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冷静な策略

アルフレッドが「完全記憶能力」を活かした芸を堂々と披露し、ロレインたちと軽口を交わした運動場の空気は、穏やかなムードに包まれていた。しかし、その様子をカメラ越しに見ていたオリヴァー博士は、彼に奇妙な違和感を抱いていた。


翌日、オリヴァーはアルフレッドを実験室に呼び出す。


アルフレッドが独房から連れ出されると、始めて見る研究室で彼と出会う。彼は、まるで貴族のような端正な顔立ちをした中年男性だった。身に纏うスーツは完璧に仕立てられており、その背筋はピンと伸びている。


「初めまして、アルフレッド君」


彼は柔らかな笑みを浮かべながら手を差し出した。


「私はオリヴァー・フルスタイン。この研究所の主任だ」


その言葉を聞いた瞬間、アルフレッドは心の中で警戒を強めた。この男こそ、資料に記されていたマッドサイエンティストだ。


「お会いできて光栄です、フルスタイン博士」

「昨夜、君の記録を確認してみたよ。興味深いね、特に君の能力」


オリヴァーは机に並べた資料を手に取り、無表情のままアルフレッドを観察する。


「私の能力に関心を持っていただけたて光栄です」


アルフレッドは微笑を浮かべながら、慎重に言葉を選ぶ。


「君が言う『完全記憶能力』――興味深いが、少し不自然ではないか?」


オリヴァーの目が細まり、部屋の空気が冷たく引き締まった。


「不自然……ですか?」


オリヴァーの冷笑をその身に受けながら、アルフレッドは瞬間的に思考をフル回転させた。


(バレた?私は完璧なプロフィールを作り上げたはずだ。オリヴァーが何か特別な証拠を掴んでいるのか、それとも虚を突くための心理戦か……)


だが、内心の焦りはおくびにも出さない。アルフレッドは唇に軽い笑みを浮かべ、オリヴァーの目をまっすぐに見返す。


「それが本当なら、貴方の分析力には驚きますね」

「君を『人間』だと思ったのは、先日ネオ・ヒューマン達の能力評価報告書を見た時だ」


アルフレッドは表情を変えずに聞き流すふりをしたが、内心は穏やかではない。


(報告書?まさか……ああ、そうか。私の行動記録だ。自分では自然に振る舞ったつもりだったが、どこかにボロが出ていたか)


「ネオ・ヒューマンの能力者なら、刑務官たちに抵抗した際にもっと大きな被害が出ているはずだ。それに、君の首輪が作動した際の電流に耐える筋肉の反応――まさに人間そのものだったよ」


オリヴァーはポケットから首輪のスイッチを取り出し、軽く指で回しながら言葉を続ける。


「さて、ここで問題だ。君の目的はなんだ?詐欺師ごっこを楽しむには、少しばかり命を賭けすぎではないかね?」


アルフレッドは一瞬の間を置き、まるで彼自身が予想していた質問であるかのように、微笑みながら答えた。


「それは良い質問ですね、博士。ですが、その質問に答えることで私の『特別性』を証明できるのではありませんか?」


声は柔らかく、しかし相手を挑発しない程度に抑えている。その間も、目はオリヴァーの動きや微妙な表情の変化を逃さない。アルフレッドの心の中では計算が走り続けていた。この男の思惑を見抜かなければならない。ここで一歩間違えば、自分は人間として扱われ、ロレインたちはこのまま地獄を見続ける事になってしまう。


「ほう。興味深いことを言う」


オリヴァーは手を止め、ようやくアルフレッドを正面から見た。その瞳には探るような光と、何か隠しきれない狂気が宿っている。


「君の『特別性』を証明する、か。……だが、その前に君を一度試させてもらおう」


オリヴァーはアルフレッドに近づくと、机の引き出しから金属製の球体を手渡した。それは大小のギアが複雑に組み合わされたパズルのような物だった。


「これを君に解いてもらいたい。この装置を解体出来たのならその話を聴いてやろう」


その目には冷たい光が宿り、挑発的な微笑を浮かべていた。


アルフレッドは手のひらの球体を見つめる。構造は一見ランダムに見えるが、よく観察すれば幾何学的なパターンが見えてくる。


(なるほど……博士の目論見が透けて見えるな)


アルフレッドは心の中で苦笑した。この装置はただの知能テストではない。オリヴァーはアルフレッドが人間であるにもかかわらず、この施設に送り込まれた理由を掴みたいのだろう。だが、そんな彼の計画も計算の範囲内だ。アルフレッドは球体を指で器用に動かしながら話しかけた。


「博士、あなたは知的な挑戦を好む方だとお見受けします。しかし、このような精密なパズルをしかけてくるとは」

「皮肉か?」


オリヴァーは眉をひそめたが、どこか満足そうでもあった。


「いえ」


そう言いながら、アルフレッドはギアをひとつ動かした。それに続いて、内部の構造が連動して変化する。


(よし、核心部分が見えてきた。この装置の設計には『閉じ込めの論理』が使われている。逆算すれば……)


「時間が無限にあると思うなよ」


オリヴァーが冷たく言い放つ。


「大丈夫、これで終わりです」


カチリと音を立てて球体が開き、その中から小さな発光体が現れた。

オリヴァーの表情が変わる。驚き、そして何かを隠そうとするかのような動揺が見て取れた。


「ほう……認めざるを得ないな」


オリヴァーは無理やり平静を装いながら、装置を取り上げる。


「しかし、これで私の疑念が晴れたわけではない。君がこの施設に送り込まれた真の理由を知る必要がある。それを教えたまえ」


アルフレッドは静かに笑った。自分の知略がオリヴァーの注意を引きつけているのを感じている。


「博士、それをお話しするのはまだ早い。私の『特別性』……それは私が貴方の研究に役立つ情報を提供できるかもしれないということ」

「……面白い提案だ」


オリヴァーは少し考え込んだ後、その提案に低い声で答えた。

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