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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第四章 二人の皇子

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第36話 日本刀を夢見て




「だが、ロングソードは所詮ロングソードだ。

 叩き斬ることを目的にした剣である以上、斬り払いを主体にするお前には合わないだろ?」

「それは……。そうなんだけどさ」



 正直に言えば、それが真摯なアドバイスだと分かっていても、私には面白くなかった。

 私が私『メアリス』になってから、積み上げてきた努力を否定されたようで、つい唇が尖ってしまう。


 多分、このお母様の形見であるロングソードを、私の剣として最初に勧めた執事長も、同じ問題に気づいているのだろう。

 もしそうでなければ、武器商人を定期的に屋敷に呼び、私の前にいくつもの剣を並べさせるはずがない。


 しかし、どの剣も私には合わなかった。

 かろうじて、『これが日本刀に一番近い……。かな?』と首を傾げたのは、『ファルシオン』と呼ばれる剣だ。

 南方領と国境を接するアレキサンドリア大王国の者たちが好んで使う片刃の剣らしいが、剣身は直刀で幅広く、今手にしている剣よりも私の手にはしっくりこなかった。



「お前に合うのは、アレクサンドリアの連中が使うファルシオンか……。タチだろうな」

「なっ!? あるのか! 太刀!」



 ところが、テオの口から思いもよらぬ言葉が飛び出した。


 太刀とは、『日本刀』の形状をほぼそのままに、刀身をやや長くした『日本刀の前身』である。

 主に馬上での戦いを想定して作られ、歩兵戦が主流となる戦国時代以前に流行したという。

 そうした日本の歴史を踏まえれば、名前こそ違えど、『日本刀』に酷似した剣がこの世界にも存在していてもおかしくはない。



「うん? 知らないのか? だったら……。その剣術、誰に学んだ?」

「い、いや……。そ、それは……。」

「何だ? 言えないのか?」

「う、うーーーん……。」

「まあ、いいさ。お前の師に興味が無いと言ったら嘘になるが……。

 タチと呼ばれる剣は、確かに存在するぞ。お前が想像しているものとは違うかもしれんがな。

 一昨年、西方領の国境へ出兵した時、敵にその使い手が居てな。なかなかの手練れで珍しい剣だったから、よく覚えている」

「西! そっちか!」



 胸を高鳴らせて待つと、テオから納得のいく答えが返ってきた。

 剣に興味の有無を問わず、『日本刀』はひと目で印象に残る独特の姿をしている。


 だが、私『メアリス』が生まれ育ったのは東方領だ。

 屋敷に出入りする商人たちも東方領を中心に活動しており、どれほど日本刀の特徴を言葉で伝えたところで、彼らには想像もつかなかっただろう。


 ましてや、テオの口ぶりから察するに、西方領と国境を接する敵国でさえ、その剣を扱う者はごくわずかしかいないのだろう。

 利に聡い商人であっても、確証のないまま主流から外れた剣を遠い地から仕入れるのは、あまりにリスクが高い。

 私の前に並べられることがなかったのも、無理からぬ話だ。


 今すぐ屋敷へ戻って、執事長に頼み、商人を呼ばなければ。

 西という方向が定まった今、日本刀の特徴を細かく伝えれば、ついに念願が叶うかもしれない。

 もちろん、遠方まで仕入れに行ってもらうのだから、代価は相応に高くつくだろう。


 でも、それくらいのこと。

 湯治からいまだ戻らない父と、お祖父様に『逃げ出した弱み』を突いて、うまく説得すれば何とかなるはずだ。



「確か……。皇城の宝物庫にもあったはずだぞ」

「マジかっ!」



 しかし、まさかの展開。

 さらなる衝撃的な事実が、テオの口から飛び出した。


 商人を遠方に派遣する以上、日本刀が私の手元に届くまでには、年単位の時間がかかると覚悟していた。

 それなのに、今もここから見える皇城の中に、それが『あるかもしれない』と聞かされて、もう心の中は歓喜で爆発寸前だった。


 私は皇太子殿下の婚約者候補。

 本来なら、ウォースパイト侯爵家の権威をもってしても、皇城への立ち入りには厳正な審査を経なければならない。


 だが、私は皇城の奥にある皇居まで、フリーパスで入ることができる。


 宝物庫だって、皇太子殿下に誘われて一度入ったことがある。

 そのときは宝石やアクセサリーが展示されている部屋だったため、特に興味は湧かず、ただぼんやり眺めていただけだった。

 でも、もし武具や防具が展示されている宝物庫を知っていたら、そちらの案内をお願いしていただろう。



「以前はそれと気づかず、妙な形をした剣が有るな、くらいにしか思っていなかったがな」



 タイミング良く、皇太子殿下との面談日は明日だ。

 本音を言えば、心は早くも急いている。もうすぐ夕方だから、今日は我慢我慢。


 明日、朝食を済ませたら、すぐに向かおう。

 頼めば、きっと宝物庫へ案内してもらえるに違いない。

 こんなときばかり立場を利用するのは卑怯かもしれないが、それ以上に期待感の方がずっと大きい。


 もし、そこに『日本刀』が見つかったとしても、それは国宝だ。

 もらえるはずはないが、宝物庫の宝石やアクセサリーには、それぞれに由緒があった。

 その手がかりさえ得られれば、商人に漠然と『アルビオン帝国より西にあるらしい』と伝えるよりも、確実だ。



「テオっ!」



 もしかしたら、もしかしたら、数か月後には日本刀が私の手に届いているかもしれない。

 未来への希望は大きく羽ばたき、胸を躍らせながら、私は両手を大きく広げてテオに飛びついた。



「なぁっ!? ……は、離れろ!」

「何だよぉ~~……。感謝を素直に表現しようとしただけだろ?」



 しかし、テオが寸前で右手を伸ばして、私の顔を鷲掴みにして阻止した。

 乱暴な扱いにちょっとイラッとしたけれど、今の私にはやっぱり喜びが勝ったし、テオへの感謝はそれ以上に大きかった。



「は、ハレンチな奴め!」

「ぷっ!? 今どき、ハレンチって」



 おまけに、最近めったに聞かない死語を怒鳴って、顔を紅く染めるテオの様子が愉快でたまらない。私は笑いが止まらなかった。




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