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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第一章 新たなセイ

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第2話 にゃんにゃんパニック




「お嬢様、お待たせ致しました。

 ……って、何をなさっているのですか?」



 窓のない左手側の壁。その両開きのドアの片方が開いた。

 一呼吸の間を置き、タオルや石鹸、シャンプーなどを載せたワゴンを押す、全裸のメイドさんが現れる。


 そして彼女は、目を驚愕にこれ以上なく見開いた。


 ここで大事なことなので繰り返そう。メイドさんは一糸まとわぬ全裸である。

 メイド服も、頭のホワイトブリムすら着けていない。


 それでも俺が彼女を『メイド』と断言できたのは、初対面のはずなのに、なぜか知っていたからだ。



「ヒルダ?」

「はい、お嬢様」



 それどころか、俺は彼女の名前まで知っていた。

 事実、その名前を口にすると、彼女『ヒルダ・アデレード』はすぐに反応した。


 ワゴンから手を離し、気をつけの姿勢で立つ。

 今の俺よりも豊満な胸も、黒髪と同じ色で薄く茂った秘部も隠そうともせず、ただ微笑んでこちらを見つめている。


 だが、俺の視線はそれらには向かわなかった。

 生まれて初めて目の前にする女性の裸体だというのに、俺を圧倒したのは別のものだったのだ。


 彼女の両頬から伸びる、針金のように硬そうな数本の髭。

 加えて、黒い短毛に覆われた三角の耳。


 それは人間のものではなかった。


 猫か犬の獣を思わせるその特徴に、俺は息を呑んだ。

 これも最新のSFX技術を使った悪ふざけなのだろうか。



「ヒルダ!」

「は、はい!」

「こっちに来て!」

「は、はい!」



 だが、その疑問の答えも俺は知っていた。

 ヒルダが『猫族』という、人間に近い種族『亜人』に分類される存在であると。


 もはや驚きを通り越して、頭の中はもうカオス状態。

 『猫族って、何だよ! 亜人って、何だよ!』と心の中で自分を罵りながら、たまらずヒルダを呼びつけて手招きした。


 こうなったら、現実をもっと間近で確かめるしかない。



「回れ右!」

「えっ!?」

「え、じゃない! さっさと回れ右!」

「は、はい、お嬢様!」



 しかし、現実は非情だった。


 ヒルダに回れ右を命じると、そのお尻からは猫族の証たる尻尾が伸びていた。

 黒い短毛に覆われた尻尾は、先端だけを軽く持ち上げて、不安そうに左右にヒョコヒョコと揺れている。


 だが、俺の心は諦めていなかった。『まだだ! まだ終わらんよ!』と叫ぶように自分に言い聞かせる。


 目で見るだけでは信じられないなら、この手で確かめるまでだ。

 俺は尻尾の付け根に右手を伸ばした。



「ふにゃぁっ!?」



 しかし、やはり現実は非情だった。

 尻尾を掴んだ瞬間、それは目にも留まらぬ速さで跳ねた。


 作り物とは思えない反応速度。

 明らかに神経が通っている証拠だ。


 俺の鼻先をかすめた尻尾は天を衝くようにピーンと伸び、短毛は根元から先端まで逆立っている。


 いや、尻尾だけではない。ヒルダ自身もだ。

 尻尾を掴むと、踵を跳ねさせて爪先立ちし、背を反らしてお尻を勢いよく突き出す。

 上げきった顎先と広げた指先が微かに震え、刺激の強さが伝わってくる。


 猫族にとって、尻尾の付け根は敏感な性感帯だ。

 そこを握るのは、一般常識のタブー行為に当たる。


 知識としては知っていたが、経験はない。

 握っただけで、これほどの反応が返ってくるとは、想像もしていなかった。



「お、お嬢っ、様……。だ、駄目ですっ、よ?

 ず、ずっと昔のっ、事になりますががが……。お、教えっ、た筈ですぅ~っ……。

 そ、そこをぉ~っ……。に、握ってもぉぉっ、良いぃぃぃっ、のはぁぁっ……。しょ、生涯の伴侶だけでぇ……。

 はぁ……。はぁ……。い、いえ、お嬢様がそのつもりなら……。わ、私は……。わ、私はずっとお嬢様のことを……。」



 それでも、俺は現実を認められず、ヒルダの尻尾をニギニギ。

 ヒルダは手を打ち払わず、握るたびに言葉を途切れ途切れに震わせながらも耐え、気丈な微笑みを振り向けてくる。


 だが、踵を上げ爪先立ちし、背を反らせたままの身体の正直な反応は隠せていない。


 瞳はうっすら濡れ、涙が目尻に溜まり、頬は上気。

 息遣いは荒く、口の端からは涎が零れ落ちる。

 胸の先端は尖り、存在感を主張している。

 内股には艷やかな滴りが止めどなく伝い落ちていた。


 尻尾もまた、俺の右腕に絡みつき蠢きながら、こそばゆい感触を与えてくる。

 まるで『もっともっと』と甘えているかのようだ。


 不意を突かれたにもかかわらず、このリアルな反応。

 演技だとはとても思えない。もし演技ならアカデミー賞ものだ。



「ふぅっ……。」

「えっ!? お嬢様? ……お嬢様! メアリスお嬢様!

 誰か! 誰か、来て! メアリスお嬢様が! 今すぐ、お医者様を!」



 この現実を、もう認めざるを得なかった。

 先ほどまで疑問に思っていたことも、持っていた答えはすべて真実だったのだ。


 つまり、今の俺は、もうすぐ三十歳を迎える男ではない。

 今の俺は『メアリス・デ・リリアン・ウォースパイト』という名前を持つ、十三歳の少女なのだ。


 ここは『アルビオン帝国』の首都にある少女の屋敷で、地球とは異なる世界『異世界』なのだと。




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