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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第三章 騎士志望

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第25話 剣を用いた戦い




「はぁっ!」



 胸元を狙って伸びるレイピアの剣先。

 鋭く速い突きだが、その軌道を作ったのは私自身だ。


 右手のロングソードを下から合わせ、瞬間、手首を返して押し込む。

 もし相手が男性なら、結果は違ったかもしれない。


 しかし、相手は女性。

 背丈で劣っても、重いロングソードを握る私が競り勝つのは必然だった。



「くっ!」



 若い女性騎士は歯を食いしばり、踏み込んだ勢いを背後で止める。

 レイピアを弾かれ押し返された結果、右腕は柄尻を見せたまま頭上へ振り上げられる形になった。


 それでも彼女はすぐに腕を下ろし、上半身をわずかに仰け反らせながら、この戦いで何度か見せた防御の型を取った。


 なるほど、一流の腕前だ。

 仰け反る彼女の視線は強制的に上がり、意識は踏ん張ることに集中している。

 私から視線も意識も逸れている以上、この防御態勢は意図したものではないだろう。

 幾十、幾百、幾千、幾万と積み重ねてきた鍛錬の成果が、身体を勝手に動かしたのだろう。



 だが、残念ながら甘い。

 これは剣同士の戦いではなく、剣を用いた戦いだ。


 もし剣同士の戦いなら、私は追撃のために伸びきった右腕を引き、ロングソードを戻すワンアクションを挟む必要がある。


 さらに、女性騎士のたたら踏みにより間合いが広がり、半ば仕切り直しの形になった。

 彼女が私の追撃を防ぐ手段としては、それなりに有効だった。



「貰った!」



 しかし、もう一度言おう。

 これは剣同士の戦いではない。剣を用いた戦いだ。


 私が伸びきった右腕を引くまでは、女性騎士の思惑通りだった。

 だが同時に、その反動を利用して利き足を踏み蹴り、私はお互いが剣を振るのも難しい間合いへ飛び込む。


 女性騎士は目を見開き、間合いを広げるためバックステップを踏もうとした。



「しまった!」



 だが、時既に遅し。

 あとは予定調和。レイピアの剣先を弾く前から、右半身の奥に隠して引き絞っていた左の掌底を放つだけだ。


 ただし、この戦いは命を賭けた勝負ではない。

 鳩尾を狙う予定だった掌底の軌道を、少し上へずらす。

 最もダメージを吸収してくれる『おっぱい』に触れる直前、力を抜き、そっと放った。



「きゃんっ!?」



 素敵な感触が掌いっぱいに包まれると、可愛い悲鳴があがった。

 女性騎士は後ろへ一歩、二歩、三歩とよろめき、必死に両腕でバランスを取ろうとする。


 しかし、そこでついに尻もちをついた。



「くふっ……。これで勝負あったかな?」



 本来なら、ここでロングソードの剣先を女性騎士の眼前に突き付け、勝敗を決めるのが作法だ。


 だが、私は左腰の鞘にロングソードを収め、歩み寄る。

 勝利の高揚感に笑みを漏らしながら、右手を差し出した。


 前世は男でも、今は女。

 尻もちをついたことで、スカートの奥に隠されていたレモン色が丸見えなのは、少々忍びなかった。



「これほどの技量をお持ちだとは……。

 正直、戦う前はご令嬢の我儘を軽く見ておりました。

 ですが、今は違います。侮っていたことを、心よりお詫び申し上げます。

 ……私の完敗です。」




 女性騎士は短く溜息をつき、苦笑した。

 私の右手を取って立ち上がり、続けてスカートのお尻に付いた土を手で払う。


 その姿を眺めながら、ここ『帝城』を訪れるたびに感じる素朴な疑問を改めて思う。


 どうして、女性騎士の軍服は膝上丈のミニスカートとニーハイソックスなのだろうか。

 どうして、上は男性騎士と同じなのに、下も同じズボンではいけないのだろうか。


 こんな時、秘密が暴露される不公平さに不満を抱きつつも、今の私はプリーツのミニスカートを履いていた。


 しかし、これはヒルダによるコーディネートだ。

 私はやはり、活動的に動けるズボンスタイルを強く推す。


 でも、ヒルダは屋敷内での鍛錬以外では、ズボンスタイルを頑なに許さない。


 本当に、何故なのか。

 何度か理由を問うたが、ヒルダは『いずれ、分かります』としか答えてくれない。


 その『いずれ』はまだ訪れず、疑問が疑問を呼ぶ。

 だが、今はそれよりも大事なことがあった。



「お祖父様、勝ちましたよぉ~~っ!」



 背後を振り返り、見上げながら両手を口の端に立てて叫ぶ。


 それに反応して、この闘技場の観覧席にいる初老の男性が立ち上がった。

 遠目にも分かる満面の笑顔で両手を大きく広げ、こちらに振り返してくる。



「これで合格ですよねぇ~~っ!」



 誰がどう見ても、明らかな好感触だ。

 念願の騎士科入学を許されたと確信し、喜びで胸がいっぱいになり、思わずスキップしながら駆け出した。




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