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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第四章 二人の皇子

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第38話 優しい眼差し




「あっ!?」



 皇妃様は、私が鍛錬を始めた頃からずっと私のことを知っていて、応援もしてくれていた。

 つまり、それは私が冒険者だったことも知っていたのかもしれない。



「どうしたの?」

「もしかして、もしかして……。」

「なぁに?」

「私が冒険者になったのを……。」



 その疑問に気づき、私は立ち止まった。

 気まずくなって俯き、上目遣いで問いかけると、一歩先を進んでいた皇妃様も立ち止まり、にっこり微笑んだ。



「もちろん、知ってるわよ? 私、びっくりしちゃった」

「うっ……。ごめんなさい」

「実はね。今だから教えちゃうけど……。

 メアリスちゃんと一緒に冒険をしていた彼らは、私の口利きだったの」

「えっ!? リーダーたちがっ!? そうだったんですかっ!?」



 不思議に思った。

 父やお祖父様の前では出てこなかった謝罪の言葉が、素直に出てきたのだ。


 私『メアリス』が、父と兄から離れて帝都で暮らし続けられたのは、皇妃様の存在が大きい。


 実際、去年の秋に父と兄がウォースパイト侯爵領へ戻った後、私は何度かホームシックにかかってしまった。

 そのたびに皇妃様はわざわざ屋敷まで訪ねてくださり、特にホームシックがひどい時には、私を抱きしめながら一緒のベッドで寝てくれることさえあった。



「勝手なことをして、ごめんなさいね。

 でも、将来の娘が傷物にされちゃうんじゃないかって……。お母さん、心配で心配で……。」

「あはははは……。」



 いわば、私『メアリス』にとって、皇妃様は幼い頃に亡くした母の代わりの存在だ。

 その感情は今の私も引き継いでおり、殿下の婚約者候補から外れようとする企みに心苦しさを感じることもあるが、『それはそれ、これはこれ』だと思っている。


 正直、『将来の娘』と言われても、困ってしまう。

 ここは笑ってごまかすしかない。笑顔がぎこちなくなっても、許してほしい。



「そうそう! 私もメアリスちゃんに聞きたいことがあったの!」

「はい、何ですか?」

「クラウスとテオさん、どっちがいいの?」

「へっ!?」

「もぉ~、とぼけちゃって……。

 最近、テオさんといい感じなのでしょ? 噂になっているわよ?」



 そんな皇妃様にも欠点はある。

 それがこれ、『人の色恋沙汰が大好物』という点だ。


 私『メアリス』では興味を持つには幼すぎたし、私に至っては全く興味がない。

 こうしてニヤニヤとした笑みを右手で隠しながら、左腕で私の右腕をうりうりと突かれても、非常に困るのだ。


 もちろん、言いたいことは分かっている。望んでいる答えも。


 だが私にとって殿下は、手のかかる弟のような存在であり、テオは友人だ。

 そっち方面を想像されるのは心外で、顔が引きつってしまう。



「い、いや、テオとは友人で……。」



 しかも、私がテオとの関係をきちんと説明しようとした途端、皇妃様は渡り廊下で柏手を一つ打ち、目をキラキラと輝かせ始めた。



「まあ! まあまあまあ!」

「あ、あのぉ~?」



 その輝きに圧されて、思わず半歩後ずさる。

 皇妃様が絶対に誤解しているという確信が、私にはあった。



「ねえねえ、ヒルダさん。もう二人は名前を呼び合う仲なのね?」

「はい……。第一皇子殿下にはお嬢様と親しくさせていただいています。

 ですが、皇妃様がお考えのような仲かと言えば、違います」

「あら、そう……。残念ね。

 でも、でもでも! メアリスちゃんもお年頃! 私はいつでも応援するからね!」



 背後で付き従うヒルダが丁寧に訂正を入れても、無駄だった。

 皇妃様が意気消沈したのは一瞬だけ。すぐに目の輝きを取り戻すと、両手を胸の前で組み、満面の笑みを浮かべながら上半身をぐっと寄せてきた。



「あ、ありがとうございま……。す?」

「もぉ~……。気のない返事ねぇ~」

「そ、その……。え、ええと……。」

「あっ!? 解っちゃった! クラウスとのことを気にしているのね?」

「い、いや、違っ……。」

「大丈夫よ! 安心して! 血の繋がりはなくても、テオさんが私の息子には変わりがないから!

 クラウスと結婚しても、テオさんと結婚しても、メアリスちゃんは私の娘だから! ……ねっ!?」

「そ、そう……。で、ですね?」



 今一度、たまらず半歩後ずさるが、皇妃様は素早く距離を詰めて迫ってくる。

 何が『ねっ!?』なのかは分からないし、ここで頷いてはいけないと分かっていながらも、その強い眼差しに圧され、思わず首を縦に振ってしまう。


 余談だが、皇妃様の言葉から分かる通り、皇妃様はテオに隔意を持っていない。

 逆に、義理の母親として距離を縮めようと苦労しているようだが、テオの方が成人してから距離を置き始め、昔は懐いてくれていたのに、と愚痴を何度も聞いたことがある。


 また、テオの生母は存命中で、皇妃様との仲も良好らしい。

 皇帝陛下と婚姻関係は結んでいないが、一代限りの伯爵位を許され、現在は帝国郊外の離宮に住んでいる。その元へ皇帝陛下は今なおしばしば足を運んでいるらしい。


 こんな美人で気立ての良い皇妃様がいるのに、皇帝陛下は最低だ。

 一夫一妻制が常識の日本人の価値観で言えば、そう感じても不思議はない。


 しかし、皇帝陛下と皇妃様は6歳差。

 二人は、皇妃様が6歳のときに婚約を結んでおり、15歳の皇太子であった皇帝が青春の悶々を抱えていた頃、皇妃様はまだ9歳である。

 ハニートラップを避ける意味もあり、皇帝陛下の青春を爆発させるためには、適切な相手。その関係を盾に妙な野望を抱かず、誠実に振る舞える相手が必要だった。


 むしろ、皇帝陛下は誠実と言える。

 その権威を用いれば、相手は選び放題、青春も爆発させ放題だ。

 たとえ相手が調子に乗ったり、誤って子供ができてしまったとしても、最悪の場合はそれを闇に葬る手段が許されるはずである。


 だが、皇妃様とテオの母親以外に、過去に挙がった例はないらしい。

 先代皇帝の時代から閉鎖されていたとはいえ、皇居の奥には後宮が存在しており、皇帝と血を結んで利を得ようとする貴族たちから、側室を設ける誘いは何度もあっただろうに。



「ほら、こっち、こっち! 母上も、メアリスも!」

「さあ、早く行きましょう! 殿下が呼んでますよ!」

「もぉ~……。メアリスちゃんったら、照れ屋さんなんだから」



 ここで話題を強引に打ち切る、絶好のアシスト。


 T字路の先へ駆けて行った殿下は、いつまで経っても来ない私たちに焦れ、T字路まで駆け戻ってきた。

 このチャンスを逃すものかと、皇妃様の腕を取り、手招きする殿下のもとへ向かって走り出した。




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