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神の遊ぶ庭

女の子ばっかりで…すみません(汗)

          あなたにおしえてあげたい

         憎しみを隠して 前を見据える

           あなたの姿の痛々しさを





 この世界は病んでいた。


 遥かな昔、『調和の時代』と呼ばれし過去、『偉大なる誓約者』が一人の神と出会い恋に落ちた。

 明るき世界を慈しむその神は、大樹を育てし『始まりの神』であった。


 誓約者と始まりの神は契約を交わす。誓約者は、愛した神とのつながりの保持を望んだがために、始まりの神は愛した誓約者の子々孫々に渡る平穏を願って。


 誓約者は国民全てが未来永劫、正しき道を歩もうと誓い。

 始まりの神はその道を守るため、自らの系統より常に一柱の神を、誓約者の血統の元へ遣わすと誓約した。


 人間と神という間柄の二人の恋人は最後まで清らかで、二人の交わした契約は純粋なものだった。

 後世の人々は何故にあのような事態となったのか解せぬと首を捻ったが、いかに美しく清らかであっても、そこに罪があった事は当時の人々の目には明らかだった。



 始まりの神には、暗き世界を愛でし妻神(つまがみ)がいた。妻神は心通わす二人を知り、おのれ末代までも許さじ、と反乱を起こす。


 ここに、神々の国と人間の国は共々に、光と闇へ二分されたのである。





           あなたにおしえてあげたい

          哀しみを隠して 瞳を閉ざした

            あなたの心の美しさを





 星々の輝きの中を、駆け抜ける小さな煌きがあった。


 純白のローブで身を包むその人影は、誰が見ても圧倒される程の存在感を放っていたが、あいにく柔らかな薄衣を頭から被っていて、その顔を知ることはできない。

 どの道その人物は屋根と屋根とを高く高く飛び跳ねていたため、姿を見咎める者はいなかった。

 とても楽しそうに夜を駆ける人影は、結局誰にも気付かれぬまま、城の中へと消えていった。


  ――ど・こ


 鈴を転がすように、涼やかに意識を鳴らす。


  ――ど・こ・に・い・る・の・で・す・か


 求める相手だけに伝わる言葉だ。

 体重を感じさせぬ軽やかさで跳ねながら、城内を巡る。

 意識をどこまでもどこまでも響かせて、何度も何度も繰り返す。


  ――……


 やがて言葉にもならぬ反応を感じ取り、唯一あらわになっている口元に笑みが浮かんだ。


  ――い・ま・い・き・ま・す


 薄絹の間から時々垣間見える金色の髪が、廊下の所々に置かれた灯りを反射し、虹色に煌めいている。

 楽しげに、ダンスのステップを踏むが如く、軽やかに突き進む。


 こっちの角を曲がって、あちらの階段を昇り、そっちの通路に入って行こう。そう、ここが神々の降りる場所。


  ――は・は・う・え


 屋内であるというのに、床一面には多種多様の花々が鮮やかに咲き誇り、中央に一人の女性が鎮座していた。

 無心に花冠を作る彼女は、女性と言い切るには幼いようだった。

 無下に花を潰さぬよう、ふわりと近づく。


「…母さん」


 呼びかけに対して顔を上げて微笑みはするが、目の前にいる人物を認識してはいなかった。それは相手が彼であろうとなかろうと変わらない。

 それでも彼は笑顔を貰って嬉しかった。


「会いに来ました」


 彼女の肩に顔を埋めるようにして抱き締めた。

 彼女は抵抗もしないが、抱き返しもしない。ただぼんやりと抱かれるまま、時折花々を飛び交う蝶を見ては、無邪気な声を発している。


「遅くなってごめんなさい」


 彼の額を飾るサークレットが当たって痛かったのか、少しばかり身じろいだが、すぐに他のものへ気を取られてきょろきょろとする。


 彼女の心が壊れていることは知っていた。

 分かっていて会いに来たのであっても、やはり自分が彼女の中に存在しないのは悲しかった。


 抱き締めていた腕を離し、遊びに夢中になる彼女を見守る。

 蝶を追いかけ、花に埋もれ、小鳥と唄う。

 少女というほど子供ではなく、女性というにはまだ早いその姿。けれど中身は幼児のように無垢で幼い。

 二番目は優しさゆえに会うなと言った。しかしそれを押して会いに来たのは自分の意思だ。

 責は自らに有り、と知っている。それでも会いたかったのだ。


「…! そこにいるのは誰!?」


 静かな時を、咎めるような女の声が切り裂いた。

 彼は入り口に背を向けて座っていた。そのままの姿勢で返答する。


「ここは神の住処。人の国に在りて、神が降り、神が住まうための場所。故に、僕には咎められる謂れはなく、故に逆に問い掛けましょう」


 女の声をどこかで聞いたと思いながら、彼はゆっくり立ち上がった。


「神ならざる人の子よ。神の花園に立ち入る罪を犯す汝は何者か」

「? おまえは…?」


 怒りが沸くでもなく、ただ普通に声の主と向き合った。向き合って、あぁなんだ、と心で苦笑する。声に聞き覚えがあって当然だ。


「この者、いえ、この方は、神子(みこ)…? いえ…」


 戸惑い、自問自答する女は、両頬を長い金髪に挟まれている。


「すでに一柱(ひとはしら)の神が降りている…神子では在り得ない…。まさか…? いえ、まさか…」

「弔いは終えたのですか?」


 初めて見たその反応を新鮮に思いながら、瞳を覗き込めるほど近づいた。


「今は泣いていないのですね。泣いていないあなたを初めて見ました」


 彼女は湖水の色を持つ目を大きく見開き、


「私はいつも泣いたりしないっ」


 心から彼の台詞に驚いたようだった。


「人の死を嘆く、あなたを見ていました」


 だけど、と繋げる。


「泣いていないあなたの方が、一層美しいのですね」

「ど、うして…」


 誰も気付かず、あるいは本人ですら自覚していなかった悲しみを指摘され、まともに言葉を返せぬほど、彼女はうろたえていた。


「戦があれば人は死ぬ。あなた方を、この国を護る筈の神子はあの状態で、この城を包む結界を維持するだけでしょう?」


 何故ならばあの神子の身体の主たる人間も、神子に憑依している神も、諸共に狂ってしまっているのだから。

 結界一つ維持しているだけでも奇跡なのだ。


「あ、貴方、は…まさか…、受肉(じゅにく)した、神…?」

「僕はあなた方に力を貸すことにしました。今期の神子に代わり、僕がこの国を護ります」

「! なりません! 契約が…!」

「大丈夫。僕に限って使える手がありますから」


 始まりの神と偉大なる誓約者が交わした契約は厳しくできている。


 この国を護る神は常に一柱と定められており、一度神子に降りたが最後、いかなる状態であろうと、その神子の寿命が尽きるまで、器を変えることも去ることもできない。そして、他の神が助力すれば、たちまちその助力に見合ったペナルティが人々に降りかかるのだ。

 だからこそ、神の助力を断らねばならないのだ。本心ではどれほど力を欲していようとも、それを押しのけて制止しているのだ。


 けれど彼にだけは、助力のための手段があった。

 肉体の隅々に意識を拡散させ、必要なだけの力を行き渡らせてゆく。世界で唯一、人間に最も近い彼だけが持つ能力・存在変換の力。


 ヴェールのように被っていた薄衣がなくなり、あらわになった顔に光る半眼の瞳には新緑の息吹が宿る。

 消えずに額に残るサークレットの中心で黒玉(こくぎょく)が光を集め、絹糸のような黄金は虹色に輝き、人外の神秘を匂わせていた。

 ローブは両肩から下がるマントへと変わり、人目に晒された純白の長衣は神官服を思わせる。長衣を飾る銀糸の紋様は『神紋(しんもん)』と呼ばれるものであり、神々が個々に持つ紋章である。


 目の前で変化を見届けた彼女はのどを鳴らした。いかに術的能力を持たぬ身であれども、さすがに目前に立つ存在が、尋常ならざる力を持つ神であると理解できた。


「御名を、いえ、位階(いかい)をお教えくださいますか」

「ハイラン」


 強大な力を持つ神の中には、名を尋ねられることを嫌う者が多いと知っての気遣いが好ましい。


「ハイランの第五玉(だいごぎょく)

「た、大樹の守護神…!」


 その身を襲うは、計り知れぬ驚愕の嵐。

 神を待たせず立ち直ったのは、さすがと言えた。人々の上に立ち、導き、守る。そのために積み重ねてきた経験値が彼女を動かした。


「……。お呼びする際は、どのように…?」


 始まりの神が育てた、大樹ハイラン。大樹は世界そのものだと人々には伝えられている。

 光も闇も、人間も動物も植物も、あらゆる全てを支えていると伝わる大樹を守護する任を負うのは、数多の神々の中でも片手で足りる数の神々だけだと云われていた。


 それは事実で、なりたいという意志の下に守護神となるのではなく、その定めを持って誕生した神だけがなるのである。もちろん役割にふさわしく、能力の大きな神だけがその役目を担っているが、能力の大きさだけで定めに選ばれているのではないようだった。

 現時点において守護神として誕生したのは、始まりの神の子供達だけに集中しているが、彼らに勝る力を持つ姉神(あねがみ)の一人は守護神ではなかった。


「第五玉でも、五番目でもご自由に。呼びにくければ名を呼んでください。リージュと」

「御名を…?」

「リージュ・フィブロ・ハイラン。僕の名です」


 彼女にとっては予想外の展開ばかりのようだ。

 目をくるくる回す、いつもよりも幼い様子に、思わずくすくすと声が漏れてしまった。


「人々を守るために」


 手の平を上に開いて差し出す。まるでダンスでも申し込むかのように。


「僕に協力してくださいますか、姫さん」


 光の国の一の姫ネスティアは、ためらう事なく彼の手を取った。





未熟な文章ですみません…。できるだけ読みやすくしたいとは思ってますので、次回も読んでください。

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