第25話 剣を用いた戦い
「はぁっ!」
胸元を狙って伸びるレイピアの剣先。
鋭く速い突きだが、その軌道を作ったのは私自身だ。
右手のロングソードを下から合わせ、瞬間、手首を返して押し込む。
もし相手が男性なら、結果は違ったかもしれない。
しかし、相手は女性。
背丈で劣っても、重いロングソードを握る私が競り勝つのは必然だった。
「くっ!」
若い女性騎士は歯を食いしばり、踏み込んだ勢いを背後で止める。
レイピアを弾かれ押し返された結果、右腕は柄尻を見せたまま頭上へ振り上げられる形になった。
それでも彼女はすぐに腕を下ろし、上半身をわずかに仰け反らせながら、この戦いで何度か見せた防御の型を取った。
なるほど、一流の腕前だ。
仰け反る彼女の視線は強制的に上がり、意識は踏ん張ることに集中している。
私から視線も意識も逸れている以上、この防御態勢は意図したものではないだろう。
幾十、幾百、幾千、幾万と積み重ねてきた鍛錬の成果が、身体を勝手に動かしたのだろう。
だが、残念ながら甘い。
これは剣同士の戦いではなく、剣を用いた戦いだ。
もし剣同士の戦いなら、私は追撃のために伸びきった右腕を引き、ロングソードを戻すワンアクションを挟む必要がある。
さらに、女性騎士のたたら踏みにより間合いが広がり、半ば仕切り直しの形になった。
彼女が私の追撃を防ぐ手段としては、それなりに有効だった。
「貰った!」
しかし、もう一度言おう。
これは剣同士の戦いではない。剣を用いた戦いだ。
私が伸びきった右腕を引くまでは、女性騎士の思惑通りだった。
だが同時に、その反動を利用して利き足を踏み蹴り、私はお互いが剣を振るのも難しい間合いへ飛び込む。
女性騎士は目を見開き、間合いを広げるためバックステップを踏もうとした。
「しまった!」
だが、時既に遅し。
あとは予定調和。レイピアの剣先を弾く前から、右半身の奥に隠して引き絞っていた左の掌底を放つだけだ。
ただし、この戦いは命を賭けた勝負ではない。
鳩尾を狙う予定だった掌底の軌道を、少し上へずらす。
最もダメージを吸収してくれる『おっぱい』に触れる直前、力を抜き、そっと放った。
「きゃんっ!?」
素敵な感触が掌いっぱいに包まれると、可愛い悲鳴があがった。
女性騎士は後ろへ一歩、二歩、三歩とよろめき、必死に両腕でバランスを取ろうとする。
しかし、そこでついに尻もちをついた。
「くふっ……。これで勝負あったかな?」
本来なら、ここでロングソードの剣先を女性騎士の眼前に突き付け、勝敗を決めるのが作法だ。
だが、私は左腰の鞘にロングソードを収め、歩み寄る。
勝利の高揚感に笑みを漏らしながら、右手を差し出した。
前世は男でも、今は女。
尻もちをついたことで、スカートの奥に隠されていたレモン色が丸見えなのは、少々忍びなかった。
「これほどの技量をお持ちだとは……。
正直、戦う前はご令嬢の我儘を軽く見ておりました。
ですが、今は違います。侮っていたことを、心よりお詫び申し上げます。
……私の完敗です。」
女性騎士は短く溜息をつき、苦笑した。
私の右手を取って立ち上がり、続けてスカートのお尻に付いた土を手で払う。
その姿を眺めながら、ここ『帝城』を訪れるたびに感じる素朴な疑問を改めて思う。
どうして、女性騎士の軍服は膝上丈のミニスカートとニーハイソックスなのだろうか。
どうして、上は男性騎士と同じなのに、下も同じズボンではいけないのだろうか。
こんな時、秘密が暴露される不公平さに不満を抱きつつも、今の私はプリーツのミニスカートを履いていた。
しかし、これはヒルダによるコーディネートだ。
私はやはり、活動的に動けるズボンスタイルを強く推す。
でも、ヒルダは屋敷内での鍛錬以外では、ズボンスタイルを頑なに許さない。
本当に、何故なのか。
何度か理由を問うたが、ヒルダは『いずれ、分かります』としか答えてくれない。
その『いずれ』はまだ訪れず、疑問が疑問を呼ぶ。
だが、今はそれよりも大事なことがあった。
「お祖父様、勝ちましたよぉ~~っ!」
背後を振り返り、見上げながら両手を口の端に立てて叫ぶ。
それに反応して、この闘技場の観覧席にいる初老の男性が立ち上がった。
遠目にも分かる満面の笑顔で両手を大きく広げ、こちらに振り返してくる。
「これで合格ですよねぇ~~っ!」
誰がどう見ても、明らかな好感触だ。
念願の騎士科入学を許されたと確信し、喜びで胸がいっぱいになり、思わずスキップしながら駆け出した。




