脱出計画の提案
運動時間の終わりを告げるサイレンが鳴り響き、アルフレッドは静かにロレインの隣に歩み寄った。遠巻きにフリーヤやマイケル、ヘヴンが刑務官の視線に怯えながらも遊具を片付けている。
「ロレイン、今日の夜少し話せるか?」
「ん?構わないが……ただ事では無さそうだな」
アルフレッドはかすかに微笑んだが、その瞳には緊張が滲んでいた。
独房に戻り、周囲の静けさが深まった頃、アルフレッドは鉄格子越しにロレインを呼びかけた。
「ロレイン。私は、脱出計画を立てている」
「脱出だと?」
ロレインの表情が険しくなり、念力で鉄格子をきしませるように手を置いた。その鋭い瞳がアルフレッドを捉える。
「全員でここを出る。そして、この地獄を終わらせる」
アルフレッドの声は低く、それでいて確固たる意志を感じさせるものだった。しかし、ロレインは即座に眉をひそめる。
「で?その計画の鍵を握るのは誰だ?まさか、人間を頼るつもりじゃないだろうな」
「そうだ。協力者がいる。信頼できる人間だ」
その言葉に、ロレインの怒りが目に見えて膨れ上がった。
「アルフレッド……俺はお前のことを信じている。だが、人間は信じられない。奴らはいつだって俺達を道具扱いし、裏切ってきた!」
アルフレッドは拳を握りしめた。ロレインの怒りには理由がある。その背景を彼は知りたかった。
「ロレイン、聞いてくれ。君の憤りは理解しているつもりだ。だが、今は私達だけではここを出るのは難しい。協力が必要なんだ」
「何故だ!?俺達だけで十分だろう。お前がこれまでやってきたように知恵を絞れば、脱出など造作もないはずだ。」
「残念ながらそれは、無理だ」
アルフレッドの冷静な一言が、ロレインの反論を遮る。
「ロレイン、ここには私達が知らない死角が多すぎる。外の警備体制の詳細、監視カメラ……これらの情報を得るには内部の協力者が必要だったんだ」
ロレインは無言のまま、視線を鋭くアルフレッドに向けた。
「……私は信じたいんだ。君の力を貸してほしい」
ロレインは鉄格子をぎりっと握りしめる。その力が無意識のうちに念力を強化し、鉄が微かに軋んでいた。
「信じる?」
その一言には、アルフレッドの覚悟を試すような鋭さがあった。
「お前は俺の気持ちなんて分かっていない、俺は人間に追われ、苦しみ、捨てられてきた!それを知りながら、どうして奴らを信じられる?」
「……教えてくれ」
アルフレッドは視線を合わせ、ゆっくりと語りかけた。
「ロレイン、私は君の過去を知りたい。何故君がそこまで人間を憎むのか、その理由を……話してくれないか?」
ロレインは一瞬目を見開く。アルフレッドのその言葉は、意外であり、同時に重みを感じさせるものだった。
「……聞きたいだと?」
「そうだ。君の怒りを本当に理解するためには、知らなければならない」
ロレインは深く息をついた。
「いいだろう。話してやる。人間というものがどれほど醜く、腐った存在かをな」
アルフレッドは無言で頷く。彼はロレインが話し終えるまで、一切口を挟まないと誓った。