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従姉と幼馴染

久しぶりの投稿になります。


 家に帰り着くのが、すっかり遅くなってしまった。

 リジュの祖父も一般的な年寄りに倣って早寝早起きなのだが、リジュの帰宅が遅い日は帰りを起きて待っている。そのくせ、朝は通常通りに起床するのだ。

 年寄りだから体の事を考えて、きっちり睡眠を取ってほしいとリジュは思っているが、その原因となるのが自分自身なのだから始末が悪い。


「ただいまー」

「ああ、おかえり」

「…………おかえり」


 だが、今日はいつもと違う人物達に出迎えられた。


「え? 二人とも、どうしたんだ?」


 こんな時間にはいないはずの、従姉(いとこ)のノイノと幼馴染のセイが家の中で寛いでいた。

 いや、ノイノの強張った顔を見る限り、穏やかな時間を過ごしてはいなかったらしい。


「話でもと思って仕事帰りに寄ったんだが」

「そうだったんだ? そういや、じーちゃんは?」

「俺達が代わりに待っているからと寝てもらった。お年寄りに夜遅くは、あまり良くないだろう?」

「そりゃ、遅くなってごめんな」

「……」


 ノイノは顔色を(くら)く落として、全く会話に入ってこない。驚くほどいつもと異なる様子に、リジュはセイの耳元に顔を近付け、声を潜めて問いかけた。


「何か、ノイノ変な気がするんだけど」

「……まあ、それは、な」


 セイは理由を知っているようだったが、ノイノが椅子を立ち上がる際に立てた大きな音で、それ以上返答を得ることは出来なかった。


「…………あたし、帰る」

「えっと…ノイノ?」

「リジュ。話があるから、ちょっと外まで付き合ってくんない? すぐ終わるしさ」

「オレ、だけ?」

「そうよ」


 見るからに不機嫌なノイノと二人きりはご免こうむりたいが、ノイノから発せられる異様な気迫に断る勇気も出てこない。


「……わかった」


 重く溜息を吐きたい気持ちで、家を出ていくノイノの後を追った。

 ドアを閉じる間際、セイとの視線が絡み合い、『すまない』とその唇が模るのが見て取れた。





「あたし、従弟としてのあんたは好きよ」


 外へ出たノイノは僅かな沈黙を経て、言葉を紡いだ。

 非常に近しい親戚として、その好意はわざわざ声に出されなくても感じていた。嫌悪感を抱く相手に、朝食を作るなどの世話を焼く事はあるまい。

 だが、従弟としてのリジュが好きだと言った、今目の前にいるノイノからは好意に近い良い感情が全く感じ取れなかった。

 それどころか、射るような鋭い視線は憎しみすら感じさせる。


(…………憎しみ?)


 光の民が負の感情を?


(まさか…………)


 光の民でも彼の姫将軍のように可能性を持つ者は存在するだろう。しかし、親戚として頻繁に顔を合わせていたノイノは、これまで純然たる光の民であった。

 清々しいほどに彼女には一切の曇りも濁りもなかったのだ。他の人々と違って、違和感のないそれは彼女自身の生まれ持つ個性だった。


 もしかすると、元々可能性はあったが、今まで負の感情を持つ理由がノイノには全くなかっただけなのかもしれない。

 ノイノは憎しみの籠った視線をリジュに向けている。では、リジュがノイノに初めて負の感情を抱かせたということなのか。


 リジュは生まれて初めて負の感情を向けられるという事態に、現状を無視してうっかり感動してしまった。


「何か、あたし変なのよ」


 自分の内側に入りかけていたリジュは、ノイノの声にハッとして意識を戻した。


「従弟としてのあんたは好きだけど、あいつがあんたを見てる時とか、あいつがあんたの話をしてる時は、あんたの事がすっごい嫌いな気がすんの。でも、そんなヤな気持ちが出てきたなって思うと、……どう言ったらいいのかな……無理やり消される感じがして……」


「無理矢理……消される……」


「そう! 消されてるんだ! あいつが関わったあんたは嫌いなハズなんだ。多分、あたしの中ではそれが正しいはずなのに、いつでもあんたが好きだって、直されてるみたいなの」


 それが、神に対する修正だ。


 リジュは頭の片隅で、冷静に呟く自分を自覚していた。


「ノイノ、あいつって誰?」

「言わなくたって、わかるでしょ? あんたを大切にしてる、あいつよ。いつだって、あんたの事ばっかり…!」

「あいつが、好き?」

「好きよ、好きなのよ、なのにあいつはあんたしか見てない! あんたの事ばっか考えてる! あいつはあんたのこと」

「ノイノ」


 ノイノの言葉を強制的に終わらせた。

 彼女の言葉はいくら続けても、彼女自身を傷つけるだけ。


『あいつって誰?』

 卑怯だなと、思う。

 わざわざ言わせなくても、誰の事を言っているかなど理解していただろうに。


 誰のことかを明示してもらえれば、『あいつ』と距離を置く理由になるかと思ったのだ。

 それは微塵もノイノの為にではない。嘘をつき続ける自分が楽になるかと、卑怯な思いに駆られた。


「ノイノ、あいつの想いは幻のようなものだ。ノイノがオレを嫌いになれないのと同じように」


 ノイノに対する罪滅ぼしのように、彼女を楽にする言葉を吐く。


「本心ではないのに、あたかもその心が真実であるかの如く作り上げられた、偽物の想いなんだよ……」





 それが本物か偽物か。

 判別する手段はリジュ本人すら持っていない。


 ノイノの為にしてやれる事は、ただ距離を取ることだけだ。


「リイ、その…大丈夫だったか?」

「別に何も問題はないよ」


 家に戻ったリジュは『作った』笑顔をセイへ向ける。付き合いが長いだけに、ただそれだけで意図的に間に壁を置いたことが理解できたようだ。セイの体が緊張している。



「しばらく忙しいから、会えなくなる」

「…朝早くや、夜遅くはどうだ」

「会えないよ。……朝も、昼も、夜も。大切な話があったなら、今聞くけど」

「いや……特に、重要な話では、ないが……」

「そう? なら、今日は遅いし、もういいかな」


 ノイノに言っておきながら、本当にどちらなのだろうかと疑問に思う。追い詰められた獣のような激しさを、無理に隠したこの瞳や、


「…………リジュ!」


 突き放されるのを認めたがらない震えた声、逃がしたくないと云うが如く、手首を掴んでいるこの手の力強さ。


「オレはもう、会わない」


 最後通告にゆるりと手放し、見たことのないほど青ざめた顔。


 これらの、どこからどこまで、本当の想いなのか。


「……ノイノに優しくしてやってくれ」


 作られた感情ならば、そう長い時を待たず、セイの痛みは癒されるだろう。

 そうすればいずれ、その心がノイノへ向くこともあるだろう……。





今まで直接でてこなかった従姉が今回出張ってます。

まあ、いつかへの伏線だと思って我慢してください。

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