表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第六章 修羅姫の初陣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

第48話 猪鹿蝶




「お嬢様……。お嬢様、起きて下さい」

「……んぁ?」



 急な大雨を避けるため、街道沿いの大木の根元で休憩を取っていた。

 肩を軽く揺すられて目を覚ますと、一つの毛布に身を寄せ合っていたヒルダが、腰を上げて、険しい横顔を見せていた。



「申し訳ありません。囲まれています」

「まあ、疲れもたまっていたしね。お互い様だよ」



 どうやら、少しの休憩のつもりが、互いに眠ってしまっていたらしい。


 だが、無理もない。

 ここまでの道中、私もヒルダも満足に寝ていない。


 馬での移動時は、お互いを縛り、片方が寝る。

 雪深く馬での移動ができない場所でも、身体能力強化の魔術を使い、背負われた片方が寝る。


 たまに道中の村々で、互いに眠ることはあっても、二時間ほど。

 そんな無茶を繰り返しながら、昼夜を問わずに進んできた。


 しかし、その無茶のおかげで、私たちは九日で、東方領に辿り着いた。

 侍従長の予想より、一日早い。


 次の村では、携帯食でない食事をちゃんと摂り、お風呂も入り、丸一日休む。

 戦場となっている国境まで向かう英気を養う予定だった。


 だが、東方領に入って、気が抜けたのだろう。

 眠る前は深夜だったはずが、気づけば朝日がすっかり昇っていた。



「突破しますか?」



 立ち上がって辺りを見渡すと、男たちがぞろぞろと近づいていた。

 ばらばらの身なりに、下卑た笑みを浮かべていることから、盗賊の一団だろう。



「いや、試したいことがある。先手は任せて」

「分かりました」



 その数は、ぱっと見で30人ほど。

 彼らは10メートルほど手前で横に広がり、私たちを半包囲した。




 ******




「我が名はメアリス! 東方領、リリアンの生まれにして、ウォースパイト侯爵家が長女!

 挨拶もなく、許しも得ず、私を囲うとは無礼であろう! 理由があるなら聞く! とくと答えよ!」



 盗賊たちの中心に向かって、右肩を向けながら腰を落とす。

 左腰に置いたムラサメの柄を握りしめ、静かに構えを取り、私は警告を叫んだ。



「ひゃっひゃっ! こいつはついてるぜ!」

「ウォースパイト侯爵家の娘となったら、身代金がたんまり貰えるぜ!」

「おい、味見はなしか? こっちは女日照りでたまっているんだぞ!」



 この下品さは間違いない。盗賊だ。

 私を小娘の意気がりと見くびるのは自由だが、その対価は払ってもらおう。


 それともう一つ、分かったことがある。

 私がウォースパイト侯爵家の者と知った途端、今囃し立てた三人以外は明らかにうろたえた。


 その視線が次の瞬間、一人の男へ集まった。


 無精髭を生やし、よれよれの服をまとってはいるが、盗賊にしては妙に品がある。

 面倒くさそうに頭をボリボリとかく姿には、厭世観すら漂っていた。


 恐らく、元貴族。それも家を継げない次男か三男。

 いや、盗賊にまで身をやつしているとなれば、支援すら受けられなかった弱小貴族の四男、五男かもしれない。


 いずれにせよ、彼は残しておいた方が役に立ちそうだ。


 そして、囃し立てた三人は盗賊たちの中心人物。

 即ち、彼らを排除すれば、盗賊たちはたちまち烏合の衆と化す。


 唇を舐めて湿らせ、息を吸う。

 ムラサメの刃から、ひやりとした冷気が立ちのぼった。



「猪!」



 呼吸を爆発させ、一足飛び。

 まずは一人目。一気に間合いを詰め、抜き放ったムラサメで左下から斜めに斬り上げた。



「鹿!」



 盗賊たちが驚くより早く、二人目。

 右後ろにバックステップを取り、左に薙ぐ。



「なっ!?」

「蝶!」



 慌てて三人目が剣を抜くが、遅い。

 左薙ぎの勢いをそのままに跳び、宙で一回転しながら袈裟斬りを放つ。


 やった。成功した。

 あれから、約十年。大学進学で上京する前日、祖父が見せてくれた奥義。


 それが今、私にも出来たのだ。

 前世では有り得ない、身体能力強化の魔術を用いてはいるが、それも今の私の力に違いない。


 残心を取りながら、ムラサメを納刀した瞬間。

 パリン、パリン、パリーンと鋭い音が響いたかと思うと、両断した盗賊三人が氷と化し、粉々に砕け散った。



「ひ、ひぃっ!?」



 盗賊たちの悲鳴が一斉にあがった。

 私のすぐ隣にいる奴など、尻もちをつき、そのまま失禁している。


 人を殺めるのは初めてだが、意外にも後悔や忌避感は湧かない。

 冒険者をやっていた頃の経験が、少なからず役立っているのかもしれない。

 二足歩行のゴブリンやコボルトを討伐してきた日々が、今の冷静さを支えているのだろう。


 それよりも、口の端のニマニマが止まらない。


 だが、このままでは格好がつかない。

 下唇を噛みしめ、キリリと表情を引き締めて、目星を付けていた元貴族と思しき男へと振り向いた。


 盗賊たちは、一歩下がり、互いに視線を交わす。

 やがて、その視線は元貴族と思しき男に集中した。


 やはり私の予想は正しかった。

 あとは彼次第で、状況はどちらにも転ぶ。簡単なお仕事だ。



「お前たちは運が良い。

 今、私たちは戦場に向かう途中だ。どうせなら、兵が欲しいと思っていたところだ」

「あ~~……。そういうことね」



 元貴族と思しき男は小さく肩をすくめ、溜息をついた。



「なら、分かるな? ここで死ぬか、私の下につくかを選べ」

「頼むから、三食は付けてくれよ?」 

 


 ここで軽口を叩けるなんて、度胸も座っている。



「良いだろう。だけど、私の指揮は厳しいぞ? ここで死んでいた方が良かったと後悔するくらいにな?」



 案外、良い買い物だったかもしれない。私はニヤリと笑い、頷いた。




******




「お嬢様、質問をよろしいですか?」

「うん? 何?」

「イノ、シカ、チョウって、何ですか?」

「ああ、それはただのタイミング取りのかけ声だよ。

 チャー、シュー、メン、でも良いんだけど……。かっこ悪いだろ?」

「チャー、シュー、メンって、何ですか?」

「うーーーん……。どう説明したらいいかな?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ