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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第五章 東方領動乱

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第46話 立つのが戦場の作法




「お嬢様……。」

「……な、何?」



 歩み寄ってきたヒルダの目は、鋭く厳しかった。

 何を言われるのだろうかと、思わず身構える。



「以前はどうあれ、今のお嬢様は女です」

「……うん? そうだね。それが?」



 しかし、ヒルダはただ当たり前のことを言っただけだった。

 拍子抜けして、鼻から息が漏れる。



「用を足す時、どうしますか?」

「えっ!? いきなり、何?」

「今、そのフリをここで試しにやってみてください」



 唐突な指示に、眉をひそめる私。

 だが、ヒルダの相変わらず眼差しは鋭く、厳しかった。



「本当に何なの?」

「お願いします」

「まあ、良いけどさ……。」



 私は唇を尖らせながら、両手をスカートの中に入れて、目を見開く。


 変身の際、履いていたパンツが消えてなくなり、別のものに変わったのは気づいていた。

 だが、そのパンツがいわゆる『紐パン』とは気づいていなかった。両腰のところに結び目があった。


 私とヒルダには、誰にも言えない秘密がある。

 その日の最後の入浴後、着替えをする私に、ヒルダが今夜どうしたいかは、用意された下着で分かるようになっていた。

 普通のパンツを右手に、紐パンを左手に並べ、私が左手の紐パンを選べば、それが応じる合図だ。


 おかげで、身体が反射的に胸をドキリと高鳴った。

 顔を素早く左右に振って、気を散らす。


 パンツを足首まで下ろし、スカートの裾を捲りあげて、前に巻き込みながらお腹で押さえる。

 その場にしゃがみ込み、ヒルダに『これでいい?』と顔を振り向けて問いかけようとした、そのまさにその時だった。



「キャっ!?」



 いきなりヒルダが私の肩を押し、突き飛ばした。

 私はなすすべなく、横倒しに倒れてしまう。



「あっ!? うっ……。酷くない?」



 すぐさま立ち上がろうとするが、パンツの伸びが限界点を超え、足がもつれる。

 私は四つん這いになり、恨みの込めた視線でヒルダを睨む。



「それが答えです」

「えっ!?」

「私たちは女です。男のように、ぽろんと出すだけでは用を足せません。

 しかし、今のようにしゃがんでいたら、いざという時に素早く動けませんし、お嬢様のように足を下着に絡ませることになります」



 しかし、ヒルダは無様な私を指さして、涼しい顔をしていた。

 その指摘は実にもっともなものだったが、思わず唇を尖らせてしまう。



「じゃあ……。どうするの?」

「こうするのです」

「ええっ!?」



 するとヒルダは肩幅に足を開き、腰をわずかに落とした。

 左手でメイド服のスカートの前を捲り上げ、右手で黒い下着をずらすと、大事なところを私に見せつけた。



「女が軍隊に入った時、何よりも最初に教わることです」

「う、嘘だぁ~~?」



 とても信じられなかった。

 下着とスカートを直すヒルダが、言わんとすることは分かるが、女でありながら『立ちション』をしろというのか。声が裏返ってしまう。



「では、よく考えてみて下さい。

 例えば、奇襲を仕掛けるです。藪に潜んで敵を待ち、常に前を見て、いつでも動けるようにしておかない時、どうするんですか?」

「……あっ!?」



 だが、重ねられたヒルダの指摘に、愕然とする。

 私は立ち上がり、パンツを履き直しながら、言葉も出ないほどだった。



「分かりましたね? 立ったままで済ませるのがベストなのです。

 今、私はスカートを上げましたが、本来は上げずに済ませます。

 ですから、スカートは短い方が適しているのです。汚れないように……。」



 言われてみると、納得しか出来ない。

 ヒルダが戦いの装いにミニスカートを頑なに譲らなかった理由が、こんな馬鹿馬鹿しくも切実なものだっただなんて、思いもよらなかった。


 そう言えば、アルビオン帝国の女性騎士や女性兵士の制服は、全員がミニスカートだ。

 今まで、ただのセクハラだとばかり思っていたが、ちゃんとした理由があったのを知った。



「ですが、お嬢様は用を足すのが下手ですよね?」

「う、うん……。ま、まあ、そうだね」



 その矢先、実に痛いところを突かれた。

 ヒルダが言う通り、私は用を足すのが下手だった。


 和式スタイルはもちろんだが、洋式スタイルでもお尻を濡らしてしまう。

 一人で用を足すチャンスがあった時、開いたりなどの工夫をしても、今度は手を濡らしたり、勢いが強くて便器やその周囲を汚したりと、なかなか上手くいかない。


 今後私はどうしたら良いのか、軍隊の中で上手くやっていけるだろうか。

 戦場の恐怖より、そちらの方が不安になっていると、唐突にヒルダがせっかく履き直した私のパンツを下ろして、顔をスカートの中に突っ込んできた。



「だから、ここで練習をしておきましょう」

「えっ!? ……あっ!? ちょっ!?」

「さあ、ご存分に! 私が全て受け止めます!」



 ヒルダの開いた口が、そこに当てられるのが分かった。

 ヒルダがそこを触れるのは初めてじゃない。数え切れないほど幾度も触れられてきたが、ここでは駄目だ。


 なぜって、私の真正面には母の肖像画があるのだから。



「だ、駄目だって! お、お母様が見てる!」



 しかし、冬の寒空の下、走ってきたこともあり、身体には確かに溜まっていた。

 屋敷を発つ前に、トイレを済ませるつもりだった。


 しかも、ヒルダの舌先が、私の敏感な場所をまるでノックするかのように何度も軽く叩く。



「あっ!? あっ!? ……あぁぁ~~~っ!?」



 もう限界だった。駄目だった。

 背筋がブルリと震える。たまらず、ヒルダの頭を太ももで挟み、その顔をスカートの上から両手で自分の方へぐっと寄せた。




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