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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第一章 新たなセイ

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第4話 震えるままに




「ぁうんっ!?」



 その部分に指先が触れた瞬間、稲妻どころか爆ぜるような衝撃が全身を駆け抜けた。

 抑えきれずに腰が弾み、非力な体のはずなのに、肩と足で支えるブリッジが勝手に出来上がっていた。


 下腹に宿っていた小さな灯火は、一瞬で炎となり轟々と燃え上がった。


 もっと欲しい、さらに強い刺激を、と身体が叫んでいるのに、俺は動けない。

 ブリッジの姿勢のまま、まるで石のように固まっていた。


 視線の先に、見てしまったからだ。

 腰が跳ね上がった反動で、無意識に上へ向いた視線。そのわずかな道中、暗がりの中に立つ人影が目に映った。


 ベッドの足元、部屋の出入口。

 ドアを開け放ったまま、口をぽかんと開けて立ち尽くすヒルダの姿。


 手にはワゴン。そこにはパンとスープ皿。

 きっと、夕食を運んでくれたのだろう。


 俺がまだ眠っているかもしれないと、気を遣ってノックも声かけも控えて入ってきたのかもしれない。


 その親切心が、今はただひたすらに恨めしい。

 季節は春。天蓋のカーテンは束ねられ、遮るものは何もない。


 いつから見られていたのかは分からない。

 だが、ヒルダの表情から察するに、一部始終を目撃されてしまったのは間違いなかった。


 もはや言い訳など通じるはずもない。

 時が止まってくれと願った瞬間、非力な腹筋が悲鳴を上げ、俺の腰はベッドに落ちた。


 こうなったらと、俺は平静を装い『何事も無かった作戦』を決行する。



「え、ええっと……。しょ、食事を運んでくれたんだね!

 で、でも、今はお腹が空いていないし、あとで食べるからそこに置いといて! ヒ、ヒルダは下がって良いよ!」



 だが、結果は大失敗だった。

 腰を下ろしたせいで、正面から注がれるヒルダの視線をまともに受け止めてしまう。

 気まずさに耐え切れず、顔を右へ、左へ、また右へと落ち着きなく振った末、ついにベッドへ身を翻して、うつ伏せのまま枕に顔を埋めた。


 叫びたい。今すぐ枕を抱きしめて喉の限りに。

 けれど、それはヒルダが部屋を出て行き、ドアが閉まり、その気配が完全に消えてからだ。


 今の俺に出来るのは、必死にプルプル震えながら耐えることだけ。


 ところが、待てども、その時は訪れなかった。


 ワゴンのタイヤが絨毯を擦る小さな音が近づき、やがてベッド脇で止まる。

 だが、そこから立ち去る気配はない。ヒルダは、まだそこに居た。


 ベッドが小さく軋み、ふわりと揺れた。

 座ったのだ。ベッドの縁に。


 枕に埋めた顔の中で、俺の眉は『なぜだ!』と跳ね上がる。



「大丈夫ですよ……。恥ずかしがることなんて、ちっとも有りません。

 年頃になれば、誰もが興味を持つことです。

 口に出したりはしませんが、皆がシている当たり前のことで……。ええ、お嬢様は遅かったくらいです」


 返ってきた声は驚くほど優しかった。

 胸の奥を撫でられるように、温かい声だった。


 でも今は、それがつらい。放っておいてほしかった。

 どうせ明日の朝になれば顔を合わせるのだから、その時までに、羞恥を乗り越える力を溜めておきたかった。



「ち、違う! ち、違うから! さ、さっきのは……。」



 ついに心が限界を超えた。

 ベッドを両掌で思いきり叩き、その勢いのまま上半身を跳ね起こす。


 何がどう違うのか、自分でも解らない。

 どう足掻いても無駄だと承知していながら、足掻かずにはいられず叫んだ。


 だが、それ以上の言葉は出なかった。

 弁解の言葉を失った理由は、激情に任せたからではない。


 理由はただ一つ。


 さっきまでメイド服を着ていたはずのヒルダが、今は全裸。

 しかも、素肌の背中を晒しながらベッドの縁に座り、こちらを優しく微笑んでいるのだ。



「今にして思えば、浴室のアレはお嬢様なりの合図だったのですね?」

「えっ!?」



 心に充満していた羞恥は、瞬く間に驚きへと塗り替えられた。

 口は絶句のままパクパク動き、言葉が出ない。


 そんな俺を前に、ヒルダは変わらぬ優しい微笑みを浮かべ、四つん這いになってベッドの上をゆっくりと迫ってくる。



「そうとは気づかず、申し訳ありませんでした。

 でも、ダメですよ? だからと言って、一人で為さろうとしては」

「えっ!?」



 ナイトランプのオレンジ色が、ヒルダの肌と陰影を妖艶に際立たせる。

 目のやり場がなく、視線は右往左往。どこもかしこも、注意すべき危険だらけだった。


 もう無理だ。顔を枕に埋め、耳を両手で塞ぎ、視覚も聴覚も閉じてやり過ごすしかない。

 そう覚悟を決めたその刹那。



「お嬢様のそこは、将来の旦那様へ捧げる大事なものです。

 もしそこを傷つけて、証を失ってしまったら一大事。

 お嬢様が恥をかくだけでなく、ウォースパイト侯爵家の存亡に関わるかもしれません」

「ひゃっ!?」



 ヒルダの手が、俺のお尻に触れた。

 思わず体が硬直する。



「だけど、ご安心を……。私がいます。

 実を申しますと、お嬢様の専属になった際、その役目を旦那様から任されております」

「えっ!? ……ちょ、ちょっと、ちょっとっ!?」



 その上、手は上から下へと、愛おしそうに撫でるように動き、ついには閉じた両脚の間へ指先を差し入れてきた。



「そう身体を強張らせずに、力を抜いて下さい。ほら、私に身を委ねて……。」

「ぁうんっ!?」

「ウフフっ……。お嬢様、可愛いですよ」



 そして、甘く長い夜が始まった。

 それは、これから先も決して色あせることのない、一生の思い出になった。




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