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冷たい研究室

金属の音が部屋に反響し、冷却室の扉が音もなく閉じられた。その向こうでは、台に乗せられた死体が静かに焼却炉へと押し込まれていく。次の瞬間、窓越しに目に映ったのは、炎に包まれる肉体の光景だった。


「焼却処分だ」


スピーカーから響く冷酷な声が、研究室の空気をさらに重苦しいものにする。


フリーヤは目をそらせなかった。目の前で灰となっていく死体――それが、自分の失敗の産物であるかのように感じられたからだ。胸の奥が押しつぶされるような感覚。冷たい壁に寄りかかりながら、心が壊れる音を聞くような錯覚に陥る。


「――フリーヤ!聞こえるかい?私だ、アルフレッドだ!」


遠くで声がした。薄く瞼を開けると、ぼんやりと人影が見える。高い天井、知らないミントの香り。


「アルフレッド……さん?」


彼女は弱々しく声を漏らす。


「君は運動場で気を失ったんだよ。ヘヴンの炎を見てね、覚えていないかい?」


炎――その言葉を聞いた瞬間、悪夢の断片が脳裏に蘇る。フリーヤは吐き気を催し、胸を押さえながらうめく。


「大丈夫だ、落ち着いて」

「す、すみません……でも、もう大丈夫です」


アルフレッドが心配そうに見つめる中、フリーヤは小さくうなずいた。彼の真剣な表情を間近に見て、思わず頬が赤く染まるのが分かる。彼女にとって、男性とこんなに近い距離で接するのは初めての経験だったからだ。


「そっか、それなら良かった」


彼の柔らかな声が、ほんの少しだけ心を軽くする。


その時、硬い金属音が運動場全体に響き渡った。音の方向に目をやると、数人の刑務官が険しい顔でこちらに向かってくるのが見えた。


「お前たち、勝手に能力を使ったな?どういうつもりだ?」


ロレインが彼らの前に立ちはだかる。


「俺たちの自由だろう。そんな決まり、初めて聞くぞ」

「お前たちに自由などない。お前たちは自分の力を制御できないケダモノだ」


その言葉にロレインの表情が険しくなる。


「ケダモノ、だと……?」


ロレインが手を広げると、運動場に落ちていたダンベルが宙に浮き上がり、勢いよく刑務官たちの方へ向かって飛ぶ。しかし、その瞬間――刑務官が手に握っていたスイッチを押す。


「ぐっ!」


すると、ロレインの体が痙攣し、ダンベルは地面に落下する。彼の強靭な体が無力にも地面に倒れ込んだのだ。


「いつまで経っても学ばないな」


アルフレッドは状況を冷静に観察する。この首輪による電流操作か――彼の頭の中では、そのメカニズムと弱点を探る思考が瞬時に動き始めていた。


「やめてください!彼が何をしたというんです!」


アルフレッドが刑務官に抗議の声を上げるが、相手は嘲笑で答えた。


「お前たちは人間じゃない。理由はそれで充分だ」

「許せない!」


アルフレッドは怒りに駆られたように、刑務官に向かって拳を振り上げた。だが、すぐにスイッチが押され、彼の体にも電流が流れる。激しい痛みが全身を走り、地面に倒れ込むアルフレッド。


「新入りもお仕置きが必要だな」


刑務官は笑いながらスイッチを押し続ける。その姿を見たロレインは、痺れる体を引きずりながら必死にアルフレッドをかばった。


「もういいだろう!やめてくれ!」


ロレインが頭を下げると、刑務官はようやくスイッチから指を離す。


「まぁ今日のところはこれくらいで勘弁してやる」


ロレインはアルフレッドを支え起こし、彼の肩を抱えながら静かに言った。


「すまない、俺のせいで……」

「君のせいじゃないさ」


アルフレッドは痛みに耐えながらも微笑む。その言葉が、ロレインの心に小さな光を灯した。

二人のもとにフリーヤが駆け寄って来る。彼女が手をかざすと、緑色の光が二人を包み込み、傷がみるみる癒えていった。


「ありがとう、フリーヤ。やっぱ思った通り君の力は素晴らしいよ」

「い、いえ……これくらいなら……」


フリーヤの顔が赤くなる。そんな彼女を見て、アルフレッドは優しく微笑んだ。だが、彼の心の奥には冷たい怒りが静かに渦巻いている。刑務官たちの非道、研究所の謎――すべてを暴き、ここにいる人々を救う。アルフレッドは決意を新たにした。

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