


 腹を針で刺したような微かな痛みは無視する。

 敵の戦士達は魔術が解除されたことに呆然として隙だらけだが、魔術師達は優秀だ。自分達の術が無効化されるや否や、すぐに次の魔術の詠唱を開始していた。


「四方に葉を配置する」


 本来の力を取り戻した騎士達が反撃を始めるのを横目に見ながら、四方へと意識を流す。

 四月に芽生える若葉を、四枚イメージして地中に沈めていく。


「閣下!」


 ギンッと、ようやく我に返った敵がリージュに向けた攻撃を、ティッカードが下段から防いだ。


「ありがとう」


 守ってもらわなくても問題はなかったが、捻くれずにここは素直に礼を言った。彼の善意なのである。その頃やっと頭の隅で、四方に埋まる葉と葉が繋がるのを感じ取れた。


葉壁(はへき)始動」


 先ほどのように音はなく、目に見える変化もなかったが、発動してまもなく轟音を伴って、遠くの四方が真っ赤な炎で染まった。


「なん…!?」


 ティッカードが大声を出しながらも、魔術と防壁の攻防で発生した振動から護ろうと、リージュの肩と背中をしっかりと支えていた。


「僕は普通の子供じゃないから、大丈夫ですよ」


 遠方に視線を投げていたティッカードは、それを聞いてはたと振り返り、自分の行動に赤面した。


「も、申し訳ありません。つい」

「いえ。気持ちは嬉しかったです」


 自分の副官とはいえ、ティッカードについてあまり多くは知らない。何しろ今日紹介されてからこの戦場に来るまで、直接話す機会はほとんどなかったのだ。

 だが、見た目から、彼の年齢は二十代後半から三十歳くらいではないかと思える。その年齢の者から見れば、見た目は十五歳の自分は保護すべき対象となってしまうのだろう。最も、リージュは見た目だけでなく実年齢も十五なのだが。


「閣下、援軍が参りました」

「右赤将軍ですか」


 周りを見れば敵の戦士は呆然としている。炎術魔法を防いだあの派手な光景を見て、ほとんどが戦意を喪失してしまったことだろう。

 事ここに至って、援軍は無用な長物となった。


「ティッカード、伝令を。『無用の殺戮を禁ず。戦意無き者は』…っ、く…」

「閣下……?」

「……なんでもない。『戦意無き者は捕虜とすべし』、復唱」


 心配そうに顔を覗こうとする副官を制し、内容を復唱させる。


 追い払うように通達に向かわせて、ゆっくりと息を吐く。腕が無意識のうちに、腹から胸に向けてさする様に動いていた。



戦いをうまく書くセンスが欲しいです…。

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