表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第一章 新たなセイ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/26

第8話 丹田の光




『メアリス様、お喜び下さい。

 あなたには魔術の才能が有ります。それも非常に優秀な才能です』



 我が国では、七歳を迎えると春に魔術適性の検査を受けることが義務付けられている。

 魔術を扱えるかどうかは明確に才能の有無で分かれ、戦争や国家運営において極めて有用な力となることから、この制度はアルビオン帝国が軍事国家であることと密接に関係している。


 しかし、被験者に告げられるのは『才能があるかないか』という非常に大まかな結果だけだ。

 詳細な評価は検査担当者しか知らず、記録にも残されない。

 本人や親に伝えられるのは、極めて優秀な才能を持つ場合のみである。


 その理由は単純だ。魔術を学び、磨くには多大な費用がかかる。

 もし極めて優秀な才能を持っているなら、その費用は国家が無償で提供する代わりに、将来的に国家への奉仕が義務付けられるのである。


 だから、検査官が告げてくれたのは、侯爵家の令嬢に対するお世辞だったのかもしれない。


 だが、褒められて嬉しくない子供などいない。

 私は大はしゃぎで喜び、父に至っては『将来は宮廷魔術師に違いない!』と、私以上に大喜びして、若くして高名な魔術師を教師に就けてくれた。


 ところが、私が魔術を熱心に学んだのは最初の三日だけだった。

 一週間も経たないうちに、課せられた宿題をサボるようになり、二週間が経つ頃には授業そのものをサボり始め、一ヶ月が経つ頃には、学ぶ姿勢をまったく見せない私に呆れ果てた先生の方が、授業に来なくなった。


 こうして、魔術との縁はそれっきりとなった。


 魔術とは技術だ。

 それを扱うには才能と高度な知識が必要な学問である。

 屋敷の書庫に残っていた当時の教本をざっくりと読んでみると、日本の学力水準でいうなら中学生レベルか、高校入試レベルくらいだろうか。


 それを、七歳の子供にいきなり学ばせるのは無理がある。


 先生の教え方も決して良くなかった。

 思い返せば、いつも『何故、解らない!』と怒ってばかりいた印象しか残っていない。


 何を学ぶにしても、それに対する興味は才能以前に重要な要素だ。

 その強さ次第で意欲も変わり、学ぶ楽しさも変わる。

 教師から叱られてばかりの生徒が、学問への興味を持ち続けられるだろうか。かつての私は、悪くなかったと思う。


 でも、今は違う。興味はもりもりの山盛りだ。

 ヒルダの魔術を目の当たりにしてから、わくわくの興奮が止まらなかった。



「さて……。もういいかな?」



 明かりを灯さず、ベッドの中でずっと静かに待っていた。

 数刻前、今夜も一緒に、と無言で訴えるヒルダの切なそうな眼差しを無視して。


 ヒルダの代わりに寝ず番を務め、この寝室と繋がる自室で控えるメイドさんが寝息を立てるのを、私は今か今かと時を待っていた。


 ちなみに、寝ず番といっても朝まで夜通しで起きている必要はない。

 一応、私の警護も役目に含まれるが、重要なのは、水を欲したり、用を足したくなった時にすぐ手を貸せるかどうかだ。


 要は、必要な時に目が覚めれば問題はない。

 職務中のため、メイド服を脱げなくてもそこに居るだけでよく、毛布をかけて三人掛けのソファーをベッド代わりにして寝ることも許されている。


 では、なぜこの時を待っていたのか。それは、やはり魔術のためである。

 魔術における最初の第一歩として、教本にはこう書かれていた。『己の内なる魔力を感じよ』と。


 その一文を読んだ瞬間、煮えたぎるような怒りを感じた。

 説明があまりにふわっとしすぎていて、思わず教本を床に叩きつけ、著者を『アホかっ!』と罵ってしまった。


 かつて魔術を学んだとき、人差し指から水鉄砲を出せた記憶がある。

 だから当時なら、この感覚を掴めたはずだ。


 しかし今は、興味を失った遠い記憶の奥に埋もれ、思い出すこともできない。


 魔術を実際に使って見せたヒルダも同じだった。

 何度も解説を求めたが、返ってくるのは表現を変えただけの漠然とした説明ばかり。そこから先へ進むことはできなかった。


 だが、夕食をそぞろに摂っている最中、ふと閃きがあった。


 思い返せば、前世で武術を教えてくれた祖父から、流派の極意として似たような教えを受けていたのだ。

 もしかすると、魔力とは地球の中国思想や道教、漢方医学で言うところの『気』にあたるものなのではないか。そう考えた。


 もっとも、当時はその存在に半信半疑だったし、祖父自身もまた半信半疑であった。

 概念も鍛錬方法も運用方法も、私の認識ではせいぜいおまじない程度のものに過ぎなかった。

 だが、この世界は地球より魔力を感じやすく、だからこそ科学より魔術が発達したのだろう、とも考えた。


 ただし、祖父から学んだ極意を試すには、一人きりになる必要があった。

 門外不出の教えであることも理由のひとつだが、それ以上に、この極意は真夜中の静かな環境で行うことで、より高い効果が得られるとされていた。



「冬じゃないってのは、好条件だよな」



 まずベッドを下り、剥ぎ取った布団を床に置く。

 次に、薄暗闇の中でも桜色のぽっちが透けるネグリジェを脱ぎ捨て、パンツも続けて脱いだ。


 余談だが、ヒルダはどうやら『脱がせたがり』の気がある。

 夜を楽しもうとセクシーな下着を熱心に勧めてきたおかげで、私は三日前、これ幸いと全裸就寝のポリシーをあっさり捨てた。

 昼間はともかく、まだ装着感に慣れないブラジャーは避けているが、それでも全裸より何かを身につけているほうが安心できるし、ぐっすり眠れる気がする。


 次に、採光と換気のために開けていた二つの窓を閉め、カーテンも引く。

 闇に目が慣れないまま、経験を頼りにベッドへ戻り、その中央に腰を下ろしたら、あとは『座禅』だ。


 左腿の上に右足を乗せ、さらに右腿の上に左足を重ねる。

 両手は軽く輪を作り、膝の上へ。身体を前後左右に揺らして最も安定する位置を見極め、肩の力を抜く。

 背筋を伸ばし、顎を引き、口を結び、半眼のまま一メートル先に視線を落とす。これで完成。


 この極意を初めて知ったときは、『えっ、これだけ?』と拍子抜けした。


 しかし、実際には馬鹿にできない。

 音を絶ち、光を絶ち、空気の流れすら絶つ。その三要素はいずれも集中を高める効果がある。

 そして全裸になることで世界との一体化を目指し、普段は感じにくい『気』を捉えやすくなるのだという。


 深呼吸をひとつ。腹を意識して吐き出す。

 あとは自然な呼吸に任せ、雑念を払い、心を空にしていく。


 正直、今も半信半疑だ。前世では分からずじまいだった。

 本当に感じられるのか。結局は気のせいで終わるんじゃないか。


 そんな疑念が、静寂の中でじわじわと膨らんでいくのを振り払う。


 祖父の言葉が正しかったのなら。

 魔術を扱える未来が、きっとここから始まる。



「……えっ!?」



 なんと、効果は即座に現れた。

 暗闇に目が慣れ、輪郭が浮かび始めたそのとき、へその下『丹田』と呼ばれる場所に、熱のような力が湧き立つのを感じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ