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2.2話 いずれ

◇ ◇ ◇


流れ星──────ではない何かが落ちてから約一分程の時間が経過した。

僕らの町は、停電を起こし、信号が止まり、車を降りる人が増え、更にはありえない程に静寂と化していた。

しかし、僕らが普段見ている風景は何一つ変わっていなかった。


「にぃに…今、何が起きてるの。」

すると(すい)は、何時にも増して弱々しい声を挙げた。


「……多分、さっきの流れ星って言ってたのが ”隕石” だったんだ。でも10kmは離れてそうだから取り敢えず落ち着いて。」

僕が彼女にそう声をかけると、堅く吊り上がっていた口元が僅かに緩んだ。


その後僕たちは、停電した暗い部屋の中で懐中電灯を灯し家族や友達の安否確認を行おうとしたのだが、


「…まずい、ネットが繋がらない。」


「母さんも父さんも出ないよ…」

どのシステムも通信障害を起こしていた。そして身近な人々の安否も分からず僕たちは動揺していたのだが─────。

皮肉なことに、神様は僕たちに動揺する余地も与えてくれなかった。


『東海村の皆様、迅速に避難をしてください。東海村の皆様、迅速に避難を開始してください!』


一瞬、何が起こっているのか本当に分からなかったが、周りは皆外に出て避難を開始していたので、僕たちも放送された通りに近くの『茨城県東海村総合体育館』に避難をした。

そして避難しながら、民衆の騒ぎに耳を傾けていたら、ある事が発覚した。


どうやら、近くの原子力発電所の原子炉の内、一つがメルトダウンしたらしい。これは甚大な被害が目に見えるぞ。


「…ハッ、ハッ、……ハッ…」

避難所が近くなってきたところで、僕はまだ正気を保っていられたが……彗が過呼吸を起こしてしまった。


「す、彗!聞こえるか?僕が抱えていくから、まず大きく深呼吸しよう。」

彼女は相槌を打つので精一杯だった。そして、僕は彼女を抱えてなんとか避難所に辿り着いたのだ。


そして入口を探し、体育館に入るのだが──

やはりここ一帯の民衆が集まっているだけあり、体育館はかなり混雑していた。

その中からは、


「ママ、私どうなっちゃうの…?」

「今まで積み上げてきたものが……」

「ねぇ、結婚も出来ずに終わるのかな……」

「人生最後がこんな事態に見舞われて……」


子ども、大人、恋人、老人、と幅広い世代の不安や焦りの声が嫌でも聞こえてきた。


その時彗は、皆が思っていても怖くて口に出せないことを言ってしまった。


「にぃに、ここ居たくないよ……今までの日常が全部遠くなっちゃうもん……」

その言葉に僕は返答を渋る。しかし、「僕が付いてるよ。」なんて安直な言葉で括ってはいけないことは分かっていた。慰めでも、励ましでもなく、ただ、寄り添うための言葉を。


……いや、言葉でなくても良いんだよ。ただ、隣に居ればいいと────そう僕は彼女の隣に座った。


到着してから少し時間が経った。民衆のざわついた声はまだ聞こえるが、疲れて寝てしまった人も結構いた。そりゃ遠くから避難してきた人もいるわけだしな…


そして今が夜だということもあり、食品が支給されていた。しかし僕たちは、家を出る直前に5日程は持つ缶詰等々の食品をリュックに詰めておいたので、その支給品は受け取らなかった。「他の必要な人に渡してほしい」と、きっぱり断ったんだ。


少し気分が落ち着いたところで、僕は彗にこう提案をした。


「なぁ彗、そろそろ母さん父さん、友達を探しに行こうと思ってるんだけど……来る?」

僕は今の今まで、自分のことで精一杯だったが、ふと冷静になって考えると急に心配になってきた。

そして、もちろん彗の探したい人も探すつもりだ。


「そうだね。私も少しは落ち着かないと。いいよ、私も行く。」

そう言ってから彼女は涙を拭った。

その時、僕の妹…大星 彗は一段と(たくま)しく、子供という肩書きが取れた…そんな気がしたんだ。


◇─◇─◇─肖和


彗とは、あの話をしてから手分けして捜索することにした。彗は母さんと友達、僕父さんと友達、とお互いに顔を合わせることが無いものだった。


僕は目を凝らせて数十分体育館を歩いていたら───


「あっ肖和君…!」

「肖ちゃん!!無事でよかった!」


そこには、聞き覚えのある声で僕───大星 肖和の名を呼ぶ一人、二人の男女がいた。

僕の唯一の友達だった。


「良かった……賢人、世那(せな)、無事で本当に良かった……」

多須 賢人、”間華(まか) 世那(せな)”。

賢人は昨日家に来たクールボーイ。そして世那は、賢人と同じく僕の唯一の友達。彼女は多少人見知りだが、それも相まって少しずつ仲良くなっていった。


世那は何時でもショートボブの茶髪で、モノクロの四角いヘアピンを付けている。丸い淵のメガネを付けた”The・清楚って感じの子だ。


「今日部活にも顔出さなかったから余計心配したよ。」

世那とは、同じ写真部の仲間でもあった。

そして彼女の声は、掠れているが魅力的な声だった。本当に心配してくれている感じが伝わってくる。


「そ、そうだ、肖ちゃん。今回の隕石の影響でさ、原子力発電所がメルトダウンしちゃって、それも酷い事なんだけどね……でも何より大変なのは、これ見て。」


すると賢人は再びスマホの画面を見せてきた。しかし僕は、少し察しがついて画面を見ることを渋った。

それでも賢人は無理やり画面を押し付けてくる。


なので僕は、その画面を渋々見た。

そこには、案の定かつ絶望的な光景が待っていた。


「2.2%小惑星、茨城県に隕石が落下したことにより2032年冬、地球に落下する確率が ”5.5%” に上昇したことをESA(ヨーロッパ宇宙機関)が発表…………。」

たかが東海村に一つ、隕石が落ちたくらいでこんなにも変わってしまうのか。

いずれ、

10%

20%

50%

そして、90%になってしまうのだろうか。

僕らの築き上げてきたものが、近い将来失われてしまうのだろうか。

僕は今、本当に打ちのめされている。


それでも賢人、世那は青ざめた顔つきをした彼に二人して寄り添ってくれる。同時に彼─肖和の視界は滲む。

────僕のこの上無い最高の親友だったんだ。


そして僕はふと本音が零れる。

「二人とも、この先ずっと一緒に居てね。」


その言葉を聞き、二人はお互いに目を合わせたあと口々に言う。

「俺が肖ちゃんと同棲かぁ……冗談はよしこさんだぜ〜」

「私は結婚して幸せになる予定だからねぇ。」

そして二人は、僕を安心させるような笑顔を魅せてくれたんだ。


◇─◇─◇─彗


「母さん、友達、あわよくば父さんも……!」

私は切迫していた。父さんの捜索はにぃに(肖和)がしてくれるはずなんだけど、正直今のにぃには再会を喜ぶばかりで当てにならない。

故に、私が助けなければならなかった。


暫く私は体育館を捜索した。何度も何度も同じ場所を回る。いないと分かっていても粘って探す。しかしそれを繰り返すうちに、足がふらついてくる。それでも頑張らなきゃと、今度は耳を澄ます。


「じぃさん、家は大丈夫なのかしらねぇ。」

「パパ、僕家に帰れないの?」

「漫画の原稿置いてきちゃったよ………」

「肖ちゃん、ほら!こんな時こそスマーイル!」

「肖和君のこんな顔初めて見たなぁ。」


要らない騒音ばかり耳に入ってくる。

私は、私は母さんや父さんの声が聞きたいのに……。

同時に涙が溢れてきた。これは、自分では何も出来ない無力感に襲われた時の涙だ。


「多分、此処にはいないんだ。外にいる、絶対に生きてる。」

私は根拠もない確信をして、荷物を背負い外に出ようと準備をする。

しかし、思いもよらないことが────。


「外?今出るのは本当に危ないから、絶対に駄目だよ。中に居て。」


「いや、でも家族が!!」


「実際に放射線での犠牲者も出てしまっているし、心配なのは分かる。でも現状、危険が過ぎて怪我人の手当や遺体の回収でさえ手につかないんだ。………本当に、君の気持ちは分かる。痛いほどわかる。俺のおふくろだって、まだ………っでもまだ無事な可能性もある。そんな顔するな。お互い気を強く持とう。」

誘導員の男性は、私に現状の解説と同情を優しくしてくれた。


そして私は、一旦両親の捜索を中断し、不安や眠気に駆られながらにぃに達のいる場所へ向かった。

時刻は22時22分、空はすっかり黒に染まっていた。


「……彗っ!どうした、そんなに目が腫れて。」

私の存在にいち早く気づいてくれたのは、にぃにだった。

すると、他の二人も口々に私を心配する言葉をかけてくれる。


「彗ちゃん、尋常じゃない程に隈が出てるけど……俺らが話聞くぞ?」

賢人さんの言葉に、世那さんも「うんうん」と頷く。


その言葉に全てを託し、私は事の全てを皆に話した。


「……っ、じゃあ、母さん達は………………」

話を聞いた肖和の顔は、さっき二人に励まされて落ち着いたかと思いきや、私のせいで更に引き攣ってしまった。

話さない方が…………良かったのかな。


「彗ちゃんもつらかったよね。顔が全てを物語ってるよ。ほら、こっちおいで。」

世那さんの静かに響く、魅力的な淡い声に私は少し安堵し、彼女の胸に飛び込んだ。


「もうずっと、ずーっと…このまま時間が動かなきゃ良いのに………。」

私は誰にも聞こえない声でそう呟いた。

そして今日、再び目が開くことは無かった。


◇ ◇ ◇


世那は、寝てしまった彗を今晩は預かっててくれるらしく、僕は独りで自分の場所に戻った。

賢人も一旦自分の家族の元に戻ったらしい。

そして僕は、周りが寝付き始めた中、スマホでさっき賢人に無理やり見せられたサイトを見ることにした。


「……あった。」

僕は、やはり躊躇したがそのサイトをタップした。


「こんな時間に更新……?」

丁度2分前に、サイトは更新されていたんだ。

だから僕は画面を下にスワイプし、更新を待った。

そして更新が終わり、『Loading』の後に僕が目にした光景にはもう、驚かなかった。

いや、失望していたんだ。

………

………

………

『5.5%小惑星の地球への落下確率が ”13.8%” に上昇。ESAも危機感を現に。』

*登場人物紹介


・大星 肖和(しょうわ)

・大星 (すい)

多須(たす) 賢人(けんと)

間華(まか) 世那(せな)

・誘導員の男性

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